コア製品で天下を取った日本企業
この「コア・コンピタンス経営」という論文では、1980年代に日本企業が世界中の企業をなぎ倒していった理由が研究されています。
その一つの理由が「コア製品」です。
当時急速に拡大して様々な分野でトップに上り詰めた日本企業は、
- コア製品のシェアが高い
という特徴がありました。
「コア製品のシェア」と「最終製品の市場シェア」は異なります。
例えば1980年代のパナソニック(当時は松下電器産業)は、
- 最終製品のビデオテープレコーダーの市場シェア:20%
- コア製品のビデオコンポーネント(部品)の世界シェア: 45%
を占めていたと言われます。
つまり、コアコンピタンスが生み出したコア製品は、自社の最終製品だけでなく他社の最終製品に組み込んで売ることができるのです。
コア製品を大量に作るということは、様々なノウハウが蓄積されるとともに、コアコンピタンスやコア技術そのものが改善されます。
言い換えれば、コア製品を磨き上げて他社にも売ることで「規模の経済」「経験曲線効果」「範囲の経済」などが生まれ、「コストリーダーシップ戦略」をとることもできるのです。
当時の日本企業は技術力だけでなく、価格面でもリーダーシップを取ることで、市場が成熟しても十分な利益を上げることが出来たと言えます。
SBU(戦略事業単位)に対する批判
プラハラッド教授とハメル教授は、1970年代以降に浸透したSBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット、戦略的事業単位)という考え方に警鐘を鳴らしています。
SBUとは、事業計画を立てるために旧来の「事業部」という物理的なまとまりでグループ化するのではなく、事業や製品を共通する特性でグループ化して事業戦略を考える方法です。
経営陣がSBUとして事業を認識することで、
- 最終製品や事業に注目してしまいコアコンピタンスへの投資がおろそかになる
ことが考えられます。
事業や最終製品は、コアコンピタンスやコア製品がなければ生まれません。
花や果実である事業や最終製品を机に並べて戦略を練るのも楽しいかもしれませんが、それらを生み出した根や幹であるコアコンピタンスやコア製品を戦略的に育てることも重要です。
SBUという考え方だけに偏らず、コアコンピタンスにも同じように目を向けることが重要なのかもしれません。
コアコンピタンスにおけるコア人材の重要性
コアコンピタンスは、勝手に生まれてくるわけではありません。
コアコンピタンスを生み出して維持する人材がいるからこそ、市場で競争力を保つことができます。それを実現する人材のことを「コア人材」と呼びます。
たくさんのコンピタンスをコアコンピタンスに育てるためには、コア人材への投資や研究開発が重要になります。
そして社内でのコア人材の流動性も必要です。なぜなら、コア人材は特定の事業に囲い込まれるよりは、コアコンピタンスを磨き上げて、次々にコア製品を生み出す方が会社にとって有益だからです。
しかし経営者にコアコンピタンス経営や「コア人材」という視点がなければ、コアコンピタンスを生み出すことができないかもしれません。
コア人材の流出
1980〜1990年代で世界のトップクラスに上り詰めた日本企業も、2000年代には中国や韓国といったアジアの企業にトップの座を明け渡すようになりました。
その原因の一つが、アジア圏への「コア人材」の流出と言われています。
かつて世界を席巻した企業も、2000年代に入ると大規模なリストラなどで有望な技術者を手放すことになりました。
そこに目をつけたのが中国や韓国の企業です。
日本企業から優秀なコア人材を破格の待遇で迎え入れ、コアコンピタンスを育てました。その結果、1980年代で日本がトップを取っていた数々の分野で、中国や韓国の企業が席巻する結果になりました。
このように、たとえ優れたコアコンピタンスを持っていたとしても、それを支えるコア人材がいなくなってしまえば、一気に競争力を失ってしまうこともあるのです。