【書評】社員の力で最高のチームをつくる〈新版〉1分間エンパワーメント – ケン・ブランチャード著

あなたの会社は「社員にやる気がない」「指示待ち社員が多い」「会社に危機感がない」などの問題を抱えてないでしょうか? このような状況に直面した中小企業経営者は、何から手をつけて良いか悩んでいるはずです。でもこの本を読めば、やる気に満ちた社員にあふれる「エンパワーメントの国(?)」へと旅立てるかもしれません。

東洋経済オンラインのAmazon週間ビジネス・経済書ランキング(2019年1月27日〜2月2日)より、ケン・ブランチャード氏の「社員の力で最高のチームをつくる〈新版〉1分間エンパワーメント 」の書評をお送りします。

参考 アマゾン「売れているビジネス書」ランキング東洋経済オンライン

この本を一言で表すと…

たった13ページの「監訳者あとがき」が本編の、経営者向けの組織変革ガイドラインです。

具体的には?

ぶっちゃけるとこの本の中で一番価値のある内容は、一番最後のたった13ページの「監訳者あとがき」です。この13ページを深く理解するために、その他の200ページ弱が存在していると言ってもいいと思います。

本編は計13ページの監訳者あとがき

この「監訳者あとがき」を書いたのは、星野リゾート代表の星野佳路氏。星野氏は家業を継いでまもない頃に、この本の内容を実践したことで1995年以降の星野リゾートの組織変革に成功したようです。帯でも「私にとって最も大切な教科書だ」と書かれている通り、影響はとても大きかったようです。

この本が最初に発売されたのは1996年(ケン・ブランチャード著「1分間エンパワーメント―人と組織が生まれ変わる3つの秘訣 」)で、おそらく星野氏が読んだのは旧書の方です。そして今回発売されたこの本は。リメイク版になります。著者のケン・ブランチャード氏は、長年にわたってリーダシップ論の提言や人材育成に携わっている方です。

星野氏による「あとがき」は、その当時の状況が想像しやすく説得力と納得感があります。この本に登場す「3つの鍵」を実践した場合の、社員のリアクションや社内の影響などもとてもリアルに描かれています。

さらに星野氏はブランチャード氏の教えを鵜呑みにするだけではなく、考え方が日本の組織に合うようにカスタマイズした部分も具体的に書かれています。そのため「あとがき」を深く理解するために、200ページ弱の欧米風フィクションを苦労しながら読む価値があります。

物語の舞台は欧米の中堅メーカー

この本は(おそらく)様々な実話を基にした、フィクションの物語として書かれています。

  • 主人公:中堅家庭用品メーカーCEOのマイケル・ホブス氏
  • エンパワーメント・マネジャー:組織変革に成功した会社の社長サンディ氏

をメインの登場人物として、サンディ氏とその社員一同がマイケル氏に組織変革のヒントを与える形で物語が進みます。組織変革のことを「エンパワーメントの国への旅立ち」と表現し、会社の行く末に困ったマイケル氏は決意を新たにします。マイケル氏がサンディ氏の会社を訪問し、「変革後」の組織とそこにどうやって至ったかの説明を聞きながら、エンパワーメントのフレームワークの実践を追体験する流れになります。

MBA(経営学修士)を取得したのに経営がうまくできないマイケル氏と、実践で成功した上から目線で対応するサンディ氏の対比は、この本の読者を一般的な中小企業の経営者に絞ったマーケティング的な狙いが見え隠れします。

和訳本特有の読みにくさ

物語は英語圏の人が英語圏の人に向けた内容であるため、和訳した本書はとても読みにくいです。例えば「部下がエンパワーされる」「会社をエンパワーする」という言葉がたくさん登場し、日本の読者にはピンときません。登場人物のノリも欧米風で、ちょっとしたやり取りの面白さがうまく伝わりません。

登場人物の文化的な価値観の違いも気になります。例えば「買い物に行ったけど、お店の営業時間に間に合わなくてモノが買えなかった」というエピソードで、登場人物は「お店のオーナーが悪い」という結論に至ります。ここで「そもそも営業時間内に行けよ」という野暮なツッコミは入りません。登場人物たちの価値観も、日本のそれとは少し違う感じがしました。

また英語の「Enpowerment」という言葉にかけた表現で、「権限」に「パワー」というルビが打たれていたりと、訳者が言葉のニュアンスを伝えるのに苦労する様子が伺えます。読み進めていっても、なんとなくわかったようなわからないような箇所が多く出てくると思います。

誰が読むべき?

  • 指示待ち社員に困っている中小企業経営者
  • エンパワーメントという言葉を聞いたことがある人

著者のブランチャード氏の書いた物語の登場人物そして監訳者の星野氏は、自律性がなく、危機感がない、指示待ち社員を「経営者という立場」からどうにかしたいという動機から行動しています。そのため同様の状況にある中小企業の経営者にとっては、興味深い一冊になると思います。

またブランチャード氏は、

  • エンパワーメントは「トップダウンの取り組み」

と言い切っています。

つまり経営者以外は読者として対象になっていません。実際に取り組み自体も、トップダウンで意思決定しなければならない内容ばかりで、社員の立場では実践できません。もし一人の社員として、組織変革に取り組みたいのであれば、コッター教授の「カモメになったペンギン」をおすすめします。

【書評】カモメになったペンギン – ジョン・P・コッター/ホルガー・ラスゲバー 著

また読む前に注意すべきは、物語の主人公が「一般的な」エンパワーメントを実施して挫折しているという点です。つまりそもそも「エンパワーメント」が何なのか知っている人が、読者として想定されています。そのため「エンパワーメント」が何なのか、前知識があった方が良いかもしれません。

参考 エンパワーメントWikipedia

備忘録

この本で目に留まった内容を箇条書きしておきます(内容は意訳・省略してます)。この中にピンとくるフレーズや興味深い内容があれば、ぜひ書籍を読んでみてください。

  • 管理職の仕事は部下と組織をつなぐ「連結ピン」
  • エンパワーメントの3つの鍵
    • すべての社員と情報を共有する
    • 境界線によって自立した働き方を促す
    • 階層思考をセルフマネジメントチームで置き換える
  • 正確な情報は責任感と信頼を流通させるための通貨
  • ミスが発生したら何としても修復し次にミスから学べ
  • 「偉い人はいない」という企業文化を定着させる必要

書かれていること書かれていないこと

書かれてること
  • エンパワーメントの取り組みに成功した場合の素晴らしさ
書かれてないこと
  • エンパワーメントの取り組みに失敗した場合の危険性
  • 研究に基づいた理論的な根拠

前述したとおりエンパワーメントの取り組みは、経営者にしかできないトップダウンの取り組みです。会社の仕組みを大きく変えて、成功した暁には大きなリターンが得られます。物語は取り組みが苦難を乗り越えながら成功したサクセスストーリーであり、星野氏のエピソードも同様に苦難を乗り越えて成功した事例です。

しかし大きなリターンがあるということは、大きなリスクを伴うということを意味します。

この本の内容に書かれたことを最後までやりきれれば良いですが、失敗した場合に会社がどうなるかはわかりません。エンパワーメントの取り組みを行うと、組織構造が大きく変わり、社風や企業文化も大きく変化します。「今の会社を壊し」「新しい会社に生まれ変わらせる」取り組みです。

この本には「完全に失敗した」場合の結果は書かれていません。つまり薬で例えると一般的な副作用は書かれていますが、死に至るケースは書かれていません。経営者として本当にやりきるためには、会社が崩壊する可能性も覚悟して取り組まなければならないのですが、良いことばかり書かれているのは気がかりです。

またこの本では、研究に基づいた理論的な根拠等は示されてません。もちろんブランチャード氏は博士号も取得しているので、内容は研究に基づいた根拠のあるモデルであることは間違いありません。しかしこの本には「3つの鍵」などのコンセプトがまとめられた経緯は書かれていないため、より深く理解するには別の著書や論文を確認する必要があります。

書籍の目次
  • I どうすれば会社はよくなるのか
    • 1 新社長の悩み
    • 2 エンパワー・マネジャーとの出会い
    • 3 エンパワーメントの国
  • II エンパワーメントの3つの鍵
    • 4 第1の鍵 すべての社員と情報を共有する
    • 5 第2の鍵 境界線によって自律した働き方をうながす
    • 6 第3の鍵 セルフマネジメント・チームを育てる
  • III 3つの鍵を実践してみよう
    • 7 3つの鍵はダイナミックに関連しあう
    • 8 情報共有がもたらす行動と信頼
    • 9 新しい境界線で社員は成長する
    • 10 チームが自ら動き始める
  • IV 成功はすぐそこにある
    • 11 信念を貫けばエンパワーメントは実現する
    • 12 エンパワーメントのゲームプラン


タイトル社員の力で最高のチームをつくる〈新版〉1分間エンパワーメント
著者
出版社ダイヤモンド社
ISBN-13978-4478100677
発売日

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