5億円(シリーズA)の資金調達と新たな3つの打ち手
前回の資金調達から間も無く、SmartHRは2016年8月に5億円を資金調達しました。事業成長の初期段階なので、「シリーズAラウンド」の資金調達になります。
この時には顧客数が1,700社を超え、プロジェクトチームも20名に増え ています。同時に、調達した資金で更に35名まで人員を増やすことも語られています。
前回の資金調達からわずか7〜8ヶ月しか経過していませんが、順調に事業が成長していることがうかがえますね。
この成長を更に加速させ、ループを回転させるためにはどのような打ち手が必要なのか? あなたがSmartHRの経営者なら、5億円を何に使うでしょうか?
実際にSmartHRが5億円の調達後にとった打ち手は、
- ¥0プランの導入
- テレビCM
- カスタマーサクセスチームの設置
の3つです。
「¥0プラン」の導入で導入ハードルを押し下げる
まずは2016年9月に導入された「¥0プラン」 から。
「¥0プラン」はその名の通り、無料でSmartHRを使えるサービスです。
- 従業員数5名以下
- 一部機能制限あり
といった条件もありますが、使用頻度の低い小規模事業者には嬉しいプランですよね。
SmartHRにとっては、従業員数5名以下の顧客から収益が得られなくなる(「利益・資金」にマイナスの影響がある)ので、資金繰りが厳しい時には踏み切るのが難しい策です。しかし、5億円を調達したことで、資金的な心配は無くなりました。
また、「¥0プラン」によって「導入ハードル」が下がる結果、顧客数の増加を促し、「ブランドの信頼性」というループに良い影響を与えます。お金にはなりませんが、導入実績はどんどん増えるでしょう。
つまり、
- 調達したお金を「ブランドの信頼性」に変換する
という作用が強い打ち手と言えます。
実は、この「¥0プラン」の導入以前からも「15日間トライアル(試用期間)」などは設けられていました。しかし、消費者に与える選択肢は大きく異なります。
「15日間トライアル(試用期間)」の選択肢は、
- 15日後に有償で使い続ける
- 15日後に解約する
の2択です。
SmartHRにとっても、顧客を維持できるか失うかの2択になります。互いにリスクは大きい。
他方、「¥0プラン」の選択肢は、
- 従業員数5名以下で、一部機能を無償で利用する
- 従業員数5名以下で、全機能を有償で利用する
- 従業員数6名以上になったら、全機能を有償で利用する
- 従業員数6名以上になったら、解約する
という4択です。
選択肢の分岐も「使用日数」から「従業員数」に変化し、時間に迫られた意思決定ではなく、従業員数という合理性を含む意思決定が求められます。SmartHRにとっても、解約されるリスクは減少しています。
執筆現在では、無料の枠が従業員数30名以下まで拡大していますが、当時以上に顧客基盤の強化に貢献しているはずです。
初のテレビCMでブランドの社会的信頼性を醸成する
その次の一手は、初のテレビCM です。
2017年8月18日から、首都圏でSmartHR初のCMが流れ、公共交通機関のサイネージなどでも動画が配信されています。
CMの範囲は首都圏に絞られていますが、法人数も多く、人口の3分の1が集まる地域なので、広告効率はかなり良いはずです。
CMには俳優の田中要次氏を起用し、テレビ・映画・ドラマで見かける顔でブランドの信頼感の醸成につながっています。(資金調達後のスタートアップがCMに俳優さんを起用するケースはよくありますよね。)
ちなみにSmartHRの従業員数が28名の時にCMを打つ意思決定をしたとのことで、資金があれど、かなりの勇気が必要だったと思います。
サポートからサクセスへ:顧客提供価値の底上げ
次に行ったのは、「カスタマーサポート」を「カスタマーサクセス」に置き換え、1名体制だったものを5名体制まで増やしました。
2つの違いは、
- カスタマーサポート:顧客の問題を解決する
- カスタマーサクセス:顧客を成功に導く
ということ。
例えば、顧客に従業員データの入力方法を教えるのがカスタマーサポートで、顧客の労務作業が楽になる方法を一緒に考えるのがカスタマーサクセスです。(加えて、サクセスはサポートの業務も行います。)
カスタマーサクセスには、顧客が人事労務でどのような課題を持ち、SmartHRを使う上で何につまずき、どのようにすれば効率化が実現できるか、という情報が集まります。
つまり、サクセスはサポート以上に、
- 人事労務ノウハウ
- UX/UI改善活動
などの要素にプラスの影響を与えるのです。
この結果「顧客のHR業務効率」が大幅に改善され、「顧客体験」や「スイッチングコスト」などの要素を向上させることにつながります。
もちろん、この流れを実現するにはエンジニアなどの開発体制が必須なので、カスタマーサクセスを立ち上げる前に、エンジニアなどの人材確保も必要となります。
なお、5人体制のカスタマーサクセスになった時点(2017年12月)で、SmartHR全体のスタッフは30名を超えていたようです。
順調にループの強化に投資を続けるSmartHRは、この翌月さらなる資金調達を実現します。
その額は15億円。