クロスSWOT分析とは、SWOT分析の結果をもとに、
- SO戦略:強みと機会の両方を最大化する戦略
- ST戦略:強みを最大化して脅威を最小化する戦略
- WO戦略:弱みを最小化して機会を最大化する戦略
- WT戦略:弱みも脅威も両方を最小化する戦略
の4種類の戦略を生み出すための状況分析フレームワークです。
オリジナルの名称は「TOWSマトリックス」を使った「TOWS分析」ですが、日本では「クロスSWOT分析」「SWOTクロス分析」などと呼ばれています。
ここでは、クロスSWOT分析について詳しく説明します。
目次
クロスSWOT分析とは
クロスSWOT分析とは、SWOT分析の情報を「TOWSマトリックス(クロスSWOTマトリクス)」で整理することで、
- SO戦略:強みと機会の両方を最大化する戦略
- ST戦略:強みを最大化して脅威を最小化する戦略
- WO戦略:弱みを最小化して機会を最大化する戦略
- WT戦略:弱みも脅威も両方を最小化する戦略
の4つの戦略を考えるためのフレームワークです。
SO戦略
SO戦略とは、強みも機会も最大化させる戦略です。
例えば、
- 強み:手厚いカスタマーサービス
- 機会:顧客ニーズの多様化
がある場合に、
- 既存顧客からカスタマーセンターへの問い合わせ内容を新製品の設計に生かす
ことなどがSO戦略になります。
ST戦略
ST戦略とは、強みを最大限に活用して脅威を最小化する戦略です。
例えば、
- 強み:手厚いカスタマーサービス
- 機会:新規参入業者の増加
がある場合に、
- カスタマーサービスが充実していることを店頭でPRして競合と差別化を図る
ことなどがST戦略になります。
WO戦略
WO戦略とは、弱みを最小化し機会を最大化する戦略です。
例えば、
- 弱み:製品ライナップが少ない
- 機会:顧客ニーズの多様化
がある場合に、
- 製品の企画設計の人員を増やして製品のニーズ対応を進める
ことなどがWO戦略になります。
WT戦略
WT戦略とは、弱みも脅威も最小限に抑える戦略です。
例えば、
- 弱み:製品ライナップが少ない
- 脅威:新規参入業者の増加
ある場合に、
- 競合が増えた製品カテゴリから撤退する
ことなどがWT戦略になります。
クロスSWOT分析の誕生
TOWSマトリックスは、1982年にサンフランシスコ大学のハインツ・ワイリック教授が、学術雑誌「Long Range Planning(長期計画)」に寄せた論文「The TOWS Matrix – A Tool for Situational Analysis(訳:TOWSマトリックス – 状況分析のためのツール)」で登場しました。
論文の内容については、こちらの記事をご紹介ください。

SWOT分析自体は、目標に対する課題を発見しやすい分析フレームワークですが、戦略の立案にはあまり使い勝手がよくないものでした。そこで解決策を考え出した研究者の一人が、ワイリック教授です。
ワイリック教授以外にも、様々な実務者や研究者の手でSWOT分析が工夫されましたが、最も普及したのがワイリック教授のTOWS分析(クロスSWOT分析)なのかもしれません。
TWOSマトリックスが生まれた1982年というのは、戦略コンサルタントの大前研一氏が「3C分析」を世に出した年でもあります。戦略立案のためのフレームワークが盛んだった時代であり、これらの他にも様々なフレームワークや理論モデルが誕生しています。
ちなみにTOWSマトリックスのベースとなった「SWOTマトリックス」は、1960〜70年代にスタンフォード研究所のアルバート・ハンフリー氏が生み出したとされています。

本家クロスSWOT分析のやり方
一般的に普及しているクロスSWOT分析のやり方としては、
- SWOT分析の流れで4つの戦略を考える
というもので、ほとんどの参考書や解説サイトがこの簡易的な内容です。
そして本家ハインツ・ワイリック教授の分析のやり方は、
- 3つの分析方針から1つ選ぶ
- 4つの戦略の組み合わせの評価にインタラクション・マトリックスを使う
- 動的なTOWS分析で時間の経過による変化も考える
というものです。
クロスSWOT分析の3つの分析方針
TOWS分析(クロスSWOT分析)の3つの分析方針とは、
- 重要な問題を特定するための分析
- 企業の目的と目標を起点とした分析
- 機会に焦点を絞った分析
になります。
重要な問題を特定するための分析
「重要な問題を特定するための分析」については、
- ST戦略:強みを最大化して脅威を最小化する戦略
- WO戦略:弱みを最小化して機会を最大化する戦略
- WT戦略:弱みも脅威も両方を最小化する戦略
が、主な戦略の候補になると思います。
SWOT分析の原点となったSOFT分析も、課題発見と優先度の順位付けが主要な目的であったため、本家のSWOT分析に近い分析方針です。
企業の目的と目標を起点とした分析
「企業の目的と目標を起点とした分析」については、4つのいずれの戦略も候補に上がると思います。
目標を軸にする分析は、現在の一般化されたSWOT分析の使い方と同じなので、SWOT分析と併せてやりやすい分析方針です。
機会に焦点を絞った分析
「機会に焦点を絞った分析」については、
- SO戦略:強みと機会の両方を最大化する戦略
- WO戦略:弱みを最小化して機会を最大化する戦略
の2つの戦略が候補になります。機会に焦点を絞って、機会から得られるメリットを最大化するためにはどうするか考えます。
これらの3つの分析方針を、分析する前に決めておけば分析がスムーズに進みます。また分析するメンバーで方針を共有しておけば、分析結果で意見が食い違って揉めてしまうようなことも減ります。
クロスSWOT分析のインタラクション・マトリックス
インタラクション・マトリックスとは、「強み」「弱み」の縦軸と「機会」「脅威」の横軸のそれぞれの項目を一つずつ組み合わせた対応表のことです。

The TOWS Matrix – A Tool for Situational Analysis, Figure 4, Weihrich (1982) より引用
上記の表は、本家の論文から引用したものです。
ここでの「強み1(一番左の列)」の読み方は、機会の1・2・4・5・6・7・9・10に対応できる(+)というという意味です。
例えば縦列一番左の「強み1」が、
- 製品購入後の手厚いカスタマーケア
だったとします。
もし、
- 機会1:顧客ニーズの多様化
- 機会2:ネットショップでの購入者の増加
- 機会3:原材料の輸入関税の撤廃
である場合、
「顧客ニーズの多様化」に対して、「製品購入後の手厚いカスタマーケア」で顧客からの問い合わせから顧客ニーズを読み取り、新しい製品の企画設計に反映できるかもしれません。そのため「強み1」は「機会1」に対応可能、つまり「+」となります。
「ネットショップのでの購入者の増加」に対しては、店舗で実際の製品を見ずに購入している顧客が増えているという状況です。そのため購入した後に、使い方がわからなかったり不満を持ったりするかもしれません。しかし「製品購入後の手厚いカスタマーケア」で顧客をフォローすることで、顧客の満足度を高めたり次の購入につなげたりすることができるかもしれません。そのため「強み1」は「機会2」に対応可能、つまり「+」となります。
「原材料の輸入関税の撤廃」に対しては、「製品購入後の手厚いカスタマーケア」という強みでは何も対応することができません。そのため「強み1」は「機会3」に対応不可能、つまり「0」となります。
このように、すべての情報を機械的に組み合わせていくことで、どの強みを戦略の軸にするべきか、などが判断できるようになります。
動的なクロスSWOT分析
TOWS分析(クロスSWOT分析)では、過去・現在・未来の時間の変化を考えることも特徴です。

The TOWS Matrix – A Tool for Situational Analysis, Figure 3, Weihrich (1982) より引用
上の図は本家の論文から引用したもので、
- Past:過去
- Present:現在
- Present Plus T1:現在+時間1
- Present Plus T2:現在+時間2
の4つの状況が時間軸にあることを表しています。
これはクロスSWOT分析を4回やる必要があるというわけではなく、過去・現在・未来において変化の大きな要素は何であるかを知ることが重要ということです。
例えば、まだ法律や規制が追いついていない新しい市場の戦略を考える場合には、法整備などで機会や脅威などの外部要因が毎年のように変化するかもしれません。
その場合には、過去の出来事や現在の状況だけでなく、機会や脅威などの外部要因が変化することを見越した上で、戦略を考える必要があります。
クロスSWOT分析のやり方とテンプレート
一般的に普及しているクロスSWOT分析(簡易版)のやり方は、
- SWOTマトリクスの内容を整理する
- TOWSマトリクスにわかりやすく書き写す
- 4つの戦略を洗い出す
- 戦略を決める
です。こちらについては下記の記事でわかりやすくまとめています。

また本家版クロスSWOT分析のやり方と、ワイリック教授の論文の解説は下記の記事をご覧ください。
クロスSWOT分析のやり方(本家版):ワイリック教授の論文解説