ターミナルバリュー(Terminal Value)とは、
- 安定した事業成長が永遠に続くと仮定した場合のキャッシュフロー合計の現在価値
のことで、「継続価値」「永続価値」「残存価値」「最終価値」などとも呼ばれます。
企業価値を計算する場合や、将来の予測が難しいプロジェクトの現在価値を計算する場合に用いられます。
ターミナルバリューを計算するためには、
- 割引率
- 成長率(永久成長率)
を設定する必要があり、公式は下記のようになります。
具体例として、
- 毎年安定的に3億円の利益を生み出している企業がある
- その企業が参入している市場の成長率は3%
- 銀行からの借り入れ(利子率5%)でその企業を買収する
といった場合を想定して計算をしてみます。
この設定から得られた条件を整理すると、
- 毎年のキャッシュフロー:3(億円)
- 割引率(利子率):5%
- 成長率(永久成長率):3%
ということになります。
これを計算すると下図のようになります。
ということで計算結果は、
- 3 ÷ (0.05 – 0.03) = 150
になり、その企業を買収する目安の金額は150億円ということになります。また、150億円よりも低い金額で買うことができれば「お得な買い物」と言えます。
(※ここでの企業価値の計算はデューデリジェンスを目的としたものではなく、あくまでターミナルバリューの計算をわかりやすく説明するための題材として取り上げたものとしてご理解ください。)
ここではターミナルバリュー(継続価値)の計算について、わかりやすく説明します。
目次
ターミナルバリューの計算式
ターミナルバリュー(継続価値)は冒頭でご紹介した通り、
- 起点年度の継続価値 = 翌年度以降の見込み利益 ÷(割引率 ー 成長率)
で計算することができます。
もし「現在価値」や「割引率」という言葉にピンとこなければ、まずは以下の記事をご覧ください。

ということで、現在価値の計算の面倒さを知っていると、
…と疑問がわく人もいるかもしれません。
例えば5年分の現在価値を計算しようと思えば、
- 1年後の現在価値 = 1年後のキャッシュフロー ÷(1+割引率)^1
- 2年後の現在価値 = 1年後のキャッシュフロー ÷(1+割引率)^2
- 3年後の現在価値 = 1年後のキャッシュフロー ÷(1+割引率)^3
- 4年後の現在価値 = 1年後のキャッシュフロー ÷(1+割引率)^4
- 5年後の現在価値 = 1年後のキャッシュフロー ÷(1+割引率)^5
と計算して、全てを合計する必要があります。
もし10年分なら10回計算する必要がありますし、100年だったら100回計算しなければならないかもしれません。ましてや永続価値なら何回計算するのか途方に暮れてしまいます。
しかしそんな面倒な作業も永続価値(ターミナルバリュー)については、
- 起点年度の継続価値 = 翌年度以降の見込み利益 ÷(割引率 ー 成長率)
という1つのシンプルな公式で計算できてしまうのです。
これって、とても怪しい感じがしませんか?
ということで計算してみました!
エクセルで継続価値の計算結果を比較
ここでのターミナルバリューの計算は、
- 毎年のキャッシュフロー:100
- 割引率:50%(0.5)
- 成長率:3%(0.03)
という条件を設定してます。
とりあえず20期分を計算して比較してみました。(※20期で近似値を比較するために、割引率を高く設定してます。)
そして計算結果が以下の通り。(※数値は小数点第四位で四捨五入)
セル「E23」が、毎年3%ずつ成長する利益の現在価値を20年分計算したものの合計値になります。そして、その隣のセル「F23」が、「100」「0.5」「0.03」というたった3つの数字を使っただけの数値です。
比較すると、
- 個別の現在価値の合計値:212.6504…
- 公式を使った永続価値:212.7660…
という数字になりました。
いかがでしょうか? 2つの計算方法の結果がほぼ同じ数値です。
もし個別の現在価値の計算をあと何十年分か行えば、公式を使って計算したターミナルバリューの数値にさらに近づくはずです。
継続価値は起点年度の現在価値
ターミナルバリュー(継続価値)で注意しなければならないのは、
- 計算結果が「起点」とする年度に割り戻した現在価値になる
ということです。
例えば、
- 4年後以降のキャッシュフローが毎年同じ
という条件設定であれば、ターミナルバリューの計算結果は、
- 3年後の時点に割り戻した現在価値
になります。
つまり「現時点」での現在価値を計算する場合は、
- 3年後の時点の現在価値をさらに3年割り戻す計算
が必要になります。
この計算については、後述する具体例でも説明します。
ターミナルバリューの計算方法:CFが一定の場合
まずは一番シンプルな、毎年のキャッシュフローが成長せずに一定である場合のターミナルバリューの計算を確認します。
ここでは単純なターミナルバリューの計算だけでなく「新規事業」として、初期投資を行う想定で、NPV(正味現在価値)を考えてみたいと思います。
ちなみに以前のNPVの記事では例題として、
- 初期投資額:200万円
- 1年後から3年間生まれる利益:100万円
- 割引率:5%(0.05)
という設定で計算しました。
その結果が下記の図になります。(※計算結果は小数点以下を四捨五入)
このNPVの例題では、キャッシュフローが生まれる期間を3年間に限定しています。
しかし今回のターミナルバリューの例題では、キャッシュフローが永遠に生まれるという想定で計算します。
ということで条件を、
- 初期投資額:200万円
- 毎年のキャッシュフロー:100万円
- 割引率:5%(0.05)
- 成長率:なし
としてNPV(正味現在価値)の計算を図に表すと、下記のようになります。
1年後以降のキャッシュフローの合計値を、初期投資額と計算するためには、継続的なキャッシュフローの「継続価値(ターミナルバリュー)」を求めなければなりません。
ということで、こちらのターミナルバリューの計算式を使います。
今回はキャッシュフローが「一定」ということなので、
- 成長率 = 0
で計算します。
そうするとターミナルバリューの計算式は、
- TV = 100 ÷ 0.05
となります。
この結果、
- ターミナルバリュー = 2000
ということがわかりました。
このターミナルバリューは「0年後(現時点)」のものなので、初期投資額を差し引くことでNPV(正味現在価値)を計算することができます。
ターミナルバリューの計算方法:CF発生にタイムラグ
今度は先ほどの設定を少し変えて、
- 初期投資額:200万円
- 2年後から発生する毎年のキャッシュフロー:100万円
- 割引率:5%(0.05)
- 成長率:なし
としてみます。
この場合は、2年後以降のターミナルバリューを計算したとしても、それは1年後時点での現在価値になります。
そのため、1年後時点のターミナルバリューをさらに現在価値(PV)に割り引く必要があります。
1年後時点のターミナルバリューを初期投資と同じ時点に割り引くため、
- 「1年後時点の継続価値」の現在価値 = 2000 ÷ (1 + 0.05)^1 = 1904.7619…
という計算を行います。
その結果、2年後から発生するキャッシュフローの初期投資時点の現在価値がわかり、NPVを計算することができました。(※計算結果は小数点以下を四捨五入)
ターミナルバリューの計算方法:成長率を考慮した計算
今度は「成長率(永久成長率)」を含めた計算を行ってみたいと思います。
ここでは条件を、
- 初期投資額:200万円
- 毎年のキャッシュフロー:100万円
- 割引率:5%(0.05)
- 成長率:3%(0.03)
としてNPV(正味現在価値)の計算を図に表してみます。
基本的には最初の例題とほとんど同じですが、キャッシュフローが毎年3%ずつ増える部分が異なっています。
そのため今回はターミナルバリューの計算式の「成長率(永久成長率)」の欄も含めて計算を行います。
ターミナルバリューの計算は、
- TV = 100 ÷(割引率0.05 − 成長率0.02)
- TV = 100 ÷ 0.02
- TV = 5000
となります。
この数値から初期投資額を差し引けば、NPV(正味現在価値)を計算することができます。
ターミナルバリューまとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
ターミナルバリューの計算式は?
ターミナルバリュー(継続価値)の計算式は、
- 起点年度の継続価値 = 翌年度以降の見込み利益 ÷(割引率 ー 成長率)
です。
割引率には借入金の利子率の数値などを使い、成長率には市場の成長率や事業に期待する成長率などの数値を使います。
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