タイミーのビジネスモデル図解:逆選択の抑制と即日入金を実現する驚きの仕組み

タイミーに降りかかるコロナ禍という厄災

2020年の前半から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、当時、飲食店をメインの利用者として事業を拡大していたタイミーにとって大きなダメージとなりました。

以下のグラフは、タイミーへ求人広告を掲載している店舗数と登録している求職者の数(ワーカー数)の推移です。(プレスリリース等の数字を参考にしているため、精緻さには欠けます。)

タイミーの店舗数とワーカー数の推移

正確な数値ではないため、ざっくりとした傾向だけになりますが、黄枠で囲んだ2020年の1年間は、青い棒で表された求職者数(ワーカー数、目盛は左軸)赤い棒で表された店舗数(目盛は右軸)の差が大きく開いていることがわかります。

これは、

  • 飲食店は休業要請などで求人需要が減少
  • 学生等の求職者は新たなバイト先を探すために登録

という状態になっていたと推測できます。

しかしその後、2021年の後半に差し掛かる頃には、店舗数と求職者数のギャップが埋まり、再び求人広告を出す事業者が増えています。

では、タイミーはコロナ禍でどのような対応を行ったのでしょうか?

2020年:タイミーデリバリーの失敗

2020年5月19日に、タイミーは「タイミーデリバリー」をリリースしました。

WHO(世界保健機構)が新型コロナウイルスに対してパンデミック(世界的な流行)宣言をしたのが2020年3月11日なので、わずか2ヶ月余りでのスピード対応です。

タイミーの主要顧客は飲食店なので、飲食店にデリバリーサービスを提供するということが「タイミーデリバリー」というサービス名から想像できます。

しかしタイミーデリバリーは、後に一般的になった「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「出前館」とはビジネスモデルが大きく異なりました。

Uber Eats出前館などは、配達員が注文が入った店舗に料理を取りに行き、注文した顧客に配達するという方式です。店舗は配達員を雇用せず、必要な時だけ利用可能です。

一方、タイミーデリバリーは、まず飲食店が求職者を配達員として短時間雇用し、その時間内に注文が入れば配達するという形態です。店舗は配達員を多く雇用してしまうとコスト効率が悪くなり、逆に雇用が足りないと需要対応ができないというリスクがあります。

飲食店側のメリットとしては以下の記事がわかりやすいかもしれません。

しかし、配達員の立場からはSNS上で以下のようなコメントもありました。

https://twitter.com/triwol20_sibi/status/1541598067841191936

タイミーでデリバリークルーとしてきたのに、した仕事は1020頃にトレー拭き上げのみ

今あるかわからんけどタイミーデリバリーはマジ楽だった。2時間休憩室で座ってるだけで終わることもあったし、配達あっても一件とか。笑

上記のように、飲食店が需要を読み誤ると、雇用のコストだけが出ていくことになります。

コロナ禍では飲食店に対する時短要請や緊急事態宣言の解除などが繰り返され、先が読めない中、デリバリー需要の予測は困難を極めたはずです。

そういった状況で、注文が入った時だけ勝手に来て届けてくれるUberEatsや出前館は、飲食店にとって配達員の雇用リスクをゼロにする有効な手段でした。

一方で、タイミーデリバリーは、飲食店側が配達員の雇用リスクを全て背負う必要があったため、「リスクを負わずに料理を配達したい」というニーズには対応できませんでした。

結果、飲食店の利用が伸び悩み、わずか半年あまり(〜2020年12月20日)でタイミーデリバリーはサービスを終了することとなります。その後は、通常のタイミーの方でデリバリーバイトの従事者をサポートするように舵を切りました。

2021年:物流分野での躍進

長引くコロナ禍の中、タイミーは物流分野で増加する労働需要への積極的に対応することで勝機をつかみました。実は、物流分野への対応は2021年に始まったことではなく、2020年の早い段階でアプローチを始めていました。

上記のインタビュー記事では、

事業を立て直すための戦略を練っていたところ、「物流」と「小売」の業界についてはコロナ禍でも売上が落ちていないということがわかって。

そこで今後は、物流・小売・飲食の各業界に特化したカンパニー制の組織を作り、専門知識を蓄えて一気に営業をしていくことを決めました。

と、代表の小川氏が答えています。

結果的には、戦略変更によって最も花開いたのが物流分野だったということです。

この流れを加速させるように、2021年4月5日からは新たなTVCMが放送されました。

2種類のCMが公開されましたが、「管理者の苦悩篇」の舞台は物流倉庫です。

原田泰造さん演じる物流倉庫の管理責任者が、倉庫内で山積みの荷物を指して「これ全部、今日中に配送だ」と声をかけるも、スタッフからは「人手が足りません」と告げられてしまいます。「え〜〜っ!」と驚く原田さん。しかし、彼にはバイトを集めるあてがあり自信満々にスマホを見せます。「俺たちには200万人の仲間がいる!」という言葉とともに、タイミーに登録しているたくさんの人達が映ります。タイミーを活用することで荷物の運び手やフォークリフトの運転手など、沢山のワーカーさん(*)が集まり順調に配送が進むという内容になっています。

主人公は物流倉庫の管理責任者ということで、雇用主側の視点のCMです。

さらに、2週間後の2021年4月19日から別のTVCMも公開されました。

こちらの主人公は求職者で、CMの最後に物流倉庫らしき場所で働くカットが差し込まれます。

結果、2021年後半にかけて、雇用する側である店舗数や事業所数が大幅に伸び、求職者数とのギャップを大きく縮めることに成功しました。

もちろんTVCMだけでなく、顧客サポートや営業活動、システムの改良やキャンペーン、業務提携など、地道な活動の積み重ねも相まって成功につながったことは想像に難くありません。

タイミー:職種別募集人数の推移

プレスリリース「スキマバイトサービス「タイミー」 累計ワーカー数 300万人を突破〜サービス開始から4年で事業所数は約10倍、募集人数は約19倍に成長〜」より引用

上記のタイミーが公開している数値からも、主要顧客が飲食店から物流分野に大きく移り変わったことがわかります。

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