職務拡大と職務充実の違いとは?
ハーズバーグは、従業員のモチベーションを高めるには、仕事の内容を充実させる「職務充実(ジョブ・エンリッチメント、Job Enrichment)」が重要だと主張しています。
この考え方を理解するために、まず「職務拡大(ジョブ・エンラージメント、Job Enlargement)」と「職務充実(ジョブ・エンリッチメント、Job Enrichment)」の違いを見ていきましょう。
効果の無い職務拡大(ジョブ・エンラージメント)
水平的職務拡大とは、職務の範囲を広げたり、タスクを追加したりすることですが、それはあくまでも同じレベルの仕事の追加に過ぎません。
ハーズバーグはこれを「職務拡大(ジョブ・エンラージメント、Job Enlargement)」と呼び、従業員のモチベーションを高める効果はないと述べています。
以下は職務拡大の具体例です。
- 単純作業の量を増やす(例:1日に1万個ボルトを締めているなら、2万個に増やす)
- 現状の仕事に、意味のない仕事をもう1つ追加する(例:事務作業を追加する)
- いくつかの仕事をローテーションで担当させる(例:食器洗いとフロア掃除を交互に担当させる)
- 仕事の中で最も難しい部分をなくし、より多くの簡単な仕事をこなせるようにする
これらの方法は、一見すると仕事が増えたように見えますが、従業員にとっては単調な作業が増えただけであり、モチベーションや満足度向上には繋がりません。
職務充実(ジョブ・エンリッチメント)
一方、垂直的職務充実とは、従業員の成長を促すような、より高いレベルの責任や権限を与えることによって、仕事の内容を充実させることです。
ハーズバーグはこれを「職務充実(ジョブ・エンリッチメント、Job Enrichment)」と呼び、従業員のモチベーションを高めるために重要であると述べています。
職務充実の原則として、以下の7つの項目を挙げています。
- 管理は維持したまま、一部の管理を取り除く
- 個人の仕事の責任範囲を広げる
- 自然な仕事の単位(モジュール、部門、領域など)を人に与える
- 活動における従業員の権限を拡大する。仕事の自由度を高める
- 定期的な報告を、上司ではなく、従業員自身に直接見てもらうようにする
- 以前は扱っていなかった、より困難な新しいタスクを任せる
- 個人に特定または専門的なタスクを割り当て、専門家になれるようにする
これらの原則を実践することで、従業員は自分の仕事に責任感や達成感を感じ、成長を実感することができます。
その結果、従業員のモチベーションや満足度が向上し、パフォーマンスの向上にも繋がると考えられています。
職務拡大と職務充実の違い
ここまでをまとめると、職務拡大は「仕事の量を増やす」こと、職務充実は「仕事の質を高める」ことと言えます。
従業員のモチベーションを高め、組織を活性化するためには、単に仕事の量を増やすのではなく、従業員が成長を実感できるような、やりがいのある仕事を提供することが重要なのです。
二要因理論の限界と批判
二要因理論は多くの場面で有効ですが、以下のような限界や批判も存在します。
- 個人差の存在:すべての従業員が同じ要因でモチベーションを感じるわけではありません。
- 環境要因の過小評価:職場環境が著しく悪い場合、仕事の内容だけでは十分なモチベーションを維持できない可能性があります。
- 理論の適用範囲:すべての職場や状況に当てはまるわけではないため、柔軟な対応が必要です。
- 文化的差異:異なる文化圏では、モチベーションの要因が異なる可能性があります。
これらの限界を認識しつつ、二要因理論を適切に応用することが重要です。
二要因理論のまとめ
ハーズバーグの二要因理論は、従業員のモチベーションを理解し、向上させるための重要な指針となります。この理論は、仕事の満足感と不満足感を引き起こす要因が異なることを明らかにし、効果的なモチベーション管理の基礎を提供しています。
今後の研究や実践においては、現代の多様化する職場環境に合わせて、二要因理論をさらに発展させていくことが期待されます。
特に、異なる業界や文化における適用可能性の探求や、個々の従業員のニーズに応じたモチベーション向上策の開発が重要になるでしょう。
経営者は、この理論を基に従業員の内的要因を重視し、個々のニーズに応じたモチベーション向上策を導入することが求められます。これにより、従業員の満足度と生産性の向上が期待され、組織全体の成功につながるのです。
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