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DELLの戦略ループ:直販+受注生産(BTO)で世界のPC市場を席巻した伝説の事業戦略

デル直販モデル

幅広い顧客をサポートするためのコストの影響

1977年に、Appleがパソコンの「Apple II(アップル・ツー)」を世に送り出し、パーソナルコンピューター市場が花開きました。

それを追うように、翌年には日本のNECが市場へ参入。そして1981年には、巨大企業IBMもパソコン市場へ参入します。ちなみに当時のIBMのパソコンは、現在「PC」と呼ばれるパソコンの源流となるものです。

1980年代には、大小様々なパソコンメーカーが乱立し、群雄割拠のパソコン戦国時代へと突入しました。そんな中、1990年前後に急速に成長したのがマイケル・デル氏の率いるパソコン製造販売「DELL」でした。

DELLは「IBM PCのクローン」を安価に供給することで、1999年には世界最大のパソコンメーカーとなりました。

でもDELLはなぜ、PC戦国時代に天下を取ることができたのでしょうか?

その戦略の秘密を知るために、まずは一般的なパソコンメーカーの戦略から見ていきましょう。

パソコンの普及で増加する顧客

1990年代は、パソコン普及率の上昇を追い風に、市場が急速に拡大していた時代です。

上記の戦略ループをみると、

  1. パソコン普及率が高まるほど、法人顧客・個人顧客の数が増える
  2. 法人顧客・個人顧客の数が増えるほど生産量と利益が増える

ということがわかります。

メーカーが、法人客も個人客も両方取りに行く理由は、規模の経済性を得るためです。

規模の経済とは、

  • 生産の規模が大きくなればなるほど製品1つあたりの平均コストが下がる状況

のことで「スケールメリット」とも呼ばれます。

要するに、たくさん生産すればコストが下がって儲かる、ということです。

さらに、たくさん生産すればたくさん部品を買うということ。そうなると、部品メーカーに対して圧力をかけれるようになります。

生産量の増加と部品メーカーとの交渉力

つまり、

  1. 生産量が増えるほど、部品メーカーとの交渉力が高まる
  2. 部品メーカーとの交渉力が高まるほど、
    • 部品を安く調達して、パソコンの価格を下げられる
    • 最新の部品を確保して、パソコンの性能を上げられる

ということが可能になります。

これはマイケル・ポーター教授の「ファイブフォース分析」にも関連する話です。

ファイブフォース分析:5つの競争要因

パソコンの部品メーカーは、上の図では供給業者にあたります。

供給業者に対する交渉力が上がれば、供給業者からの競争圧力は減る。圧力が減れば、ビジネスが儲かりやすくなります。

この結果、

  • 高性能なパソコンを
  • より多くの顧客に

届けるために優位な状況になります。

しかし、より多くの顧客にパソコンを届けるということは、

  • 購買後のカスタマーサポート

も手厚くする必要があります。

ということは、サポートコストもかかる。それが以下の図です。

サポートコストは価格の押し下げ要因となる

ここで注目いただきたいのが、法人と個人顧客から伸びる矢印の種類の違いです。

  • 法人顧客数が増えるほど、サポートコスト減る
  • 個人顧客数が増えるほど、サポートコスト増える

という関係性です。

もちろん、どちらの顧客をサポートするにも一定のコストはかかるのですが、

  • 法人顧客には社内にシステム管理部が存在している
  • 個人顧客は専門家もいるが完全な素人も多く存在してている

ということが関係性の違いを生んでいます。

個人顧客は知識のバラツキが大きく、完全な素人がサポートを求めてきたときには、対応時間(=コスト)がかかります。

他方、法人顧客はそもそも社内の専門家がパソコンを取り扱っているから、問い合わせも少ない。顧客の社内で直せない場合は故障しているというパターンも多く、サポートも早々に新品と交換すれば良いのです。だから個人顧客ほどコストはかかりません。

そのため、

  • 法人顧客のサポート比率が増えるほど、サポートコストが減って価格も下がる
  • 個人顧客のサポート比率が増えるほど、サポートコストが増えて価格が上がる

という状況が生まれます。

だからと言って、個人顧客を切るわけにはいきません。なぜなら、前述の規模の経済性において不利になるからです。

これはパソコンメーカーにとってのジレンマです。

では、DELLはどうしたのか?

DELLは法人顧客にターゲットを絞った

DELLは、法人顧客だけにターゲットを絞るという戦略を打ちました。(なお、創業当初は個人向けにも販売していたようです。また90年代前半には、大規模量販店での販売を計画していたものの頓挫。個人顧客を本格的に開拓し始めたのは90年代後半のインターネットが普及し始めてからでした。)

生産量においては、個人顧客を狙わない分、競合よりも不利になります。

一方で、サポートコストにおいてはメリットがありました。

法人顧客はサポートコストを引き下げる

顧客を法人に絞ったことで、サポートコストが競合よりも少なくなり、価格の押し下げ効果が効くようになったのです。

つまり、

  • 法人顧客数が増えるほど、相対的にサポートコストが下がり、価格も下がる

という流れが生まれたのです。

違いを戦略ループで比較すると、以下のとおり。

顧客の違いによるサポートコストの違い

比較すると、戦略ループがシンプルになっていますね。

さらに、メリットはそれだけではありませんでした。

競合が「より多くの顧客に」、特に小規模事業者や個人顧客に届けようと販売網を構築している中、DELLは競合のような販売網を構築する必要がなくなります。

これが新しいビジネス戦略を生み出し、競合を圧倒的に引き離す要因になります。

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