コアコンピタンス分析とは、自社の事業や製品の元となっている技術力である「コア・コンピタンス」を特定するための分析フレームワークです。
コアコンピタンス分析のやり方は、
- 事業と最終製品を整理する
- コア製品の候補を考える
- コア製品を選別する
- コンピタンスの候補を考える
- コンピタンスを発見する
- コンピタンスの書き写し
- コアコンピタンス3つの条件の評価
- コアコンピタンスを特定する
です。
ここではコアコンピタンス分析を、手順を追ってわかりやすく解説します。
またコアコンピタンス分析用テンプレート(パワーポイント形式、登録不要)も無料でダウンロード可能です。
目次
コア・コンピタンス分析とは?
「コンピタンス」を重視した「コア・コンピタンス経営」は、プラハラッド教授とハメル教授の論文「The Core Competence of the Corporation(企業のコア・コンピタンス)1990年 」によって広まりました。
「コンピタンス」とは、様々な事業や最終製品に利用できる「コア製品」を生み出すための「技術力」のことです。そしてそれぞれの関係性は「樹」に例えられます。
- 最終製品 = 花・果実・葉
- 事業 = 枝
- コア製品 = 幹
- コンピタンス = 根
図で表すと、下記のようなイメージです。
複数あるコンピタンスは、事業を支える「コア製品」を生み出します。その中でも以下の3つの条件を満たすものを「コア・コンピタンス」と呼びます。(戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS) の第8章より引用)
- 広範かつ多様な市場に参入する可能性をもたらすものでなければならない
- 最終商品が顧客にもたらす価値に貢献するものでなければならない
- ライバルには模倣するのが難しいものでなければならない
コアコンピタンス分析は、この「コアコンピタンス」が何であるかを特定するために行います。
つまり、
- 価値の根っこをつかむための分析
なのです。
コアコンピタンス分析の具体例
具体例をご紹介する前に、コアコンピタンス分析のフレームワークについて補足します。
Googleなどで「コアコンピタンス分析」を検索してみてください。そうすると以下のような採点式のフレームワークが引っかかると思います。でも間違った分析方法なので、注意してください。
この分析方法が使い物にならない理由ですが、
- 製品から価値の根っこ(コンピタンス)をたどることができない
- 評価が分析者の主観に頼ることになり客観性がない
- 経営資源を全て数値化すること自体に無理がある
- ましてや競合他社の経営資源を数値化できるほどの情報が手に入らない
- 仮に数値が出せたとしても誰も妥当かどうか判断できない
- そもそも「点数が高い = 強み」とは限らない
などなど挙げるとキリがありません。
もしこのような数値表を経営陣の前でプレゼンしようものなら、
- 「その数値の根拠は?」
と返されて、しどろもどろになるのがオチです。
また営業先で「自社は90点、競合A社は50点なので弊社の方が優れています!」などとプレゼンをすれば失笑されるだけです。
ということで、ここからは使い物になるコアコンピタンス分析のやり方をご紹介します。(ここでの分析方法は、少なくともプラハラッド教授とハメル教授のコアコンピタンスの考え方に従っています。)
架空の老舗ラーメン店のコアコンピタンス
ここではわかりやすく説明するために、架空の老舗ラーメン店を使って分析します。
架空の老舗ラーメン店は、
- 地元民に愛される創業30年の老舗ラーメン店
- 近所にラーメンチェーン店が進出しても客が減らない
- 「黒ラーメン」「赤ラーメン」「チャーシュー丼」「チャーシュー入り炒飯」が人気メニュー
- 店主が調理を担当していてバイトを雇っている
- 店主は30年前に独立して店を開いた
- 店主は独立前にイタリア料理店で働いたことがある
という設定にします。
まずはこのラーメン店の最終製品と事業を書き出してみましょう。いずれも他店と比べて競争力がある料理です。
分析の流れは、最初に説明した「コアコンピタンスの樹」を上からたどる感じになります。
次に人気メニューを生み出す「コア製品」が何であるか考えます。
コア製品を書き出したら、最終製品と線でつないでみてください。この例では「秘伝スープ」と「特製チャーシュー」が、特に重要なコア製品であることがわかります。
次に「コア製品」が生まれるために、どんな技術力が必要なのか考えます。
ここでのコンピタンスは例として、
- 食材の目利き能力
- 調理技術
- イタリア料理の知識
を挙げました。
どれも価値のある「コア製品」を作るために欠かせない技術力(コンピタンス)です。
そして最後に「コアコンピタンスの3つの条件」である、
- 広範かつ多様な市場に参入する可能性をもたらすものでなければならない
- 最終商品が顧客にもたらす価値に貢献するものでなければならない
- ライバルには模倣するのが難しいものでなければならない
に当てはまるものがあるか考えます。
その結果、店主の「調理技術」が、
- 店主の料理の腕前ならラーメン以外の飲食店も始めることができる
- 店主の料理の腕前によって食材の味を限界まで引き出している
- 店主の料理の腕前は長年の修行によるので簡単には真似できない
であるとすれば、それが「コア・コンピタンス」と特定できます。
この架空の老舗ラーメン店の店主が持つ「調理技術」は、複数の「コア製品」を生み出しています。そして特に全ての人気メニューに入っている「特製チャーシュー」の影響は大きいようです。
このように「コアコンピタンス」が特定できれば、今後の戦略に活かすことができます。
例えば、
- 多店舗展開する場合は調理技術の高い人材を雇う
- 3つのコア製品の味が変わらないように徹底する
- 特製チャーシューを活かした持ち帰りメニューや新商品を開発する
などです。
単なる「強み」ではなく、価値を生み出す「コアコンピタンス」や「コア製品」が何であるかを特定することで、大きく外さない戦略を考えることができます。
コアコンピタンス分析のやり方
ここからはフレームワークを使って、実際にコアコンピタンス分析を行う手順をご紹介します。
コアコンピタンス分析テンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
コアコンピタンス分析用テンプレート(無料:パワーポイント形式)
大きな模造紙やホワイトボードに、付箋を貼っていく方法をおすすめしますが、パワーポイントなどのスライドでも作成できます。
まずは下図のようなフレームワークを、大きな模造紙やホワイトボードに用意してください。
スペースの半分を「コンピタンス」のために空けておくことをおすすめします。
まずは事業名を付箋に書いて貼ります(赤い付箋)。そしてその周りにその事業に関する「最終製品(商品やサービス)」を思いつくままに貼っていってください。
次に最終製品のベースとなっている「コア製品」を考えます。
コア製品とは、家電であれば「小型モーター」「コンプレッサー」「制御基板」など、最終製品を構成するパーツをイメージしてください。自動車であれば「エンジン」「サスペンション」「シート」などです。サービス業であれば、「顧客サポート」「店舗レイアウト」「高スキル人材」などです。
事業や最終製品に欠かせない「コア製品」と思われるものを、貼り付けていってください。
ここではまだ「本当にコア製品かどうか」は判断しなくても大丈夫です。
コア製品の候補が上がったら、今度は最終製品と線でつないでみましょう。
コア製品(の候補)と最終製品をつないでみると、複数の最終製品と繋がるものとそうでないものに分かれます。
ここでは分析をしやすくするために、
- 最終製品に繋がっていない候補
- 1つの最終製品としか繋がっていない候補
を分析から外します。
これでコア製品を絞り込むことができました。
今度は「コンピタンス」を考えてみましょう。
先ほどの「コア製品」を見ながら、どんな技術がベースになっているのか付箋を貼っていきます。
ここでもあまり深く考えず、思いついた技術をどんどん貼っていってください。
十分な量の「コンピタンス」の候補が挙がったら、今度はグループにまとめてください。
貼った位置を張り替えてもいいですし、書き加えても大丈夫です。
関連する技術をグループにして、「〇〇力」や「〇〇する技術力」などと名前を付けましょう。
グループ化した技術力に含まれない付箋も出てきますが、気にしないでください。
どのグループにも分類できない微妙な項目も出てくるので、無理に分類せずにそのままにしておきましょう。
技術力をグループ化したら、それが「コンピタンス」になります。
それらの「コンピタンス」と関連が深い「コア製品」と線でつないでみてください。
ここまで分析すれば、重要な技術力が何であるかが見えてきますね!
ここからはもう一つの分析シートを使って分析します。
別の模造紙やホワイトボードに、下図のようなフレームワークを描いてみて下さい。
コンピタンスを書き込む欄と、コアコンピタンスの三条件を評価する欄があります。
では早速、グループ化したコンピタンスの付箋を移動させてみましょう。
「コンピタンス」の列に、コンピタンスの名前を書いて、先ほどの付箋を貼り付けていきます。
次にコンピタンスが、「コアコンピタンスの3つの条件」に当てはまるかどうかを評価します。右の欄に「〇」か「×」を付けましょう。
「多様な市場参入可能性」は、その技術力を使って様々な分野で事業を展開できるかどうかを考えます。もしその技術が、現在の事業でしか役立ちそうになければ「×」になります。逆に今後もその技術を使って、様々な業界に参入できそうであれば「〇」になります。
「最終製品の価値への貢献」は、最終顧客に対してその技術力が価値を提供することに繋がっているかどうかです。その技術を使うことで、顧客が他の商品より価値を感じたり、問題を解決できるようになっていれば「〇」です。逆に、その技術を使っても使ってなくても価値が変わっていなければ「×」です。
「模倣困難性」は、その技術力が競合他社に真似されにくいかどうかです。他社が実際に真似をするかどうかは別として、その技術を真似ることが難しければ「〇」を、簡単であれば「×」を書き込んでください。詳しい内容は、こちらの記事も参考にしてください。

最後にコアコンピタンスを特定します。
特定するのはとっても簡単。3つの条件に全て「〇」があるものが「コア・コンピタンス」になります。
先頭の「コア」の列に、印をつけましょう。
コアコンピタンスにならなかったその他の技術も、「〇」が1つでもついていたら通常の「コンピタンス」です。もし全て「×」になった技術力があれば、「コンピタンス」ではない可能性が高いです。
アンチ・コアコンピタンス戦略
自社のコアコンピタンスが見つかれば、新しい製品を生み出したり、異なる分野の事業に参入しやすくなるなど、戦略に活用することができます。
しかしそれは競合他社も同じです。
競合他社のコアコンピタンスが、あなたの会社のコアコンピタンスより強力で価値のあるものであれば、競争で不利になってしまうかもしれません。
そこで考えるのが「アンチ・コアコンピタンス戦略」です。
競合のコアコンピタンスを特定する
アンチコアコンピタンス戦略とは、競合他社のコアコンピタンスを特定し、無力化してしまおうという戦略です。
やり方は先ほどのコアコンピタンス分析と同じですが、まず競合他社のコアコンピタンスを特定します。業種にもよりますが、競合の製品やサービスをしっかりと研究すれば「コンピタンス」を想像することができます。
そして競合の「コンピタンス」や「コア・コンピタンス」にあたりをつけて、無力化する事業戦略を考えます。
アンチコアコンピタンス戦略の具体例
競合のコアコンピタンスを特定して無力化する、とひとことで言っても想像しにくいかもしれません。
ということで、わかりやすい事例としては掃除機メーカー「ダイソン」の日本市場参入があります。
ダイソンが日本の掃除機市場に参入するまでは、日本メーカーは、
- 掃除機の静音性
- 掃除機の機動性(小回り)
を競争の軸にしていていました。
日本の家電メーカーは「静音性」や「機動性」を実現するための「コンピタンス」を持っていて、そこで激しく競争をしていました。
しかしダイソンは日本市場に参入した際に、
- 変わらない吸引力
というキャッチフレーズでマーケティングを行いました。
そして、ダイソンは日本の電機メーカーの「コンピタンス」を無力化することに成功します。
ダイソンの市場参入後は、
- 吸引力の変わらない掃除機
- 紙パックが不要の掃除機
を評価する消費者が増えました。「静音性」が低くても、吸引力があれば売れるようになったのです。
日本メーカーは「静音性」や「機動性」を実現する技術力の価値が下がってしまい、新たにサイクロン掃除機を開発するためのコンピタンスを手に入れなければならなくなってしまいました。
このように、競合他社のコンピタンスを特定できれば、自分たちのコンピタンスはそのままに、マーケティングでビジネスを有利に進める戦略も行えるのです。
コア・コンピタンスの関連記事
コアコンピタンスについては、他の記事にもまとめているのでご覧ください。


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「戦略論 1957-1993」の第8章には、プラハラッド教授とハメル教授の論文「コア・コンピタンス経営(原題:The Core Competence of the Corporation)」の日本語訳が掲載されています。
戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS)
コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)