だいぞう
SCP理論とは、
- 業界構造が企業業績に影響を与える
というミクロ経済学における考え方のことです。
- ストラクチャー(Structure:業界構造)
- コンダクト(Conduct:企業行動)
- パフォーマンス(Performance:企業業績)
の頭文字をとって「SCP理論」「SCPパラダイム」「SCPモデル」などと呼ばれています。
1930年代、当初の産業組織論は、政府が経済政策を策定するために研究が進みましたが、
- 政府が業界構造(ストラクチャー)に手を加えることで健全な市場競争(コンダクト、パフォーマンス)を実現する
という根底にある考え方は今日でも有効です。
例えば、
- 運輸局がバスやタクシーの運賃を決める
- 携帯電話会社の競争を促すために規制緩和を行う
というのも、政府が業界構造に手を加えて、企業行動を変え、市場を健全な状態に保つというSCP理論に基づいた取り組みです。
ここでは、SCP理論の基本的な考え方と、
- バリューチェーン
- 移動障壁
- 3つの基本戦略(ジェネリック戦略)
- ファイブフォース分析
などのマイケル・ポーター教授のSCP理論に関連するフレームワークについてもわかりやすく図解します。
「SCP理論」でGoogle検索すると、入山章栄教授 著「世界標準の経営理論 」の要約記事(あるいは本家のダイヤモンド社の記事 )が検索結果に表示されることが多いですが、ここでは別の視点も加えながらわかりやすく解説します。(もちろん、入山教授の著書も大変わかりやすく解説されているのでおすすめです。)
SCP理論:企業業績は業界構造によって決まる
SCP理論は、1930年代に始まった初期の産業組織論(Industrial Organization、アイオー)である、古典的産業組織論(Old IO、オールド・アイオー)のベースとなっている考え方です。
SCP理論はその頭文字の順番どおり、
- 業界の構造(Structure)が企業の行動(Conduct)を決定づける
- 企業の行動(Conduct)が企業の業績(Performance)を決定づける
という主張です。
図で表すと以下のとおり。
言い換えれば、
- 企業が儲かるかどうかは業界構造が決めてしまう
ということ。
このSCPモデルの源流は、経済学者のエドワード・メイソン教授による研究(1939年)と、ジョー・ベイン教授の研究(1956年、1968年)まで遡ります。
ではなぜ、1930年代の学者たちが研究を始めたかと言うと、
- 国内産業が健全に成長するためには、適度な競争環境が必要
だからです。
経済学ではあまり適切とは言えない競争環境を、
- まったく競争が無い状態 = 独占(Monopoly)
- 誰も差別化できない状態 = 完全競争(Perfect Competition)
と定義することがあります。
独占と完全競争以外の状態として「独占的競争(Monopolistically competition)」や「寡占(かせん、Oligopoly)」が存在しています。ほとんどの業界が、独占的競争か寡占のいずれかに当てはまります。
そして1930年代にこれらについて焦点を当てたのが、経済学者のジョージ・ロビンソン教授やエドワード・チェンバレン教授でした。完全競争以外の独占的競争・寡占・独占の3つを合わせて「不完全競争」と呼び、産業組織論の発展につながりました。
以下の図は、あまり望ましくない競争環境である完全競争と独占が起こる条件をまとめたものです。
特に、SCP理論の文脈では枠で囲んでいる条件(各3つずつ)について語られます。
独占、つまり特定の業界を1社が牛耳ってしまえば、その状況にあぐらをかいて産業が発展しにくくなります。ライバルがいなければ、頑張って製品を改善する必要はありませんよね。
逆に、完全競争、つまり無数の企業がまったく同じ製品を売っている場合は、みんなが同じ値段で同じものを売るだけなので、誰も儲けることができなくなります。
いずれの状況でも、その産業は発展しづらくなってしまいます。産業が発展しづらいということは国が豊かにならないということ。
政府としては、国が豊かになるように様々な産業を発展させたいわけですから、独占や完全競争が起こらないような経済政策を打たねばなりません。
だから業界構造が企業業績にどのように影響を与えるかの研究、つまり産業組織論が研究されるようになったのです。
…と、ここまではミクロ経済学のお話。
実はこの後、1970年代後半から1980年代にかけて、産業組織論のSCP理論が経営学に持ち込まれ、経営戦略の分野で一大ブームが巻き起こりました。
その火付け役となったのが、マイケル・ポーター教授です。