帰納法(きのうほう):出来事からパターンを見つけて推測する
帰納法とは、
- 複数の出来事とその結果から規則性を見つける
思考法です。
英語では「Inductive Reasoning(インダクティブ・リーズニング)」などと呼ばれます。
図で表すと、下記のようになります。
帰納法では、
- A ならば B
ということが何度か起こると、「A ならば B」というパターンを発見することができます。
この帰納法は、狭義では「枚挙的帰納法」とも呼ばれたりします。根拠になる事例を「枚挙する(いくつも挙げる)」ことで推論を行うためです。
例えば、もしあなたが「株式投資」に興味がった時、
- 出来事:同僚の買った株が上昇して「儲かった」と言っている
- 出来事:友人の買った株が上昇して「儲かった」と言っている
- 出来事:ニュースで株を買って儲かった人がたくさんいると言っている
ということが起こった場合に、どのような推論をするでしょうか?
帰納法であれば、
- 仮説:株を買ったら株価が上昇して儲かる
という推測をしてしまうかもしれません。
ただし、これはあくまで「仮説」であり、「株を買うと儲かる」という因果関係を証明するものではありません。周りにつられて高値の株式に手を出してしまうと、大損をしてしまうかもしれません。(もちろんその仮説が当たって、一緒に儲かる可能性もあります。)
ここで先ほど説明した「演繹法」を思い出してみましょう。
もし、
- ニュースで株で儲かった人の話題が出る頃が株価のピーク
という「一般論」を、あなたが知っていたとします。
そうなると、
- 一般論:ニュースで株で儲かった人の話題が出る頃が株価のピーク
- 出来事:ニュースで株で儲かった人の話題が出た
- 仮説:今が株価のピーク(いま買っても儲からない)かもしれない
という推測をするかもしれません。
このように、帰納法で考えるか演繹法で考えるかで結論は大きく変わるのです。
ここからはビジネスの場面を想定して、別の具体例を挙げてみます。
先ほどの演繹法の具体例では、
- 自社店舗の近くに競合が出店すると売上が減る
という一般論を例に考えてみました。
しかし、このようなビジネスでのノウハウや情報などは、最初からすべてわかっているわけではありません。初めて挑戦することや前例のないことから将来を予測する場合は、「帰納法」を使うことがほとんどになると思います。
もし「競合の出店の影響」がまだ分かっていない時点では、
- 出来事:自社店舗1号店の近くに競合が出店して売上が減った
- 出来事:自社店舗2号店の近くに競合が出店して売上が減った
- 出来事:自社店舗3号店の近くに競合が出店して売上が減った
という同じような事例がいくつか観察できた後に、
- 仮説:自社店舗の近くに競合が出店すると売上が減る
という仮説を立てることができるようになります。
そしてこの「仮説」がその後の事例も含めて、統計データなどで裏付けができた時に「一般論」として使えるものになります。
このような「仮説」→「一般論」という流れは、ビジネスの場でよく見かけることができます。
例えば、ある食品スーパーの「購買データ」から、
- 白菜を買う人は鍋用スープも買うことが多い
ということが分かったとします。
ここから、
- 野菜売り場の白菜コーナーの横に鍋用スープをおけば売れる
という仮説を立てることができます。
そして実際に店頭で実験してみる(仮説検証する)ことで、その仮説が正しいかどうか判断できます。
もしその仮説が正しければ、新しいノウハウとして別の店舗での「一般論」として、店舗レイアウトの提案に使うことができるようになります。
帰納法と営業資料
取引先に新しい商品を進める時に役立つのが、「導入事例」や「お客様の声」などの営業資料ですよね。
実際に営業として活動されている方は、効果があるかどうかわからないものを売ることが、いかに大変かを実感されているんじゃないでしょうか。
新しい商品をすすめると取引先は、
- 「で、うちの売り上げは上がるの?他社の事例はないの?」
- 「コスト削減に本当に効果があるの?すでに導入してる会社はどうなの?」
などと聞いてきます。
その時に「導入事例」や「お客様の声」をまとめた資料があれば、受注の可能性は一気に上がります。
その理由は、取引先の担当者が、営業資料の内容を材料に勝手に推論を行なってくれるからです。
一番望ましいのは、裏付けがある「演繹法」での説明です。
過去の統計データから「導入企業の〇〇%がコスト削減に成功しました!」なんて言えたら説得力があります。しかし、演繹法で使えるような根拠(一般論)が手に入るまでには時間がかかるので、初期の営業活動では使えません。
そこで登場するのが「帰納法」を使った説明です。
帰納法では、いくつかの少ない事例があれば、受け手の方が「うちの会社も成功事例のようになるかも」という仮説を立ててくれます。
その成功事例が、たとえ導入した10社のうちたまたま上手くいった3社の事例だったとしても、受け手がそのことを知らなければ「成功する」という推論に誘導することができます。
もちろん、情報操作をすることはあまりよくないことです。しかし逆の立場になることを考えれば、悪意のある会社の「帰納的営業資料」や「帰納的広告」にダマされることを防げるかもしれません。
このことを頭に入れた上で「導入事例」や「お客様の声」を上手く使って、商品の価値を伝えるようにしてみてください。