ビジネスモデル・キャンバスと9つの要素
ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスモデルを構成する9つの要素をブロックとして組み合わせたフレームワークです。
アレックス・オスターワルダー 教授が中心となって開発したもので、現在では、オスターワルダー氏が創業したStrategyzer(ストラテジャイザー) 社というコンサルティング会社が普及を行っています。
一見、図解のようにも見えますが、どんなビジネスを説明する場合でも9つの枠は固定なので、図解ではなくフレームワークに分類されます。
ビジネスモデルキャンバスを生み出した論文
このビジネスモデルキャンバスには、元になった学術論文が存在しています。
それが、オスターワルダー教授&ピニュール教授コンビによる2004年の論文、
- An Ontology For E-Business Models(Eビジネスモデルのための概念体系)
です。
この論文では、ビジネスモデルキャンバスの原型になった、12の要素で構成された図が掲載されています。
最初の画像と見比べていただくとわかりますが、すでに9つの要素が同じような位置関係で登場しています。
さらに、タッチ教授を加えた3人による2005年の論文、
- Clarifying Business Models: Origins, Present, and Future of the Concept(ビジネスモデルを明らかにする:概念の原点、現在、そして未来)
では、ビジネスモデルの要素を9つのビルディングブロックとして紹介しています。
これらの論文は、前述のゾット教授&アミット教授コンビの2011年論文と同じく、ビジネスモデルに関する論文を分析するメタアナリシス論文です。
オスターワルダー教授らも、当時入手可能な多数の論文や書籍、記事などを手掛かりに、ビジネスモデルを構成する要素として9つにまとめ上げました。
ビジネスモデルキャンバスの9つのブロック
ビジネスモデルキャンバスのフレームワークでは、9つの枠の中にビジネスの要素を書き込み、矢印などで要素同士を繋ぐことで分析を行います。
詳しい説明は、上記の書籍に任せて、ここでは簡単に9つの要素を紹介します。
顧客セグメント:Customer Segments(CS)
顧客セグメント(CS)は、どのような価値提案を行うかを決定づける重要な要素です。「誰のために価値を創造するのか?」「最も重要な顧客は誰なのか?」といった問いに答えます。
価値提案:Value Propositions(VP)
価値提案(VP)では、顧客のニーズに応え、問題を解決する具体的な商品やサービスについて言及します。「どういった問題の解決を手助けするのか?」といった問いへの答えが価値提案です。
チャネル:Channels(CH)
チャネル(CH)では、顧客に対してどのように価値を届けるかについて、流通、営業活動、販促活動などについて考えます。マーケティングでは「Place:流通」「Promotion:販売促進」などが該当します。
顧客との関係:Customer Relationships(CR)
顧客との関係(CR)では、顧客との関係性構築に関連する全てのことを記述します。顧客が商品やサービスに期待することだけでなく、企業側が顧客に期待する事柄についても書き出します。
収益の流れ:Revenue Streams(RS)
収益の流れ(RS)では、顧客が何に対してお金を払い、どれくらいのお金を払い、どのようにお金を払うことを望んでいるのかについて記述します。
リソース:Key Resources(KR)
リソース(KR)では、ビジネスを回すために必要なヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源や、施策の実行能力(ケイパビリティ)などについて記述します。
主要活動:Key Activities(KA)
主要活動(KA)では、ビジネスモデルの実行に必要な活動を記述します。企業内で完結する活動だけでなく、パートナーとの活動も含まれます。
パートナー:Key Partners(KP)
パートナー(KP)では、前述のリソースや主要活動を共同で行うサプライヤーなどについて考えます。特に、ビジネスモデルの成立に関わるパートナーの存在は非常に重要です。
コスト構造:Cost Structure(CS)
コスト構造(CS)では、リソースや行動、価値提案などに必要なコストをすべて記述します。変動費や固定費などの会計的な視点に加え、規模の経済性や範囲の経済性などの経済学的な視点も必要になります。
ビジネスモデルキャンバスは有用だが難易度が高すぎる
ビジネスモデルキャンバスは、利害関係者と共同で行う価値創造の活動についてもカバーしており、ビジネスモデルの表現としては過不足無いかと思います。
しかし世界中で勉強会が開催されているものの、「難しい」「使いにくい」といった声も絶えません。実際に「ビジネスモデルキャンバス」でキーワード検索すると、検索候補に「ビジネスモデルキャンバス 使えない」といった候補が表示されるほどです。
9つのブロックに書くべき内容がわかりにくい
ビジネスモデルキャンバスが難解な理由の1つが、ブロック(要素)のわかりにくさです。
例えば「チャネル(CH)」という要素は、マーケティングの文脈では「流通・輸送」「店舗立地」「品揃え」といった意味で使われます。
しかし、ビジネスモデルキャンバスでは、広告や販売促進活動、営業活動といったことまで含まれているため、アイデア出しの際に抜け漏れが発生しやすくなります。
また「顧客との関係(CR)」という要素では、
- Amazonが顧客を商品レビューの執筆に誘う
ことを著書で具体例として挙げていますが(「ビジネスモデル・ジェネレーション」29ページ)、ピンと来ない人もいるはず。
このように、各ブロックのカバーしている範囲が広く、直感的に当てはめることができないため、わかりにくいという印象を抱く人も多いようです。
ビジネス全体を俯瞰できる人しか使いこなせない
もう一つの難しさは、ビジネスモデルキャンバスを埋めるためには、ビジネス全体を見渡せる視座が必要だということ。
逆に言えば、視座を養うためのグループワークや研修の題材としては最適なので、グループで取り組み、視座の高さを複数の視野でカバーすることが求められます。