そのビジネスモデルは、
- DELL直販モデル(Dell’s Direct Model)
と呼ばれ、多くの経営学者を虜にして、今なお語り継がれています。
今回は、このDELL直販モデルをビジネスモデル図解で使ってわかりやすく解説します。
DELL直販モデルは、「デルモデル」「デル・ダイレクト・モデル」などと呼ばれ、それまでのパソコンメーカーの戦い方をくつがえす、
- 中間業者を通さない直接販売
- 受注生産(BTO:Built to Order)
によって急成長を遂げました。
このビジネスモデルを考案したのが、DELLの創業者マイケル・デル氏。
今回はビジネスモデルを図解して、1990年代のDELL直販モデルの秘密を解き明かします。
DELLのビジネスモデルと一般的なパソコンメーカーの違い
次のページから詳しく説明しますが、まずは図解したビジネスモデルの全体像を眺めてみましょう。
こちらが1990年代当時の一般的なPCメーカーのビジネスモデルです。

そして以下が同じ時期に世界を席巻したDELLのビジネスモデルです。

なお、ここでのビジネスモデルの図解は、システム思考におけるループ図という手法をベースに、独自にアレンジした形式で表現しています。

以下の記事でループ図について詳しく解説していますが、このまま読み進めてもまったく問題ありません。
それでは順を追って、ビジネスモデルを読み解いていきましょう。
幅広い顧客をサポートするためのコストの影響
1977年に、Appleがパソコンの「Apple II(アップル・ツー)」を世に送り出し、パーソナルコンピューター市場が花開きました。
それを追うように、翌年には日本のNECが市場へ参入。そして1981年には、巨大企業IBMもパソコン市場へ参入します。ちなみに当時のIBMのパソコンは、現在「PC」と呼ばれるパソコンの源流となるものです。
1980年代には、大小様々なパソコンメーカーが乱立し、群雄割拠のパソコン戦国時代へと突入しました。そんな中、1990年前後に急速に成長したのがマイケル・デル氏の率いるパソコン製造販売「DELL」でした。
DELLは「IBM PCのクローン」を安価に供給することで、1999年には世界最大のパソコンメーカーとなりました。
でもDELLはなぜ、PC戦国時代に天下を取ることができたのでしょうか?
その戦略の秘密を知るために、まずは一般的なパソコンメーカーのビジネスモデルから見ていきましょう。

1990年代は、パソコン普及率の上昇を追い風に、市場が急速に拡大していた時代です。
上図をみると、
- パソコン普及率が高まるほど、法人顧客・個人顧客の数が増える
- 法人顧客・個人顧客の数が増えるほど生産量と利益が増える
ということがわかります。
メーカーが、法人客も個人客も両方取りに行く理由は、規模の経済性を得るためです。
規模の経済とは、
- 生産の規模が大きくなればなるほど製品1つあたりの平均コストが下がる状況
のことで「スケールメリット」とも呼ばれます。
要するに、たくさん生産すればコストが下がって儲かる、ということです。
これはパイプライン型ビジネスモデルの特徴でもあります。
さらに、たくさん生産すればたくさん部品を買うということ。そうなると、部品メーカーに対して圧力をかけれるようになります。

つまり、
- 生産量が増えるほど、部品メーカーとの交渉力が高まる
- 部品メーカーとの交渉力が高まるほど、
- 部品を安く調達して、パソコンの価格を下げられる
- 最新の部品を確保して、パソコンの性能を上げられる
ということが可能になります。
これはマイケル・ポーター教授の「ファイブフォース分析」にも関連する話です。

パソコンの部品メーカーは、上の図では供給業者にあたります。
供給業者に対する交渉力が上がれば、供給業者からの競争圧力は減る。圧力が減れば、ビジネスが儲かりやすくなります。
この結果、
- 高性能なパソコンを
- より多くの顧客に
届けるために優位な状況になります。
しかし、より多くの顧客にパソコンを届けるということは、
- 購買後のカスタマーサポート
も手厚くする必要があります。
ということは、サポートコストもかかる。それが以下の図です。

ここで注目いただきたいのが、法人と個人顧客から伸びる矢印の種類の違いです。
- 法人顧客数が増えるほど、サポートコストは減る
- 個人顧客数が増えるほど、サポートコストは増える
という関係性です。
もちろん、どちらの顧客をサポートするにも一定のコストはかかるのですが、
- 法人顧客には社内にシステム管理部が存在している
- 個人顧客は専門家もいるが完全な素人も多く存在してている
ということが関係性の違いを生んでいます。
個人顧客は知識のバラツキが大きく、完全な素人がサポートを求めてきたときには、対応時間(=コスト)がかかります。
他方、法人顧客はそもそも社内の専門家がパソコンを取り扱っているから、問い合わせも少ない。顧客の社内で直せない場合は故障しているというパターンも多く、サポートも早々に新品と交換すれば良いのです。だから個人顧客ほどコストはかかりません。
そのため、
- 法人顧客のサポート比率が増えるほど、サポートコストが減って価格も下がる
- 個人顧客のサポート比率が増えるほど、サポートコストが増えて価格が上がる
という状況が生まれます。
だからと言って、個人顧客を切るわけにはいきません。なぜなら、前述の規模の経済性において不利になるからです。
これはパソコンメーカーにとってのジレンマです。
では、DELLはどうしたのか?

DELLは、法人顧客だけにターゲットを絞るという戦略を打ちました。(なお、創業当初は個人向けにも販売していたようです。また90年代前半には、大規模量販店での販売を計画していたものの頓挫。個人顧客を本格的に開拓し始めたのは90年代後半のインターネットが普及し始めてからでした。)
生産量においては、個人顧客を狙わない分、競合よりも不利になります。
一方で、サポートコストにおいてはメリットがありました。

顧客を法人に絞ったことで、サポートコストが競合よりも少なくなり、価格の押し下げ効果が効くようになったのです。
つまり、
- 法人顧客数が増えるほど、相対的にサポートコストが下がり、価格も下がる
という流れが生まれたのです。
さらに、メリットはそれだけではありませんでした。
競合が「より多くの顧客に」、特に小規模事業者や個人顧客に届けようと販売網を構築している中、DELLは競合のような販売網を構築する必要がなくなります。
これが新しいビジネスモデルを生み出し、競合を圧倒的に引き離す要因になります。
決め手は在庫の回転サイクル:DELLの競合は「在庫量」という足枷を付けていた
DELLは法人顧客、つまりB2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)市場に絞った結果、卸や小売を経由する販売網を構築する必要がなくなります。
一見、競合に対して不利に思えるこの選択ですが、最終的には圧倒的な顧客満足を生み出す流れにつながりました。
まずは、一般的なパソコンメーカーのビジネスモデルを見てみましょう。

通常、パソコンの販売で得られた利益は、卸や小売を開拓するための営業活動に投資されます。
なぜなら、
- より多くの顧客に届けるためには、より多くの卸や小売にパソコンを取り扱ってもらう必要がある
からです。
自社のみで販売するには限界がある。自社のパソコンを取り扱う販売網を構築すれば、世界の隅々までパソコンが行き渡る体制を作れます。
つまり、
- 卸や小売への営業活動が増えるほど、顧客の近くの在庫量が増える
ので、「より多くの顧客」に対する「安定供給」を実現できます。
しかしこれにはデメリットも存在していました。
市場の在庫量の増加は、
- 在庫管理コストによって販売価格が上昇する
- 在庫回転サイクルにパソコン性能が制限される
というデメリットです。
卸や小売がパソコンを売るためには、店舗や倉庫にパソコンを在庫しておかなければなりません。当然、在庫を置くスペース、在庫の移動、パソコンを売る販売員の人件費、パソコンを売る店舗のコスト、などもかかってきます。
それらのコストは、パソコンの販売価格に上乗せされます。つまり、販売価格が上がる。
さらに、パソコンの性能も在庫の存在によって制限されます。
当時は、パソコン部品の性能は毎週のように向上していました。上記のビジネスモデルでは、左下の「技術革新」という外部要因で表現しています。
在庫があると、なぜ性能が制限されるのか?
それは、卸や小売の店頭に在庫がある限り、性能が向上した安いパソコンを発売できないからです。もし、パソコン部品の性能向上に合わせて新しいパソコンを販売すれば、卸や小売に残っている在庫が値崩れします。卸や小売は在庫がさばけなくなり大損する。そうなると販売網が崩壊します。
だから、市場の在庫量が増えるほど、高性能で安価なパソコンを早いサイクルで出すことが難しくなります。パソコンの性能が在庫の回転サイクルに制限されます。
しかしこれは「より多くの顧客」「安定供給」するための当然のトレードオフです。
当時のパソコンメーカーの王道の戦略では、当たり前に起こること。疑問を持つ人は少ないでしょう。
もちろん、販売網の構築はデメリットだけではなく、メリットもあります。
それは「見込み生産による効率化」です。

パソコンの販売網が大きくなるほど、需要の波は平準化されます。
ある小売店の売り上げが落ちても、別の小売店の売り上げで相殺される。ある地域のパソコン需要が落ちても、別の地域のパソコン需要でカバーできる。販売ネットワークが広がれば、大数の法則が効くようになります。つまり、生産量を予測しやすくなる。
生産量が予測しやすくなれば、生産効率が向上します。
上の図は、
- 生産改善活動が増えるほど、見込生産の効率が良くなる
- 見込生産の効率が良くなるほど、パソコンの価格が下がる
ということです。
ここまでをまとめると、一般的なパソコンメーカーのビジネスモデルは、
- 販売網を広げ大量に生産することで、販売網の在庫コストをカバーし、市場シェアを獲得する戦略
ということになります。
では、販売網を構築する必要のないDELLはどうしたのか?
まずは法人営業からの直販体制を整えました。
足枷のないDELL:直販と受注生産の絶妙なコンビネーション
ターゲット顧客を法人顧客に絞ったDELLは、直接営業からの直接販売で安価なパソコンを求める顧客に切り込みます。

DELLは大々的な販売網を構築する必要ない。企業の購買担当者を口説き落とせばいいのです。
そして店舗は必要ありません。企業にパソコンを直接届けます。
その結果、
- 卸業者や小売業者に支払うマージンが不要になったことで価格が下がる
- 受注時に常に最新のパーツを選択肢として提供できるので性能が上がる
といった効果が生まれます。
さらに、当時のパソコンメーカーの常識をくつがえし、DELLはパソコンの受注生産を行います。

DELLの生産改善活動は、受注生産の効率化に充てられます。
受注生産は、見込生産のようにあらかじめ決められた製品を決められた量だけ作るわけではありません。顧客から注文が入り、必要な部品を調達して組み立てる。需要の予測が難しく、各工程の連携の難易度も格段に上がります。
他方、同じものをたくさん作る見込生産の方が、規模の経済性も経験曲線効果も効かせやすく圧倒的に生産が楽なのです。だから競合は見込生産を選びたがる。
しかしDELLは、難易度の高い受注生産の効率を上げることに全ての経営資源を投入しました。
理由は、
- 市場の在庫がゼロになることで技術革新の速度で性能を高められる
- 受注生産の効率が良くなれば稼働率の向上で価格が下げられる
- 受注生産の効率が良くなれば直販で納期を圧倒的に短くできる
からです。
技術革新を生かした高性能パソコンの市場投入
前述したように、一般的なパソコンメーカーは市場に滞留する在庫がなくなるまで、高性能で安価なパソコンを投入することができません。
しかしDELLは受注生産かつ直販体制なので、受注した時点の最新の部品を調達して使用することが可能です。
部品メーカー同士が激しい競争の中、毎週のように性能を上げ、価格を下げる。そんな技術革新の大きな波を、受注生産はすべて受け止めることができます。
つまりDELLのビジネスモデルにおいて、
- 受注生産の効率が良くなるほど、最新の部品を使えるのでパソコンの性能が向上する
という流れが生まれるのです。
稼働率の向上&技術革新によるコストの押し下げ
受注生産でも、オペレーションの改善でパソコンを効率よく組み立てることができます。
組立工場の効率が良くなれば、稼働率が上がり、同じ設備や人件費で組み立てられるパソコンの台数が増えます。同じコストで組み立てられるパソコンの台数が増えれば、パソコン1台あたりの費用は下がる。パソコンの低価格化(or 粗利の向上)につながります。
これは他のパソコンメーカーの見込生産と同じ、規模の経済性と経験曲線効果のメリットです。もちろん、見込生産ほどの効率化は見込めないかもしれませんが、価格の押し下げ効果はあります。
- 受注生産の効率が良くなるほど、工場の稼働率が高まることでパソコンの価格が下がる
ということになります。
さらに技術革新の向上も相まって、
- 部品の型落ちによって従来の部品で製造すれば価格が下げられる(or 利幅を増やせる)
という状況も生まれます。
直販&生産リードタイムの短縮で実現する短納期
受注生産という手段をとったDELLは、卸や小売経由に匹敵する納期を実現する必要がありました。
注文を受けてから組み立てる受注生産は、予測を立てて先に生産を始める見込生産には初速で劣ります。
しかし、法人顧客に直接パソコンを納品する直販体制をとったことで、卸や小売に商品が在庫されるためのリードタイムが削減されます。
あとは受注生産のスピードを高め、物流事業者との連携を深めることでリードタイムを縮めることに集中すればいい。
よって、
- 受注生産の効率が良くなるほど、パソコンの納期が短くなり、直販体制の強みが生きる
ということになります。
DELL直販モデルまとめ
最後にDELLの直販モデルと、一般のパソコンメーカーのビジネスモデル図解を改めて比較してみましょう。
まずは、当時の一般のパソコンメーカーから。

そして、当時のDELLのビジネスモデルがこちら。

戦略が大きく異なる部分は、色付けで表示しています。
筆者がこのビジネスモデルを描いて印象に残ったのは、
- 技術革新スピードと、受注生産体制の相性の良さ
です。
1970〜1980年代に誕生したミニコン・パソコンメーカーは、市場の導入期の真っ只中でした。そのため、パソコン市場の成長期に向けて、大量に、より安価に、安定的に、パソコンを供給する体制を作り上げました。それが卸・小売の販売網と見込生産体制です。
しかし多くのメーカーにとって誤算だったのが、「ムーアの法則」に代表される技術革新のスピードの速さでした。
パソコン部品の性能の向上が、卸・小売の在庫の回転サイクルをも超えてしまい、販売網の構築が性能のボトルネックとなってしまったのです。
そのような状況の中で、在庫を持たないDELLは、技術革新スピードを余すことなく受け止めます。
その結果、事業拡大が加速し、1999年に世界最大のパソコンメーカーにまで上り詰めるに至ったのです。
天下を取ったDELLは、なぜ失墜したのか?
…と、よくあるビジネスモデル解説ではDELLを賞賛して話が終わるのですが、ここではもう少しだけ考察してみたいと思います。
というのも、DELLは1999年に天下をとったものの、その後雲行きが悪くなり2013年には株式の非公開化。そして2015年には世界第3位のパソコンメーカーに転落しました(といっても、世界3位でも十分すごいのですが)。
それはなぜか?
筆者は、
- パソコン市場が成長期後半から成熟期に移行する過程で、DELLのビジネスモデルが顧客ニーズの多様化に対応できなくなった
ことが要因ひとつだと考えます。
つまり、
- 戦略変数が「性能」「価格」ではなくなった
ということです。
DELLの勝ちパターンが通用しなくなったのです。
もう一度、DELLのビジネスモデル図を見てみましょう。

ご覧の通り、DELLの戦略は「性能」「価格」については、圧倒的に競合他社を突き放すことが可能でした。
当時の顧客は法人が中心で、
- より高性能のパソコンを、より安く手に入れたい
というニーズが強かった。だから、DELLは天下を取ることができました。
しかし、1995年のWindows95の登場によって、パソコンも一般家庭に普及するようになります。
もちろんDELLも個人顧客の開拓に本腰を入れ、ネット直販で個人にアプローチを始めます。
やがてパソコンの普及率は高止まりし、どこにでもありふれているアイテムになりました。性能競争についても、徐々に落ち着きを見せます。
その結果、パソコンの戦略変数は、
- 色・形・サイズなどの外観
- 実現するワークスタイルやライフスタイル
- ブランド
などで差別化する方向に移行していきました。
AppleのiMacの登場や、日本勢のブランド力を武器にしたガラパゴス的で多種多様なパソコンの登場は、まさに新しい戦略変数での戦いを物語っています。
そんな中、DELLも同じ方向に舵を取ろうとしましたが、性能向上に特化させた経営資源では追いつけなかったのです。
そして最終的には他者に天下を明け渡すに至りました。
DELLのビジネスモデルからの教訓
ここから得られる教訓は、
- ビジネスモデルや戦略が優れているかどうかは時代の流れが決める
ということです。
特に、DELLは「技術革新」のスピードという時代の風を全面に受け止めたからこそ、「DELL直販モデル」という戦い方が強力な武器になりました。
しかしその風が止んだ時、一気に失速しました。
これはビジネスモデルや戦略が悪いわけではなく、世の中の大きな流れに乗れたかどうかの問題です。
多くのビジネスモデル解説では、時代背景や外部環境について語られることは多くありません。しかし、このDELLのケースを知れば、その重要性は明らかです。
皆さんも、ビジネスモデルを吟味する場合には「世の中の大きな流れ」にも、意識を向けるようにしてみてください。
