MECEとは、「モレなくダブりなく」という意味の英語「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取ったものです。
読み方は「ミーシー」が一般的で、ロジカル・シンキング(論理的思考)やアイデアの切り口として、経営者やコンサルタントに必要とされる基礎的な情報整理の技術とされています。もちろん、社会人として身につけておけば、色々な場面で役立ちます。
MECEの状態を図で表すと、下図のようになります。
このモレなくダブりない状態を実現するグループ化の方法は、
- 因果関係によるグループ化
- 類似性によるグループ化
- 構造によるグループ化
の3つに分類することができます。
さらに3つ目の「構造によるグループ化」は、
- 二項対立
- 分割
- 尺度
- プロセス
- 因数分解
の5つのタイプに分けることができます。
ここでは、MECE(モレなくダブりなく)について、わかりやすく説明します。
目次
MECEとは?ロジカルシンキングの基本
MECE(ミーシー)とは、経営者やコンサルタントに求められる、情報を整理するための基礎的なテクニックのことです。
ロジカルシンキング(論理的思考)とは切っても切り離せない手法で、情報をわかりやすく分類し、順序立てて説明する時に役立ちます。
1970年代にMECEという考え方を発案したのは、世界的なコンサルティング会社「マッキンゼー社(McKinsey & Company)」のバーバラ・ミント氏です。
ミント氏は著書でMECEを、
- 個々に見て「ダブリ」がなく(Mutually Exclusive)
- 全体的に見て「モレ」がない(Collectively Exhaustive)
バーバラ・ミント著「新版 考える技術・書く技術 」第6章 p115 より引用
というように説明をしています。
この著書「新版 考える技術・書く技術(原題:The Minto Pyramid Principle、ミントのピラミッド原則)」の中で、
- ピラミッドの構造によるグループ化
を行う場面で「MECE」が登場します。
…と言われても、なんのことだかわからないと思うので簡単に説明します。
ミントのピラミッド原則
1963年、バーバラ・ミント氏は、ハーバード・ビジネス・スクールを卒業した後、初の女性コンサルタントとしてマッキンゼー社に採用されました。
そこでミント氏がぶつかった壁は、
- どうすればわかりやすい報告書が書けるのか
ということでした。
しかし、様々な書物をあさっても「論理的に書く」ことを体系化したものは見つからなかったそうです。(著書「新版 考える技術・書く技術」序文より)
そこでミント氏自身が経験に基づいて「わかりやすい報告書の書き方」を1973年に体系化したものが、先ほどご紹介した「The Minto Pyramid Principle(ミントのピラミッド原則)」という本です。
この本で説明されている論理的に書くためのピラミッド構造(ピラミッドストラクチャー)は、下図のようなものです。
ピラミッド構造は、情報整理を目的としたもので、下に向かって広がっていく形をしています。さらにピラミッド構造を問題解決のために応用した、左から右に広がる「ロジック・ツリー」も生まれました。
ピラミッド構造もロジックツリーも、項目が分岐している場所があります。この一つの「親」から複数の「子」がぶら下がっているまとまりが「グループ」になります。
このグループを作るための原則を「ミントのピラミッド原則」と呼びます。
ミントのピラミッド原則は、
- メッセージはその下位グループ群を要約していること
- 各グループ内のメッセージは常に同じ種類のものであること
- 各グループ内のメッセージは常に論理的に順序づけられていること
の3つです。
グループ化の3つの方法
先ほどのピラミッド原則を満たすようなグループ化の方法としては、
- 因果関係によるグループ化
- 類似性によるグループ化
- 構造によるグループ化
の3つの方法があるとされています。
「MECE」という考え方は、この3つのうちの「構造によるグループ化」のコツとして説明されています。
ちなみに「因果関係」と「類似性」のグループ化でMECEが語られないのは、
- 因果関係
- 全ての原因を挙げることができればモレがない
- 原因を個々のレベルに分解できればダブらない
- 類似性
- そこにあるものが全てと定義すればモレがない
- それぞれの特徴を具体的に定義できればダブらない
という理由です。
因果関係によるグループ化のイメージは、下図のようになります。
そして類似性によるグループ化のイメージは、下図のようになります。
どちらのグループ化も、ぱっと見でモレなくダブりないMECEの状態になっていることがわかると思います。
つまり材料さえきちんと揃っていれば、「因果関係」と「類似性」は自然とMECEの状態になりやすい方法なのです。(だからといって、モレやダブりが発生しないわけではありません。)
ここまでの話を整理すると、
- 情報を整理するためのピラミッド構造がある
- ピラミッド構造の要点はグループ化にある
- グループ化の方法は「因果関係」「類似性」「構造」の3つがある
- 「因果関係」「類似性」は自然とMECEになりやすい
- 「構造」はMECEを意識しないとモレやダブりが生まれやすい
ということです。
余談ですがMECEの説明として、
- トップダウン型アプローチ
- ボトムアップ型アプローチ
を挙げている方もいらっしゃいます。しかし、この2つのアプローチは「ピラミッド構造の作り方」であって、「MECEのやり方」ではありません。バーバラ・ミント著「新版 考える技術・書く技術 」では、
- 第1章 なぜピラミッド構造なのか?
- 第3章 ピラミッド構造はどうやって作るのか?
に、トップダウンとボトムアップの説明が登場しています。そしてMECEが登場するのは第6章以降です。
MECE5つの構造化のタイプ
ここからは特にMECEを意識する必要がある、「構造によるグループ化」の5つのタイプをご紹介します。
MECEの5つの構造化タイプとは、
- 二項対立
- 分割
- 尺度
- プロセス
- 因数分解
です。
ちなみにこの5つの分類は筆者独自のまとめ方で、ミント氏の理論をベースに、自身のコンサルティング経験などを踏まえて分類してみました。
二項対立
まず一番わかりやすくて一番簡単なMECEは「二項対立(にこうたいりつ)」です。
二項対立とは、「A」と「A以外のもの」という一方とその反対もので表現できる分け方です。
この「二項対立」では、
- 「それ」と「それ以外」を足し合わせるとモレがない
- 全体から特定のものを抜き出しているのでダブらない
ことでMECEが実現できます。
具体例としては、
- 売上全体の半分以上を稼ぎ出す製品 vs それ以外の製品
- 自社商品を使用したことがある消費者 vs それ以外の消費者
- 直営店がある市町村 vs 直営店のない市町村
など色々と考えられます。
分割
次は全体を3つ以上に分けるMECEで、「分割」と呼ばれるタイプです。
この「分割」では、
- 全体を分割するだけなのでモレがない
- 境界によって分割されるのでダブりがない
ため、MECEが実現できます。
具体例としては、
- 組織図
- SBU(戦略的事業単位)
- 製品X = 部品A + 部品B + 部品C
- 経営資源 = ヒト + モノ + カネ + 情報
- 売上 ー 原価 = 粗利
などが考えられます。
尺度
「尺度」と呼ばれるタイプは、要素が一本の線状に並んでいることが特徴です。
この「尺度」では、
- 区切ったものを全て挙げればモレがない
- 基準になる点の前後で要素が分かれるためダブらない
ため、MECEが実現できます。
具体例としては、
- 年齢:10代、20代、30代…など
- 温度:〜5℃、5〜15℃…など
- 年収:〜300万円、301〜500万円…など
などが考えられます。
プロセス
一連の流れや、循環するような流れで表現できるものを「プロセス」と呼びます。
この「プロセス」では、
- 工程を全て挙げることができればモレがない
- 同時に2つの工程を通ることがなければダブらない
ため、MECEが実現できます。
具体例としては、
- 組み立て工程
- PDCAサイクル
- 旅行の日程
などが考えられます。
因数分解
ここまで紹介した4つは「足し算」の式で表すことができますが、最後にご紹介するタイプは「因数分解」です。これは物事を「掛け算」で表すMECEです。
この「因数分解」では、
- 全てを掛けたものが全体になるためモレがない
- 同じものを2回掛けない限りはダブらない
ので、MECEが実現できます。
具体例としては、
- 売上 = 客数 × 客単価 × 来店頻度
- 成約率 = 問い合わせ率 × 商談率 × 受注率
などが考えられます。
MECEになっていない例
ここまではうまくMECEになっている例をご紹介しましたが、そうではない失敗してしまった例もご紹介します。
まずは顧客をMECEして失敗した例です。
- 顧客
- 学生
- 会社員
- 専業主婦(専業主夫)
このMECEは「類似性によるグループ化」が該当します。
しかし、
- 顧客全員がいずれかに分類できるならモレがない
- 複数の分類を同時に満たす顧客がいるのでダブりがある
ことになります。
例えば、
- 平日の夜に専門学校に通っている主婦
が存在していれば「学生」と「主婦」がダブってしまいます。
他にも「週末だけ大学に通う会社員」など、分類が重複してしまう組み合わせが存在しています。
この分け方を、ダブりの無いちゃんとしたMECEに直すには、すべての組み合わせを確認するしかありません。
- 学生で専業主婦(専業主夫):存在する
- 学生で会社員:存在する
- 会社員で専業主婦(専業主夫):存在しない
ということで、「会社員」「専業主婦(専業主夫)」はダブらないので残しても良いことがわかりました。
でも、今度は「会社員」でも「専業主婦(専業主夫)」でもない「学生」としか呼びようのない顧客の分類に困ります。
そういった時には、
- 残りの顧客を「その他の顧客」という分類にまとめてしまう
- 特徴に追加の条件を付ける
- 「類似性によるグループ化」をあきらめる
の、どれかを選ぶことになります。
もし「学生」という分類が、その会社のビジネスにおいてあまり重要でなければ、
- 残りの顧客を「その他の顧客」という分類にまとめてしまう
という方法はありだと思います。ちょっと雑ですが、一番簡単な対処法です。
しかしそうやって残りを一括りにできない場合には、「特徴に追加の条件を付ける」というのも有効です。
先ほどの例では、会社員や専業主婦していても、それ以外の時間を学生として過ごせる場合があるため、ダブりが生じていました。つまり「時間」がダブりの原因になっているということになります。
そうだとすれば「時間」の追加条件をつければ、ダブりが解消する可能性があります。
例えば、
- フルタイムの学生
- フルタイムの会社員
- 専業主婦(専業主夫)
という分け方ならMECEになるかもしれません。
「フルタイム」というのは、一般的に1日8時間、週40時間を何かに費やしている場合を指します。「パートタイム」の対になる表現でもあります。
つまり「フルタイムの学生」は、夜間の学生でもなく、通信の学生でもなく、週末通学の学生でもなく、基本的に週に5日、朝から夕方まで授業を受けている学生です。
そういった学生は、同じ時間帯に「フルタイムの会社員」になることは無理ですし、主婦(主夫)として朝から晩まで家事をすることもできないはずです。
このように、追加の条件を設定することでダブりが解消される可能性があります。
それでもダブりが解決できなければ…、別の切り口でMECEを考えることになります。
MECEの読み方と英語の意味
「MECE」の読み方・発音を調べてみたところ、
- ミント氏著書(日本語訳)では「メシー」
- 英語版ウィキペディアでは「ミース」
- 英語圏で一般的なのは「ミーシー」
- 日本でも「ミーシー」が多数派(な印象)
- 日本では「ミッシー」と呼ぶ人もいる
ということで「ミーシー」と発音するのが無難かもしれません。
英語の意味ですが、
- Mutually:互いに
- Exclusive:受け入れない
- Collectively:まとめると
- Exhaustive:完全
ということで正確には、
- ダブりなく(互いに受け入れない)
- モレなく(まとめると完全)
で、日本語と順番が逆になります。
おすすめの書籍
最初にご紹介した「新版 考える技術・書く技術(原題:The Minto Pyramid Principle)」はこちらになります。
MECEをちゃんと学ぶには、定番の一冊です。
また、この「新版 考える技術・書く技術」と併せて、入門書や練習問題をまとめた書籍も販売されています。
社会人として「情報を整理して伝える」という基本的な技術を身につけるために最適な本なので、ぜひ書店で見つけたら手にとってみてください。