「手段が目的になってるぞ!」なんて言葉、ビジネスでよく耳にしますよね。逆に「手段が目標になる」なんて言葉は聞いたことがありません。それには理由があります。
ざっくりと「目的」と「目標」の違いをまとめものが、こちらの表です。
目的 | 目標 |
最終的な状態 | 途中経過 |
終着点 | 経由地 |
方針の根拠になる | 手段に影響される |
戦略に関係 | 戦術に関係 |
数値化しにくい | 数値化しやすい |
1つの戦略に複数存在 | 1つの目的に複数存在 |
ここからは定義も含めて、詳しく関係性を見ていきましょう。
目次
目的・目標の違いをイメージ
まずは言葉の意味を知って、目的と目標の違いをイメージしてみましょう。
目的
目的とは、
- 実現させたい最終的な状態
のことです。
まずは登山に例えて考えてみましょう。
一般的に「登山の目的」を考えると、
- 登頂(山頂に到達すること)
をイメージする方が多いかもしれません。
しかし実際には、人が山に登る理由は様々です。
- 日頃のストレスを解消すること
- 眺めのいい景色を楽しむこと
- 健康のために足腰を鍛えること
- 親しい仲間たちと時間を過ごすこと
- 登山家としての実績を積むこと
などなど、色々な理由があります。これは、それぞれの人によって「登山の目的」が違うからです。
そしてこの「理由」こそが「実現させたい最終的な状態」である「目的」を表しています。
つまり、
- 日頃のストレスが解消された状態
- 眺めのいい景色を楽しんだ状態
- 足腰を鍛えてより健康的な状態
- 親しい仲間たちと時間を過ごせた状態
- 登山家として実績が積まれた状態
が「実現させたい最終的な状態」であり「登山の目的」になるということです。
もちろん、山に登る理由が登頂するためであれば、登頂が登山の目的になります。これをもう少し厳密表現すれば、「山頂に到達した状態になることが目的」と言えます。
具体的にビジネスで考えてみると、
- 自社ブランドの認知度を向上させる
という戦略目的を掲げた場合は、
- 自社ブランドの認知度が現在よりも高くなった状態
が実現させたい状態であり、目的になります。
しかし「目的」は、とても「抽象的」でもあります。目的だけでは曖昧な部分が多く、具体的ではありません。
その「抽象的」なイメージを「実現」につなげるために必要なのが、次に説明する「目標」です。
目標
目標とは、
- 目的に到るまでの様々な中継地点
のことです。
ここでは「山頂に到達した状態になること」を「目的」として「目標」を考えてみましょう。
山頂という終着点を目指す場合、ルートの途中で経由する「経由地A」「経由地B」「経由地C」が目標です。例えば、登山道の途中にある「〇合目」「標高〇〇メートル」のような標識をイメージするとわかりやすいと思います。
もし「経由地B」への道のりが崖崩れなどで通れない場合は、新たに「経由地D」という目標を定めることもできますし、別のルートで直接「経由地C」に向かうこともできるかもしれません。
また複数のチームで一つの目的を目指している場合は、それぞれ違うルートで違う目標を達成しながら進むこともあります。
ビジネスで例を挙げると「自社ブランドの認知度を向上させる」という「目的」に対して、
- 自社製品Aの認知度をターゲット層の70%まで高める
ことが「目標」である場合は、
- 自社製品Aの認知度 = 70%
という状態を目指しているわけです。
つまり「目標の達成」は、
- 認知度 70%という地点を経由する
ことが目的までの進捗状況を知る目安であり、70%を通過すれば今度は80%とまた別の目標が現れます。
「ゴール(Goal)」は「目的」と「目標」の両方に使える言葉
「Goal」という英語を日本語に訳す場合、
- 目的
- 目標
の両方の意味で訳すことができます。
しかし「目的」も「目標」も日本語では違う意味なのに、なぜ1つの言葉で表せるのでしょうか?
それは、ゴールが本来持っている意味が、
- 到達すべき「領域」や「範囲」
のことを指すからです。
これはマラソンやサッカーのゴールなどをイメージすると、わかりやすいかもしれません。
マラソンのゴールはゴール地点に引かれてあるラインを越えて、その先の領域に到達すればゴールになります。サッカーのゴールは、ゴールポストとクロスバー、ゴールラインで囲まれた領域の向こう側にボールが到達すればゴールです。
いずれも、領域に入ればゴール達成になります。これは「Goal」の語源が、中世英語の「gol(境界、限界、領域)」に由来するためです。
目的としてのゴールは、「実現させたい最終的な状態」そのものが、到達するべき「領域」や「範囲」になります。
例えば、「長めのいい景色を楽しむことが登山の目的」であれば、「景色を楽しめた状態」と「景色を楽しめなかった状態」の間に「境界」が存在しています。その境界を超えて「景色を楽しめた状態」になっていれば、「目的を達成した」ということになります。
目標としてのゴールは、「目的に到達するまでの途中の経由地」であり、通過するべき「領域」や「範囲」になります。
例えば、「長めのいい景色を楽しむことが登山の目的」に対して、5合目の展望台を目指すとすれば、「1合目」「2合目」「3合目」「4合目」が「目標」になります。
ちなみに「合目(ごうめ)」とは、モノとモノを合わせたつなぎ目を表す言葉であり、山では登山の道のりをエリアで区切って、そのエリアとエリアの境界にある地点を「合目」と呼んでいます。
つまり「合目」も「境界」を表している言葉であり、その境界を超えて新たな「領域」や「範囲」に突入することが「目標の達成」になります。
方針と手段との関係
「目的」や「目標」と関係する言葉として、「方針」と「手段」があります。
これらには、
- 目的によって方針が決まる
- 方針が手段を選ぶ
- 手段によって目標が違う
という関係があります。
分かりやすく登山に例えると、
- 目的:〇〇山を登頂する(した状態になる)
- 方針:安全を最優先して登る
- 手段:山岳ガイドと一緒に登る
- 目標:山岳ガイドが決めた経由地
となります。
しかし方針が変われば、
- 目的:〇〇山の登頂を果する(した状態になる)
- 方針:短時間で登頂する
- 手段:ヘリコプターを使う
- 目標:パイロットが定める飛行ルート
となって、全てが大きく変わります。
例えばビジネスでも「ブランド認知度の向上」という目的を達成するために、方針が「予算1億円で収める」のか「予算100万円で収める」のかで、手段も目標も全然違うものになります。
手段の目的化という状態
冒頭で「手段が目的になってるぞ!」という例を挙げましたが、これは「手段」が「実現させたい最終的な状態」になっている、ということになります。
例えば先ほどの、
- 手段:山岳ガイドと一緒に登る
が目的になってしまうと、
- 目的:山岳ガイドと一緒に登った状態になる
ということになります。
そうすると、
- 目的:山岳ガイドと一緒に登った状態になる
- 方針:経験値の高い山岳ガイドを選ぶ
- 手段:登山経験の多い知人から紹介してもらう
- 目標:5人の山岳ガイドに連絡を取る
というように、目的を起点として方針・手段・目標に落とし込むと、全く別のものになってしまいます。
もちろん、これはこれで登山の下準備の一つとしては問題ないのですが、本来の目的である「〇〇山の登頂を果する(した状態になる)」からは離れてしまいました。
また置き換わった目的である「山岳ガイドと一緒に登った状態になる」ということを実現したいがために、当初の目的を達成する他の手段(例えば、ロープウェイを使って登るなど)が目に入らなくなってしまうかもしれません。
その結果、山岳ガイドと一緒に登山することはできたけど登頂できなかった、ということになれば本来の目的は達成されません。
今度はビジネスで例えてみましょう。
マーケティングで、
- 目的:自社製品Aの認知度を高める(今より高い状態にする)
- 方針:予算は100万円、期間は3ヶ月
とした場合、広告・広報・店頭接客・アフターサービス・口コミなどたくさんの手段を選べるはずです。
しかしもし担当者が「広告」という手段に固執して、他の手段を深く検討せずに予算の増額を要求するようなことがあれば、それは「手段の目的化」になります。
このように複数の手段が選べる状況でも、特定の手段で成果を出すために方針の変更を行おうとすれば手段が目的化している状態だと考えられます。
もちろん「目的」や「方針」を変更すること自体は、悪いことではありません。そもそもの目的や戦略が間違っている可能性があるからです。
戦略と戦術との関係
まず「戦略」ですが「広範囲で長期的な目的の達成」のために「方針の決定」や「経営資源の再分配」が行われることが特徴です。
一方で「戦術」は「限定的で短期的な目標の達成」のための「手段」として定義されることがほとんどです。
つまりそれぞれの定義において、
- 戦略:目的・方針
- 戦術:目標・手段
と関係が深いと言えます。
例えば「メーカーAから製品Aを使う顧客を奪う」という場合、
戦略は、
- 目的:製品Aを使う顧客をA社から奪うこと(奪った状態)
- 方針:予算1000万円、大口顧客を中心に、営業部のみで完結、半年以内の目的達成
戦術は、
- 手段:直接営業、セミナー開催、展示会への出店
- 目標:製品A利用顧客と月10件の打ち合わせ、セミナー参加者累計200人、展示会での名刺交換によるアポどり100件
というようなイメージになります。
ちなみに「目標」と深く関連した分析フレームワークとして、
- SWOT分析
- クロスSWOT分析
というものがあります。
SWOT分析やクロスSWOT分析は、
- 目標達成の進捗状況を判断 → 戦略の修正
ということを行います。
つまり、
- 目標が戦術レベルで解決可能かどうかを判断する
- 戦術で解決するのが難しい場合は戦略を修正する
というように、目標達成の解決を戦術より上の戦略レベルで行うことを目的としています。
これは戦略の問題は戦術では解決できない、という構造上の理由があるからです。
数値化のしやすさ
目的や目標が達成されたかどうかは、評価してみないとわかりません。
その評価においては、「数値」がいちばん分かりやすい評価指標になります。しかし「目的」と「目標」では数値化のしやすさが違います。
- 目的:数値化しにくい
- 目標:数値化しやすい
数値化しにくい目的
まず「目的」ですが、必ずしも測りやすいものばかりとは限りません。
最初の「登山の目的」の例えでも、「山頂に到達した状態になる」という数値的に測りやすそうなものもあれば、「長めのいい景色を楽しんだ状態になる」という数値化が難しそうなものもあります。
ビジネスでも同様に、
- 特定カテゴリでシェアで1位になる
- ターゲット層の認知度を5割以上に高める
など数値化しやすい目的もあれば、
- 競合が商圏に進出するのを防ぐ
- ブランドに良い印象を持ってもらう
などの数値化しにくい目的もあります。
数値化しやすい目標
一方で「目標」は、数値化できることがほとんどです。先ほどの例では、「目標」は「経由地」だという話をしました。
「目的」に向かう途中に経由する「目標」は、それを経由できたかどうか判断する必要があります。つまり、何か基準になるものを設定しておかなければいけません。
その基準となるのが「数値」です。
登山で例えると、予定ルートの経由地は「合目」「緯度」「経度」「標高」などで明確に表すことができます。マラソンの折り返し地点や中継ポイントも距離で測れます。
ビジネスでも「売上高」「客数」「客単価」「来店頻度」「定着率」など、成果を数値化して測れるものがたくさんあります。
逆を言えば、数値化できないものは「目標」として役に立ちません。なぜなら経由したかどうかを評価することができないからです。経由したかどうかがわからなければ、目的に近づいているかどうかも判断できません。
悪い目標の例としては、
- 一丸となって接客を頑張る(「頑張る」は数値化が難しい)
- 業務の効率化をすすめる(「効率」を数値で表す必要あり)
- ネット経由の受注を増やす(どれくらい増やすのか不明)
などです。これらを良い目標に書き換えるとすれば、
- 顧客アンケートで接客に「満足」と答える顧客の比率を前月比で5ポイント以上改善する
- 受発注プロセスを見直すことで手続きに必要な書類数を30%以上削減する
- ホームページからの商談申し込みを月間30件以上獲得する
というようになります。
良い目標を作れば、
- その目標は目的の実現につながるのか?
- その目標は方針に従っているのか?
ということも明確になり、誰が見ても目標を達成できたかどうか判断できるようになります。
目的も目標も複数存在する
「目的」も「目標」も一つだけではありません。いずれも複数存在するものです。
- 1つの戦略に対して複数の目的が存在する
- 1つの目的に対して複数の目標が存在する
まず1つの戦略に対して、複数の目的が存在できます。むしろ複数の目的を同じタイミングで達成できないと、戦略が失敗することもあります。
例えば製品の量産体制を構築して、コスト・リーダーシップ戦略を取りたい場合には、
- 新工場の稼働
- 供給業者と原料の安定供給に関する業務提携
- 海外の販売パートナーとの連携強化
などの複数の目的を同時期に達成しなければならないかもしれません。
そしてそれぞれの目的に対して複数の目標が設定されて、様々な手段や方法で達成しようとします。目標は計画の進む段階や場面によって異なり、評価することで正常に目的に向かっているか判断します。
目的と目標のまとめ
ここまで「目的」と「目標」の違いを学んできました。
繰り返しになりますが、目標はあくまで経由ポイントであり、目的とする状態にちゃんと向かっているかどうかを知るための目安なのです。
目標達成に気を取られすぎて、目的を達成できなくなってしまうと本末転倒です。目標の達成を目指しながらも、目的から離れていっていないか時々確認する必要があります。
もっとも、目的自体が間違っていることだってあります。あるいは、状況が変化して、最初の目的が無意味なものになることだってあります。
その時は目標も、新しい目的に合わせてすべて設定し直しましょう。