ビジネスモデルの論文を大量に分析した論文でわかったこと
ビジネスモデルを語る上で絶対に外せないのが、ゾット教授、アミット教授、マッサ教授の3人による2011年の論文、
- The Business Model: Recent Developments and Future Research(ビジネスモデル:近年の発展と将来の研究)
です。
この論文では、1975〜2009年までの35年間に発表された学術論文および実務者向けジャーナルの中から、タイトルやキーワードに「ビジネスモデル」が含まれている論文 1,253 本を抽出。さらにそこから基準を設けて、有益な論文を133本まで厳選しています。
この133本に加えて、ビジネスモデルに関する書籍103冊を加えた、合計236本もの情報源からメタアナリシス(分析結果の分析)を行なっています。
…なんとも気の遠くなりそうな話ですが、この3人の教授はやってのけたわけです。ゾット教授&アミット教授コンビのビジネスモデル研究に対する情熱は畏敬の念さえ覚えます。
ということでこの論文を読まずにビジネスモデルを語るわけにはいかないので、筆者も何度も読みました。論文のタイトルで検索すれば普通に読めるので、気になる方はぜひ読んでみてください。
ドットコムバブルで世に広まった「ビジネスモデル」という言葉
「ビジネスモデル」という言葉は、アメリカのドットコムバブル(インターネットバブル)と共に使われ始めました。下のグラフは、ビジネスモデルに関連する論文や記事の発行件数をグラフにまとめたものです。
濃いグレーが学術誌に掲載された論文(PAJ)で、薄いグレーが学術誌以外に掲載された記事(PnJA)の本数を表しています。
本数の急増が始まった1995年はマイクロソフト社のWindows 95が登場した年であり、インターネットが一般消費者の身近なものになった年でもあります。
同じ頃、インターネットを利用した様々なビジネスが生まれ始め、ドットコムバブルになりました。GAFA(ガーファ:Amazon 1993年創業、Apple 1997年に創業者スティーブ・ジョブズ氏がCEOに復帰し第2創業、Google 1998年創業、Facebook 2004年創業)の躍進もこの時期から始まりました。
ドットコムバブルが弾けた2000年代初頭は、「ビジネスモデル」に関連する記事も一時的に減少しますが、その後も爆発的に増えていることがグラフでわかります。
ビジネスモデルの定義が定まらない理由
冒頭でもお伝えしましたが、いまだにビジネスモデルの共通の定義は存在していません。その理由は、ビジネスモデルで何を説明しようとしているかが、研究内容によって異なるためです。
それでもゾット教授らは、236本の論文や記事を大きく以下の3つに分類しました。
- ネットビジネスと組織におけるITの活用に関する研究
- 価値創造、競争優位、企業業績などの戦略的課題に関する研究
- イノベーションと技術管理に関する研究
1つ目のネットビジネスやIT活用に関する研究については、ビジネスモデルという言葉がインターネットの普及と共に広がった経緯と一致します。人々は、インターネットという新しい技術がどのようにビジネスに影響するのか研究しようとしました。
2つ目の戦略的課題に関する研究については、元来の経営学の主流となる研究目的であり、企業がどのように価値の提供を行うかを説明します。この分野の研究では、ビジネスモデルの違いが競争優位を生み出すことや、利害関係者との協力による価値創造などが研究されています。
3つ目はイノベーションに関する研究で、
- ビジネスモデルによって革新的なアイデアや技術が商品・サービスとして提供される
- ビジネスモデル自体をイノベーションの対象と考える
といったことが論じられてきました。
このように、何をテーマとするかによってビジネスモデルの役割が異なり、定義も異なってくるということがご理解いただけたかと思います。
ちなみに、私が冒頭で紹介した定義は、2番目の戦略的課題をテーマとする研究における定義に近いものになります。これが正解というのはありませんが、このサイトを訪れた皆さんが求めているものには近いと思っています。
さて、ここまでは定義がバラついているというお話でしたが、次のページでは、逆に数々の研究で共通していることについて解説します。