DELLのビジネスモデル図解:直販と受注生産(BTO)の組み合わせで世界を席巻

決め手は在庫の回転サイクル:DELLの競合は「在庫量」という足枷を付けていた

DELLは法人顧客、つまりB2B(ビジネス・トゥ・ビジネス)市場に絞った結果、卸や小売を経由する販売網を構築する必要がなくなります。

一見、競合に対して不利に思えるこの選択ですが、最終的には圧倒的な顧客満足を生み出す流れにつながりました。

まずは、一般的なパソコンメーカーのビジネスモデルを見てみましょう。

通常、パソコンの販売で得られた利益は、卸や小売を開拓するための営業活動に投資されます。

なぜなら、

  • より多くの顧客に届けるためには、より多くの卸や小売にパソコンを取り扱ってもらう必要がある

からです。

自社のみで販売するには限界がある。自社のパソコンを取り扱う販売網を構築すれば、世界の隅々までパソコンが行き渡る体制を作れます。

つまり、

  • 卸や小売への営業活動が増えるほど、顧客の近くの在庫量が増える

ので、「より多くの顧客」に対する「安定供給」を実現できます。

しかしこれにはデメリットも存在していました。

市場の在庫量の増加は、

  • 在庫管理コストによって販売価格が上昇する
  • 在庫回転サイクルにパソコン性能が制限される

というデメリットです。

卸や小売がパソコンを売るためには、店舗や倉庫にパソコンを在庫しておかなければなりません。当然、在庫を置くスペース、在庫の移動、パソコンを売る販売員の人件費、パソコンを売る店舗のコスト、などもかかってきます。

それらのコストは、パソコンの販売価格に上乗せされます。つまり、販売価格が上がる。

さらに、パソコンの性能も在庫の存在によって制限されます。

当時は、パソコン部品の性能は毎週のように向上していました。上記のビジネスモデルでは、左下の「技術革新」という外部要因で表現しています。

在庫があると、なぜ性能が制限されるのか?

それは、卸や小売の店頭に在庫がある限り、性能が向上した安いパソコンを発売できないからです。もし、パソコン部品の性能向上に合わせて新しいパソコンを販売すれば、卸や小売に残っている在庫が値崩れします。卸や小売は在庫がさばけなくなり大損する。そうなると販売網が崩壊します。

だから、市場の在庫量が増えるほど、高性能で安価なパソコンを早いサイクルで出すことが難しくなります。パソコンの性能が在庫の回転サイクルに制限されます。

しかしこれは「より多くの顧客」「安定供給」するための当然のトレードオフです。

当時のパソコンメーカーの王道の戦略では、当たり前に起こること。疑問を持つ人は少ないでしょう。

もちろん、販売網の構築はデメリットだけではなく、メリットもあります。

それは「見込み生産による効率化」です。

パソコンの販売網が大きくなるほど、需要の波は平準化されます。

ある小売店の売り上げが落ちても、別の小売店の売り上げで相殺される。ある地域のパソコン需要が落ちても、別の地域のパソコン需要でカバーできる。販売ネットワークが広がれば、大数の法則が効くようになります。つまり、生産量を予測しやすくなる。

生産量が予測しやすくなれば、生産効率が向上します。

上の図は、

  1. 生産改善活動が増えるほど、見込生産の効率が良くなる
  2. 見込生産の効率が良くなるほど、パソコンの価格が下がる

ということです。

ここまでをまとめると、一般的なパソコンメーカーのビジネスモデルは、

  • 販売網を広げ大量に生産することで、販売網の在庫コストをカバーし、市場シェアを獲得する戦略

ということになります。

では、販売網を構築する必要のないDELLはどうしたのか?

まずは法人営業からの直販体制を整えました。

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