エージェンシー問題に対応する複雑な仕組み
先のページでご紹介した、登録させて→ヒアリングして→マッチングさせて→成功報酬をもらうというビジネスの流れですが、転職エージェントの内部では、複雑な仕組みも動いています。
ここではそのビジネスモデルの仕組みについて、
- 手間暇と報酬はトレードオフ
- 営業ノルマを課して売上を確保
- 返金規定で品質低下に歯止め
の3つのポイントで説明します。
手間暇と報酬はトレードオフ
キャリアアドバイザーの受け取る報酬は、固定給と歩合給の2種類があります。そのうち歩合給については、採用が成立するほど増えます。
しかしこの構造には、
- ヒアリングに時間を割くと、時間効率が低下し、採用件数が減り、歩合給も減る
- 歩合給を増やすためには、ヒアリング時間を減らし、時間効率を高め、採用件数を増やす
といったトレードオフが存在しています。つまり、手間暇と歩合給は両立できないということ。
実際にはここまで単純ではありませんが、手間暇をかけすぎると件数を稼げない、というのは事実です。
この関係性を図解したものがこちら。
もちろん会社(転職エージェント)としては、求職者と求人企業双方に長期的に満足してもらえる採用が実現するのが望ましいのですが、歩合給を取り入れている場合は、からなずしもキャリアアドバイザーの利害と一致しません。
では「完全に固定給にすれば良いのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、その場合は1件も採用されなくても給料がもらえるという状況になってしまうので、こちらも会社にとっては不都合なのです。
このような状態は、プリンシパル=エージェント理論で説明される関係性であり、エージェンシー問題とも呼ばれます。
このエージェンシー問題を解決するために、社内に以下の2つの仕組みが導入されています。
営業ノルマを課して売上を確保
まずは営業ノルマ。
求人企業にとっては、人材を採用できることが価値になるので、その価値を高めるために「営業ノルマ」を課します。
キャリアアドバイザーが営業ノルマを消化できれば、求人企業の利用体験を維持することはできるかもしれません。
その一方で、限られた時間でより多くの転職者にあたらなければならず、一人あたりの転職者へのヒアリング時間は減少します。その結果、転職者のニーズに合わない企業を紹介され、採用人材の定着率が低下するといった弊害も生じる可能性があります。
そこで、さらに次の仕組みを導入しています。
返金規定で品質低下に歯止め
返金規定というのは、
- 紹介した人材が一定期間内に退職した場合に手数料の一部を返金する規定
のこと。
これは求人企業にとってはリスクが低減する要素ですが、キャリアアドバイザーにとっては「定着しない人材を安易に紹介できない」という抑止力になります。結果、転職エージェント全体のサービス品質の向上につながります。
こちらも図に加えてみましょう。
返金規定があることで、キャリアアドバイザーは返金が発生しない程度に、求職者や求人企業のヒアリングに手間暇をかける必要が生じます。結果、求人企業の利用体験はある程度の水準で下支えされます。
ここまでをまとめると、キャリアアドバイザーは、
- アメ:歩合給
- ムチ:営業ノルマ、返金規定
という複雑なアメとムチの作用によって、サービス品質をコントロールされているということがわかります。