経営戦略とは?企業戦略・事業戦略・機能戦略の違いと意味:階層構造を図解

経営戦略とは、「全社戦略(企業戦略)」「事業戦略」「機能戦略(機能別戦略)」の3つをまとめた総称のことです。戦略の階層は、このようなピラミッド状の図で表されます。

「全社戦略(企業戦略)」「事業戦略」「機能戦略(機能別戦略)」は、それぞれ違った役割と目的を持っています。(ただし書物によっては「全社戦略」「企業戦略」「経営戦略」の解釈が違う場合もあります。その点には注意してください。)

ここでは図解も交えて、経営戦略の構造を学んでいきましょう。

全社戦略(企業戦略)

全社戦略とは、会社全体に影響する経営戦略のことです。企業戦略とも呼ばれ、財務戦略・M&A戦略・多角化戦略など、経営者の意思決定が必要な戦略を指します。

経営戦略の階層の最上位

全社戦略(企業戦略)は、経営戦略の階層で最上位の戦略として位置付けられています。

この戦略の影響は会社全体におよぶので、経営者が最終的な意思決定を行います。

全社戦略の具体例

具体的な全社戦略の例としては、

  • 財務戦略
  • M&A戦略
  • 多角化戦略

などがあります。

「財務戦略」では、どこからお金を調達するのかを考えたり、どの事業にどれくらいの予算を割り振るかなどを考えます。

「M&A戦略」では、どの会社を買収するか、あるいはどこと合併するか、業務提携を行うかなどを考えます。

「多角化戦略」では、新たな事業分野として何に投資するか、あるいはどの事業から撤退するかなどを考えます。会社全体のリストラ計画も、全社戦略のうちの一つです。

いずれも会社全体に影響が及ぶことになります。大きな枠組みでの、経営資源の再配分を行います。時には経営資源そのものが、大きく変化します。そのため最終的な決定は、経営者が行います。また当然のことながら、全社戦略の責任は経営者がとります。

全社戦略の立案

全社戦略は会社の行く末を決定づけます。そのため全社戦略の立案には、経営者の戦略的意図、経営者の価値観、経営理念など、戦略のさらに上にある概念がベースになります。

それらの上位概念に基づいて、経営者は全社戦略の意思決定を行います。全社戦略は会社全体の経営資源のトレードオフを決定付けます。ある事業により大きな投資を行えば、別の事業の予算は削減されます。あることを成し遂げようとすれば、別の何かを諦めなければならないかもしれません。

トレードオフによって社内では既得権益によって特をする人もいれば、仕事がなくなったり会社を去る人も現れます。そのような状況で社員の心をつなぎとめるのは、経営理念であったりビジョンであったりします。大胆な全社戦略を実施する場合には、戦略の上位概念にあたる経営理念の浸透が必ず必要になります。

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また経営理念などはあまり変化しない一方で、外部環境は刻一刻と変化していきます。全社戦略は外部環境の影響を無視することはできません。そのため外部環境の分析も必要になります。

経営資源の分析についてはVRIO分析がおすすめです。

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外部環境の分析にはPEST分析がおすすめです。

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事業戦略(事業別戦略)

事業戦略(Business strategy、ビジネス・ストラテジー)とは、事業分野全体に影響が及ぶ経営戦略のことです。事業部長や取締役など、その事業分野を統括する立場にある人物が意思決定をします。

全社戦略に基づく事業戦略

事業戦略は戦略の階層で、全社戦略(企業戦略)の下に位置付けられます。

事業戦略の単位と範囲

事業戦略は、事業部ごとや戦略的事業単位(SBU、Strategic Business Unit、ストラテジック・ビジネス・ユニット)で実行されます。

事業の単位ごとに事業部が存在している会社では、事業部全体の戦略が事業戦略となります。単一事業のみの会社では、全社戦略イコール事業戦略となるため、全社戦略と事業戦略を区別しないことがあります。

大企業ではそれぞれの関連子会社が事業単位をカバーしていたり、複数の子会社で一つの事業単位をカバーしていたりと複雑な場合もあります。

事業の単位は、

  • 製品・サービス単位:レストラン事業、医療機器事業など
  • 産業単位:エレクトロニクス事業、ヘルスケア事業など
  • 顧客グループ単位:コンシューマー事業、法人ソリューション事業など
  • 地域単位:北米事業、アジア事業など

など様々な切り口が存在しているため、事業単位の数だけ事業戦略が存在しています。

製品・サービス単位

「製品・サービス単位」で事業部を分けている会社では、製品群やサービス群ごとに事業がまとまっています。事業の切り分けが誰にとっても明確であり、社員の誰もが戦略の影響範囲を理解することができます。

一方で時代の変化で、モノ消費からコト消費への需要の変化が進んだ場合には、事業戦略が有効でなくなる可能性があります。

産業単位

「産業単位」で事業部を分けている会社では、製品やサービスを限定しない分け方になっています。製品・サービス単位のくくりより広い範囲の場合が多く、時代の変化にもより柔軟に対応できます。

一方で、事業と事業の境目が曖昧になることもあります。事業の境目が曖昧になるということは、事業戦略自体も曖昧になる危険性があります。

顧客グループ単位

「顧客グループ単位」で事業部を分けている会社では、顧客のニーズや困りごとを解決するための分け方になっています。こちらも製品やサービスにかかわらず、その顧客に対して柔軟な戦略を取ることになります。

一方で顧客のセグメンテーションを間違えば、戦略の有効性は低下します。もしセグメンテーションが間違ってなくても、時代とともに顧客グループが変化すれば同じです。また、他の事業部も同じ商品やサービスを提供しているにもかかわらず、顧客グループで事業を分けているために無駄が多くなることもあります。

地域単位

「地域単位」で事業を分けている会社では、事業に対して地域の特性や地政学が強く影響しています。単一事業の企業の場合は、エリアごとの戦略を取っている会社も多くあります。また複数事業を抱えている企業は地域単位の下に、上記の製品群やサービス群での事業部や顧客グループでの事業部がぶら下がっていることがあります。

その他の単位

その他にも、上記の事業単位を複数組み合わせた分け方であったり、どれにも属さない分け方も存在しています。いずれにしても事業単位の分け方によって、メリット・デメリットは必ず存在しているため「正解」はありません。その時代にもっとも適した事業の分け方を行うことが必要です。

事業戦略の立案

事業戦略は全社戦略を実現するために存在しています。全社戦略で掲げた戦略目的や戦略目標につながらない事業戦略は、戦略として意味がありません。そのため、経営理念に基づいた全社戦略が存在していなければ、事業戦略を立案することはできません。

事業戦略を立案するためには、まず経営理念を再確認します。その上で全社戦略の目標や目的を達成するために、事業分野としてはどのような状態になることが理想なのか考えます。その上で事業の単位としての目的や目標を設定します。

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次にその事業で自由に使える経営資源を確認します。事業部に割り振られたヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源の最小限の消費で、戦略目的や戦略目標を達成することが事業部長の役割です。

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もちろん全社戦略として、経営者が適切な経営資源を配分していることが前提になります。経営資源を分析する方法には、VRIO分析があります。

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またその事業分野を取り巻く外部環境の分析も、同様に必要となります。外部環境の分析方法としては「PEST分析」や「ファイブフォース分析」などがあります。

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事業戦略では、事業に必要な機能がそれぞれどのような目標を達成するかも決めます。またそのために必要な経営資源の割り当ても行います。その各機能が戦略目標を達成するために立案するのが、機能戦略(機能別戦略)です。

もし重要な機能戦略に経営資源が不足していれば、それは事業戦略のミスになります。経営資源を割り振るだけでなく、その配分が機能戦略にとって適切なのかを確認することが重要です。

時代の変化と事業単位の変化

時代とともに、事業分野のあるべき姿は変化します。ニーズや需要の変化で、事業そのものがなくなることもあります。技術の進歩で、事業分野の境目がなくなることもあります。

インターネットの黎明期では、様々な業種で「インターネット事業部」が独立して存在していました。そのため、インターネット事業の戦略というものが生み出されました。前述の例で言えば「インターネットを利用する特殊な顧客」として、顧客グループ単位の事業戦略を採用していました。

しかし成長期から成熟期にかけて、インターネット上で物を売ったりサービスを提供することが当たり前になりました。そうすると今度は、実店舗もインターネットも同じ顧客として考えるようになります。

店舗とネットショップやネットサービスを、別々に戦略を練ってしまうと整合性を維持しづらく、不都合も増えてきました。そのためインターネットの戦略は、インターネットを主体とする企業以外では、事業戦略の下位の機能戦略(マーケティング戦略など)の一部として扱われることも増えました。

このように、環境の変化によって事業の単位自体も変わる必要があります。事業の単位が変われば、戦略も大きく変化します。事業戦略の先には、上位の企業戦略が存在します。そして企業戦略は上位概念の経営理念の実現が目的になります。そのことを常に忘れず、事業戦略を実行することが大切です。

機能戦略(機能別戦略)

機能戦略とは、事業を運営するための個別の機能ごとにとる戦略のことです。機能別戦略とも呼ばれ、生産戦略、マーケティング戦略、物流戦略、営業戦略など様々な戦略が存在しています。

事業戦略に基づく機能戦略

機能戦略(Functional strategy、ファンクショナル・ストラテジー)とは、事業分野に必要な機能ごとの戦略のことです。内容や規模によっては「戦術」「政策」「施策」など呼ばれることも多く、戦略として扱われないこともあります。

まずは全社戦略に基づいて、経営資源を事業ごとに配分します。その次に事業に割り振られた経営資源を、事業に基づいて各機能に割り振ります。

機能戦略は、事業戦略の戦略目的や目標を達成するために必要な、機能ごとの戦略目標を達成するためにあります。各機能戦略の戦略目標の達成が、事業戦略の成功に繋がらなければ存在する意味はありません。

機能戦略の例と戦略パッケージ

機能戦略は事業によって様々ですが、次のようなものがあります。ここでの戦略例はサプライ・チェーン(供給連鎖)の川上(顧客から遠いところ)から川下(顧客に近いところ)に向かって記述しています。

  • 調達戦略
  • R&D戦略
  • 生産戦略
  • マーケティング戦略
    • 製品開発戦略
    • 価格戦略
    • 物流戦略
    • 店舗戦略
    • ブランド戦略
    • プロモーション戦略(広告・広報)
    • コミュニケーション戦略
    • クロスメディア戦略
  • 販売戦略
  • 営業戦略

などなど。この他にも多数存在しています。

またこれらの機能戦略を分析フレームワークでテンプレート化して、複数をパッケージにして名前をつけた「〇〇戦略」のようなもの(戦略パッケージ)も巷にあふれています。

  • ブルー・オーシャン戦略(製品開発戦略、価格戦略、その他複数のフレームワークの組み合わせ)
  • ランチェスター戦略(営業戦略、流通・店舗戦略、その他複数のフレームワークの組み合わせ)
  • 様々なマーケティング戦略の手法

などなど。パッケージ化された戦略は気軽に取り組むことができる一方で、適用できる場面が限定されます。残念ながら個別の企業全てに対応できるような、万能な戦略パッケージは存在していません。

そのため、どの機能が事業戦略の肝になるか見極めることは、事業戦略を統括する責任者の手腕にかかっています。

言い換えると、戦略パッケージやフレームワークの内容に頼りきって、自分の頭で事業戦略を考えないリーダーは力不足なのかもしれません。

機能戦略の立案

機能戦略は、事業戦略の目的や目標を達成するために存在しています。さらに事業戦略は全社戦略を達成するために存在しています。実施しようとしている機能戦略が、最終的にどのように経営理念まで繋がるのか戦略策定・立案メンバーで共有しておく必要があります。

機能戦略の目標は、一般的に事業戦略から降りてきます。その目標を元に、状況の分析を行い、現場の経営資源で達成できる方法を考えましょう。

また事業戦略から与えられた機能戦略のための経営資源は、絶対的なものではありません。経営資源が絶対的に足りない場合は、事業戦略のミスであることもあります。

経営資源が不十分な場合は、事業を統括する責任者と十分なコミュニケーションを取りましょう。本当に経営資源が不十分であれば、機能戦略の目標を考え直すか、経営資源の配分を変えるかのいずれかが必要です。

経営戦略の統合と運用

戦略の責任者と決定内容

それぞれの階層で戦略を決めるのは、

  • 全社戦略 → 経営責任者(社長、経営陣、取締役など)
  • 事業戦略 → 事業統括責任者(事業部長、エリア長など)
  • 機能戦略 → 機能責任者(課長、現場リーダーなど)

です。最終決定をした人が、その戦略の責任を負います。

「事業統括責任者」とは、その事業分野において生産・販売・営業など全ての機能を統括する立場にある人のことです。会社の事業内容にもよりますが、事業には複数の機能(例えば、生産と販売など)が含まれています。

「機能責任者」とは、生産機能の責任者や営業機能の責任者など、単一機能を取りまとめている人物です。「生産」「販売」「営業」などそれぞれを「機能」と呼びます。それらの機能ごとの責任者を、ここでは機能責任者と呼びます。

肩書きについては会社ごとに異なるため、あまり参考になりません。どの範囲までの責任と権限があるかによって、実態で判断してください。

それぞれの階層で最低限決めなければならないことは、

  • 全社戦略
    • 会社の経営理念
    • 全社戦略の目的と目標
    • 事業ごとの経営資源配分
    • 事業戦略の目標
  • 事業戦略
    • 機能ごとの経営資源の配分
    • 機能戦略の目標
  • 機能戦略
    • 現場の経営資源の配分

です。

階層が上に行くほど、決めなければならないことが多く、責任も重くなります。逆に言えば決められるからこそ、その責任を取ります。

各階層の責任者とその取るべき責任については、

  • 経営責任者:全社戦略の結果、事業戦略の資源配分と人選
  • 事業統括責任者:事業戦略の結果、機能戦略の資源配分と人選
  • 機能責任者:機能戦略の結果、現場の資源配分と人選

となります。

またこの責任は、

  • 経営資源が適切に配分された
  • 責任者が適切に人選された

ことが前提になっています。ただし何を持って「適切」なのかは、意見が分かれるところ。最終的な意思決定者が、適切と考えるものを信じるしかありません。

戦略に一貫性を生む経営理念

「全社戦略(企業戦略)」「事業戦略」「機能戦略(機能別戦略)」全てを一本に繋ぐのが、経営理念です。経営理念は内容も形式も会社によって様々ですが、ここでは企業の「社会的使命(ミッション)」「理想像(ビジョン)」「価値観(バリュー)」などを総称して「経営理念」と呼ぶことにします。

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全ての経営戦略が経営理念によって繋がることで、企業の行動に一貫性が生まれます。行動に一貫性が生まれれば、社員全員の足並みが揃って経営資源を最大限に活かすことができます。そのため、同じ経営資源を持つ会社同士が戦っても、経営理念が浸透し戦略に一貫性がある方が有利になります。

ボトムアップの戦略

ここまで紹介したのは、全社戦略などの上位戦略に事業戦略や機能戦略が帰属している「トップダウン」の戦略になります。それでは逆に機能戦略が全社戦略を支配するような、「ボトムアップ」の戦略は存在しているのでしょうか?

結論としては「見かけ上」ボトムアップの戦略は、存在していると思います。例えば機能での成功体験からKSF(勝ちパターン)が見つかり、それを全社戦略や事業戦略に取り入れて修正を行う場合などです。

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しかし機能責任者は、経営陣の人選をすることもできなければ、会社全体の経営資源の配分に口出しをすることはできません。そのため本当の意味での「ボトムアップ戦略」というものは、組織構造的に実現することが出来ないのです。

経営戦略の階層構造まとめ

ここまでの話をまとめると、戦略は全社戦略の方針を引き継ぎながら、機能戦略まで分割されるピラミッド構造を持っていると言えます。それらの経営戦略すべての一貫性は、経営理念が握っています。

会社の社員ひとりひとりにとっては、自分が関わっている戦略のこと以外は見えにくくなります。経営者は会社が大きくなるほどに現場の状況がわからなくなり、現場に近い立場にいるほど経営の全体像は見えなくなります。

そのようなことが起こるのは当然のことですが、互いにいがみ合ってしまえば、それが「組織の弱み」となります。そのためには、経営理念の存在とコミュニケーションの密度がより重要になってきます。

戦略が生み出す階層構造については、こちらの記事もご覧ください。

戦略と戦術の違いとは?区別は不要⁉︎戦術の定義とその構造

おすすめの書籍

経営戦略の全体像を把握するには、バーニー教授の「企業戦略論」がおすすめです。

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