- 自販機横の什器から軽食を購入できる
- 支払いは自販機で行う
というサービスのことで、
- 法人をターゲット顧客として絞り込んでいる
- 追加の運用オペレーションは最小限に抑えている
というビジネスモデル上の特徴があります。
仕事中に小腹が空いた時に、オフィスの中でお菓子や軽食が調達できると助かりますよね。このようなニーズを満たすサービスとしては、江崎グリコ株式会社の「オフィスグリコ」などが有名です。また、ヤクルトレディさんの訪問販売を利用されている方も多いかもしれません。
そしてこの市場に自販機を使って参入したのが、サントリーの「ボスマート」というサービス。自動販売機横の什器に置かれている軽食を、隣の自動販売機の決済機能を使って購入できるというのが特徴です。特徴的な買い方の仕組みや、盗難や万引きに対する実情なども気になります。
ということで、今回はサントリー「ボスマート」のビジネスモデルを図解しながら、わかりやすく解説したいと思います。
なお、こちらの記事はサントリー「社長のおごり自販機」の記事の続編となります。未読の方は、以下からご覧ください。
サントリー「ボスマート」のビジネスモデルとは?
まずはこちらの動画をご覧ください。
「ボスマート」は、
- オフィス内の自販機横に設置された什器から軽食を購入可能にする
ことで、
- オフィスワーカーの利便性を向上させるサービス
であり、
- 商品補充と金銭管理を通常の自販機オペレーションの範囲で行う
というビジネスモデル。
自販機の既存インフラを有効活用した、シナジー効果が見込める業態となっています。
このビジネスモデルを図解したものがこちら。

ボスマートは、2021年に先行導入を経て2022年3月よりサービスの正式リリース となっています。そして、このサービスを企画開発したのが、サントリーの森 新(もり あらた)氏(X@mori_arata )です。前回の「社長のおごり自販機」の記事に引き続いて、お話を伺います。
森さん、引き続きお願いいたします。
次のページからは、早速「ボスマート」のビジネスモデルのポイントを探っていきましょう。
ポイント1:食品販売で顧客の利便性を高める
「ボスマート」は前回の記事でご紹介した「社長のおごり自販機」と同様に、法人顧客をターゲットとしたサービスになります。
サントリーは法人向けに「法人専用サービス自販機」というラインナップを展開していて、「ボスマート」や「社長のおごり自販機」の他にも様々なタイプの自販機関連サービスが提供されています。
サントリー「法人専用サービス自販機」(サントリー公式サイトより引用:2023年9月)
さて、なぜ法人向けのサービスを充実させているかというと、現在の自販機市場の主戦場が屋内(in-location、インロケ)になっているからであり、競合他社に対して競争優位に立つために付加価値を高めることが必要だからです。
そこで「ボスマート」では、飲料だけでなく食品も自販機で売ってしまおう、ということに挑戦されています。
それをビジネスモデル図解したものがこちら。

通常の自販機のビジネスモデルに、
- 食品を販売する
という流れを加えることによって、オフィス内のユーザーの利便性を高めるという価値を提供します。
競合するコンビニに対して、自販機が有利な点はその近さです。コンビニに移動する時間を面倒と感じている方に対して、「徒歩0分マーケット」というコピーで訴求しています。
自社ビルや工場で働く方は、最寄りのコンビニまでの移動でもそれなりに時間が必要だったりします。また都心のオフィスビルであっても、高層階に入居する会社などはエレベーター待ちなどに時間が取られます。
そのため、移動時間を節約できる点において、ボスマートはコンビニには無い利便性を提供しています。
新サービスをスムーズに受け入れてくれる法人さんが多いんでしょうか?
「新しい自販機は、パンも買えるようになったんですけど、機械の中に入らないので横に置いときますね!」みたいな感じです。
新しいものを提案されている感じがしない、ということが重要なんです。
ちなみにこの記事の執筆時点では、全国で11,000台以上も導入されています。

このように全国で導入が進み、飲料だけでなく食品の販売も売り上げに貢献するようになりました。
しかし、ボスマートの効果は食品分の売り上げ増加だけにとどまりません。
ポイント2:飲料に対するクロスマーチャンダイジング
自販機の飲料と、その横に置かれた軽食は互いに互いの販売を促進するという効果も生み出します。
この現象を図解したものがこちら。

上の図では、
- 食品販売数が増えるほど飲料販売数も増える
ということを表しています。そしてその逆も然り。
このような売り方をクロスマーチャンダイジング(またはクロスセル)と呼びます。クロスマーチャンダイジングは、関連性の高い商品を同じ売り場で提案するマーケティング手法(「クロスセル」はその販売部分を指す)のこと。
例えばスーパーやコンビニで、アルコール飲料の隣の棚でおつまみを販売するのもクロスマーチャンダイジングです。
飲料と食品、どちらのニーズが先でも良いですが、一緒に買っていただけるものを意識してラインナップを考えていますよ。
食品のラインナップを飲料と関連づけることで、販売のシナジー効果が期待できます。
例えば、小腹が空いてクッキーが食べたいと思っても、クチの中がパサパサになるので、飲み物がなければ躊躇う人も多い。でも、そこにクッキーに合うようなドリンクがあれば一緒に買ってしまいますよね。逆に、ドリンクだけで物足りない人は、菓子パンなどで小腹を満たしたくなります。
でも実際に設置しても盗難や万引きは起こらないんです。
オフィス内ということもあり、利用者同士が顔見知りであることと、相互監視効果が働くため盗難が起きにくいことが予想できます。
とはいえ、盗難や万引きの可能性が心理的なハードルとなっているお客様向けに、セキュリティ対策がされた什器(下図右端)もラインナップされています。

セキュリティ対策用什器では、
- 自販機のボタンを押すと扉がひらく
つまり、
- 支払いが完了したら商品を受け取れる
という仕組みです。
これなら支払い前に商品が盗まれる心配はありませんね。
…しかし、このようなビジネスモデルは競合する飲料メーカーにも真似されそうです。ボスマートではどのように対策しているのでしょうか?
ポイント3:特許を取得して模倣困難性を高める
上手くいっているビジネスモデルは、競合他社によって真似されることもしばしば起こります。
ボスマートにおいても、自動販売機を扱う競合が同じように真似をすることは技術的に可能です。しかし、これを防ぐ方法の1つが、特許の取得です。

サントリーの公式サイトにあるボスマートのページにも「特許取得済」とあるとおり、ボスマートの仕組みは特許として登録(第6831893号)がされています。

ということで、実際の特許情報を見てみましょう。手順は以下の通り。
- 特許情報プラットフォームJ-PaltPat にアクセスする
- 「簡易検索」の「特許・実用新案」を選択して「第6831893号」で検索する
- 検索結果から「特開2021-077148」をクリックする
リンク先の情報については、専門的な内容になるため詳細を割愛しますが、今回インタビューをさせていただいた森さんが「発明者」として記載されていますね。
このように特許を取得するということによって、競合他社はまったく同じ方法では真似することができなくなります。
これを経営学では「直接的複製に対する模倣困難性が高い」と表現します。
「直接的複製」というのは「同じやり方をコピーする」という意味で、模倣(真似すること)が困難な(難しい)性質があると言えます。
この模倣困難性の高さが、ライバルとの競争では有利に働くのです。
自販機の決済機能を利用することでオペレーションはそのまま
なお、ボスマートのビジネスモデルでは、上記の特許の通り、自動販売機の余剰ボタンを使用して商品の販売を行います。
これは自動販売機に在庫できる商品スペースの数と、ボタンの数が異なるからです。
機種によって異なるものの、自販機内の商品スぺースは30あるのに対し「購入ボタン」は36個と、余剰ボタンがある。この余剰分を軽食用のレジボタンとして活用することで、商品を減らさずに食品の展開が可能となった。
ITmediaビジネスオンライン より引用2022年4月
こちらの写真の枠で囲っている部分が、余剰の6つのボタンになります。

このような仕組みにすることによって、食品用の什器が追加されること以外は通常のオペレーションで行うことが可能です。つまり現場のオペレーターの負担が少ないということ。

前回の「社長のおごり自販機」もそうでしたが、新しいビジネスモデルを実行に移すには現場レベルの協力が不可欠です。そのため、現場のオペレーションの負担が最小限になっていることも、このビジネスモデルの美しさの一つです。
ボスマート:ビジネスモデル図解のまとめ
…ということで、「社長のおごり自販機」に引き続き、「ボスマート」のビジネスモデルの美しさもご堪能いただけたかと思います。
最後にもう一度、ビジネスモデルの全体像を俯瞰してみましょう。

今回のビジネスモデルのポイントは、
- 食品販売で顧客の利便性を高める
- 飲料に対するクロスマーチャンダイジング
- 特許を取得して模倣困難性を高める
の3つでした。
自動販売機の利用者が減少する中、主戦場となっている屋内(in-location、インロケ)にて競争力を高めるための、食品も提供するという施策。そのビジネスモデルは、飲料販売に対するシナジー効果を見込めるだけでなく、現場のオペレーションも考慮した仕組みになっていました。
また競合の模倣を防ぐために特許を取得しているというのも、競争優位性を高める要素の一つとなっています。
「社長のおごり自販機」「ボスマート」からの学び
新規事業の企画・立ち上げとなると、既存事業と大きくかけ離れたビジネスモデルを描いてしまい、失敗することも少なくありません。「新規性」「奇抜さ」などを求めるあまり、現場のオペレーションから乖離した仕組みになってしまうと、運用におけるリスクになってしまいます。
しかし今回ご紹介した「社長のおごり自販機」や「ボスマート」では、現場での自動販売機のメンテナンスや商品補充、金銭管理については大きな変化はありません。
一方で、自動販売機自体にちょっとした工夫を施すことによって、通常の飲料自販機とは異なるニーズへの対応や、異なる付加価値の提供を実現しています。
このように、既存事業のリソースをそのまま活用する方向での新規事業の企画開発というのも、考えてみる価値は大いにありそうですね。




