- 商品やサービスの価値や効用が、その利用者の数に依存する現象
のことで、ミクロ経済学の用語です。
急成長するスタートアップや、グローバル展開するビジネスで必ずと言っていいほど活用されているのがネットワーク効果です。
簡単に言えば、
- 利用者が多いほど、利用する価値が上がる
- 利用者が少ないほど、利用する価値が下がる
という現象のことで、大きく「直接的(Direct)」と「間接的(Indirect)」の2タイプに分けることができます。
ネットワーク効果に関連する概念として「両面市場(two-sided markets、two-sided marketplace)」「ツーサイド・プラットフォーム(two-sided platform)」「マルチホーミング(multihoming)」「クリティカルマス(critical mass、臨界質量)」「ティッピングポイント(tipping point、転換点)」「メトカーフの法則(Metcalfe’s law)」「バンドワゴン効果(bandwagon effect)」「スノッブ効果(snob effect)」「負のネットワーク効果(negative network externalities)」などもあります(この記事ですべて解説します)。
ここでは上記の関連する概念と併せて、ネットワーク効果(ネットワーク外部性)のメリットやデメリットについてわかりやすく図解します。
ネットワーク効果とは?
ネットワーク効果(network effect、ネットワーク・エフェクト)とは、商品やサービスの価値が利用者の数に依存してしまう状態のことで、「ネットワーク外部性(network externality、ネットワーク・エクスターナリティ)」や「需要側の規模の経済(demand-side economies of scale)」などとも呼ばれます。
初めてこの概念が提唱されたのは1908年で、セオドア・ヴェイル氏(1900年代のAT&T社の社長) によって記された電話事業の年次報告書と言われています。そして1980年代にロバート・メトカーフ氏(アメリカの電気工学者で、イーサネットの共同開発者、3COM社の創業者) の「メトカーフの法則」によって普及しました。
この現象をシステム思考のループ図で表すと、以下のとおり。

「利用者の数」が増えれば増えるほど、商品やサービスの「価値や効用」が増えます。
しかし裏を返せば、利用者が少なければ価値も少ないということでもあります。
「利用者の数」が減れば減るほど「価値や効用」も減少していき、加速度的に需要が消滅することも起こります。
直接的・間接的なネットワーク効果
ネットワーク効果は、
- 直接的ネットワーク効果(direct network effect)
- 間接的ネットワーク効果(indirect network effect)
の2つに分けることができます。
直接的ネットワーク効果は、前述したような利用者の増加が直接的に商品やサービスの価値を高める現象のことです。
具体例としては、電話などの通信網や、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などが該当します。詳しくは次のページで解説します。
他方、間接的ネットワーク効果は、別名「グループ間ネットワーク効果(cross-group network effect)」とも呼ばれ、
- 互いに依存する2つ以上の異なる利用者グループが存在し、1つ以上の利用者グループが受け取る価値や効用が、他の利用者グループの成長によってもたらされる現象
と定義されます。言い換えれば、
- ある利用者グループの増加が、別の利用者グループにとっての価値を高める
ということです。
ループ図で表すと以下のとおり(2グループが相互に影響し合うパターン)。

先ほどのループ図とは異なり、特定のグループの利用者の数が、別のグループの価値や効用に影響を与えていることがわかります。
上図では、グループAの利用者の増加がグループBの価値や効用を高めることで、グループBの利用者の増加を引き起こし、間接的にグループAの価値や効用の向上を引き起こしています。これが「間接的」と呼ばれる理由です。
タイプとしては両面市場(two-sided marketplace)やツーサイド・プラットフォーム(two-sided platform)などが存在しています(後述します)。
ネットワーク効果と規模の経済
ネットワーク効果は、別名「需要側の規模の経済(demand-side economies of scale)」と呼ばれます。
一般的な「規模の経済」とは、
- 生産の規模が大きくなればなるほど製品1つあたりの平均コストが下がる状況
という意味の経済用語です。
「スケールメリット」などとも呼ばれ、生産者、つまり供給側が大規模生産によってコストを引き下げる場合によく使われる言葉です。
これが「(供給側の)規模の経済」ということになります。
そして今回ご紹介している「ネットワーク効果」は、
- 利用者の規模が大きくなればなるほど利用者1人あたりの得られる価値が高まる状況
と考えることができるので「需要側の規模の経済」と呼ばれるのです。
次のページからは具体例を挙げて図解します。
直接的ネットワーク効果(外部性)の具体例
まずは直接的なネットワーク効果から。
もう一度ループ図を見てみましょう。

利用者の数が増えれば、商品やサービスの価値が増え、逆に利用者が減れば価値も減る、というサイクルが回るのが直接的ネットワーク効果です。
直接的ネットワーク効果の具体例としてよく挙げられるのが「電話網」です。
電話会社で社長を務めていたセオドア・ヴェイル氏 が、ネットワーク効果の概念を提唱したので、具体例として定番になっています。
まずは電話で具体例を確認した後に、それ以外の具体例についても説明します。
電話網のネットワーク効果
電話機は1台だけだと無価値です。しかし別の利用者が現れて、2拠点が結ばれると初めて価値が生まれます。
さらに3拠点、4拠点と利用者が増えれば利便性が向上します。
以下の図は、4拠点と8拠点の電話網を比較したものです。

拠点と拠点を結ぶ線の数を、電話網の利便性として考えるとご覧の通り。
4拠点から8拠点と拠点数が2倍になると、拠点同士を結ぶ線の数は6本から28本と約4.7倍に増加しています。(実際の電話線は電話交換所を経由して切り替えをするため、電話線の本数は4.7倍になるわけではありません。)
つまり単純計算で、(上図で表したケースでは)利用者が2倍に増えれば、電話の価値である利便性は4.7倍に増えるということです。(計算方法は後述の「メトカーフの法則」にて解説。)
電話網の利便性が向上すれば、さらに多くの利用者を引き込むことができます。そしてさらに利便性が向上するという好循環が生まれるのです。
その他の直接的ネットワーク効果
私たちの身の回りでは、さまざまなネットワーク効果を見ることができます。
- 言語・通信プロトコル
- 道路・路線
- ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)
- OS・ソフトウェア
などが直接的なネットワーク効果に該当します。
言語・通信プロトコル
私たちが読み書きする言語はもちろんのこと、プログラミング言語や、ネットワークの通信プロトコルなども直接的なネットワーク効果を発揮します。
世界的に英語や中国語の学習者は増加傾向にあります。その理由は、経済的なメリットや文化的なメリットが得られるから。
同じ言語を喋る人が多ければ多いほど、よりたくさんの知識を得ることができるようになり、より多くの人と共同で価値を生み出すことが可能になります。
逆に話せる人が少ない言語は、言語を学ぶメリットが少ないため、いつの日か消滅します。これはデジタル化された言語(プログラミングやネットワーク)においても同じです。
道路・路線
道路、公共交通機関の路線、航空路線など、人や物が往復できる公共インフラはネットワーク効果が働くと言えます。理屈は電話網と同じです。(ただし同じ公共インフラでも、電気、ガス、水道などは一方向なので、ネットワーク効果ではなく規模の経済や密度の経済の恩恵が得られます。)
- 環状線と高速道路
- バスターミナルとバス路線
- 物流や航空のハブ・アンド・スポーク方式
- 貿易港と航路
など、利用者が増えるほど利便性や効率性が高まります。
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)
個人と個人がネットワーク上でつながるSNSは、利用者が多いほどネットワーク上のコミュニティやタイムラインが活性化し、より多くの利用者を惹きつけます。
また「みんなが使っているから自分も使ってみたい」といったバンドワゴン効果(後述します)も現れやすく、ネットワーク効果が機能し始めると急速に利用者が増加する傾向にあります。
OS・ソフトウェア
OS(Operating System)は、電子機器のハードウェアを制御し、ソフトウェアとの橋渡しになる基盤システムのこと。Windows、Android、macOS、iOS、Linuxなどがそうです。
みなさんの中にも「Windowsパソコンを買おうか、それともMacを買おうか」とか「AndroidスマホにしようかiPhoneにしようか」などと、迷った経験がある方もいると思います。
これは、いずれのOSにもネットワーク効果が働いており、利用するメリットが高まっているため選択肢に入っているということ。逆にみんなが使っていないOSを搭載した端末があったとしても選択肢に入らないはずです。
同様に、OS上で作動するソフトウェアにもネットワーク効果が働きます。多くの人が文書作成ソフトとしてマイクロソフト社の「Word」を使いますが、「みんなが使っているから使う」という理由で使っている人も多いはず。
みんなが使っているからこそ、社内や取引先とWord形式のファイルをやりとりがスムーズにできますし、トラブルの解決も容易になります。利用者が多いほど利便性が高くなるというネットワーク効果が強く働いていることがわかります。
間接的ネットワーク効果(外部性)の具体例
次に間接的ネットワーク効果について解説します。
典型的な間接的ネットワークのメカニズムは下図のとおり。

「グループAの利用者の数」の変化は「グループAの価値や効用」に直接的に作用しません。しかし「グループBの価値や効用」に作用することで、「グループBの利用者の数」の変化を促し、結果として間接的に「グループAの価値や効用」に影響を及ぼします。
このような間接的ネットワーク効果の難しさは、両方のグループの成長をいかにバランスよく持続させるかにあります。どちらかのグループの成長が早すぎても遅すぎてもサイクルが破綻する危険に晒されます。
以上は、相互に作用し合う例ですが、一方の価値や効用にしか影響を与えないシステムや、3つ以上のグループが複雑に作用し合うシステムも存在しています。
証券取引所のネットワーク効果
ここでは証券取引所を例に、間接的ネットワーク効果について説明します。
証券取引所は、株式や債権を売買する場所です。株や債券を「買いたい人」と「売りたい人」の2つのグループが存在しており、双方の数のバランスが適切であれば、円滑な取引が行われます。

「株式や債券を買いたい人」にとっては、「株式や債券を売りたい人」がたくさん存在することでより安く買える可能性が高まるので「株式や債券の買いやすさ」という効用が向上します。(売りたい人同士が競争して値が下がります。)
他方、「株式や債券を売りたい人」にとっては、「株式や債券を買いたい人」がたくさん存在することで高く売れる可能性が高まるので「株式や債券の売りやすさ」という効用が向上します。(買いたい人同士が競争して値が上がります。)
それぞれの効用が高まれば、さらに多くの「株式や債券を買いたい人」や「株式や債券を売りたい人」を惹きつけることになり、ネットワーク効果が一層強く働くことになります。
両面市場(two-sided markets、two-sided marketplace)
市場(しじょう)と名の付くものの多くは、間接的ネットワーク効果を有しています。マッチングサービスも市場の一種です。
ネットワーク効果の文脈では「両面市場(two-sided markets、two-sided marketplace)」などど呼ばれます。
一般的には「売り手(供給側)」と「買い手(需要側)」の2つのグループを集めることで、相互に影響し合い、間接的なネットワーク効果が生まれます。
- 青果市場:農作物の生産者(売り手)と卸や小売(買い手)
- 商店街・ショッピングモール:小売店(売り手)と来店客(買い手)
- クレジットカード:加盟店(売り手)とカード保有者(買い手)
- 労働市場:労働者(売り手)と雇用主(買い手)
- 広告市場:広告枠提供者(売り手)と広告出稿者(買い手)
- オークション:出品者(売り手)と入札参加者(買い手)
- フリーマーケット:出店者(売り手)と来場者(買い手)
- 賃貸物件仲介業:部屋の貸し手(売り手)と借り手(買い手)
- アプリケーションストア:アプリ開発者(売り手)とユーザー(買い手)
- ゲーム機:ゲーム開発者(売り手)とゲームプレイヤー(買い手)
などなど、具体例に事欠きません。
いずれの市場でも、双方のグループのボリュームの差が大きければ、売買が成立しにくくなり、価値や効用が低下します。
ちなみに、互いに「売り手(供給側)」且つ「買い手(需要側)」という両方の性質を持つ特殊な市場も存在しています。
例えば、結婚相談所は2つのグループ(多くの場合、男性と女性)がお互いがお互いの需要を満たす存在(供給)になります。
ツーサイド・プラットフォーム(two-sided platform)
ツーサイド・プラットフォーム(two-sided platform)とは、両面市場で価値を生み出す組織や仕組みそのものを指します。
例えば、ショッピングモールでは、ショッピングモールのデベロッパーおよび建物がツーサイド・プラットフォームです。
3者以上の場合には、
- マルチサイド・マーケット(多面市場、multi-sided markets)
- マルチサイド・プラットフォーム(multi-sided platform)
と呼ぶことになります。
3者以上の間接的ネットワーク効果
3者以上が関与する間接的ネットワーク効果は、ここまで紹介したような2者間のネットワークを複数組み合わせた場合が少なくありません。
例えば、インターネット検索エンジンのキーワード広告(検索キーワードに合わせた広告が検索結果に表示される仕組み)が3者間の間接的ネットワーク効果に該当します。
そもそもインターネットの検索エンジンは、
- インターネット上で検索されたいウェブサイト
- インターネット上で情報を検索したいユーザー
の2者の間接的ネットワーク効果が機能していると考えられます。
さらにそこにオークション形式で、
- インターネット上で広告を出稿したい事業者(広告出稿者)
を加えることで、
- インターネット上で情報を検索したいユーザー
の増加が広告出稿者にとっての価値になるサイクルを組み込みました。
言い換えれば、
- インターネット上で情報を検索したいユーザー
の存在は、
- インターネット上で検索されたいウェブサイト
- インターネット上で広告を出稿したい事業者(広告出稿者)
の2者に対する価値や効用を高めることになります。
マルチホーミング(multihoming)とマルチホーミング・コスト
マルチホーミングとは、利用者が複数の両面市場(または多面市場)を利用している状態のことです。
また複数の両面市場(または多面市場)を利用するためにかかるコストを、マルチホーミング・コストと呼びます。このマルチホーミングコストの存在が、プラットフォーマー同士の駆け引きの鍵となります。
例えば、多くの人が複数のクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済を利用していると思いますが、これがマルチホーミングの状態です。
消費者がキャッシュレス決済をマルチホーミングしやすい理由は、マルチホーミングコストが低いから。つまり、キャッシュレス決済手段の維持コスト(年会費など)が無料また少額であることが多く、コストを意識する必要性がないからです。
一方、加盟店にとって複数のキャッシュレス決済に対応するためには、機器の導入コストや手数料の増加など、マルチホーミングコストが多くかかります。
- 現金決済しか対応しない店
- クレジットカードのみ対応している店
- 電子マネーのみ対応している店
- 全てのキャッシュレス決済に対応する店
などに別れてしまうのは、マルチホーミングコストをどれだけ負担できるかが、お店によって異なるからです。
ちなみに混同されやすい用語として「スイッチングコスト」があります。
スイッチングコストとは、
- ある製品やサービスから別のものに切り替えるために必要な顧客の負担
のことで「あるものから別のものに替える」場合のコストです。
他方、マルチホーミングコストは「複数同時に」利用するためのコストなので、スイッチングコストと明確に区別されます。
マイナスのマルチホーミングコスト
資金が豊富にあるプラットフォーマーは、普及期にマルチホーミングコストをゼロまたはマイナスにする戦い方が可能になります。
近年の例では、QRコード決済のPayPayがリリース初期に、
- 加盟店の手数料を無料にする(コスト=ゼロ)
- 利用者に100億円をキャッシュバックする(コスト=マイナス100億円)
というキャンペーンを行いました。
その結果、スタートダッシュで他のQRコード決済サービスに大きく水をあけることに成功し、ツーサイド・プラットフォーマーとして大きなシェアを獲得することができました。
クリティカルマス:ネットワーク効果の臨界質量
クリティカルマス(critical mass、臨界量、臨界質量)とは、元々は原子物理学の用語で、原子核分裂が持続するために必要な最少の質量のことです。
ネットワーク効果の文脈では、
- ネットワーク効果が持続するために必要な最少の利用者の数
という意味になります。
- 利用者数がクリティカルマスに到達することができない
- 利用者数がクリティカルマスを下回る
といった場合には、ネットワーク効果が持続しにくいため、市場シェアの拡大に非常に苦戦します。
ネットワーク効果を利用するビジネスでは、このクリティカルマスをどうやって越えるかが、事業拡大の鍵になります。
クリティカルマスに到達するまでの戦略
クリティカルマスを越えるための戦い方は、
- サービスリリース直後にクリティカルマスに近い(or超える)利用者数を集める
- ネットワーク効果がなくても価値や効用が生まれるサービスを設計する
の2つに分かれます。
前者は実現可能性が低いのでほとんどの事業者は選びませんが、前述のPayPayの立ち上げのようなケースも稀に存在しています。
後者は、多くの事業者にとって現実的な戦い方になると思います。まずはネットワーク効果が働かなくても、利用者が価値や効用を得られる状況を作り、その間に地道に普及活動を進めます。
競合他社が複数存在する場合には、市場シェアの獲得がクリティカルマスへの到達スピードにかかります。そのため、特にスタートアップの場合は、資金調達が重要になります。
Facebookでの具体例
Facebookは世界一のシェアを誇るSNSに成長しましたが、その成功理由の1つにクリティカルマスのコントロールが挙げられます。
Facebookは、初めはハーバード大学の学生限定のサービスとして、2004年1月に限定リリースされました。当時の学生数 は、学部生が約6,600人、大学院生が約12,000人ほどでしたが、リリース後24時間で1,500人の学生が登録 しました。
さらにリリースから1ヶ月で学部生の半数(3,300人)以上が登録し、ハーバード大学の学部生という限られた市場でクリティカルマスに到達したと言われています。
その後、2004年3月(リリース後2〜3ヶ月)でスタンフォード大学、コロンビア大学、イェール大学とアメリカの一部の名門校にサービスを拡大。今度は4つの名門校という小さな市場の中で、クリティカルマスを維持し続けます。
その後も、アイビーリーグ(アメリカ東海岸の私立名門大学8校)、ボストン地域の大学、全米の大学と徐々に市場を拡大しつつも、常に利用者の数がクリティカルマスを下回らないようにコントロールしながら事業拡大を続けました。
筆者は当時、アメリカに留学中だったのですが、自分の大学もFacebookに対応した途端、短期間でクラスメイトの半数以上が登録していたように記憶しています。
当時は各大学のFacebook内に講義ごとのコミュニティが存在していて、学生同士でその日の宿題の答えや抜き打ちテストの対策を教えあったりしていました。なので、登録や招待の理由も単に「みんなが使っているから」というわけではなく、「宿題が楽になりそう」「試験対策になりそう」という理由が多かったと思います。
今思えば、これがネットワーク効果に頼らない価値や効用であり、ネットワーク効果が機能しない状況でも利用者が増える理由の1つだったのでしょう。
当時は世界的なSNS戦国時代で、Friendster(フレンドスター)、MySpace(マイスペース)、GoogleのOrkut(オーカット)、hi5(ハイファイブ)、そして日本ではmixi(ミクシィ)などがしのぎを削っていましたが、結果はみなさんのご存知のとおり。
もちろんFacebookが躍進した理由は、クリティカルマスのコントロールだけではありません。
しかし、SNSとしては後発組ながら、Facebookがネットワーク効果を発揮し続けることができたことに一役買っていたことは伺えます。
もしFacebookが狙った市場が最初から大きければ、クリティカルマスに達するのに時間がかかりすぎていたでしょうし、途中で失速していたかもしれません。
このように、ネットワーク効果を有効に機能させる場合には、早期にネットワーク効果を得るためにターゲットを限定する、というのも戦略の選択肢となります。
ティッピングポイント(tipping point、転換点)とは?
クリティカルマスと同義で使われる言葉に、「ティッピングポイント」という言葉もあります。
この「Tip(ティップ、チップ)」という言葉には「情報」「先端」といった意味の他に、「傾く」「ひっくり返る」という意味を持っています。
つまりティッピングポイントに到達すると、状況がガラリと変わってしまう、ということです。
ネットワーク効果の文脈では、
- クリティカルマス(臨界質量)=ティッピングポイント(転換点)
ということになるでしょう。
ちなみに個人的には、クリティカルマスの方は主観的な基準であり、ティッピングポイントは客観的かつ事後的な表現であるように思います。
- 例「我々は、事業成長のためにクリティカルマスを維持し続けなければならない」
- 例「あのサービスが急速に流行り出したのは、ティッピングポイントを超えたからに違いない」
といった具合です。
とは言え、好みもあったりするので、どちらの言葉を使っていても同じ意味合いに解釈して問題ありません。
メトカーフの法則とは:ネットワーク効果の計算式
メトカーフの法則(Metcalfe’s law)とは、1983年にロバート・メトカーフ氏 によってアメリカの3Com社の営業部隊に対するプレゼンテーションの際に考案されたと言われています。
メトカーフの法則は、
- 電気通信ネットワークの価値は「接続可能な総数」または「n^2」に比例する
とされています。
ざっくりと「ネットワーク効果の価値は、ユーザー数の二乗に比例する」と覚えておけば問題ありません。
接続可能な総数の計算
接続可能な総数については、
- ネットワーク上の一意の接続数 = (n(n-1))/2
という公式で表されます。「n」は「ノード」の数で、接続する端末の数です。
ここでは「ネットワーク上の一意の接続数」が、ネットワーク接続の価値や効用として考えます。
記事の前半で挙げた、直接的ネットワーク効果の電話網の例をもう一度計算してみましょう。

電話が4台、つまりノードが4つある場合は、n = 4です。
- (4×(4-1))÷2 = 6
という計算になるので、接続数は6です。
そして電話が8台、つまりノードが8つある場合は、n = 8で、
- (8×(8-1))÷2 = 28
という計算になるので、接続数は28です。
ノードが増える以上に、接続数が大幅に増加することがわかりますね。
バンドワゴン効果とスノッブ効果
ネットワーク効果で覚えておきたい特殊な効果に、
- バンドワゴン効果(bandwagon effect)
- スノッブ効果(snob effect)
というものがあります。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果は、アメリカの経済学者であるハーヴェイ・ラベンシュタイン教授 の1950年の論文「Bandwagon, Snob and Veblen Effects in the Theory of Consumers’ Demand (消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、及びヴェブレン効果)」に登場した経済学の用語で、
- 財を消費する人が多いほど、その財を消費することへの意欲が高まる効果
のことで、言い換えれば、
- 人気が出れば出るほど、自分も欲しくなってしまう状態
のことです。
ここで注意したいのは、ネットワーク効果においてバンドワゴン効果が現れる場合と、そうでない場合があるということです。
例えば、
- 魅力的な店舗が多いショッピングモールを頻繁に利用する
というのはネットワーク効果で、
- 最近周りで話題になっているショッピングモールに自分も行ってみたい
というのがネットワーク効果による利用者の増加で引き起こされたバンドワゴン効果です。
前者のようにネットワーク効果が働いて来場者数が増えていたとしても、後者のように必ずしも話題になるわけではありません。
このようにバンドワゴン効果が働かないネットワーク効果も存在するので、注意が必要です。
スノッブ効果
スノッブ効果は、
- 財を消費する人が少ないほど、その財を消費することへの効用が高まる効果
のことで、
- レアな商品ほど、欲しくなってしまう状態
のことです。
「世界に1つしかない」とか「数量限定」とか「オーダーメイド」とか、数が少ないほど価値や効用が高まるのがスノッブ効果です。
負のネットワーク効果(外部性)
負のネットワーク効果(negative network externalities)とは、ネットワーク効果によって加速度的に増加するデメリットのことです。
例えば、インターネット上のサービスでは、ネットワーク効果が働いて利用者が急増したことで、サーバーへの負担が急速に増加して、サーバーダウンなどを引き起こす可能性が高まります。
また、人気のショッピングモールでは、ネットワーク効果によって来場者が増えすぎると、店舗トラブルや、クレーム、迷子、窃盗などが急速に増加します。
このように、ネットワーク効果が悪い側面にも現れてしまう状態を、負のネットワーク効果と呼びます。
負のネットワーク効果が強く働きすぎると、本来のネットワーク効果によって高まった価値や効用を下げてしまうことがあり、ネットワーク効果のサイクルを急減速させることもあります。
ビジネスをうまく成長させるためには、負のネットワーク効果を事前に見越して、先手を打って対応していくことが重要になります。
ネットワーク効果(外部性)まとめ
ここまでネットワーク効果について解説しました。
まず大きく、
- 直接的ネットワーク効果
- 間接的ネットワーク効果
に分けることができるのがポイントです。
また、
- マルチホーミングコスト
- クリティカルマス(またはティッピングポイント)
- バンドワゴン効果
- 負のネットワーク効果
なども抑えておきたい概念です。
ネットワーク効果は事業の継続的な成長に不可欠なメカニズムです。
みなさんのビジネスのどの部分にネットワーク効果があるのか、あるいはネットワーク効果を組み込むためにはどのようにビジネスモデルを変えれば良いのか、考えてみても面白いかもしれませんね。

