マクドナルドで、セットを1つ買ったとします。そのお金は、どこへ行くでしょうか。
アメリカのマクドナルド、マクドナルド・コーポレーションの話をします。世界にある店舗の95%以上は加盟店が経営していて、払った代金はまずその加盟店の売上になります。本部が受け取るのは、そこから加盟店が払うお金です。
では、加盟店は本部に何を払っているのか。看板を使う権利の代金だろう、と思われるかもしれません。それもあります。ただ、いちばん大きいのは家賃です。 本部が加盟店から受け取る収入のうち、6割以上が店舗の土地建物の賃料です(2025年12月期のForm 10-K)。
ハンバーガーの会社が、不動産管理をしている。しかも副業ではなく、そちらが稼ぎ頭になっている。
この会社は、何でできているのか。1つの構造式にすると、こうなります。

初見の方は、読み方がわからないはず。でも、この記事を読み終えるころには、この図に何が書いてあるのか、そしてこの会社がどこで利益を出すようになったのかが分かります。
この図を、これから一緒に組み立てていきます。
ビジネスモデル構造式とは?
ビジネスモデル構造式は、事業が価値を生んでいるやり方をいくつかの元素に分けて、その組み合わせを1つの式で書き表す記法です。化学の構造式から発想を借りています。
元素は3つだけです。人や組織をつないで出会いや取引の場をつくる働きが接続元素(Nt)。材料や労力を受け取って、製品やサービスに変えて届ける働きが変換元素(Ch)。相手ごとに違う問題を見つけて解く働きが解決元素(Sh)。この3つを バリューエレメント(価値元素) と呼んでいます。
この書き方の土台は、1998年の経営学の論文です。スタベルとフェルスタッドという2人の研究者が、製造業を前提にしたバリューチェーン(価値連鎖)だけでは、病院も銀行も電話会社も説明できないと指摘し、バリューチェーン、バリューショップ、バリューネットワークという3つの型を示しました。元素の記号は、この3つの英語名 Chain・Shop・Network から2文字ずつ借りたものです。 筆者が変えたのは一点だけで、型として会社を分類するのをやめ、元素として組み合わせを書くことにしました。
最初の元素:ハンバーガーを売る直営店
まず、フランチャイズが始まる前の、直営店から見ていきます。
ハンバーガーの材料を仕入れて、ハンバーガーを作って、顧客に手渡す。受け取ったものを別の形に変えて届けているので、変換元素(Ch)です。

Ch が変換元素です。右上の「顧客」は、お金を払っている相手を表しています。名前を添えるのは、価値を受け取る人のうち、実際に対価を払う人だけです。
変換元素(Ch)には規模の経済が効きます。たくさん作るほど1個あたりの費用が下がる。マクドナルドが調理を徹底して標準化したのは、この働きを引き出すためです。
2つ目の元素:売り手と買い手をつなぐフランチャイズ
店舗を増やしたい。ところが、自分で土地を買って建物を建てて人を雇うとなると、資金がいくらあっても足りません。そこで、看板と製法と仕入れの仕組みを他人に使わせて、代わりにお金をもらうことにしました。フランチャイズです。
これは、ハンバーガーを売りたい人と、買いたい人をつなぐ仕組みです。だから接続元素(Nt)になります。
つなぐやり方はいろいろあります。売りたい人が自分のブランドで看板を出して、自分で顧客を見つけてもいい。マクドナルドがやったのは、看板も商品もオペレーションも全部貸して、宣伝までまとめて引き受けるというやり方でした。それがフランチャイズです。
つないでいるのは売り手と買い手の両側です。ただし本部にお金を払うのは加盟店で、顧客が払う相手は加盟店になります。だから元素記号の右側に記載するのは「加盟店」だけです。
接続元素(Nt)に効くのはネットワーク効果です。参加する人が増えるほど、その場所の価値が上がる。マクドナルドの場合、加盟店が増えて店舗が増えるほど、顧客にとってはどこの街でも同じものが同じ値段で食べられるという価値が上がります。そして顧客が増えるほど、お店を出したい人にとっては加盟する価値が上がる。買う人と売る人が、互いに互いを集めます。
この2つの元素を結合させてみましょう。

線が3本引いてあります。 結合の強さは1本から4本まであって、多いほど強く噛み合っています。
この強さは4つの問いで決まります。 片方を取り除いて、もう片方がどうなるかを見る。事業の伸びが鈍るか。あるいは、回らなくなるか。これを両方向で問うので合計4つになります。
直営店とフランチャイズの双方で、4つの問いを当ててみましょう。
- 直営店を取り除いたら、貸すオペレーションそのものがないので、フランチャイズは始まりません。
- 直営店を取り除いたら、標準化された調理が顧客を集めなくなるので、加盟する価値が下がります。
- フランチャイズを取り除いたら、店舗が増えないので、直営店の伸びは鈍ります。
- フランチャイズを取り除いても、直営店は自前で仕入れて自前で売れるので、問題ありません。
当てはまったのは3つ。だから線は3本です。当てはまった数が、そのまま線の本数になります。
3つ目の元素:本部に初めて利益が出た不動産
ここまでで、看板を貸してロイヤリティをもらう会社ができました。ところが、本部には利益が残っていませんでした。
受け取っていたのは、加盟店の売上のわずかな割合だけでした。当時のフランチャイズには、加盟料を高く取り、備品や食材を高値で売りつけて儲ける本部もありました。創業者のクロックはそれを利益相反だと考えて、全部やめています。仕入れは加盟店が卸と直接やり、本部はマージンを抜かない。 加盟店にきちんと利益が出るように設計した結果、本部に残るものがなくなっていました。
そこで財務担当のソネボーンが探したのが、加盟料を上げず、仕入れで中抜きもせずに、本部が利益を出す方法でした。答えが不動産です。本部が先に土地と建物を押さえて、それを加盟店に貸す。
これは加盟店にとっても助かる話でした。当時、店を1つ出すには土地と建物にまとまったお金がかかります。用意できる人は多くないし、銀行から借りるのも難しい相手です。本部の困りごとを解いた手が、加盟店の壁も同時に取り除いたわけです。
土地を仕入れ、建物を建て、すぐ営業できる店舗という形にして加盟店に貸す。受け取ったものを別の形に変えて届けているので、これも変換元素(Ch)です。
直営店も不動産も、同じ Ch です。
直営店は、ハンバーガーの材料を仕入れ、調理して、ハンバーガーを渡す。不動産は、土地と建物を仕入れ、マクドナルドの店として使える形に整えて、加盟店に貸す。受け取って、手を加えて、渡す。 この流れが同じだから、同じ記号になります。
業種で見れば飲食と不動産で、同じビジネスとして分類されることはありません。しかし構造式は業種に依存しない。だから同じ価値元素として解釈されます。

フランチャイズと不動産のあいだも、同じ4つの問いを当ててみます。
- 不動産を取り除いても、土地と建物を自分で用意できる人は加盟するので、フランチャイズは止まりません。
- 不動産を取り除いたら、資金を用意できる人しか加盟できなくなるので、フランチャイズの伸びは鈍ります。
- フランチャイズを取り除いたら、店舗が増えないので、不動産の伸びは鈍ります。
- フランチャイズを取り除いたら、貸す相手がいなくなるので、不動産は回らなくなります。
ここでも当てはまったのは3つ。だから3本です。
ここで、名前の位置に注目してください。「加盟店」が、右上ではなく右下にあります。 右上に添えるか右下に添えるかで、スイッチングコストの大きさを表しています。
ハンバーガーを買う顧客は、好きなときに好きな店へ行けます。乗り換えるのに何の手間もかからない。だから右上です。
加盟店のほうは、看板を返すだけでは済みません。多くの加盟店は土地も建物も本部から借りているので、フランチャイズをやめると店ごとなくなります。 同じ場所で看板だけ替えて商売を続けることができず、立地も設備も一から取り直しになる。この面倒を避けるためにマクドナルドの加盟店で居続けること。これがロックインです。
だから不動産は右下。同じ加盟店が、フランチャイズの側では右上で、不動産の側では右下になっているのは、スイッチングコストを生んでいるのが不動産のほうだからです。
そしてもう1つ、書き足すものがあります。利益の額がいちばん大きい支払者の、名前の直前に印を付ける決まりがあって、それが * です。
不動産を始める前、この印はどこにも付きませんでした。利益が出ていないので、付けようがない。

不動産を始めたあと、印は不動産側のChの「加盟店」の前に付きます。

ただし、すぐそうなったわけではありません。家賃の決め方は「最低額か、売上の一定率か、高いほう」でした。店の売上が伸びて歩合のほうが上回るまで、不動産の利益は薄いままです。効いてきたのは、店舗が増えて売上が伸びてからでした。
印がひとつ付いただけです。 ただこれは、この会社に利益が出るようになった、ということです。いまでは本部が加盟店から受け取る収入のうち6割以上が家賃で、フランチャイズ事業の利益にいたっては、その9割ほどが不動産から出ていると言われています(ジョン・F・ラブ著/徳岡孝夫訳『マクドナルド わが豊饒の人材』ダイヤモンド社、1987年)。
ここで、構造式の形をもう一度見てください。売り手と買い手をつないでいるのは真ん中のフランチャイズで、印が付いているのは端の不動産です。 価値が生まれている場所と、利益を取り出している場所が、別の位置にあります。
なお、構造式は大きさを表しません。 元素の並び順にも、規模の順という意味はない。大きさについて構造式が言うのは、この印1つだけです。
このマクドナルドの話は、書籍『ビジネスモデル進化論』にも収録しています。
飲食業か不動産業かという問いの立て方
さて、最初の話に戻ります。
ハンバーガーの会社が不動産管理をしている、と聞くと違和感を感じます。飲食業なのか不動産業なのか、どっちなんだろうか、と。
ただ、部分だけを切り取って業種に当てはめようとするから、違和感を感じるのです。 図にすると、3つの価値元素が順につながっているだけです。直営店で顧客に売る。その仕組みを加盟店に貸す。その加盟店に店舗を貸す。どれか一つを選ぶ必要がありません。
業種を当てはめるのをやめると、問いは置き換わります。何と何の価値元素が結合しているのか。印がどこに付いているのか。 この2つなら、図を見れば答えられます。
もう一つ、ソネボーンの打ち手が面白いと思うのは、本部の困りごとを解こうとして、加盟店の壁まで取り除いたことです。ふつう、本部が利益を増やそうとすれば加盟料を上げるか、仕入れで中抜きすることになります。どちらも加盟店の取り分を削る手です。ソネボーンが選んだのは、加盟店が入ってこられない理由のほうを引き受けて、そこから利益を取るやり方でした。取り分の奪い合いにしなかったから、両方が成り立ちました。
これは構造式にも出ています。加盟店が、元素記号の右上と右下の両方に現れている。 同じ相手から、性質の違う2つの対価を受け取っているということです。
そしてこの構造式には、解決元素(Sh)が出てきません。 相手ごとに変えることをやめ切ったのが、この会社が選んだやり方だからです。3つのうち使わない元素があってもよく、使わなかったこと自体が、その会社の形を語ります。
構造式でわかること・わからないこと
有名な会社に限った話ではありません。経営のご相談を受けるときも、まず同じことをします。その会社が何で価値を生んでいるのかを3つに分けて、組み合わせを書く。
飲食と不動産が同じ Ch になったように、思っていたのとは違う場所に元素が立つことがあります。
ここで、ひとつ言っておかなければならないことがあります。構造式は、良し悪しを判定しません。
同じ形でも、その会社が何を大切にしていて、どこへ行こうとしているかで、評価はまるきり逆になります。強みに見えることもあれば、変えるべき場所に見えることもある。構造式が言えるのは、切り取った時点でどうなっているか、までです。
だから、この構造式は外から眺めているだけでは完成しません。どこへ行くのかを持っているのは、経営者ご自身だけだからです。
ご自身の事業を書いてみたい方とは、一緒に組み立てるところからお手伝いできます。
よくある質問
ビジネスモデル構造式とは何ですか。
事業が価値を生んでいるやり方をいくつかの元素に分け、その組み合わせを1つの式に書き表す記法です。化学の構造式の発想を借りています。会社を業種で分類するのと違い、複数の生み方を同時に持っている会社を、そのまま書けます。
バリューエレメント(価値元素)とは何ですか。
構造式を組み立てる部品です。接続元素(つなぐ)、変換元素(変える)、解決元素(解く)の3つがあり、記号では Nt、Ch、Sh と書きます。実在の会社は、たいてい複数の元素を組み合わせて動いています。
なぜ3つなのですか。4つ目はないのですか。
根拠はビジネスの側ではなく、人が一緒に働くときのつながり方の側にあります。組織を研究したトンプソンという学者が1967年に整理したところによると、複数の人が協力して仕事をするときの依存の仕方は3つに分かれます。同じ土台を共有してそれぞれ独立に働く、前の人の仕事を受け取って次へ渡す、互いにやり取りを往復させながら進める。そしてこれ以上は分解できないとされています。 順に接続、変換、解決に対応します。将来AIが人とは異なる協働の形を持てば、4つ目が要る可能性はあります。
元素と元素をつなぐ線の本数は何を表していますか。
結合の強さです。4段階あり、線が多いほど強く噛み合っています。片方をなくしたときに、もう片方の伸びが鈍るか、もう片方が回らなくなるか。これを両方向で問うので4つになり、当てはまった数が本数になります。「あったほうが良いか」ではなく「なくしたらどうなるか」で問うのが決まりです。
記号の右上と右下、それと * は何ですか。
支払者の名前を右上に添えるか右下に添えるかで、その人が他へ移るのにかかる負担の大きさを表します。負担が小さいなら右上、大きいなら右下。マクドナルドの顧客は明日から別の店舗に行けるので右上、加盟店は本部から店舗を借りているので右下になります。* は、いちばん利益を生んでいる場所に付ける印です。
自分の会社でも書けますか。
元素は3つしかないので、簡単そうに見えます。ところが、たいていは最初の元素を決めるところでつまずきます。
同じ業種の中に、3つのどれもが存在するからです。飲食店だから変換だろう、仕入れて調理して売るのだから工場と同じだ。そう決めてしまいがちですが、常連ごとに出すものを変えている店は解決に近いですし、人が集まる場そのものが価値になっている店は接続の要素を持っています。業種から元素を当てにいくと外します。
結合を決めるところも同じくらい難しく、同じ会社の中に2つの事業があるだけでは結合とは言えません。片方を取り除いたときに、もう片方が回らなくなるか、伸びが鈍るか。そこを一つずつ確かめていきます。
参考・出典
- マクドナルド・コーポレーション「Form 10-K(2025年12月期)」……本部が加盟店から受け取る収入の内訳
- ジョン・F・ラブ著/徳岡孝夫訳『マクドナルド わが豊饒の人材』ダイヤモンド社、1987年(原著 John F. Love, McDonald’s: Behind the Arches, 1986年)https://www.amazon.co.jp/dp/4478320136 ……本部が利益を出せていなかったこと/家賃の決め方/不動産が利益の9割
同じ会社を、別のフレームワークで読み解いた記事もあります。要素と要素を線でつないで、事業が何によって回り続けているのかを見るビジネスモデル回路図です。構造式は何と何でできているかを1つの式に圧縮し、回路図は何が何を動かしているかを一枚の図に展開します。

