SBUとは、
- 戦略的に事業計画を考えるための事業や製品のグループ
のことです。
SBUは「Strategic Business Unit(ストラテジック・ビジネス・ユニット)」を略したもので、日本語では「戦略的事業単位」または「戦略事業単位」と呼びます。
SBUの条件は、
- 独自の事業使命があること
- 独自の競争相手がいること
- 市場で競争者として戦えること
- 独自に戦略的な計画を立てることができること
- 計画の範囲内で経営資源を自己完結的に管理できること
です。
SBUは、上記の条件を満たした事業や製品の集まり(グループ)を1つの単位(ユニット)としたものです。
例えば、ある電機メーカーを、
- エレクトロニクス
- モーター
- ロボット掃除機
という3つのSBUに分けた場合は、下図のようになります。
ここではSBUの分け方などを、図を使いながらわかりやすく説明します。
目次
SBUとは事業や製品のグループ
SBUとは、会社の事業や製品群をグループ(=ユニット)化したものです。
実在する事業部などの物理的な区切りではなく、戦略を考える上で仮想的に設定したグループです。(ただし、事業部とSBUがたまたま一致する場合もあります。)
SBUは一般的に、
- 複数の事業部をまとめたSBU
- 複数の製品カテゴリをまとめたSBU
- 複数の製品をまとめたSBU
の3つのパターンがあります。
…とは言っても、文章だけだとイメージしにくいかと思うので、架空の会社で説明します。
例えば、下図のような事業構成を持っている電機メーカーがあるとします。
事業部としては、
- 家電事業
- 産業機械事業
- モーター事業
に分かれて運営されています。
そして事業部ごとに複数の製品カテゴリを担当しています。
例えば、家電事業部は、
- 冷蔵庫
- 洗濯機
- 掃除機
という3つの製品カテゴリで製造販売を行なっています。
さらにそれぞれの製品カテゴリの中に、個別の製品があります。例えば「冷蔵庫」という製品カテゴリの中には、「一人暮らし用冷蔵庫」「家庭用大型冷蔵庫」「キャンプ用小型冷蔵庫」などの様々な商品があります。
複数の事業部をまとめたSBU
複数の事業部をまとめるSBUは、グローバルに展開する巨大企業などに見られる分け方です。
例えば、医療関連の事業部をたくさん持っている会社は、それらの事業部をまとめて「ヘルスケア事業」というSBUにまとめたります。
先ほどの電機メーカーの例では、下図のように「家電事業」と「産業機械事業」を一括りにして「エレクトロニクス」というSBUを設定した場合が該当します。
それぞれの事業部がバラバラに活動するよりも、一体となって事業を進めることで相乗効果が得られる場合などに、このような複数の事業部をまとめたSBUを採用します。
複数の製品カテゴリをまとめたSBU
複数の製品カテゴリをまとめるSBUは、たくさんの製品カテゴリを展開する大企業や中小企業で見られる分け方です。
例えば、「ハンバーガー屋」「ラーメン屋」「牛丼屋」を展開する会社が、3つをまとめて「ファストフード」というSBUにまとめる場合などです。
先ほどの電機メーカーの例では、「家電用モーター」「産業用モーター」「車載用モーター」という3つの製品カテゴリをまとめて、「モーター」というSBUを構成しています。
この具体例では、たまたま「モーター事業」という事業部と「モーター」のSBUが一致していますが、事業部=SBUというわけではありません。
例えば、家電事業から製品カテゴリの「洗濯機」と「冷蔵庫」の二つだけを取り出して「白物家電」というSBUを設定した場合も該当します。
対象となる顧客層や必要となる経営資源が一致していて、複数の製品カテゴリを一体として考える方が効率的に戦略を実行できる場合などに採用されます。
複数の製品をまとめたSBU
複数の製品をまとめたSBUは、特定のカテゴリに特化している中小企業などで見られる分け方です。
例えば、一般顧客向けと事業者向けの製品を扱っている場合、それぞれを「一般顧客向け製品」と「事業用製品」の2つのSBUに分ける場合などがそうです。
先ほどの電機メーカーの例では、家庭用と産業用のロボット掃除機をまとめて「ロボット掃除機」というSBUを構成しています。
ある特定の製品の市場が急速に広がっている場合や、特定の製品だけ切り離した方がスムーズに戦略を展開できる場合などに採用されます。
3つのパターンは混在できる
実はこの3つのパターンのSBUは、一つの企業の中で混在していても大丈夫なんです。
アメリカのゼネラル・エレクトリック社(発明家トーマス・エジソンが創業者の会社)は、1970年代にSBU組織を採用しました。
その時には、先ほどの3つのパターンが同時に存在していました。
例えば「航空宇宙」というSBUは、「電気システム事業」「宇宙事業」「航空機設備事業」などの複数の事業で構成されています。
「消費者用製品」というSBUは、「家庭用品」「ランプ」「ホーム・エンターテイメント」などの複数の製品カテゴリで構成されています。
「化学・治金製品」というSBUは、「プラスチック」「シリコン」「切削工具用合金」などの複数の製品で構成されています。
詳しくは、下記の資料も参照ください。
参考 アメリカ巨大企業GE社の組織変革 – 坂本和一(PDF)立命館経済学 第31巻 第2号このように複数のパターンのSBU(戦略的事業単位)が混在することは問題ないので、下図のようなSBUの分け方になる実際にありえるのです。
SBUが成立する条件とその管理
ここまでSBUの分け方について説明しましたが、好き勝手に分けても大丈夫なのか…といえばそうでもありません。
SBUとしてまとめるためには、
- 独自の事業使命があること
- 独自の競争相手がいること
- 市場で競争者として戦えること
- 独自に戦略的な計画を立てることができること
- 計画の範囲内で経営資源を自己完結的に管理できること
が条件になります。(「国民経済雑誌」第143巻第2号 加護野忠男 著「SBU管理」、「組織科学」第15巻第2号 多久安英 著「戦略事業組織」より編集・加筆)
要するに、
- 共通の問題を解決しようとしていて
- ちゃんと市場が存在していて
- SBUだけで独立して戦える
のであれば、SBUとしてグループ化できます。
さらにそのSBUで戦略を立案して実行しなければならないので、
- SBUとして独自の戦略を立てて実行できる
- 戦略を実行するために経営資源を管理する権限がある
ことも条件になります。
これらの全てを満たしていれば、事業や製品のグループを「SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット、戦略的事業単位)」と呼ぶことができます。
SBUマネージャ(戦略事業単位統括責任者)
SBUがまとまったら、それを管理するための責任者が必要です。それが「SBUマネージャ」です。
SBUの戦略の計画と意思決定に責任を持つSBUマネージャは、SBUをまとめた同じレベルの責任者が任命されることが多いようです。
例えば、製品カテゴリを集めたSBUのSBUマネージャは、いずれかの製品カテゴリの責任者から選ばれます。事業部をまとめたSBUであれば、いずれかの事業部長がSBUマネージャを担当します。
SBUマネージャは、SBUに割り振られた経営資源を駆使して、戦略を実行することに責任を持ちます。
SBUによる戦略的な事業計画の立案
ここまでSBUの分け方と作り方について説明しましたが、そもそも何のためにSBUを使うのかを忘れてはいけません。
SBUは、事業計画を考えるためのグループです。
そのため、事業や製品をSBUに分けたのであれば、SBUごとに独自の戦略を考えて、事業計画に落とし込む必要があります。
先ほどの電機メーカーの例であれば、
- これからロボット掃除機市場が大きく成長すると予測される
- 家庭用も業務用も両方一緒に製品開発した方が効率がいい
- ロボット掃除機で市場シェアを取れたらモーター事業も牽引される
などの理由から「ロボット掃除機」というSBUで、攻めの戦略を考えることができます。
一方で、その他の事業を「エレクトロニクス」というSBUにまとめることで、成熟した市場で守りの戦略を考えることができます。
このように単純に「事業部」単位で戦略を考えるのではなく、「SBU」という単位で戦略を考えることでより戦いやすくなる可能性があります。
SBUという思考の罠
SBUは物理的な事業部単位の事業計画よりも、より戦略的に考えられることをお伝えしました。しかしこの考え方に異論を唱える人たちもいます。
1990年にSBUを「思考の罠」と表現して批判したのは、プラハラッド教授とハメル教授の書いた論文「コア・コンピタンス経営」です。これはSBUの概念が広まった1970年代から、約20年後に発表された論文になります。
コアコンピタンスとは、事業を支える重要な技術のことです。中心となる技術が「コア製品」を生み出し、それらが様々な「事業」や「最終製品」として花を咲かせる、という考え方です。
つまりコアコンピタンス経営では、今回説明したSBUは社の内面ではなく表層に現れた「事業」や「最終製品」だけを見ていることになります。
プラハラッド教授やハメル教授は、SBUのように競争力が具現化した「結果」だけを見てしまうことに警鐘を鳴らしています。
これと同様に、1992年にストークJr氏によって発表された論文「ケイパビリティ・ベース競争」でも、似たような指摘がされています。
どんな会社でもSBUを考えるべきか?
結論から言えば「イエス」です。必ずしもSBUを使って事業計画を立てる必要はないと思いますが、SBUという考え方は意識した方が良いです。
大きな企業ならSBUを考えることは当然ですが、小さな企業でも複数の製品があればSBUにグループ化することができます。
理由としては、
- 事業部や製品カテゴリという形式的な枠組みに囚われずに戦略を考えられる
ということが挙げられれます。
事業部や製品カテゴリという枠組みは、
- 昔からそうだから
- 他社もそうしているから
- 業界の常識だから
など、「なんとなく」決まっている場合があります。
しかし本当に実現しなければならないのは、社会的な問題を解決したり、顧客のニーズを満たしたりすることです。そのためには「事業部」や「製品カテゴリ」というグループが、いつも適しているとは限りません。
また時代が変化すれば、昔の分類が適切ではなくなることもあります。顧客のニーズが変化したり、製品の役割が変化して製品カテゴリが変わったりもします。
しかしそういった時に毎回、部署を廃止して全員が異動していたら大変です。
でもSBUであれば、SBUマネージャを置くだけで仮想的にグループ化することができます。人材の物理的な移動や人事的な異動の必要はありません。
SBUを有効に使えば、組織構造はそのままで事業部や製品カテゴリという枠組みから抜け出し、環境の変化に合わせた戦略を考えることができるようになります。
SBUまとめ
SBUが生まれたのは、1950年代のアンゾフ・マトリックスに代表されるような多角化戦略で、企業の多角化が進んだことが背景にあります。
当時の大企業は、多角化した事業を整理するために「BCGマトリックス(PPM、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」などを駆使しました。
しかし単純に「事業部」として整理するだけでは、将来有望な製品カテゴリや製品を手放すことになるという問題に直面しました。
そこで1970年代に生まれた手法の一つが、この「SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)」になります。
SBUとして分けることで、戦略的に「意味のある」グループ分けをすることができるようになりました。組織構造を大きく変えることなく、時代の変化に合わせてSBUを変化させることも可能です。
このように多角化した大企業のために生まれた「SBU」ですが、
- 事業戦略を考える上で意味のあるまとまり
として事業や製品をグループ化することは、本来とは別の枠組みとして認識するための有効な方法だと思います。
これを機に、あなたの会社でも事業や製品を「戦略として意味のある「SBU」としてグループ化するならどうなるか」を考えてみても面白いかもしれません。
関連書籍
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)