いまや、知らない人はいないほどの大きな会社になったAmazon。品揃えが良く、比較的安く買えることは、みなさんもご存じのとおりだと思います。その品揃えをよく見ると、Amazon自身ではなく、別の業者が販売している商品がかなり混ざっています。
これはAmazonマーケットプレイスという仕組みがあるから。第三者が、Amazonの仕組みを使って商品を販売できる、いわば売り場の開放です。第三者に売り場を貸す試みそのものは1999年のオークションやzShopsから始まっていて、2000年11月のマーケットプレイスはその延長線上にあります。ただし決定的に違ったのは、出品者の商品を、Amazon自身が在庫を売っているのとまったく同じ商品ページに並べたことでした。いまでは当たり前になっていますが、当時のAmazon社内では賛否が割れ、社外からも批判があったと、のちに振り返られています。
その批判も理解できます。ネットショップは、たくさん投資をして集客をします。そうやってせっかく集めた顧客なのだから、基本的には自分たちで仕入れて、自分たちで売ればいい。「全部独り占めすれば、それだけ利益がたくさん生まれるのに、なぜ他人に物を売らせるのか?」という視点です。
ところが、一枚の図に描いてみると、話はまったく逆でした。

図を描いて分かったのは、この会社の中では、まったく別の種類の2つのビジネスモデルが、同じ要素でつながって、互いを押し上げているということでした。
その図を、これから一緒にたどってみます。
ビジネスモデル回路図とは?
ビジネスモデル回路図は、事業を動かしている要素を書き出して、その間の因果を線で結んだ図です。システム思考で使われる「因果ループ図」を、ビジネスモデルの読み解きに使っています。
線は2種類だけ。実線は、元にあるものが増えると、先にあるものも増える関係。破線は、その逆で、元が増えると先が減る関係を表します。

要素と要素の関係を一つずつたどっていくと、事業がどう回っているのかが見えてきます。 ここが増えるとあそこが増える、ここが増えるとあそこは減る。線を追っているうちに、ぐるりと一周して元の場所に戻ってくることがあります。それがループです。ループが見つかると、その事業が何によって回り続けているのかが分かります。
この図の原点は、慶應義塾大学のビジネススクールで書いた筆者の修士論文です。社会人向け教育サービスの仕組みを因果ループ図で可視化したのが最初で、以来ずっと、様々なビジネスを図に落とす作業を続けてきました。
1つ目のループ:仕入れて売る小売
まず、マーケットプレイスが登場する前の、Amazonの土台の部分から見ていきます。

Amazonは、もともと小売業です。物を仕入れて売る。広告宣伝をすると、新規顧客が来て、サイトの訪問者数が増えます。訪問者数が増えれば、その分だけ物を買ってもらえます。売れたお金で、また仕入れる。仕入れるためには、営業活動をして取引先を増やし、在庫量を増やしていきます。
ベゾスが顧客体験を決める要素として繰り返し挙げたのは、配送時間・商品価格・品揃えの3つでした。上の図にもこの3つが並んでいます。このうち、ここで注目してもらいたいのが、商品価格と品揃えです。
まず商品価格。扱う量が増えるほど、仕入れの交渉力は強くなります。実際のAmazonも、創業当初は卸売業者に頼っていましたが、自前の物流拠点を増やし、出版社から直接仕入れる比率を上げることで、仕入コストを下げていきました。仕入れが安くなれば、その分だけ安く売れる。安く売れば、みんな買ってくれます。
もう一つが品揃え。ネットで物を売るときは、売り場の物理的な制約がなくなります(ただし、在庫の制約は変わりません)。棚の数に縛られないぶん、扱える種類を増やしやすい。品揃えがあればあるほど、顧客は欲しいものを見つけやすくなります。
商品価格が下がり、品揃えが良くなれば、買ってくれた人は良い顧客体験をします。Amazonへの印象が良くなって、また買いに来てくれる。すると訪問者数が増え、また売れて、また仕入れる。ぐるぐると回っていきます。
先ほどの回路図で、この一周を目で追ってみてください。仕入が増える、価格が下がる、顧客体験が良くなる、訪問者数が増える、また売れる、また仕入れる。それ自体で閉じた輪になっています。 一度回り始めると、回るほどに強くなる。こういう、回るほど強くなる輪を、システム思考では「自己強化型ループ」と呼びます。
2つ目のループ:売り場を開放したマーケットプレイス
ここに、ベゾスはもう一つ別のループを追加しました。それが、さきほどのマーケットプレイスです。

Amazonの小売の仕組みを、第三者にも開放して、出品できるようにする。なぜそんなことをしたのか。答えは、さっきの2つに戻ります。出品者を引き入れることが、商品価格と品揃えの両方を、一度に改善してくれる一手だったからです。
まず、出品者はどうやって増えるのか。Amazonにはもう、たくさんの顧客が来ていました。物を売りたい人にとって、人がたくさん集まる場所は魅力的です。その魅力を感じて、出品したいという人が出てきます。
出品者数が増えると、まず品揃えが良くなります。自分で仕入れなくても、Amazonの売り場に商品が並ぶわけです。しかも、同じ商品を複数の出品者が売ろうとすれば、価格競争が起きて、商品価格も抑えられます。その結果、品揃えが良くなり、商品価格も下がる。利用者はさらに良い顧客体験をして、また買いに来る。その評判を聞きつけて、新規顧客も来ます。訪問者数が増えれば、それがまた新しい出品者を引き寄せる。
これも、それ自体で閉じたループです。 出品者数が増えると訪問者数が増え、訪問者数が増えると出品者数が増える。上の回路図には、回るほど強くなるループが2つ描かれていることになります。
合流点:規模の経済とネットワーク効果が出会う場所
ここからが、この図でいちばんの見どころです。
いま描いた2つのループは、まったく別の原理で回っています。
一つ目、小売のループを回しているのは規模の経済です。たくさん扱うほど1個あたりのコストが下がって、効率が上がる。工場でも小売でも昔から働いている、仕入れて付加価値をつけて売るビジネスを加速させる原理です。
二つ目、マーケットプレイスのループを回しているのはネットワーク効果です。参加する人が増えるほど、その場所の価値が上がる。出品者と訪問者という2つの側が互いを増やし合う、「両面市場」と呼ばれる形をしています。電話網や取引所の世界の原理で、物を仕入れて売る話とは本来まったく関係がありません。
教科書では、この2つは別々の文脈で説明されます。規模の経済は製造業や小売業を説明するときの言葉で、ネットワーク効果はプラットフォームなどを説明するときの言葉。違う種類のビジネスを説明するための、別々の考え方です。
ところがAmazonの図では、この2つの強力な成長メカニズムが、同じ2つの要素を共有しているのです。

上の回路図を見てください。左から伸びてきた線と、右から伸びてきた線が、商品価格と品揃えという同じ2つの要素に集まっています。
規模の経済は、「扱う量が増える → 仕入れの交渉力が強くなる → 仕入値が下がる」という経路で、商品価格を押し下げます。ネットワーク効果は、「出品者数が増える → 同じ商品で競争が起きる」という別の経路で、やはり商品価格を押し下げます。
品揃えも同じです。規模の経済の側からは、自分で仕入れる種類が増えることで。ネットワーク効果の側からは、他人が持ってきた商品が並ぶことで。別々のループから来た2本の線が、同じ1つの要素を押し上げている。
そして商品価格と品揃えが良くなると、顧客体験が良くなり、訪問者数が増える。訪問者数が増えると、2つのループが両方とも加速します。 片方を回すと、もう片方も速くなる。互いに互いを強くしながら、同時に回る。
ただし、同じ場所で合流するということは、同じ場所でぶつかるということでもあります。出品者の商品が同じページに並べば、Amazonが自分で仕入れた在庫は、そこで売れにくくなる。取扱量が減れば仕入れの交渉力も弱くなって、1つ目のループが弱まります。2つのループは、同じ要素を押し上げ合いながら、その同じ要素で競争している。 社内で賛否が割れたのは、ここが理由だと想像します。
ここで、はじめに触れた3つ目を思い出してください。配送時間です。この要素だけは、合流点に入っていません。 出品者が増えても、その人たちが自分で梱包して自分で送るのだから、届くのが速くなるわけではない。むしろ、Amazonが自社で送るときほど速くない荷物が混ざります。3つの要素のうち、マーケットプレイスが同時に改善してくれるのは2つだけで、残る1つは自分で物流に投資して縮めるしかない。のちにAmazonは、出品者の商品を自社の倉庫で預かって発送する仕組みを用意しました。これは、抜けた1本を埋める動きとして読めます。
文章で「規模の経済とネットワーク効果が両方働いています」と書いても、伝わりにくいかもしれません。2本の線が同じ要素につながっているのを目で見ると、腹落ちしやすい。
売り場の開放という一見不利な選択
さて、最初の話に戻ります。
せっかく集めた顧客を、赤の他人に開放するなんて、と当時の人が思ったのは、よく分かります。たとえば、すごく繁盛するお店を街に開いたとします。お客さんがどんどんそのお店を好きになって、通ってくれる。そこに、よその業者を呼び込んで、自分の店の棚を貸してあげる。しかも別の売り場を用意するのではなく、自分たちが仕入れた商品と同じ棚に、その業者の商品を並べさせる。ふつうは、そんなことはしません。棚に置くのは全部自分たちで仕入れた商品にしたい、と思うはずです。
部分的に切り取って見れば、たしかに違和感のある打ち手に見えます。でも、図にして全体のつながりを見ると、それがプラスに働くことが視覚的に分かる。 疑問視されたのは、1つ目のループだけを見たときの話です。自分で仕入れて自分で売る輪の中に、他人を入れる話に見える。ループが2つあって、その2つが同じ要素でつながっていると分かった瞬間に、話がひっくり返ります。
もう一つ、ベゾスの目の付け所が素晴らしいと思うのは、売上でも利益でもなく、顧客が感じる価値のほうを軸に置いたことです。ふつう、目が行きがちなのは、いくら売ったか、売上や個数、あるいはいくら利益を出したか、という数字です。会社の業績に直結しますから。でもベゾスは、そこではなく、商品価格・品揃え・配送時間を見た。そしてそのうちの2つが、結果としてまったく別の2つの原理の合流点になりました。
回路図でわかること・わからないこと
このように、よく知っているビジネスでも、図にして読み解くと、仕組みが腹落ちします。
これは、有名企業に限った話ではありません。経営のご相談を受けるときも、その会社の事業を同じように分解して、どこで価値が生まれ、何と何がつながっているかを図にします。すると、力を入れている活動が結局どこに効いているのかが見えてきます。経営者ご自身が、自分の事業の大事な部分に気づくことができます。描いた図は人に伝えるのにも向いていて、従業員や取引先に、いま何が要所なのかを共有しやすくなります。

ただ、ひとつお伝えしておきたいことがあります。図を描くだけでは、良いか悪いかの判断はできません。
同じ図を見ても、評価は会社によって正反対になります。何を大切にしている会社なのか。どこへ向かおうとしているのか。それによって、同じつながりが強みにも見えるし、直すべきところにも見える。図が教えてくれるのは、いま何がどうつながっているか、そこまでです。
だからこの図は、一人では描き切れません。どこへ向かうのかを持っているのは、経営者ご自身だけだからです。
実在の企業の事業を図解して解説した記事も公開しています。同じように、部分だけを見ると妙に見えるのに、全体をつなぐと筋が通る事業が、いくつも出てきます。
ご自身の事業を図にしてみたい方とは、一緒に描くところからお手伝いいたします。
よくある質問
ビジネスモデル回路図とは何ですか。
事業を動かしている要素を書き出し、その間の因果を線で結んで、価値が生まれて巡る様子を一枚の図にする方法です。線は2種類あり、実線は「元が増えると先も増える」関係、破線は「元が増えると先は減る」関係を表します。
因果ループ図と何が違うのですか。
因果ループ図は、システム思考で使われる一般的な作図法です。ビジネスモデル回路図は、それを事業の読み解きに絞って使えるよう、どの要素を書き出すか、どう読むかを整えたものです。土台は同じです。
図を読むと、何が分かるのですか。
その事業が何によって回り続けているのか、どのループが効いているのか、そしてループとループがどこでつながっているのかが分かります。Amazonの例でいえば、規模の経済とネットワーク効果という別々の原理が、商品価格と品揃えという同じ要素で合流していることです。個々の施策を並べて眺めているだけでは、この合流点は見えません。
自分の会社でも描けますか。
線は2種類だけですが、それだけで描き始められるわけではありません。線を2本渡されて、まず何から書くのか、というところで止まります。
要素そのものは、そんなに数がありません。事業の主要な活動は、経営者の頭にだいたい入っているものです。書き出せば、浮かんだものから順に並んでいきます。難しいのはその先で、どれとどれがつながっているのかを見つけるところです。この活動は何のためにやっているのか。どちらが先で、どちらが後か。増えると増えるのか、増えると減るのか。ふだん意識することのない見方ですし、そもそも関係のない要素も混ざっています。粗く描けば粗くつながる、というものでもありません。
なので、白紙から描くのはお勧めしません。同じような業種の作例を見つけて、そこに出てくる要素を自分の会社のものに置き換えていく。 要らないものを引いて、足りないものを足す。これがいちばん入りやすいやり方だと思います。
参考・出典
- Amazonマーケットプレイスは2000年11月に開始(第三者が、Amazonの商品ページと同じ場所で出品できる仕組み)。Amazon公式プレスリリース(2001年3月) https://press.aboutamazon.com/2001/3/amazon-marketplace-a-winner-for-customers-sellers-and-industry-new-service-grows-over-200-percent-in-first-four-months
- 第三者への売り場開放は1999年3月のオークション、同年9月のzShopsが先行。Amazon公式プレスリリース(1999年9月29日) https://press.aboutamazon.com/1999/9/amazon-com-launches-three-innovations-to-advance-e-commerce-for-shoppers-sellers
- マーケットプレイス構想は社内外から疑問視されたと、のちに回顧されている。Forrester, “The Hidden Genius of Jeff Bezos”(2011年)※同時代資料ではなく11年後の回顧記事 https://www.forrester.com/blogs/11-03-07-the_hidden_genius_of_jeff_bezos/
- 顧客体験を決める要素は低価格・豊富な品揃え・速くて便利な配送の3つ。Amazon 2008年 株主宛書簡 https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/annual/Amazon_SH_Letter_2008.pdf
- 創業初期の仕入れは卸売業者に依存(1997年はIngram1社で58%)、その後は出版社からの直接仕入れを増やして仕入コストを下げた。Amazon Form 10-K(1997年12月期・1999年12月期) https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/annual/123197_10k.pdf https://s2.q4cdn.com/299287126/files/doc_financials/annual/123199_10k.pdf

