DELL直販モデルまとめ
最後にDELLの直販モデルと、一般のパソコンメーカーのビジネスモデル図解を改めて比較してみましょう。
まずは、当時の一般のパソコンメーカーから。
そして、当時のDELLのビジネスモデルがこちら。
戦略が大きく異なる部分は、色付けで表示しています。
筆者がこのビジネスモデルを描いて印象に残ったのは、
- 技術革新スピードと、受注生産体制の相性の良さ
です。
1970〜1980年代に誕生したミニコン・パソコンメーカーは、市場の導入期の真っ只中でした。そのため、パソコン市場の成長期に向けて、大量に、より安価に、安定的に、パソコンを供給する体制を作り上げました。それが卸・小売の販売網と見込生産体制です。
しかし多くのメーカーにとって誤算だったのが、「ムーアの法則」に代表される技術革新のスピードの速さでした。
パソコン部品の性能の向上が、卸・小売の在庫の回転サイクルをも超えてしまい、販売網の構築が性能のボトルネックとなってしまったのです。
そのような状況の中で、在庫を持たないDELLは、技術革新スピードを余すことなく受け止めます。
その結果、事業拡大が加速し、1999年に世界最大のパソコンメーカーにまで上り詰めるに至ったのです。
天下を取ったDELLは、なぜ失墜したのか?
…と、よくあるビジネスモデル解説ではDELLを賞賛して話が終わるのですが、ここではもう少しだけ考察してみたいと思います。
というのも、DELLは1999年に天下をとったものの、その後雲行きが悪くなり2013年には株式の非公開化。そして2015年には世界第3位のパソコンメーカーに転落しました(といっても、世界3位でも十分すごいのですが)。
それはなぜか?
筆者は、
- パソコン市場が成長期後半から成熟期に移行する過程で、DELLのビジネスモデルが顧客ニーズの多様化に対応できなくなった
ことが要因ひとつだと考えます。
つまり、
- 戦略変数が「性能」「価格」ではなくなった
ということです。
DELLの勝ちパターンが通用しなくなったのです。
もう一度、DELLのビジネスモデル図を見てみましょう。
ご覧の通り、DELLの戦略は「性能」「価格」については、圧倒的に競合他社を突き放すことが可能でした。
当時の顧客は法人が中心で、
- より高性能のパソコンを、より安く手に入れたい
というニーズが強かった。だから、DELLは天下を取ることができました。
しかし、1995年のWindows95の登場によって、パソコンも一般家庭に普及するようになります。
もちろんDELLも個人顧客の開拓に本腰を入れ、ネット直販で個人にアプローチを始めます。
やがてパソコンの普及率は高止まりし、どこにでもありふれているアイテムになりました。性能競争についても、徐々に落ち着きを見せます。
その結果、パソコンの戦略変数は、
- 色・形・サイズなどの外観
- 実現するワークスタイルやライフスタイル
- ブランド
などで差別化する方向に移行していきました。
AppleのiMacの登場や、日本勢のブランド力を武器にしたガラパゴス的で多種多様なパソコンの登場は、まさに新しい戦略変数での戦いを物語っています。
そんな中、DELLも同じ方向に舵を取ろうとしましたが、性能向上に特化させた経営資源では追いつけなかったのです。
そして最終的には他者に天下を明け渡すに至りました。
DELLのビジネスモデルからの教訓
ここから得られる教訓は、
- ビジネスモデルや戦略が優れているかどうかは時代の流れが決める
ということです。
特に、DELLは「技術革新」のスピードという時代の風を全面に受け止めたからこそ、「DELL直販モデル」という戦い方が強力な武器になりました。
しかしその風が止んだ時、一気に失速しました。
これはビジネスモデルや戦略が悪いわけではなく、世の中の大きな流れに乗れたかどうかの問題です。
多くのビジネスモデル解説では、時代背景や外部環境について語られることは多くありません。しかし、このDELLのケースを知れば、その重要性は明らかです。
皆さんも、ビジネスモデルを吟味する場合には「世の中の大きな流れ」にも、意識を向けるようにしてみてください。