タイミーのビジネスモデル図解:逆選択の抑制と即日入金を実現する驚きの仕組み

だいぞうだいぞうTimee(タイミー)は、単発・短期バイトの求人情報と求職者をマッチングさせるオンラインプラットフォームです。

今回は、スキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」のビジネスモデルを紐解くことで、コロナ禍という難局を乗り越えて、時価総額1,700億円の上場を果たした戦略について分析します。

スキマバイト(単発・短期バイト、ギグワーク)のマッチングサービスを提供するTimee(タイミー)は、2018年8月の正式リリースから間もなく、主要顧客だった飲食店がコロナ禍に見舞われてしまいます。

しかし、コロナ禍で新たに生まれたニーズへの対応で復活を遂げ、2021年9月にシリーズDラウンドで53億円の資金調達に成功しました。そして、2024年7月26日には東証グロース市場への上場(215A )も果たしました。

今回は、タイミーと従来のバイト求人情報媒体を比較しながら、ビジネスモデルの違いを図解します。また、いかにコロナ禍という難局を乗り切ったかについても解説したいと思います。

なお、下記のnoteにはサクッと読めるダイジェスト版も公開しています。

Timee(タイミー)のビジネスモデルとは?

タイミーは、単発・短期バイトを探す求職者と、単発・短期でスタッフを雇いたい店舗を結びつけるマッチングプラットフォームです。

その特徴は、以下の3つ。

タイミーのUSP
Timee ホームページより引用(2022年7月時点)

通常のバイトであれば、面接や契約などの手間が生じたり、バイト代の入金までに時間がかかったりします。

しかしタイミーでは、労働者側と店舗側の面倒や不便を仕組みで解決しています。

以下は、タイミーのCMですが、どのような層のどのようなニーズに訴求しているかわかりやすいかと思います。

では、具体的に従来のバイト求人情報媒体と何が違うのか?

それは、

  • 相互評価データによる逆選択の抑制
  • バイト面接を無くす雇用支援システム
  • 給与の振り込みを非同期化する即日入金

という3つの特徴に違いがあります。

以下は、タイミーのビジネスモデルを表した図です。(次のページから、読み方をわかりやすく説明します。

タイミーの戦略ループ

なお、ここでのビジネスモデルの図解は、システム思考におけるループ図という手法をベースに、独自にアレンジした形式で表現しています。

以下の記事でループ図について詳しく解説していますが、このまま読み進めてもまったく問題ありません。

それでは順を追って、ビジネスモデルを読み解いていきましょう。

一般的なバイト求人情報媒体のビジネスモデル

タイミーのビジネスモデルを説明する前に、一般的なバイト求人情報媒体についておさらいしましょう。

これを知っておけば、タイミーのビジネスモデルの特徴を理解するのに役立つはずです。

ということで、一般的なバイト求人情報媒体のビジネスモデルのポイントは、

  • 雇用主と求職者をマッチングさせることで手数料を受け取る
  • マッチングのしやすさによって顧客体験(CX)を改善する

の2つになります。

なお、このページでは大まかな説明にとどめますが、別記事でも詳しく説明しているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

マッチングがお金を生み出すビジネス

まずは、お金がどのように回っているのか?

以下は、ビジネスの中のお金の流れの部分を抜き出したループ図です。

バイト求人情報媒体のお金のループ

求人情報媒体は、人を雇いたいお店(雇用主)とバイト先を探している求職者をマッチングさせることで、手数料を受け取ることができます。

上の図では、

  • マッチング件数が増えるほど仲介手数料も増える

という部分になります。

こうして得られた利益・資金は、

  • 求人情報を掲載してもらうためのお店への営業活動
  • 求人媒体を閲覧してもらうための求職者への広告宣伝

に投下されます。

その結果、広告掲載店舗数媒体閲覧者数が増加し、マッチング件数が増えるというお金を生み出すループが完成します。

マッチングは価値も生み出す

そしてもう一つ重要なループは、価値が循環するループです。

バイト求人情報媒体の価値のループ

なぜ先ほどのループのように手数料を受け取れるかといえば、マッチングすることに価値があるからです。

つまり2者をマッチングさせれば、

  • バイトを雇いたいという店舗側のニーズ
  • バイト先を見つけたいという求職者のニーズ

の2つを同時に満たせるということ。

これらのニーズを円滑に満たすことができれば、

  • 雇用主の利用体験
  • 求職者の利用体験

が向上し、結果として評判が良くなったり、リピート利用されることで、広告掲載店舗数媒体閲覧者数が増えるのです。

このような2つの要素(広告掲載店舗数と媒体閲覧者数)が増えることで、互いに価値を高めあう効果のことを「間接的ネットワーク効果」と呼び、プラットフォーム型ビジネスの事業拡大の特徴になります。

間接的ネットワーク効果

詳しくは以下の記事で解説しているのでご覧ください。

しかし実は、このビジネスモデルには3つの問題点が存在します。

それは、

  • 逆選択の発生
  • 面接・契約の煩雑さ
  • 給与支払いの遅さ

の3つ。

これらを解決するのがタイミーなのですが、次のページでどのようなメカニズムで引き起こされるのか解説します。

一般的なバイト求人情報媒体の3つの問題点

一般的なバイト求人情報媒体には、

  • 逆選択の発生
  • 面接・契約の煩雑さ
  • 給与支払いの遅さ

の3つの問題点が存在しています。

タイミーが狙いを定めた「スキマバイト市場」では、この3つの問題点が大きな壁として、労働力の流動性を高められない要因となっていました。

逆選択(アドバース・セレクション)の発生

逆選択(アドバース・セレクション)とは、情報の非対称性によって市場取引の効率性が低下する現象のこと。

例えば、

  • 不健康な生活をしている人ほど医療保険に入りたがる
    • 不健康な保険加入者が増えると保険会社は損をするが、保険会社は加入者が不健康な生活をしているかどうかは知り得ない
  • お金にだらしない人ほどお金を借りたがる
    • 返済できない人にお金を貸してしまうと銀行は損をするが、銀行は借り手がお金にだらしないかどうか見抜きにくい

など、相手の情報が不十分であるため、本来望まないような取引が発生してしまうことを逆選択と呼びます。

この逆選択は、バイト求人情報媒体でも、

  • 無断欠勤などの問題行動を起こす求職者もバイト先を探そうとする
  • バイトがすぐに辞めるブラックな職場環境の店舗も求人情報を出す

という形で起こります。

下図は、逆選択をループ図で表現したものです。

バイト求人情報媒体の逆選択

つまり、媒体の利用者が増えることで、

  • 広告掲載店舗数が増えるほどハズレ店舗率が上昇する
  • 媒体閲覧者数が増えるほどハズレ労働者率が上昇する

といったことも起こります。

ハズレ店舗(ブラック環境な店舗)も、バイトの欠員を満たすためには、利用者の多い求人媒体に広告を出した方が採用がしやすくなります。また、ハズレ労働者(問題行動を起こす求職者)も、次のバイト先を探すためには、求人情報の多い媒体を見るのが一番です。

その結果、逆選択が起こってしまうのです。

面接・契約の煩雑さ

求人媒体でマッチングすることは喜ばしいことですが、一方で、面接・契約という作業も双方に発生します。

バイトの面接・契約の煩雑さ

雇用したい店舗側にとっては、

  • 忙しいからバイトを雇いたいのに、面接の時間を作らなければいけない
  • 採用することになれば、各種雇用契約の手続きをしなければならない

といった面倒が生じます。

他方、バイト先を探す求職者も、

  • すぐに働きたいのに面接を避けることはできない
  • 不採用ならまたバイト先を探さなければならない

といった面倒があります。

これらの事柄は、当たり前すぎて通常ではほとんど意識されませんが、双方の利用体験においてマイナスの影響(上図、点線矢印)を与えていることは否めません。

給与支払いの遅さ

給与の支払いは、日払い、週払いなども存在しますが、雇用主(店舗側)にとっては、1ヶ月単位などにまとめて行ったほうが振込手数料も少ないですし、作業もまとめてできるので効率的です。

そのため、月末締めで翌月に給与が支払われることも多くあります。

一方、労働者としてはすぐにお金が振り込まれることに越したことはありません。ですが月ごとに支払われるのは当たり前なので、不便に思いつつも受け入れているのがほとんどかと思います。

これらのことを表したのが以下のループ図です。

バイトの給与払いの遅さ

月末締めの習慣によって、バイト代の入金速度は低下し、

  • 雇用主(お店)にとっては支払いが先延ばしにでき、作業も効率的なのでプラスの効果
  • 求職者(バイト)にとっては報酬がすぐに手に入らないのでマイナスの効果

が現れます。

結果、雇用主の利用体験は良くなりますが、求職者の利用体験は悪くなります。

スキマバイト市場への影響

ここまでご紹介した3つの問題点は、タイミーが狙う「スキマバイト市場」では、

  • ハズレ店舗/労働者が多いと、安心して媒体を利用できない
  • 数時間単位の単発バイトの度に面接と契約を結ぶのは現実的ではない
  • すぐにお金が欲しいのに入金が遅い

という致命的な問題になってしまいます。

スキマバイト(単発・短期バイト)では、店舗側は即戦力を求め、都度の面接などの手間はかけられません。他方、求職者はスムーズにバイト先が決まり、可能な限り早く報酬を受け取れることが理想的です。

つまり、これら3つの問題点を解決しなければスキマバイト市場は拡大しないということ。

そこで、見事な解決策を見つけたのがタイミーでした。

次のページからは、ここまでの説明を踏まえて、タイミーのビジネスモデルを解説します。

スキマバイト市場に対するタイミーの3つの解決策

タイミーは3つの問題点を、

  • 相互評価データによる逆選択の抑制
  • バイト面接を無くす雇用支援システム
  • 給与の振り込みを非同期化する即日入金

という形で解決しました。

それぞれの施策について順を追って見てみましょう。

相互評価データによる逆選択の抑制

スキマバイトでは、店舗側も労働者も単発での勝負になります。だからこそお互いにハズレに出会いたくありません。

この問題をタイミーがどう解決したかというと、相互評価データの利用でした。

Timee:相互評価データによる逆選択の抑制

仕組みとしては、ネットオークションやフリマアプリのユーザーの相互評価と同じです。

互いの評価が分かれば、怪しい相手と契約を結ぶことを避けられます。また、評価されることがわかっていれば、互いに非常識な行動は取りにくくなります。

上の図では、マッチングの件数が増えれば増えるほど、相互評価データが蓄積され、ハズレ店舗率/労働者率は低下します。その結果、雇用主や求職者の利用体験の向上つながります。

逆選択(アドバース・セレクション)は、情報の非対称性(一方が得られる情報が限られている状態)が原因です。そのため、情報の非対称性を解消できる仕組みを取り入れれば解決可能です。

では、なぜ旧来の求人情報媒体が評価システムを取り入れることができないかというと、

  • 利用者を評価することに媒体側のメリットが無かった

からです。

求人広告は、元々は営業担当がお店の店長に頭を下げて、広告掲載料をもらっていたわけですから、お店を悪く書くわけにはいきません。またマッチングの手数料を受け取る場合でも、手数料さえ受け取ってしまえば、マッチング後の出来事は当事者同士の問題なので我関せずです。

つまり、旧来のビジネスモデル上では、悪質な店舗の情報を求職者に提供したり、問題行動をとる求職者を拒否するメリットがないということ。

一方、タイミーが狙うスキマバイト市場では、

  • 短期での繰り返し利用

が事業の拡大に欠かせないため、悪質な店舗や問題のある求職者が淘汰される仕組みの方が、安定的な利益につながるのです。

バイト面接を無くす雇用支援システム

スキマバイトでは、面接無しで適切にマッチングし、雇用契約の書面を交わすことなくすぐに働けるのが理想です。

そこでタイミーは、

  • 相互評価データによる面接の代替
  • QRコードによる雇用契約締結・出退勤管理

を取り入れました。

面接の代替については、前述の通り。ハズレ店舗/労働者に当たる可能性が低く、個別の評価が確認できれば面接をしなくても雇用契約のリスクは下げられます。

また、タイミーは出勤時のQRコードの読み込みで雇用契約の締結が可能なシステムを有しています。

このQRコードによる雇用契約の仕組みは、タイミーが特許を取得 しており、模倣困難な競争優位性 の1つとなっています。

Timee:バイト面接を無くす雇用支援システム

上のループ図では、利益・資金を使って雇用契約締結システムや出退勤管理システムに投資を行うことと同時に、相互評価データを活用することで、雇用支援の質を高めることにつながっています。

雇用支援としては、

  • 面接無し
  • 雇用契約締結の電子化
  • 出退勤管理

を実現し、これらが雇用主の利用体験を大きく引き上げることに貢献しています。

給与の振り込みを非同期化する即日入金

スキマバイトの労働者側には、バイトが終わったらできるだけ早くお金が欲しい、というニーズがあります。

このニーズについては、創業者である小川氏がBRIDGEのインタビュー記事 で以下のように答えています。

小川:働きましたよ(笑。ただ自分のニーズとしては、すぐに働きたくてすぐ着金して欲しいのに、マッチするのに比較的時間がかかる印象がありました。給与の振込自体も比較的時間が必要でした。ここを自分たちならもっとクールにできるんじゃないかと。

ということで、競合サービスを実際に利用して得た実体験がベースとなっています。

一方で、雇用する店舗側は可能な限り、例えば月に1回など、まとめて作業を行うことが効率的です。結果、お金を払うのは店舗側なので、労働者は雇用主の意向に沿うしかありません。

このような給与のタイムラグを解消するのが、タイミーの即日入金システムです。

TImee:給与の振り込みタイミングを吸収する即日入金

タイミーは、雇用主と労働者を仲介して給与の支払いタイミングをコントロールすることで、入金のタイムラグを解消しています。

つまり、まず最初に手元の利益・資金から即日で労働者に支払い、その1〜2ヶ月後に雇用主から給与とシステム手数料を受け取って回収するという仕組みです。

実際の利用体験については、タイミー公式の以下のページでも説明されているのでご覧ください。

労働者は即日入金されますが、雇用主である店舗側は、タイミーから届く月に1度の請求額を支払うだけ。店舗側には手間がかからないどころか、前述の出退勤管理システムによる給与計算など、利便性は向上しています。

しかしタイミーの強みはこれだけにとどまりません。

次のページからは、蓄積された相互評価データを利用した競争優位性について解説します。

相互評価データによる競争優位性の獲得

マッチングするごとに蓄積される相互評価データは、タイミーの中でも1、2を争う重要な経営資源でしょう。

タイミーは相互評価データを活用することで、

  • マッチング精度の向上
  • 営業活動の強化

を実現し、ライバルに対する競争優位性を高めています。

相互評価データを活用したマッチング精度の向上

相互評価データは、情報の非対称性を解消することでハズレ店舗/労働者を淘汰する働きがあることを前のページでお伝えしました。

しかし、メリットはそれだけではなく、双方のマッチング精度の向上にも良い影響があります。

Timee:相互支援データによるマッチング精度の向上

利用者にとっては、単純にマッチングするだけでなく、仕事が終わった後に双方の満足度が高いに越したことはありません。

そのためには、求職者に仕事内容が適切に伝わると同時に、店舗側も求職者のスキルを正確に把握できることが重要です。

タイミーでは、相互評価データに労働者のスキル評価項目が設定されているので、店舗側が業務に適したスキルを持っている求職者を探すことが可能です。

また、このような仕組みは一度作ったら終わりではなく、利用者の行動を分析しながら絶えず改善していくことも必要です。

さらに求人広告、求職者、相互評価データの傾向を機械学習(AIの活用など)させれば、求人情報を表示する段階で、相性の良い情報をおすすめとして表示することも可能です。

実際にタイミーはエンジニアを非常に多く雇用しており、得られた利益・資金研究開発費に回すことで、マッチング精度の向上を日々行っています。

雇用支援と相互評価データの活用による営業活動の強化

相互評価データと既存顧客に対する雇用支援から得られたノウハウは、顧客となる店舗への営業活動にも活用することができます。

Timee:相互評価データと雇用支援による営業活動の強化

相互評価データからは、

  • 良質なマッチングを得られる店舗の特徴

を知ることができます。

既存顧客への雇用支援からは、

  • マッチング後の円滑な運用に関するノウハウ

を得ることができます。

このように、マッチング前とマッチング後のノウハウを事例として提供できれば、潜在顧客に対する営業活動の内容も、より具体的かつ実践的なものになるはずです。

タイミー初期成長の秘密:密度の経済とクリティカルマスの制御

タイミーは、2018年8月2日に正式サービスがリリースされました。

しかし対象となる地域は、東京都の渋谷エリアのみ。非常に限られた範囲からのスタートです。

前述したように、タイミーのビジネスモデルでは、店舗と求職者の双方が価値を高め合う「間接的ネットワーク効果(外部性)」を生み出す必要があります。

タイミーの間接的ネットワーク効果

ネットワーク効果を得るためには、店舗数求職者数も多いに越したことはありません。多ければ多いほど、利用者が利用者を呼ぶ状態になりやすくなります。

一気に広い範囲でサービスをスタートすれば、その分多くの利用者を獲得できるはず。

しかしタイミーは、逆に渋谷という非常に限定された地域でサービスをスタートさせました。

そのメリットは、

  • 密度の経済性の活用
  • クリティカルマスへの早期到達

の2つが考えられます。

タイミーが得た密度の経済性

密度の経済(Economies of density)とは、

  • 人口密度の高い場所でビジネスを行うことで様々なコストを引き下げることができる

という考え方のこと。

特にサービス業においては、人口密度が2倍になるごとに生産性が10〜20%ほど向上するという研究結果もあります。
渋谷エリアは、タイミーが初期のターゲットである、

  • 飲食店(店舗)
  • 大学生(求職者)

が特に多く集まる地域のひとつであり、地の利を得るには最適な場所かと思います。

タイミーは渋谷エリアの密度の経済を活かすことで、効率よく飲食店に営業活動を行い、求職者である大学生の認知度を高めていったことが想像に難くありません。

さらに、顧客になった店舗にも細やかなサポートが必要になるため、対象エリアが狭い方が運営コストも抑えることができます。

このように、限られた創業当初のタイミーのメンバー数人で、できる限り多くの店舗と求職者をカバーするためには、渋谷エリアで密度の経済性の恩恵を受けることが最適だったと考えられます。

クリティカルマス(臨界質量)への早期到達

ネットワーク効果は、初めから現れることはありません。どんなビジネスも、初めはちょっとずつしか利用者が増えません。

利用者が利用者を呼ぶような状態になるためには、ある一定の利用者数を超える必要があります。

その「ある一定の利用者数」のことを、「クリティカル・マス(臨界質量)」と呼びます。

クリティカルマスは、ターゲット層ごとに存在しています。ターゲット層を小さくすればクリティカルマスも小さくなり、逆にターゲット層を大きく広げればクリティカルマスも大きくなります。(もちろん、クリティカルマスにも下限があるはずなので、どこまでも小さくすることはできませんが…。)

つまり、最初のターゲット層をある程度小さく設定していれば、クリティカルマスも小さくなり、必要な利用者の絶対数も小さくなります。そして、限られたターゲット層の中で、早期にネットワーク効果が働き始めるのです。

これは、創業当初のFacebookがサービス範囲をハーバード大学のみに限定していたことも同様です。Facebookは、まずはハーバード大学内のみでクリティカルマスを達成しました。

その後、スタンフォード大学、コロンビア大学、イエール大学と少しずつサービス範囲を広げながら、ネットワーク効果を維持し続けるように運営しました。(Facebookのエピソードについては、以下のページに詳しく書いているのでご覧ください。)

タイミーに置き換えて考えてみると、「渋谷エリア」はFacebookにとっての「ハーバード大学」ということです。

初期の市場を渋谷エリアに限定することで、クリティカルマスが「渋谷エリア内」かつ「スキマバイト」のみという、とても小さなものになります。

時系列で見ると、

  • 2018年後半:渋谷エリアを中心に拡大
  • 2019年前半:東京都を中心にエリアを拡大
  • 2019年後半:首都圏、関西、福岡にエリアを拡大
  • 2020年前半:東海、熊本にエリアを拡大
  • 2021年前半:関東、関西、中京、福岡でCMを放映
  • 2021年後半:東北エリアに拡大

という形で徐々にサービス範囲を広げていることがわかります。(プレスリリース等で拾った情報なので、抜け漏れがあればごめんなさい。)しかも、密度の経済性の効果が得やすい、人口密度の高いエリアを優先していることもわかります。

このように、タイミーは密度の経済性を得ながら、クリティカルマスをコントロールすることによって、初期の段階で失速することなく事業を成長させることができました。

タイミーに降りかかるコロナ禍という厄災

2020年の前半から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、当時、飲食店をメインの利用者として事業を拡大していたタイミーにとって大きなダメージとなりました。

以下のグラフは、タイミーへ求人広告を掲載している店舗数と登録している求職者の数(ワーカー数)の推移です。(プレスリリース等の数字を参考にしているため、精緻さには欠けます。)

タイミーの店舗数とワーカー数の推移

正確な数値ではないため、ざっくりとした傾向だけになりますが、黄枠で囲んだ2020年の1年間は、青い棒で表された求職者数(ワーカー数、目盛は左軸)赤い棒で表された店舗数(目盛は右軸)の差が大きく開いていることがわかります。

これは、

  • 飲食店は休業要請などで求人需要が減少
  • 学生等の求職者は新たなバイト先を探すために登録

という状態になっていたと推測できます。

しかしその後、2021年の後半に差し掛かる頃には、店舗数と求職者数のギャップが埋まり、再び求人広告を出す事業者が増えています。

では、タイミーはコロナ禍でどのような対応を行ったのでしょうか?

2020年:タイミーデリバリーの失敗

2020年5月19日に、タイミーは「タイミーデリバリー」をリリースしました。

WHO(世界保健機構)が新型コロナウイルスに対してパンデミック(世界的な流行)宣言をしたのが2020年3月11日なので、わずか2ヶ月余りでのスピード対応です。

タイミーの主要顧客は飲食店なので、飲食店にデリバリーサービスを提供するということが「タイミーデリバリー」というサービス名から想像できます。

しかしタイミーデリバリーは、後に一般的になった「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「出前館」とはビジネスモデルが大きく異なりました。

Uber Eats出前館などは、配達員が注文が入った店舗に料理を取りに行き、注文した顧客に配達するという方式です。店舗は配達員を雇用せず、必要な時だけ利用可能です。

一方、タイミーデリバリーは、まず飲食店が求職者を配達員として短時間雇用し、その時間内に注文が入れば配達するという形態です。店舗は配達員を多く雇用してしまうとコスト効率が悪くなり、逆に雇用が足りないと需要対応ができないというリスクがあります。

飲食店側のメリットとしては以下の記事がわかりやすいかもしれません。

しかし、配達員の立場からはSNS上で以下のようなコメントもありました。

タイミーでデリバリークルーとしてきたのに、した仕事は1020頃にトレー拭き上げのみ

今あるかわからんけどタイミーデリバリーはマジ楽だった。2時間休憩室で座ってるだけで終わることもあったし、配達あっても一件とか。笑

上記のように、飲食店が需要を読み誤ると、雇用のコストだけが出ていくことになります。

コロナ禍では飲食店に対する時短要請や緊急事態宣言の解除などが繰り返され、先が読めない中、デリバリー需要の予測は困難を極めたはずです。

そういった状況で、注文が入った時だけ勝手に来て届けてくれるUberEatsや出前館は、飲食店にとって配達員の雇用リスクをゼロにする有効な手段でした。

一方で、タイミーデリバリーは、飲食店側が配達員の雇用リスクを全て背負う必要があったため、「リスクを負わずに料理を配達したい」というニーズには対応できませんでした。

結果、飲食店の利用が伸び悩み、わずか半年あまり(〜2020年12月20日)でタイミーデリバリーはサービスを終了することとなります。その後は、通常のタイミーの方でデリバリーバイトの従事者をサポートするように舵を切りました。

2021年:物流分野での躍進

長引くコロナ禍の中、タイミーは物流分野で増加する労働需要への積極的に対応することで勝機をつかみました。実は、物流分野への対応は2021年に始まったことではなく、2020年の早い段階でアプローチを始めていました。

上記のインタビュー記事では、

事業を立て直すための戦略を練っていたところ、「物流」と「小売」の業界についてはコロナ禍でも売上が落ちていないということがわかって。

そこで今後は、物流・小売・飲食の各業界に特化したカンパニー制の組織を作り、専門知識を蓄えて一気に営業をしていくことを決めました。

と、代表の小川氏が答えています。

結果的には、戦略変更によって最も花開いたのが物流分野だったということです。

この流れを加速させるように、2021年4月5日からは新たなTVCMが放送されました。

2種類のCMが公開されましたが、「管理者の苦悩篇」の舞台は物流倉庫です。

原田泰造さん演じる物流倉庫の管理責任者が、倉庫内で山積みの荷物を指して「これ全部、今日中に配送だ」と声をかけるも、スタッフからは「人手が足りません」と告げられてしまいます。「え〜〜っ!」と驚く原田さん。しかし、彼にはバイトを集めるあてがあり自信満々にスマホを見せます。「俺たちには200万人の仲間がいる!」という言葉とともに、タイミーに登録しているたくさんの人達が映ります。タイミーを活用することで荷物の運び手やフォークリフトの運転手など、沢山のワーカーさん(*)が集まり順調に配送が進むという内容になっています。

主人公は物流倉庫の管理責任者ということで、雇用主側の視点のCMです。

さらに、2週間後の2021年4月19日から別のTVCMも公開されました。

こちらの主人公は求職者で、CMの最後に物流倉庫らしき場所で働くカットが差し込まれます。

結果、2021年後半にかけて、雇用する側である店舗数や事業所数が大幅に伸び、求職者数とのギャップを大きく縮めることに成功しました。

もちろんTVCMだけでなく、顧客サポートや営業活動、システムの改良やキャンペーン、業務提携など、地道な活動の積み重ねも相まって成功につながったことは想像に難くありません。

タイミー:職種別募集人数の推移
プレスリリース「スキマバイトサービス「タイミー」 累計ワーカー数 300万人を突破〜サービス開始から4年で事業所数は約10倍、募集人数は約19倍に成長〜」より引用

上記のタイミーが公開している数値からも、主要顧客が飲食店から物流分野に大きく移り変わったことがわかります。

タイミーが上場までに行った資金調達

タイミーは、上場までに数々の資金調達に成功しています。

まず正式リリースの翌週の2018年8月10日に、5600万円を調達。

そして半年も待たずして2019年1月10日に、シリーズAラウンドとして3億円を調達。

さらに同年10月31日に、シリーズBラウンドとして20億円を調達します。

その後、コロナ禍で大きく落ち込むものの、2020年9月14日にシリーズCラウンドとして13.4億円を調達。

さらにコロナ禍を乗り越えて、2021年9月15日にシリーズDラウンドとして53億円を調達します。

この結果、シリーズDラウンドを終えた時点でのタイミーの推定評価額は290億円あまりとなっています。

タイミーの強さは完成されたビジネスモデル

ここまでタイミーが、コロナ禍に見舞われながらも大きな事業成長を成し遂げられた要因は、リリース当初からほぼ完成されていたビジネスモデルによるところが大きいように思います。

ここで改めて、タイミーのビジネスモデル図解を見てみましょう。

タイミーの戦略ループ

ご覧の通り「相互評価データ」と「特許」の存在が、競争優位を生み出す源泉となっています。とくに特許は模倣困難性が高く、ビジネスモデルの持続性を高める盾のような存在です。

また今後起こりうる環境変化に対しても、コロナ禍で飲食店から軽作業にターゲットをシフトさせたように、時勢に合わせてスキマバイトが求められる分野に柔軟にシフト・拡大していくことが基本戦略となるでしょう。

鍵はスキマバイトの普及と相互評価データの活用

タイミーが今後の事業成長を目指す鍵は、

  • スキマバイトという考え方の浸透
  • 日々更新される求人情報と相互評価データの活用

にあるように感じます。

スキマバイトという考え方の浸透

まず「スキマバイト」という概念ですが、まだまだ世間一般には浸透していないように感じます。しかし、タイミーが同じ市場で継続的な成長を目指すのであれば、スキマバイト市場そのものが拡大する必要があります。

そのためには、雇用する側である事業者が業務プロセスを見直し、スキマバイトの枠を用意することが求められます。他方、求職者側も暇つぶし感覚で、気軽に2〜3時間働くということが選択肢として思いつく状態にならなければいけません。

これに対しタイミーは、スキマバイトを普及させるために、2021年2月より「ギグワーク研究所」を立ち上げました。(後に「スポットワーク研究所」に名称変更)

加えて、スキマバイトに関する情報発信をするため「ギグラボ」というスキマバイトに関する自社メディアの運営も始めています。(後に「タイミーラボ」に名称変更)

このような地道な取り組みをベースにしながら、様々な業界、業種、職種のスキマバイトを発見・開発することで、スキマバイトが一般的になる領域を広げていくことが必要だと思います。

日々更新される求人情報と相互評価データの活用

毎日膨大な量が蓄積されていく求人情報相互評価データは、タイミーにとって宝の山になるはずです。

特定の求人情報の増減は、その業界の最終顧客のニーズの増減を反映している可能性があります。また相互評価データの変化は、実務上の問題点が示唆されているのかもしれません。

つまり、膨大な量の情報の変化を分析すれば、その先に別の大きなビジネスの可能性が隠れているかもしれないということ。

例えば、ある業界で特定の単純作業の求人広告が増加傾向にあり、マッチング後のワーカー(労働者)からの評価が低かった場合には、その単純作業を設備導入で自動化したり、ロボットで代替できるかもしれません。もしそうであれば、機械設備メーカーと事業提携することで、その業界に新たなソリューションを提供できる可能性があります。

このように求人情報や相互評価データの活用は、必ずしも現在のビジネスモデルを強化するわけではないかもしれませんが、中長期的なタイミーの事業成長の鍵となるはずです。