ケイパビリティとは?意味を具体例と図解でわかりやすく解説

ケイパビリティ・ベース競争企業への転換4段階

ケイパビリティを上手く使える企業に変わるためには、4つの段階を経る必要があると言われています。

その4つの段階とは、

  1. 野心的な目標の実現に向けて、戦略のフレームワークを転換する
  2. 選択したケイパビリティを中心に据えて組織を設計し、ケイパビリティの実現に欠かせないスキルと経営資源を社内に整える
  3. 成果を可視化し、業績評価基準と報酬を整合させる
  4. 改革のリーダーシップはCEOが握る

です。(戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS)   第9章から引用)

まずはこれまでの戦略フレームワークにとらわれず、新しい「ケイパビリティ」という考え方に切り替えなければなりません。そして自社のケイパビリティ、つまり他社に真似されにくい価値のあるビジネスプロセスは何であるか、について考える必要があります。

自社のケイパビリティが何であるか特定できれば、それに合わせて組織の仕組みを見直します。また、ケイパビリティが継続的に強化されるように、社内の評価基準も変えなければなりません。

ここで重要なのは、経営者が旗振りを行うことです。ケイパビリティ・ベース競争戦略では、会社の競争力の源泉の考え方が大きく変化します。そのため、ボトムアップでは改革が進みません。ケイパビリティ競争企業に生まれ変わるためには、経営者がしっかりとしたリーダーシップを取る必要があります。

ケイパビリティ・ベース競争戦略とコアコンピタンス経営の違い

コアコンピタンス経営とは、様々な製品を生み出すための主要な「技術」である「コンピタンス」を特定し、戦略的に経営を進める考え方です。

コアコンピタンス経営とは?競争力の源泉となる技術を見つけて育てる経営

コアコンピタンスの概念は、1990年にプラハラッド教授とハメル教授の論文によって広まりました。今回ご紹介した「ケイパビリティ」の2年ほど前の出来事です。

ストーク氏は、「コンピタンス」や「コアコンピタンス」の考え方では、企業の競争力を全て説明することができないと考え、「ケイパビリティ」という考えに至ったようです。

この「ケイパビリティ」と「コアコンピタンス」は、似たような文脈で語られることが多いので、2つの違いについて別記事にまとめています。

コアこピンタンスとケイパビリティ ケイパビリティとコアコンピタンスの違いとは?図解で比較

しかしここでは、ストーク氏の主張を中心に共通点と相違点を説明してみたいと思います。

共通点はSBUに対するアンチテーゼ

SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)とは、戦略立案のために会社の事業や製品群をグループ(=ユニット)化したものです。日本語では「戦略事業単位」や「戦略的事業単位」と呼ばれます。

SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット) SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)とは?戦略的事業単位

SBUの考え方は、1970年代に登場しました。SBUとして製品や事業をグループ化することによって、多角化しすぎた事業を効率的に事業計画に落とし込み、戦略を立案するために使われています。

しかしSBUの欠点は、「事業」や「最終製品」など価値を生み出した結果でしか認識できないことです。つまり事業戦略を考えるとしても、過去の結果の延長線上でしか考えることができません。

そこで解決策として考え出された概念が「コアコンピタンス」や「ケイパビリティ」です。

「コアコンピタンス」や「ケイパビリティ」は、会社の内面に目を向け、どんな要素が価値のある事業や最終製品を生み出しているのかを考えます。そしてその価値の源泉を、戦略に育てることを基本としています。

相違点はコアコンピタンスで説明できない部分

ケイパビリティがコアコンピタンスと違う部分は、「技術」以外の部分を説明できる点です。

論文に登場する例として、本田技研工業の二輪車事業がアメリカに進出のエピソードがあります。

ホンダが北米のオートバイ事業を席巻できたのは、エンジンを作る技術力やオートバイを設計する技術力などのコアコンピタンスだけでは説明できませんでした。

ストークJr氏は、ホンダが北米でオートバイ事業を拡大できたのは、バイクディーラーを管理するケイパビリティがあったからだと指摘しています。

ホンダは、ディーラーが地元で成功できるように、マーケティングから店舗デザイン、在庫管理に至るまでサポートを行ったそうです。その結果、出荷から販売までの一連のプロセスがケイパビリティとなって、他のバイクディーラーよりも多くのオートバイを販売することができました。

要するに、コアコンピタンスの考え方のように価値のある最終製品を作ったとしても、それだけでは競争力として不十分だということです。

ケイパビリティは技術だけでなく、その会社の総合力をみるという点で、コアコンピタンスと異なっていると言えます。

ダイナミック・ケイパビリティ

ダイナミック・ケイパビリティとは、1997年にデイビッド・ティース教授らの論文「Dynamic Capabilities and Strategic Management(ダイナミック・ケイパビリティと戦略経営)」で提唱された考え方です。

ケイパビリティは、

  • ゼロ次一般ケイパビリティ(Zero-order Ordinary Capability)
  • 高次動的ケイパビリティ(High-order Dynamic Capability)

の2つに分類できます。

通常のケイパビリティである「0次一般ケイパビリティ」は、現在の経営戦略を担っている日々のオペレーションのための「実行力」です。

ダイナミック・ケイパビリティと呼ばれる「高次動的ケイパビリティ」は、

  1. 従業員が素早く学び、新しい資産を構築する能力
  2. 「ケイパビリティ」「技術」「顧客からのフィードバック」などの戦略的資産を統合する能力
  3. 価値が低くなった現在の経営資源の変換や再利用をする能力

を伴う、急速な環境変化に対応するための「適応力」です。

一般のケイパビリティもダイナミック・ケイパビリティも、どちらが優れているというわけではなく、必要とされる状況が違うだけです。

詳しい情報は別の記事にまとめているので、こちらの記事もご覧ください。

おすすめの書籍

「戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS)」の第9章には、1992年にBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)のストーク氏による記事「Competing on Capabilities: The New Rules of Corporate Strategy 」の日本語訳が掲載されています。アメリカ小売大手のウォルマートを例に、「ケイパビリティ」について詳しく書かれています。

戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS)

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DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
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