DELLのビジネスモデル図解:直販と受注生産(BTO)の組み合わせで世界を席巻

足枷のないDELL:直販と受注生産の絶妙なコンビネーション

ターゲット顧客を法人顧客に絞ったDELLは、直接営業からの直接販売で安価なパソコンを求める顧客に切り込みます。

DELLは大々的な販売網を構築する必要ない。企業の購買担当者を口説き落とせばいいのです。

そして店舗は必要ありません。企業にパソコンを直接届けます。

その結果、

  • 卸業者や小売業者に支払うマージンが不要になったことで価格が下がる
  • 受注時に常に最新のパーツを選択肢として提供できるので性能が上がる

といった効果が生まれます。

さらに、当時のパソコンメーカーの常識をくつがえし、DELLはパソコンの受注生産を行います。

DELLの生産改善活動は、受注生産の効率化に充てられます。

受注生産は、見込生産のようにあらかじめ決められた製品を決められた量だけ作るわけではありません。顧客から注文が入り、必要な部品を調達して組み立てる。需要の予測が難しく、各工程の連携の難易度も格段に上がります。

他方、同じものをたくさん作る見込生産の方が、規模の経済性経験曲線効果も効かせやすく圧倒的に生産が楽なのです。だから競合は見込生産を選びたがる。

しかしDELLは、難易度の高い受注生産の効率を上げることに全ての経営資源を投入しました。

理由は、

  • 市場の在庫がゼロになることで技術革新の速度で性能を高められる
  • 受注生産の効率が良くなれば稼働率の向上価格が下げられる
  • 受注生産の効率が良くなれば直販納期を圧倒的に短くできる

からです。

技術革新を生かした高性能パソコンの市場投入

前述したように、一般的なパソコンメーカーは市場に滞留する在庫がなくなるまで、高性能で安価なパソコンを投入することができません。

しかしDELLは受注生産かつ直販体制なので、受注した時点の最新の部品を調達して使用することが可能です。

部品メーカー同士が激しい競争の中、毎週のように性能を上げ、価格を下げる。そんな技術革新の大きな波を、受注生産はすべて受け止めることができます。

つまりDELLのビジネスモデルにおいて、

  • 受注生産の効率が良くなるほど、最新の部品を使えるのでパソコンの性能が向上する

という流れが生まれるのです。

稼働率の向上&技術革新によるコストの押し下げ

受注生産でも、オペレーションの改善でパソコンを効率よく組み立てることができます。

組立工場の効率が良くなれば、稼働率が上がり、同じ設備や人件費で組み立てられるパソコンの台数が増えます。同じコストで組み立てられるパソコンの台数が増えれば、パソコン1台あたりの費用は下がる。パソコンの低価格化(or 粗利の向上)につながります。

これは他のパソコンメーカーの見込生産と同じ、規模の経済性経験曲線効果のメリットです。もちろん、見込生産ほどの効率化は見込めないかもしれませんが、価格の押し下げ効果はあります。

  • 受注生産の効率が良くなるほど、工場の稼働率が高まることでパソコンの価格が下がる

ということになります。

さらに技術革新の向上も相まって、

  • 部品の型落ちによって従来の部品で製造すれば価格が下げられる(or 利幅を増やせる)

という状況も生まれます。

直販&生産リードタイムの短縮で実現する短納期

受注生産という手段をとったDELLは、卸や小売経由に匹敵する納期を実現する必要がありました。

注文を受けてから組み立てる受注生産は、予測を立てて先に生産を始める見込生産には初速で劣ります。

しかし、法人顧客に直接パソコンを納品する直販体制をとったことで、卸や小売に商品が在庫されるためのリードタイムが削減されます。

あとは受注生産のスピードを高め、物流事業者との連携を深めることでリードタイムを縮めることに集中すればいい。

よって、

  • 受注生産の効率が良くなるほど、パソコンの納期が短くなり、直販体制の強みが生きる

ということになります。

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