- 利害関係者との相互作用で価値を創造するための一連の仕組み
のことです。
実は、学術的に定まった「ビジネスモデル」の定義は存在していません。
つまり、論文に書かれている定義も、教科書に書かれている定義もてんでバラバラということ。冒頭の定義も、私自身の理解を言葉で表したものです。
学術的なビジネスモデル研究が進んだのは2000年代に入ってからと歴史が浅く、且つ、研究テーマも多岐に渡るため、いまだに世界共通の定義というものが存在していないのです。
ビジネスモデルとは、利害関係者と価値を共創する仕組み
それでもあえて、代表的な定義を挙げるとするなら、ビジネスモデル研究の先駆者であり、長年の研究による実績を残しているゾット教授&アミット教授のコンビの定義になります。
2人の学術論文(Zott & Amit, 2010, 2017)では、ビジネスモデルは以下の事柄を説明するものとされています。
- コンテンツ:価値を創造するために何(WHAT)の活動を行うか
- ストラクチャー:それらの活動がどのように(HOW)繋がっているか
- ガバナンス:それらの活動を利害関係者の誰(WHO)が行うのか

ビジネスにおける活動がコンテンツ、活動の組み合わせがストラクチャー、利害関係者の調整がガバナンスであり、これらが複合的に組み合わさることで価値が生まれます。
例えば、顧客に即日で製品を届けることが価値となるビジネスモデルでは、即日配送を実現するための在庫管理活動や配達員の採用育成などがコンテンツ、それらの活動が上手く連携できるようにするのがストラクチャー、外部の複数の物流業者とも円滑な関係を維持することがガバナンス、ということです。
ここでのポイントは、
- 価値を創造する活動に焦点を置く
- 活動は自社だけでなく顧客や取引先などの利害関係者も行う
- 理念や戦略を踏まえた全体最適が求められる
ということ。
ビジネスモデルの中心は、顧客や取引先などと共に生み出す価値にあります。企業がどのように儲けるかといった「収益モデル(「ジレットの替刃モデル」「フリーミアム」「サブスクリプションモデル」など多数)」が注目されがちですが、収益構造はあくまで価値創造の活動を継続するための1つの手段でしかありません。
ビジネスモデルの定義を日本人的な感覚で表現すれば、いわゆる近江商人の「三方良し(売り手にも買い手にも世間にも良い)」を実現する活動の仕組みとも言い換えることができます。
ビジネスモデルと似ているけどちょっと違う概念
ちなみに「ビジネスモデル」で検索をすると、「誰に(WHO)何を(WHAT)どうやって(HOW)提供するか」みたいに説明されていることがあるのですが、それはビジネスモデルではなく「事業ドメイン」の定義です。
こちらは「WHO:誰に=どの顧客に」「WHAT:何を=どんな商品を」「HOW:どうやって=どんな方法で」提供するかという定義であって、前述のビジネスモデルの要素と意味合いが違うことがわかります。
さらにこの事業ドメインの定義に「価値を提供し、利益を得るための仕組み」と付け加えたとしても、マーケティングの説明や収益モデルの説明の域から出ることはありません。
- 価値を提供する:マーケティングのProduct(商品)とPromotion(広告宣伝)
- 利益を得る:マーケティングのPrice(価格)とPlace(流通)+収益モデル
いずれにせよ、ゾット&アミット教授が示したようなビジネスモデル特有の概念を、説明することができないのです。
ビジネスモデルと関連するキーワード
…ということで、今回は「ビジネスモデル」とその研究について更に掘り下げて、わかりやすく説明したいと思います。
以降のページでは、
- IESEビジネススクール のクリストフ・ゾット教授及びロレンソ・マッサ教授と、ペンシルバニア大学ウォートンスクール のラファエル・アミット教授による、ビジネスモデルに関する133本の学術論文及び103本のビジネス書籍をメタアナリシス(分析結果を分析)した論文「The Business Model: Recent Developments and Future Research(2011)」の解説
- ビジネスモデルを図解しようとする取り組みについて、石井教授らの「Customer Value Chain Analysis(CVCA:顧客価値連鎖分析)」、CVCA(顧客価値連鎖分析)の派生系として板橋氏の「ピクト図解®︎」および近藤氏の「ビジネスモデル図解」、公的な事業計画書ではお馴染みの「ビジネスモデル俯瞰図(商流俯瞰図)」の解説
- アレクサンダー・オスターワルダー教授らによる論文「An Ontology For E-Business Models(2004)」と「Clarifying Business Models: Origins, Present, and Future of the Concept(2005)」がベースとなっている「ビジネスモデル・キャンバス 」で紹介された9つのビジネスモデル構築ブロック「CS:顧客セグメント」「VP:価値提案」「CH:チャネル」「CR:顧客との関係」「RS:収益の流れ」「KR:リソース」「KA:主要活動」「KP:パートナー」「CS:コスト構造」についての解説
- ハーバード大学ビジネススクールのクリステンセン教授(著書「イノベーションのジレンマ」 で有名)ら3名による論文「Reinventing Your Business Model(2008)」で紹介されたビジネスモデルを構成する4要素「顧客価値提案」「利益方程式」「主要な経営資源」「主要なプロセス」の解説
- ゾット教授&アミット教授コンビによる論文「Value Creation In E-business(2001)」「Business Model Design: An Activity System
Perspective(2010)」「Business Model Innovation: How to Create Value in a Digital World(2017)」より、4つのバリュードライバー(価値牽引要素)「新規性」「ロックイン」「補完性」「効率性」の解説
といったビジネスモデルに関連する概念やキーワードについて説明します。
ビジネスモデルの論文を大量に分析した論文でわかったこと
ビジネスモデルを語る上で絶対に外せないのが、ゾット教授、アミット教授、マッサ教授の3人による2011年の論文、
- The Business Model: Recent Developments and Future Research(ビジネスモデル:近年の発展と将来の研究)
です。

この論文では、1975〜2009年までの35年間に発表された学術論文および実務者向けジャーナルの中から、タイトルやキーワードに「ビジネスモデル」が含まれている論文 1,253 本を抽出。さらにそこから基準を設けて、有益な論文を133本まで厳選しています。
この133本に加えて、ビジネスモデルに関する書籍103冊を加えた、合計236本もの情報源からメタアナリシス(分析結果の分析)を行なっています。
…なんとも気の遠くなりそうな話ですが、この3人の教授はやってのけたわけです。ゾット教授&アミット教授コンビのビジネスモデル研究に対する情熱は畏敬の念さえ覚えます。
ということでこの論文を読まずにビジネスモデルを語るわけにはいかないので、筆者も何度も読みました。論文のタイトルで検索すれば普通に読めるので、気になる方はぜひ読んでみてください。
ドットコムバブルで世に広まった「ビジネスモデル」という言葉
「ビジネスモデル」という言葉は、アメリカのドットコムバブル(インターネットバブル)と共に使われ始めました。下のグラフは、ビジネスモデルに関連する論文や記事の発行件数をグラフにまとめたものです。

濃いグレーが学術誌に掲載された論文(PAJ)で、薄いグレーが学術誌以外に掲載された記事(PnJA)の本数を表しています。
本数の急増が始まった1995年はマイクロソフト社のWindows 95が登場した年であり、インターネットが一般消費者の身近なものになった年でもあります。
同じ頃、インターネットを利用した様々なビジネスが生まれ始め、ドットコムバブルになりました。GAFA(ガーファ:Amazon 1993年創業、Apple 1997年に創業者スティーブ・ジョブズ氏がCEOに復帰し第2創業、Google 1998年創業、Facebook 2004年創業)の躍進もこの時期から始まりました。
ドットコムバブルが弾けた2000年代初頭は、「ビジネスモデル」に関連する記事も一時的に減少しますが、その後も爆発的に増えていることがグラフでわかります。
ビジネスモデルの定義が定まらない理由
冒頭でもお伝えしましたが、いまだにビジネスモデルの共通の定義は存在していません。その理由は、ビジネスモデルで何を説明しようとしているかが、研究内容によって異なるためです。
それでもゾット教授らは、236本の論文や記事を大きく以下の3つに分類しました。
- ネットビジネスと組織におけるITの活用に関する研究
- 価値創造、競争優位、企業業績などの戦略的課題に関する研究
- イノベーションと技術管理に関する研究
1つ目のネットビジネスやIT活用に関する研究については、ビジネスモデルという言葉がインターネットの普及と共に広がった経緯と一致します。人々は、インターネットという新しい技術がどのようにビジネスに影響するのか研究しようとしました。
2つ目の戦略的課題に関する研究については、元来の経営学の主流となる研究目的であり、企業がどのように価値の提供を行うかを説明します。この分野の研究では、ビジネスモデルの違いが競争優位を生み出すことや、利害関係者との協力による価値創造などが研究されています。
3つ目はイノベーションに関する研究で、
- ビジネスモデルによって革新的なアイデアや技術が商品・サービスとして提供される
- ビジネスモデル自体をイノベーションの対象と考える
といったことが論じられてきました。
このように、何をテーマとするかによってビジネスモデルの役割が異なり、定義も異なってくるということがご理解いただけたかと思います。
ちなみに、私が冒頭で紹介した定義は、2番目の戦略的課題をテーマとする研究における定義に近いものになります。これが正解というのはありませんが、このサイトを訪れた皆さんが求めているものには近いと思っています。
さて、ここまでは定義がバラついているというお話でしたが、次のページでは、逆に数々の研究で共通していることについて解説します。
ビジネスモデル研究の4つの共通点
数々のビジネスモデル研究は全てバラバラだったかというと、実はそんなことはありません。
ゾット教授らはビジネスモデル研究における共通点を4つ発見しました。(Zott, Amit & Massa 2011)
- 要素の相互作用(橋渡し)を表現する新しい分析単位
- どのようにビジネスを行うかの全体論である
- ステークホルダーによる活動を明らかにしている
- 価値提案および価値の創造に焦点を置く
ビジネスモデルとは新たな分析単位である
これまでも、経営学では色々な単位で分析がなされてきました。
経営学でよくある分析単位としては、
- 産業
- 市場
- サプライチェーン
- 企業
- 事業
- 店舗
- チーム
- 個人
などがあります。
ゾット教授らの分析では、これらのような分析単位の一つとして「ビジネスモデル」を捉えているという共通点が明らかになりました。
ビジネスモデルは、中心となる企業だけでなく、取引先や顧客も全体を構成する要素となります。そして、企業と取引先を橋渡ししている仕組みもビジネスモデルの一部です。
逆に言えば、中心となっている企業だけしか分析しない場合は、ビジネスモデルを分析しているとは言い難いということになります。
ビジネスモデルはどのようにビジネスを行うかの全体論
前述のように、ビジネスモデルは1つの企業だけでなく、様々な利害関係者が相互に繋がっている状態を1つの分析単位としています。
そのため、特定の会社が儲かるかどうかという分析ではなく、ビジネスモデルの全体を体系化し、ビジネスとしてどのように仕組みが機能しているのかを知る必要があります。
ビジネスモデルには利害関係者との活動が含まれる
ビジネスモデルは、様々な利害関係者を内包していますが、それぞれが単純に繋がっているだけではありません。それぞれは、何かしらの活動を行い価値を生み出します。
そのような活動のことを「プロセス」と呼んだり、「アクティビティ」と呼んだりします。利害関係者同士がどのような活動をしているかを理解することが、ビジネスモデルの理解につながります。
ビジネスモデルは価値提案と創造に焦点を置く
ビジネスモデルの研究で必ず語られるものは、そのビジネスモデルが顧客に対してどのような価値提案(バリュー・プロポジション)を行い、その価値をどのように創造しているかという点です。
事業活動では、顧客に対して価値提案を行い、商品やサービスなどを通して価値の提供を行います。それらの価値は、顧客を含んだ利害関係者との活動(プロセスやアクティビティ)を通して生み出されます。
ビジネスモデルを図解する様々な取り組み
ビジネスモデルと聞いて「ビジネスの型」をイメージする人も多いのではないでしょうか?
過去のビジネスモデル研究においても、ビジネスモデルを構成する要素を分解し、パターン化やフレームワーク化することは多くの研究者が挑戦してきました。
しかし、残念ながら世界的にスタンダードと呼べるような方法は、いまだに現れていません。…とは言え、注目を浴びた手法もいくつか存在しています。
今回はその中から、特に日本国内で知られている、
- Customer Value Chain Analysis(2006年)
- ピクト図解(2010年)
- ビジネスモデル図解(2017年)
- ビジネスモデル俯瞰図
について解説します。
なお、これからご紹介するビジネスモデルの図式化手法では、
- 利害関係者との協力で価値を生み出す活動を図だけでは表現できない
という共通の問題点を抱えています。
企業と利害関係者による活動の具体例としては、
- サプライヤーと受発注システムを統合してコストを削減する活動
- ヘビーユーザーと共同で商品の企画・開発を行う活動
- 一部の顧客をアンバサダーに任命して共同で販売促進を行う活動
などなど。
例を挙げるとキリがないのですが、ゾット教授らが指摘するこのようなビジネスモデル特有の要素を図式化できるメジャーな手法は存在していません。
石井教授らのCVCA:顧客価値連鎖分析(2006年)
CVCA(カスタマー・バリューチェーン・アナリシス、顧客価値連鎖分析)とは、スタンフォード大学で開発された、製品設計のためのツールです。(近年では、ビジネスモデルの表現にも使用されています。)
前身には、企業と顧客を結ぶ利害関係者を図示する「カスタマーチェーン分析」という手法があり、それが「カスタマーバリューチェーン分析」へと発展しました。
これを論文としてまとめたのが、石井教授らによる2006年の論文
- Customer Value Chain Analysis(顧客価値連鎖分析)
です。
CVCAは、様々な利害関係者に対する価値提案(バリュー・プロポジション)を特定し、顧客ニーズに基づいた意思決定を行うために用いられます。CVCAが価値提案を表すわけではありませんが、価値提案が必要なポイントを特定することが可能になります。
下の図は、論文に登場する自動販売機メーカーの顧客価値連鎖を翻訳したものです。

主体となるのは、左上の黒い枠で囲まれた「自動販売機メーカー」で、モノ・カネ・情報の動きが理解できます。
ただし、CVCAはあくまで価値提案が必要なポイントを洗い出すのが目的であるため、ビジネスモデルにおける価値創造に関する活動までは表現できません。
板橋氏のピクト図解(2010年)
板橋悟氏によるピクト図解®︎は、本質的にはCVCAとほぼ同じですが、書き方やアイコンなどがある程度ルール化されたものになります。(ピクト図解®はエクスアールコンサルティング株式会社の登録商標です。)

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CVCAとの違いとしては、
- 時間軸による活動の変化を表現できる
という点です。
先ほどの図を見ると、図の右側に「↓T」という表記があることがわかります。これは、ビジネスの時間の経過によって要素が変化することを表しています。
また、後述するオスターワルダー教授らが開発した「ビジネスモデル・キャンバス」も併用しているようです。(下図、左側のフレームワーク)

そのため、ピクト図解のみでは価値創造の活動を表現できませんが、ビジネスモデルキャンバスの9つの要素の1つである「KA:主要活動」と紐づけることで分析が可能になっています。
近藤氏のビジネスモデル図解(2017年)
近藤哲朗(チャーリー)氏によるビジネスモデル図解も、CVCAと同様の表現手法になります。板橋氏のピクト図解よりも、一層CVCAに近い表現方法と言えるでしょう。

CVCAとの違いとしては、
- 9つのマスに利害関係者を当てはめていく
- 上段と中段に事業ドメイン(誰に、何を、どうやって)を記載する
- 下段にサプライチェーンに関連する利害関係者を記載する
といったルールが定められていること。
なお、図中に吹き出しで注釈を入れることが可能で、利害関係者との活動についても記載できますが、必須ではないようです。
また既存のビジネスとの違いを表す「逆説の構造」という概念を取り入れ、ビジネスモデルそのものの革新性についても表現する試みがされています。

ビジネスモデル俯瞰図(商流俯瞰図)
ビジネスモデル俯瞰図とは、商流俯瞰図とも呼ばれ、サプライチェーンの流れを表現する手法です。
ビジネスモデル俯瞰図は、各都道府県に設置されている中小企業活性化協議会が窓口となっている、早期経営改善計画や経営改善計画(405事業)の事業計画書に必ず添付される図です。
そのため、中小企業診断士、税理士、銀行員などにとっては、とても知名度の高い図式化手法です。
まず、早期経営改善計画(経営改善の難易度が低めの事業)策定支援の記載例からの引用が以下の図になります。

そして405事業とも呼ばれる経営改善計画(経営改善の難易度が高い事業)策定支援の記載例が以下のものになります。

ビジネスモデル俯瞰図の書き方のルールとしては、
- サプライチェーンの上流から最終顧客までの流れを図示する
- 売上と仕入れの金額を記載する
の2つのみ。他に決まったルールはありません。
端的に言えば、サプライチェーンに取引金額を書き込んだだけの図です。あとは、資料を作成する専門家のさじ加減で、マーケティング関連の追加情報を記載したりしなかったり。
このビジネスモデル俯瞰図がいつ頃登場したのかは不明ですが、サプライチェーンと取引額の単純な組み合わせなので、かなり昔から存在していたのではないでしょうか。
ビジネスモデル・キャンバスと9つの要素

ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスモデルを構成する9つの要素をブロックとして組み合わせたフレームワークです。
アレックス・オスターワルダー 教授が中心となって開発したもので、現在では、オスターワルダー氏が創業したStrategyzer(ストラテジャイザー) 社というコンサルティング会社が普及を行っています。
一見、図解のようにも見えますが、どんなビジネスを説明する場合でも9つの枠は固定なので、図解ではなくフレームワークに分類されます。
ビジネスモデルキャンバスを生み出した論文
このビジネスモデルキャンバスには、元になった学術論文が存在しています。
それが、オスターワルダー教授&ピニュール教授コンビによる2004年の論文、
- An Ontology For E-Business Models(Eビジネスモデルのための概念体系)
です。
この論文では、ビジネスモデルキャンバスの原型になった、12の要素で構成された図が掲載されています。

最初の画像と見比べていただくとわかりますが、すでに9つの要素が同じような位置関係で登場しています。
さらに、タッチ教授を加えた3人による2005年の論文、
- Clarifying Business Models: Origins, Present, and Future of the Concept(ビジネスモデルを明らかにする:概念の原点、現在、そして未来)
では、ビジネスモデルの要素を9つのビルディングブロックとして紹介しています。
これらの論文は、前述のゾット教授&アミット教授コンビの2011年論文と同じく、ビジネスモデルに関する論文を分析するメタアナリシス論文です。
オスターワルダー教授らも、当時入手可能な多数の論文や書籍、記事などを手掛かりに、ビジネスモデルを構成する要素として9つにまとめ上げました。
ビジネスモデルキャンバスの9つのブロック
ビジネスモデルキャンバスのフレームワークでは、9つの枠の中にビジネスの要素を書き込み、矢印などで要素同士を繋ぐことで分析を行います。

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詳しい説明は、上記の書籍に任せて、ここでは簡単に9つの要素を紹介します。
顧客セグメント:Customer Segments(CS)
顧客セグメント(CS)は、どのような価値提案を行うかを決定づける重要な要素です。「誰のために価値を創造するのか?」「最も重要な顧客は誰なのか?」といった問いに答えます。
価値提案:Value Propositions(VP)
価値提案(VP)では、顧客のニーズに応え、問題を解決する具体的な商品やサービスについて言及します。「どういった問題の解決を手助けするのか?」といった問いへの答えが価値提案です。
チャネル:Channels(CH)
チャネル(CH)では、顧客に対してどのように価値を届けるかについて、流通、営業活動、販促活動などについて考えます。マーケティングでは「Place:流通」「Promotion:販売促進」などが該当します。
顧客との関係:Customer Relationships(CR)
顧客との関係(CR)では、顧客との関係性構築に関連する全てのことを記述します。顧客が商品やサービスに期待することだけでなく、企業側が顧客に期待する事柄についても書き出します。
収益の流れ:Revenue Streams(RS)
収益の流れ(RS)では、顧客が何に対してお金を払い、どれくらいのお金を払い、どのようにお金を払うことを望んでいるのかについて記述します。
リソース:Key Resources(KR)
リソース(KR)では、ビジネスを回すために必要なヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源や、施策の実行能力(ケイパビリティ)などについて記述します。
主要活動:Key Activities(KA)
主要活動(KA)では、ビジネスモデルの実行に必要な活動を記述します。企業内で完結する活動だけでなく、パートナーとの活動も含まれます。
パートナー:Key Partners(KP)
パートナー(KP)では、前述のリソースや主要活動を共同で行うサプライヤーなどについて考えます。特に、ビジネスモデルの成立に関わるパートナーの存在は非常に重要です。
コスト構造:Cost Structure(CS)
コスト構造(CS)では、リソースや行動、価値提案などに必要なコストをすべて記述します。変動費や固定費などの会計的な視点に加え、規模の経済性や範囲の経済性などの経済学的な視点も必要になります。
ビジネスモデルキャンバスは有用だが難易度が高すぎる
ビジネスモデルキャンバスは、利害関係者と共同で行う価値創造の活動についてもカバーしており、ビジネスモデルの表現としては過不足無いかと思います。
しかし世界中で勉強会が開催されているものの、「難しい」「使いにくい」といった声も絶えません。実際に「ビジネスモデルキャンバス」でキーワード検索すると、検索候補に「ビジネスモデルキャンバス 使えない」といった候補が表示されるほどです。
9つのブロックに書くべき内容がわかりにくい
ビジネスモデルキャンバスが難解な理由の1つが、ブロック(要素)のわかりにくさです。
例えば「チャネル(CH)」という要素は、マーケティングの文脈では「流通・輸送」「店舗立地」「品揃え」といった意味で使われます。
しかし、ビジネスモデルキャンバスでは、広告や販売促進活動、営業活動といったことまで含まれているため、アイデア出しの際に抜け漏れが発生しやすくなります。
また「顧客との関係(CR)」という要素では、
- Amazonが顧客を商品レビューの執筆に誘う
ことを著書で具体例として挙げていますが(「ビジネスモデル・ジェネレーション」29ページ)、ピンと来ない人もいるはず。
このように、各ブロックのカバーしている範囲が広く、直感的に当てはめることができないため、わかりにくいという印象を抱く人も多いようです。
ビジネス全体を俯瞰できる人しか使いこなせない
もう一つの難しさは、ビジネスモデルキャンバスを埋めるためには、ビジネス全体を見渡せる視座が必要だということ。
逆に言えば、視座を養うためのグループワークや研修の題材としては最適なので、グループで取り組み、視座の高さを複数の視野でカバーすることが求められます。
ビジネスモデル:筆者イチオシの論文
ここまでビジネスモデルについて様々な角度から解説しましたが、最後に筆者がイチオシのビジネスモデル研究に関する論文をご紹介したいと思います。
成功するビジネスモデルが持つ4つの要素(4つの箱)
まず1つ目は、ハーバード大学ビジネススクールのクリステンセン教授(著書「イノベーションのジレンマ」 で有名)ら3名が2008年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に寄せた論文、
です。
タイトルの通り、既存のビジネスモデルにイノベーションを起こし「再発明する」という観点から書かれた論文で、ビジネスモデルを刷新するための洞察を得ることができます。
ちなみに日本語版のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでは論文の邦題が「ビジネスモデル・イノベーションの原則」となっていますが、内容は全く同じです。日本語訳の論文は下記の「ビジネスモデルの教科書」の第2章に掲載されているので興味のある方は読んでみてください。
📖 書籍ハーバード・ビジネス・レビュー ビジネスモデル論文ベスト11 ビジネスモデルの教科書Amazonで見る →
この論文では、成功する企業のビジネスモデルが持つ要素について、以下のように述べています。
Successful companies already operate according to a business model that can be broken down into four elements: a customer value proposition that fulfills an important job for the customer in a better way than competitors’ offerings do; a profit formula that lays out how the company makes money delivering the value proposition; and the key resources and key processes needed to deliver that proposition.
成功する企業は4つの要素に分解できるビジネスモデルで事業展開をしています。競合他社の製品よりも優れた方法で顧客の重要な役割を果たす「顧客価値提案」、価値提案を提供することで会社がどのようにお金を稼ぐかを示す「利益方程式」、そしてその提案を届けるために必要な「主要な経営資源」と「主要なプロセス」です。
Johnson, Christensen, & Kagermann, 2008(筆者翻訳)
成功する企業のビジネスモデルの要素として、
- 顧客価値提案:Customer Value Proposition(CVP)
- 利益方程式:Profit Formula
- 主要な経営資源:Key Resources
- 主要なプロセス:Key Processes
が存在しており、その中でも、顧客価値提案が最も重要だと説いています。
新たなビジネスモデルを構築するためには、まず最初に顧客価値提案を再考し、それを実現するために利益方程式や経営資源、プロセスといった要素を作り直すといった流れになります。
他にもこの論文では、顧客価値提案を考えるのに役立つ「4つの障壁」や、ビジネスモデルの変更が必要になる「5つの戦略的状況」についても触れられています。
ただし「4つの障壁」や「5つの戦略的状況」については、クリステンセン教授の著書である「ジョブ理論」や「イノベーションのジレンマ」を事前に読んだ方が、より理解が深まります。
📖 書籍ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)Amazonで見る →
📖 書籍イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school pressAmazonで見る →
ビジネスモデルの4つのバリュードライバー(価値牽引要素)
もう1つ(1セット?)ご紹介したいのが、前半でもご紹介したゾット教授&アミット教授コンビによる3つの論文、
- Value Creation In E-business(Eビジネスにおける価値創造、2001年)
- Business Model Design: An Activity System Perspective(ビジネスモデル・デザイン:活動システムの視点、2010年)
- Business Model Innovation: How to Create Value in a Digital World(ビジネスモデル・イノベーション:デジタル世界で価値をどのように生み出すのか、2017年)
です。
これらの論文では、ビジネスモデルの価値を高める4つの牽引要素(ドライバー)について触れられています。
新規性(Novelty)
新規性は、冒頭でご紹介した3つの活動要素である、
- コンテンツ:価値を創造するために何(WHAT)の活動を行うか
- ストラクチャー:それらの活動がどのように(HOW)繋がっているか
- ガバナンス:それらの活動を利害関係者の誰(WHO)が行うのか
について、既存のビジネスモデルと3つのいずれか(または全て)が異なることを指しています。
例えば、2000年代に登場したApple社の楽曲のダウンロード配信サービスは、アーティストや音楽レーベルの協力を仰ぎ(ガバナンス)、新たに開発したiPodというハードウェアとiTunesというソフトウェアを結びつけることで(ストラクチャー)、楽曲のデジタル化による配信を行い(コンテンツ)、既存の音楽業界のビジネスモデルを大きく変化させました。
ロックイン(Lock-in)
ロックインは、ネットワーク外部性とスイッチングコストによる効果で構成されます。
ネットワーク外部性は、利用者の数が価値を高め、価値が高まることで利用者が増えるというサイクルです。またスイッチングコストは、商品やサービスを利用することで、利用を止めることに対するコストが増加する状態を指します。
いずれも、顧客を囲い込み続ける(ロックインする)効果を生み出します。
相補性(Complementarities)
相補性とは、ビジネスモデルを構成する要素の相互依存による価値向上効果を指します。例えば、宿泊予約サービスが、宿泊先の観光情報や天気予報を提供することなどが相補性に該当します。
また、大規模な例では「楽天経済圏」や「PayPay経済圏」などプラットフォーム全体に及ぶ相補的なサービス展開などがあります。
効率性(Efficiency)
効率性とは、利害関係者を含む共同活動や活動の相互作用によって生まれるコスト削減効果を指します。
単一企業が生み出す規模の経済性 などの効果だけでなく、サプライチェーン全体の協力によって成立する製造工程の効率化なども該当します。

4つの価値牽引要素の関係性は上記のようなイメージになります。
新規性、つまり3つの活動要素が新しくなれば、相補性・効率性・ロックインすべてに影響を及ぼします。相補性は効率性を高める効果と、ロックイン効果に影響を与えます。さらに効率性は特にスイッチングコストなどに影響が大きく、ロックイン効果をさらに高めます。逆に、新規性・相補性・効率性のいずれかが生まれなければ、ロックイン効果も生み出しにくいとも言えます。
ビジネスモデルまとめ
「ビジネスモデル」という言葉は、ビジネスシーンでよく耳にする割には、ちゃんとした定義がされていません。
狭義では、収益モデルや利益方程式などの「儲け方」にスポットが当たることが多い一方、広義では、利害関係者との相互作用を含めたビジネスの包括的な活動を指すこともあります。
そのため、解釈や認識も人それぞれになりがちです。
しかし、ここまで読んでいただいた皆さんは、「ビジネスモデル」という言葉が指し示す全体像をイメージできるようになったのではないでしょうか。
日頃慣れ親しんでいるビジネスも、今回ご紹介した様々な切り口で考察すれば、新しい発見があるかもしれません。皆さんもぜひ、ご自身のビジネスのビジネスモデルについて見直してみてください。

