SmartHRのビジネスモデル図解:資金調達とユニコーン化までの変遷

15億円(シリーズB)の資金調達と成長戦略

SmartHRは、2018年1月に15億円の資金調達を果たします。

今回の「シリーズBラウンド」の資金調達は、事業が軌道に乗り、利益を生み始め、さらなる成長が期待される段階で行う資金調達です。つまり「事業の勝ちパターンがある程度明確になった」ということ。

資金調達には、SPV(Special Purpose Vehicle、特別目的事業体)を経由した方法で行なっています。

ここではSPVについて詳しく説明しませんが、以下のカルアパ氏の書かれている説明が分かりやすかったので、詳細が気になる方はぜひ読んでみてください。

簡単に言えば、別会社を作って投資家のお金を集め、利益が出たらその会社を使って配当などを行う、という仕組み。

今回は、直接ではなく間接的に15億円の資金調達を行なっています。

補足

なおシリーズBには、東京海上日動火災保険株式会社も出資しています。人事労務と保険は相性が良いので、非常に良い投資なのではないでしょうか。アメリカで人事労務サービスを展開する「Zenefits(ゼネフィッツ)」も保険販売を行なっており、蓄積された人事労務データは別事業での収入源になる可能性があります。

また、プレスリリース では調達した15億円を、

  • SmartHRの開発費
  • 人件費
  • マーケティング活動費

に投じることが言及されています。

ここまでお読みいただいた皆さんはすでにお分かりだと思いますが、要するに、これまで以上に激しくループをぶん回す、ということです。

この時点で顧客は9,300社を超え、翌月には10,000社の大台 に載せています。シリーズAで調達した5億円で行なった、「¥0プランの導入」「テレビCM」などの新規顧客獲得と、「カスタマーサクセスチームの設置」による顧客の定着策が功を奏したように思います。

ここでもう一度、2018年1月時点での戦略ループ全体を振り返ってみます。

SmartHR 15億円の資金調達

投資家からの「資金調達」は、「利益・資金」を増やすわけですが、

  • 「ブランドの信頼性」を高め、新規の顧客を獲得する内側のループ
  • 「顧客のHR業務効率」を高め、「継続顧客数」を増やす外側のループ

の両方のループを回す流れが完成していることがわかります。

リリース前後は、内側の「ブランドの信頼性」ループを回すために、創業者の宮田氏がトップセールスに奔走していたわけですから、随分と状況が変わりましたね。

「継続顧客数」についても、当時の月間退会率は0.3% (つまり毎月99.7%の顧客が継続する)ということで、「顧客ロイヤリティ」と「スイッチングコスト」が十分に高まっているといえるでしょう。

中長期戦略としての「プラットフォーム化構想」

15億円の資金調達から8ヶ月後の、2018年9月11日に、SmartHRは自社イベントにて「プラットフォーム化構想」を発表 しました。

プラットフォーム化構想は、

  • アプリストア「SmartHR Plus」の展開
  • 外部連携サービスの強化

の2つが主な構成要素です。

ではなぜ、サービスのプラットフォーム化に舵を切ろうとしたのか?

その理由は、

  • 顧客の増加による顧客ニーズの多様化への対応

が経営課題として持ち上がってきたからです。

戦略ループに要素を書き加えると、以下のとおり。

SmartHRのプラットフォーム戦略

この時点で、顧客は16,000社を超え、顧客の業種も従業員数もリリース時に比べると大幅に多様化しています。

つまり、

  • 「継続顧客数」が増えると「顧客ニーズの多様性」が高まる
  • 「顧客ニーズの多様性」が高まると、提供サービスと顧客ニーズの不一致が増加し「顧客のHR業務効率」の改善を抑制する効果が生まれる

ということ。

上図では、赤い線で表現したループへの対応が経営課題になっているということです。

これを抑制するのが、ループ上では、

  • UX/UI改善活動(≒アプリストア「SmartHR Plus」の展開)
  • 連携可能サービス数(=外部連携サービスの強化)

への投資となります。

また「連携可能サービス数」が増えることは、SmartHRだけでは満たすことができない機能を補うだけでなく、他のサービスを使用している顧客の「導入ハードル」を下げることにもつながります。

すでに他のサービスで入力したデータがSmartHRで使えたり、逆にSmartHRのデータを別のサービスと連携させたりできれば、導入する動機になるはずです。

2018年9月時点で、連携可能なサービスは12にのぼり、さらに執筆時点では40以上ものサービスと連携可能 となっています。

以下の記事では「プラットフォーム化構想」について、更に詳しく語られています。

Salesforceのアプリのようなイメージで、機能追加に外部リソースを利用して、SmartHR自体は「人事データベース」の側面を強くしていくとのこと。

会計ソフトの「freee」も同様のプラットフォーム戦略を進めています。

カスタマーサクセスの更なる強化

前回の5億円の資金調達の後に、体制を整えた「カスタマーサクセス」チームですが、今回の15億円の資金調達後には更に人数を増やしています。

SmartHRカスタマーサクセスの強化

こちらの資料 によると、5名体制だったカスタマーサクセスチームは、

  • 2018年6月:7名
  • 2018年12月:11名
  • 2019年1月:12名
  • 2019年6月:13名

と、わずか1年ほどで2倍以上に増やしています。

2018年12月時点で、顧客数が19,000社(前年の倍以上)まで増加 しており、カスタマーサクセスの増員は顧客体験を維持するには急務であることが伺えます。

人事労務研究所の設立

2019年7月に、SmartHRは「人事労務研究所」を設立しました。

SmartHR人事労務研究所の設立

人事労務研究所設立のプレスリリース では、

  • 人事労務のベストプラクティス(最も効率的で効果的な方法)の定義
  • クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の企画
  • 学術的な観点から人事労務の分析
  • 自社および子会社の労務業務
  • 人事労務の新しいキャリアの構築・提供

の5つの役割を担うことが挙げられています。

こちらの動きについては、上記のループ図のとおり、

  • 人事労務ノウハウ

を強化する動きであり、カスタマーサクセスの知見も併せて「顧客のHR業務効率」の向上につながります。

そしてこの設立の翌週、シリーズCラウンドの資金調達として61.5億円の資金調達が決まります。

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