減価償却とは、
- 固定資産の価値の減少を費用として計算する会計処理
のことです。
機械設備や建物などの長く使う固定資産は、会計ルールによって購入した年度に一括して費用にすることはできません。
そのため購入した時の費用は、長期にわたって「減価償却費(げんかしょうきゃくひ)」という費用として計上します。
その減価償却の様子を表したのが、下図のアニメーションです。
期首に購入した機械設備などの固定資産はすぐに費用として計上せず、決められた年数をかけて目減りした価値の分だけ費用として計上されます。
この「減価償却」や「減価償却費」は、
の2つの財務諸表にまたがって処理されるため、会計の初心者にとっては難関のひとつとして知られています。
目次
減価償却とは?
減価償却(げんかしょうきゃく)とは、機械設備や建物、ソフトウェアといった固定資産を会計ルールに則って、長期にわたって処理していく手法のことです。
この減価償却の処理は簿記や会計を学ぶ上で避けて通れない考え方なのですが、会計の初心者にとっては「鬼門」とも言えるポイントでもあります。
減価償却がややこしい理由としては、
- 現金の出ていく金額と費用になる金額が同じじゃない
- 買ったものが数年経っても普通に使えるのに価値はたったの1円
- 貸借対照表と損益計算書の両方で処理しなければならない
- 損益計算書では販管費に入れる場合とそうでない場合がある
などが挙げられます。
例えば、会社が現金で120万円の新車を買ったら、その年度の費用として「自動車購入費 120万円」みたいに計上したくなりますよね。
でも、実際はそのようになりません。
実際に費用として計上できるのは「減価償却費 20万円」だけです。じゃあお金が20万円だけ減ったのかというと、ごっそり120万円減ってます。
…と、初めて聞いたら「???」となってしまうのも無理はありません。筆者も初めて減価償却の存在を知ったときは、理解するまでに時間がかかりました。
ということで、ここからは図表を交えながら、減価償却費を計上する流れを確認していきましょう。
解説には「貸借対照表(B/S、バランスシート)」や「損益計算書(P/L)」が登場するので、どっちがどっちなのか怪しい方は、こちらの記事で復習をしてみてください。
英語では
- 有形固定資産の減価償却:Depreciation(ディプリシエーション)
- 無形固定資産の減価償却:Amortization(アモータイゼーション)
というように、有形なのか無形なのかで言葉を使い分けるようです。
減価償却費を計上する流れ
減価償却費を計上するまでの流れは、
- 貸借対照表の「固定資産(の該当する資産)」の金額を減らす
- 貸借対照表の「(該当する資産の)減価償却累計額」を増やす
- 損益計算書の「減価償却費」を計上する
といった感じになります。ちなみに「該当する資産」とは、先ほどの自動車であれば「車両運搬具(しゃりょううんぱんぐ)」といった具合に、「固定資産」や「有形・無形固定資産」などよりもっと細かい勘定科目のことです。
これは文字だけで説明するのは難しいので、とりあえず順を追って図で見ていきましょう。
ここでの例では、
- 年度の始めに300万円の自動車を現金で購入
- その自動車の耐用年数は3年
- 3年経っても自動車を使い続ける
という条件で考えていきます。(耐用年数は自動車のタイプごとに違います。ここでは説明や計算をわかりやすくするために300万円で3年という設定にしています。)
購入した年度の減価償却費の処理
では、まず最初に「自動車(車両運搬具)」の購入です。
この購入は「x1年度」の一番最初の日に行われたとします。自動車の購入費 300万円は現金で支払われ、自動車そのものは会社の固定資産になります。
そのため貸借対照表の、
- 流動資産の「現金預金」が 300万円減少
- 固定資産の「有形固定資産」(の「車両運搬具」)が 300万円分増加
します。
この段階でお金は外に出て行っているものの、貸借対照表の上では、
- 「現金預金」が「車両運搬具」に置き換わっただけ
と考えます。
つまり資産が減ったわけではなく、資産の状態が変化しただけということです。
言い換えると「現金預金」と「車両運搬具」を交換してもらった、というイメージになります。
それから1年間、自動車を使い続けると価値が減ります。見た目はほとんど変わらなくても、走行距離が増えたり部品が消耗したりしますよね。
この自動車の「耐用年数」は3年と決められているので、1年経つと価値が3分の1減ってしまいます。
そのため「x1年度」の最後の日(期末)には、資産の価値が300万円から200万円に「100万円」減ってしまいました。
そしてその減った「100万円」は、貸借対照表の「車両運搬具」の「減価償却累計額」として記録されます。そのため会社の資産そのものが「100万円」減ることになります。
さらに、その「100万円」はその年の商売に必要だった費用として、貸借対照表の「減価償却費」として計上されます。
このようにして、その年度の初めに購入した自動車は、
- 固定資産の「有形固定資産(の車両運搬具)」として計上される
- 1年間で減った価値に相当する「車両運搬具」が減って「減価償却累計額」が増える
- その減った価値がその年の商売に必要な費用だったとみなされる
という流れで減価償却費の処理がされます。
ちなみに今回の例では、
- 「販管費(販売費及び一般管理費)」の「減価償却費」
として処理されていますが、製造などに直接関わる装置や工場は、
- 「売上原価」の製造原価として計算された「減価償却費」
として処理する必要があります。
購入した翌年度の減価償却費の処理
翌年の「x2年度」は「x1年度」の最後の日と同じ状態からスタートします。
この年も同様に自動車を1年間使ったので、資産の価値がさらに「100万円」減ります。
つまり、
- 1年間で減った価値に相当する「車両運搬具」が減って「減価償却累計額」が増える
- その減った価値がその年の商売に必要な費用だったとみなされる
といった会計処理が行われ、「x2年度」の期末には自動車の価値が100万円まで減りました。
そして「減価償却費累計額」の金額は、「x1年度」の「100万円」と「x2年度」の「100万円」の合わせて累計「200万円」まで増えました。
さらに「x2年度」に減った価値の「100万円」は、損益計算書の「減価償却費」になって、その年の商売に必要だった費用として処理されます。
価値がなくなる年度の減価償却費の処理
自動車を買ってから3年目になる「x3年度」も、「x2年度」の期末と同じ状態でスタートします。
この年も昨年同様に、資産の価値が「100万円」減るのかと思いきや、最後の年は期末に「99万9999円」の価値が減ることになります。
そして「車両運搬具」は「1円」だけが価値として残ります。
この「1円」は「備忘価額(びぼうかがく)」と呼ばれ、「忘れ去らないための価額」という意味があります。(価額は「かかく」ではなく「かがく」と読みます。)
なぜこんな変な処理をするかというと、
- 0円にしてしまうと帳簿から存在が消えてしまうから
です。
つまり完全に書類上の価値をゼロにしてしまうと幽霊のような固定資産になってしまい、普通に自動車を使っているのに、帳簿上では存在しないという状況になってしまうのです。
最初の前提条件として、
- 耐用年数は3年
ということをお伝えしていましたが、これは固定資産の種類によって会計ルールで年数が決まっています。そのためその年数が経ったら、帳簿上の価値はゼロになってしまいます。
しかし一般的には耐用年数以上の期間で使うことも少なくありません。そのような場合に、固定資産が帳簿から消えてしまわないように、便宜上「1円」という価値を残して記録することになっています。
そしてこの自動車を使い続ける限りは、備忘価額「1円」の固定資産としてずっと残り続けることになります。
もし自動車を使い続けずに耐用年数の最後の日に廃棄する場合は、固定資産はゼロになります。
また、同じ固定資産でもソフトウェアなどの形がない「無形固定資産」は、耐用年数以上に使い続けたとしても固定資産はゼロです。
これは「1円」が「物理的に存在している」という意味であるため、物理的に存在しない無形固定資産はゼロ円として処理されます。
減価償却費の計算方法
ここまでは減価償却費が処理される流れを確認しました。
ここからは減価償却費の具体的な計算方法を確認していきたいと思います。
まず減価償却費を計算するためには、
- 取得原価:固定資産を買った時の値段
- 耐用年数:会計ルールで決められた種類ごとの償却年数
を知る必要があります。
取得原価については、買った時に払った値段を記録するだけです。しかし面倒なのが耐用年数で、固定資産の種類ごとに細かく決められています。
耐用年数は下記のページで確認することができますが、ページをスクロールするとたくさん表示されてうんざりすると思います。
参考 減価償却資産の耐用年数等に関する省令e-Gov 電子政府の総合窓口しかし面倒ですが、耐用年数はこの会計ルールで決められた年数に従って処理しなければいけません。
…ということで、取得原価と耐用年数がわかれば、
- 定額法(ていがくほう):一定の金額で減価償却する
- 定率法(ていりつほう):一定の割合で減価償却する
という2種類の計算方法を選ぶことができます。
ちなみに先ほどの自動車の例は、定額法での計算になっています。
ものを買えば全て減価償却するわけではなく、10万円未満のものは消耗品としてそのまま費用として一括で処理できます。例えば、10万円以下のパソコンを買っても、減価償却せずに買った年度の費用として計上ができます。
また、10万円以上20万円未満の固定資産であれば「一括償却資産」という処理で、3年間で均等に焼却することができます。
その他にも簿記には様々な細かいルールが存在しています。
定額法での減価償却
定額法での減価償却は、
- 取得原価を耐用年数で割る
という方法で計算することができます。
定額法の減価償却費は毎年同じ金額になり、一定のペースで固定資産の価値が償却されていきます。
定率法での減価償却
一方で、定率法での減価償却は、
- 直近の固定資産の価額(帳簿価額、残存価額)に年償却率をかける
という方法で計算します。
例えば、
- 取得原価:500万円
- 耐用年数:5年
- 年償却率:40%
- 改定償却率:50%
- 保証率:10.8%
であれば、下図のようなグラフになります。
ここで途中から償却率が「50%」に変化しているのが気になると思うのですが、これは「改定償却率」というものが存在しているからです。目減りした固定資産の価額が取得原価に「保証率」をかけた金額を下回った場合に、「改定償却率」で計算することになっています。
ただし今回は簿記の解説ではないので「改定償却率」や「保証率」についての詳しい計算は割愛します。
とりあえず会計初心者の方は、定率法は一定の割合で固定資産の価値を償却する、と覚えていれば今回は十分です。
耐用年数ごとの「改定償却率」や「保証率」については、詳下記リンクの「別表第十」をご覧ください。
参考 減価償却資産の耐用年数等に関する省令e-Gov 電子政府の総合窓口減価償却費まとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
減った現金の額と費用が一致しないのはなぜ?
会計ルールとして固定資産には「耐用年数」が設定されていて、その年数に従って少しずつ費用に計上しなければならないからです。そのため現金一括で支払ったとしても、その年度には金額の一部しか費用として計算されません。
その結果、支払った現金とその年度の費用として認められる金額に差が生まれます。
まだ使えるのに資産価値がなくなるのはなぜ?
会計ルールとして「耐用年数」が過ぎれば帳簿上の価値が1円になる、と決められているためです。しかし実際は、帳簿上の価値がなくなっても普通に固定資産を活用することができますし、その固定資産を帳簿の価額よりも高く売却できることは多くあります。
これはあくまで帳簿の価額は会計ルールに従った数字というだけであって、実際の固定資産そのものが持っている価値とは違うのです。
たった1円で記録されてる固定資産にはどんな意味があるの?
減価償却で帳簿上の資産の価値がなくなると、その資産を手放すまで「1円」のまま残ります。
これは「備忘価額(びぼうかがく)」と呼ばれ、存在を忘れないようにするための処理になります。
もし価値を「0円」にしてしまうと、帳簿上から消えてしまい管理ができなくなってしまいます。そういったことを避けるために、償却が終わっても使い続けている資産は「1円」で記録しておきます。
売上原価に含まれる減価償却費と、販管費の減価償却費は何が違うの?
違いは、その資産が売上に「直接」関わるのか「間接」的に関わるのかによります。
例えば製品の生産に直接的に使用される機械や装置、工場などの「減価償却費」は原価計算を経て「売上原価」として処理されます。
しかし生産に間接的に関わる事務所の建物や営業用の車両などは、「販売費及び一般管理費(販管費)」の中にある「減価償却費」として処理されます。