だいぞう
ハーズバーグの二要因理論とは、
- 動機付け要因(モチベーター):仕事の満足度を高める要因
- 衛生要因(ハイジーン):仕事の不満足を引き起こす要因
の2つの要因を挙げて、
- 仕事の満足と不満足を引き起こしている要因は異なっている
ことを示した理論のことで、従業員のモチベーション向上には、
- 職務充実(ジョブ・エンリッチメント)
が重要だと説いています。
仕事に対するモチベーションは、どのように生まれるのでしょうか?多くの人が「高い給料」や「快適なオフィス環境」を思い浮かべるかもしれませんが、実はそれだけではありません。
1950年代から1960年代にかけて、心理学者のフレデリック・ハーズバーグ教授らがこの疑問に取り組み、理論としてまとめました。ハーズバーグの研究によると、仕事の満足感を生み出す要因と、不満を引き起こす要因は全く異なるものだというのです。
この内容は、1959年に下記の論文として発表されました。
- Herzberg, F., Mausner, B., & Snyderman, B. B. (1959). The Motivation to Work. New York: John Wiley & Sons.
こちらはハーズバーグ氏をはじめとして、バーナード・マウスナー氏、バーバラ・スナイダーマン氏のの3人が共著で発表した、160ページ以上に及ぶ長めの論文です。
また、1978年にはハーバード・ビジネス・レビュー誌に下記の内容でハーズバーグ氏が二要因理論について論文を寄せています(リンク先は2003年にHBRに再掲されたもの)。
参考
One More Time: How Do You Motivate Employees? by Frederick HerzbergHarvard Business Review
ということで今回は、ハーズバーグの二要因理論をハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事などをベースに、具体例を交えながらわかりやすく図解します。「職務拡大(ジョブ・エンラージメント、Job Enlargement)」と「職務充実(ジョブ・エンリッチメント、Job Enrichment)」の違いについても解説します。
ハーズバーグの二要因理論とは?
ハーズバーグの二要因理論(Two-factor theory、読み方:によういんりろん)は、仕事の満足度と不満足度を引き起こす要因が異なることを示しています。簡単に言うと、仕事に満足する要因と不満足になる要因は別物だということです。
例えば、仕事に不満を感じる理由としては、上司が厳しい、給料が低い、職場環境が悪いなどが挙げられます。これらは「衛生要因(Hygiene、ハイジーン)」と呼ばれ、うまく管理されていないと人々を不満にさせますが、逆にうまく管理されていても、特にモチベーションを高めるわけではありません。
一方で、仕事に満足を感じる理由としては、興味深い仕事、挑戦的な課題、責任の増加などがあります。これらは「動機付け要因(Motivator、モチベーター)」と呼ばれ、人々の成長や達成感を満たすものです。
これらの2つの要因については、後ほどわかりやすく解説します。
ちなみにハーズバーグの二要因理論は、1950年代に発表された古い論文なので、その後に問題点や理論の限界などが多く指摘されています。また、時代背景も現在とは大きく異なります。
そのため、内容をすべて鵜呑みにせずに、最新のモチベーション理論と組み合わせながら応用するようにしてください。
ハーズバーグが研究を行った背景
ハーズバーグがこの理論を提唱するに至った背景には、彼自身の職場での経験や観察が大きく影響しています。彼は、職場での満足度や不満足度がどのように生じるのかを理解するために、多くのインタビューや調査を行いました。
その結果、「衛生要因(Hygiene、ハイジーン)」と「動機付け要因(Motivator、モチベーター)」という二つの異なる要因が存在することを発見しました。
これにより、企業や組織が従業員のモチベーションを高めるためには、単に給料を上げたり、職場環境を改善するだけでは不十分であることが明らかになりました。むしろ、従業員が成長や達成感を感じられるような仕事を提供することが重要だと示されたのです。
従業員の尻を蹴ってもモチベーションは生まれない
ハーズバーグの二要因理論の論文を読んでいて、強烈に印象に残るのが「KITA(Kick In The Ass、尻を蹴る)」という表現です。
3つのKITA(尻を蹴る)的手法
KITA(Kick In The Ass)には、
- ネガティブな身体的KITA:文字通り、物理的に相手を蹴ったり叩いたりする行為。(暴行罪や傷害罪などの犯罪行為です。)
- ネガティブな精神的KITA:言葉や態度で相手を精神的に追い詰める行為。(現代ではモラハラやパワハラに該当します。)
- ポジティブKITA:報酬や昇進といった見返りを与えることで、相手を意のままに操ろうとする行為。
の3つの種類があります。
当時(1950年代)の企業では当たり前に行われていた「人を動かす」ための、肉体的な暴力、言葉の暴力、金銭的な報酬などを挙げて、ハーズバーグは「KITA」と呼んで批判しています。(現代でも、そのような方法で従業員を動かそうとする経営者が少なからず存在します。)
KITA(Kick In The Ass)が抱える問題
ハーズバーグは、ポジティブKITAは「誘惑」であり、ネガティブKITAは「強制」であると指摘しています。(ちなみに論文の文中では、ここに書けないようなもっと過激な言葉を使っています。)
いずれも、相手の行動を一時的にコントロールするだけであり、真のモチベーションには繋がりません。KITAが効果的でない理由は、それが外的要因に過ぎないからです。
例えば、犬に「おやつ」を見せて言うことを聞かせる場合、犬は「おやつ」が欲しいだけであり、自ら進んで行動しているわけではありません。
同様に、KITAによって一時的に従業員を動かせたとしても、それはあくまで外的要因によるものであり、内発的なモチベーションが高まったわけではありません。
では、どのような要素がモチベーションの向上に関係しているのでしょうか?
次のページからは「動機付け要因(Motivator、モチベーター)」と「衛生要因(Hygiene、ハイジーン)」について詳しく説明します。