現在価値(Present Value、PV)とは、
- 将来受け取る金額を現時点の価値に計算し直した(割り戻した)金額
のことです。
「割引価値」とも呼ばれ、投資のリターンを比較するためにも使われます。計算には「将来」がどれくらい先なのかを表す「年数」と、現在の価値に割り引くための「割引率」が必要になります。
例えば、1年後に受け取ることができる105万円を、割引率 5%で現在価値に割り引くと100万円になります。
この計算を行うための、計算式は下記のようになります。
この計算式に、先ほどの「105万円」「1年後」「割引率 5%(0.05)」という数字を当てはめると、
- 現在価値 = N年後の金額 ÷ (1 + 割引率)^N年後
- 現在価値 = 105 ÷ (1 + 0.05)^1
- 現在価値 = 100
となって、現在価値が 100万円であることがわかります。
これは下記のように、エクセルの関数を使って簡単に計算することもできます。
ここでは現在価値の意味と求め方について、わかりやすく解説します。また説明で使用しているExcelファイルも、無料でダウンロードいただけます。
現在価値の計算と意味
現在価値とは、
- 将来もらえるお金が今の時点の金額に直すといくらなのか?
ということを考えるための概念です。
…というかそもそも、
えっ? お金の価値なんて「今」も「将来」も同じじゃないの?
と思う方が自然かもしれません。
上の図で言えば、1年後にもらう105万円は「現在価値」でも105万円なのでは?ということです。
しかし結論から言えば、
- いま手元にあるお金 > 将来もらえる予定のお金
ということになるのです。
つまり、1年後にもらう105万円の「現在価値」は105万円よりも低いことになります。
なぜなら、
- 様々な方法で手元にあるお金を増やすことができる
からです。
逆に言えば、どんなに美味しい儲け話があったとしても、手元にお金がなければ何もできません。貧乏人が貧乏のままで、お金持ちはどんどんお金が増やせるのも同じ理由です。
そのため、
- 1年後に105万円をもらえる権利
があっても、今この時点の価値は105万円ではありません。
では価値はいくらなのか?…というと、
- 現在価値 = N年後の金額 ÷ (1 + 割引率)^N年後
という計算式で求めることができます。
ここで必要になるのが、
- 割引率:将来のお金を現時点の価値に差し引くための割合
- 年数:将来のお金をもらうまでの期間
です。
この「割引率」というのは「何を計算するか?」によって変わってきます。
割引率の具体例としては、
- 銀行に借りているお金の利子率
- 株主が期待している投資の利回り
- 経営者が想定している事業投資によるリターン割合
- 市場の成長率
などがあります。
例えば、
- 中古の特定の高級腕時計の価格が毎年5%上昇している
という事実があったと仮定して、
- 宝飾品店「この高級腕時計は来年には105万円で取引されますよ。」
と言われた場合、
- 割引率 = 5%
として「現在のその時計の適正価格」を計算することができます。
これを式に当てはめて計算してみると、
というように、割引率5%の場合に「1年後に105万円で取引される高級腕時計の現在価値」は100万円になりました。
つまり、もしあなたが「今」その高級腕時計を宝飾品店から買うなら、
- 100万円以上払うと損する
ことになります。
言い換えれば、
- あなたの手元にある100万円 = 1年後に高級腕時計を売って手に入れる105万円
という式が成り立ちます。
このように、未来の出来事でも現在の価値に計算し直すことで、現在のお金と比較することができるようになります。
現在価値の割引率と投資判断
ここからはより実践的に、会社の事業投資に置き換えて考えてみましょう。
例えば、
- 新規事業A:100万円投資すると1年後に105万円の利益が得られる
- 新規事業B:100万円投資すると1年後に101万円の利益が得られる
があるとします。
もしあなたが「現在価値」という考え方を知らなければ、
と思ってしまうかもしれません。
しかし先ほどの「高級腕時計」の例を知っているあなたは、そうは考えないはずです。
なぜなら、
- 損するか得するかは「割引率」次第
であることを知っているからです。
今回は、事業投資の100万円を「銀行から借り入れる」ことにしました。
ここでの借り入れは、
- 金利3%
だったとします。
そうすると1年後、あなたの会社は銀行に「利子3万円」をつけた「103万円」を返す必要があります。
つまり、お金を貸す「銀行」にとっては、
- 手元からなくなる100万円 = 将来返済してもらえる103万円
になります。
ということで、
- 割引率3%
で計算することにします。
これを先ほどの計算式、
- 現在価値 = N年後の金額 ÷ (1 + 割引率)^N年後
に当てはめて計算してみると…
ということで、
- 新規事業Aの現在価値:101.9万円
- 新規事業Bの現在価値:98.1万円
になりました。
つまり銀行に利子率3%でお金を借りて事業投資をした場合、
- 新規事業A:100万円の投資に100万円以上の価値がある
- 新規事業B:100万円の投資に100万円の価値がない
ということがわかりました。
この結果、
- 新規事業Aだけに事業投資をする
ということになります。
3年後の現在価値と投資判断
今度は1年後ではなく、3年後にリターンが得られる場合で考えてみましょう。
例えば先ほどの新規事業Aと新規事業Bに加えて、
- 新規事業C:100万円投資すると3年後に109万円の利益が得られる
- 新規事業D:100万円投資すると3年後に105万円の利益が得られる
があるとします。
パッと見、新規事業Dは怪しいですが、新規事業Cは儲かりそうな雰囲気があります。
先ほどの例と同様に、投資額100万円は銀行から金利3%で借り入れることにすると、
- 割引率3%
で計算することになります。
しかし注意しなければならないのは、
- 年数が3年に増えている
ということです。(ここでは3年後に元金100万円とその利子を一括して返済することにします。)
そのため今回は「3年分の割引率を考える」必要があります。
3年後に得られるリターンの現在価値を計算するためには、
- 割引率を年数分だけ「累乗」する
必要があります。
つまり、下記の計算式の「N」について考えなければなりません。
今回の例では3年後のリターンなので、上記の計算式の「N」の部分が「3」になります。
計算式は、
- 現在価値 = N年後の金額 ÷ (1 + 割引率)^N年後
- 現在価値 = 105 ÷ (1 + 0.03)^3
というようになります。
これを実際に計算してみると、
ということで、
- 新規事業Cの現在価値:99.8万円
- 新規事業Dの現在価値:96.1万円
になりました。
つまり銀行に利子率3%でお金を借りて事業投資をした場合、
- 新規事業C:100万円の投資に100万円の価値がない
- 新規事業D:100万円の投資に100万円の価値がない
ということがわかりました。
新規事業Cの方は儲かりそうな雰囲気もありましたが、残念ながら現在価値が100万円を下回っていました。
ここまでの結果を並べてみると、
- 新規事業Aの現在価値:101.9万円
- 新規事業Bの現在価値:98.1万円
- 新規事業Cの現在価値:99.8万円
- 新規事業Dの現在価値:96.1万円
となります。
このように「現在価値」の計算ができれば、投資のリターンのタイミングが異なる1年の事業と3年の事業を同じように比較することが可能になります。
現在価値をエクセルで計算
ここまでご紹介した計算は、エクセルの関数として入力すれば、そのまま現在価値を計算することができます。
現在価値を計算したいセルには、
- = 将来価値のセル / (1 + 割引率のセル)^年数のセル
と入力してみてください。
実際にExcelのシートに入力したものが、下記のスクリーンショットになります。
エクセルでの将来価値の計算
また逆の計算をすれば、エクセルで現在の価値から「将来価値」を計算することもできます。
将来価値を計算したいセルには、
- = 現在価値のセル * (1 + 利子率のセル)^年数のセル
と入力してみてください。
今度は逆に利子率を年数分だけ割るのではなく「かける」ことになります。
こうすると現在の金額から、利子のついた金額を計算することができます。
テンプレートのダウンロード
今回の例で使用した現在価値と将来価値のエクセルテンプレートは、こちらからダウンロードできます。もちろん登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
- 現在価値・将来価値用テンプレート
が収録されています。