戦略その2:提供価値は社内交流の活性化
すでに何度も触れていますが、「社長のおごり自販機」の提供価値は「社内コミュニケーションの活性化」です。
「社長のおごり自販機」は1人で使うことはできません。必ず2名の社員証が必要です。だから誰かに声をかけなければならない。そこでコミュニケーションが発生します。
しかもあえて、「10秒以内に」ボタンを押さないと無効になるというルール(上の画像のステップ3)を設定しているため、さらにコミュニケーションが活性化されます。
時間の制約があることで「どの飲み物にするか決めた?」というような会話を、仕組みとして生み出せると考えました。ちなみに2本の商品を払い出すのに6秒かかるので、どちらかの人が4秒迷った時点でアウトです。
失敗するとその日の「おごりモード」の権利は消失するんですが、失敗経験もコミュニケーションにつながるのならそれが正解だと思っています。事前にルールを説明するのも、失敗した経験を自己開示して話すのも、どちらも大切なコミュニケーション。一定の確率で失敗する人が出てしまうのも含めてのサービスです。
サントリー公式コンテンツ「【開発秘話|社長のおごり自販機】社内の会話が爆増する秘密とは? 」より引用
しかしこのような機能を実現するには、自動販売機そのものの改造が不可欠です。
上の図では「自販機改善活動」を行うことで、「社内交流(社内コミュニケーション)」が促され、結果として「経営者の顧客体験」が向上したことを表しています。
だいぞう
「社長のおごり自販機」には、一番目立つ場所にICカードリーダーが埋め込まれてますよね?
これは森さんが、外部の自販機メーカーさん等と共同で開発されたんでしょうか?
いえいえ。我々チーム数名で勝手に改造しちゃいました。
サントリー 森さん
だいぞう
えっ⁈ 社内リソースだけで改造されたんですか!
なんというスピード感と行動力…。
それもそのはず。工学部卒の森さんは自販機を自分で改造できてしまうのです。自販機マニアとしては鬼に金棒のスキル。サントリー創業者の鳥井氏の「やってみなはれ」精神 を体現するような開発力ですね。
別のインタビュー記事では、
作りたい自販機ができたら、企画書を作って上司の了承を得る――というプロセスは経ず、試作して実際に使った社員の反応を見て採用するかどうか決めるという。リアクションが良ければ実現化。イマイチなら即、ボツになる。
と語られているように、すぐにトライアンドエラーできる環境がイノベーションを後押ししていることは間違いないでしょう。