売上債権回転率の計算式は、
- 売上高 ÷(受取手形 + 売掛金)
で、
- 数値が高いほど売上債権を効率的に回収できている
- 数値が高いほど現金商売の傾向が強い
と言えます。数値の単位は「回」です。
英語では「Receivable Turnover Ratio(レシーバブル・ターンオーバー・レシオ)」や「Debtor’s Turnover Ratio(デッターズ・ターンオーバー・レシオ、債務者回転率)」と呼ばれます。
売上高は「損益計算書(P/L)」から、受取手形と売掛金は「貸借対照表(B/S)」の数値を使って計算します。
売上債権は、
- 納品やサービスの提供はしたけどまだ代金を受け取っていない売上
のことで「受取手形」と「売掛金」の合計値です。
この売上債権の効率性は、率としての「回数」だけでなく、期間として「日数」や「月数」で計算することもできます。
その指標が「売上債権回転期間」であり、計算式は、
- (受取手形 + 売掛金)÷(売上高 ÷ 12ヶ月)
です。上記の計算式の単位は「ヶ月」です。
代表的な産業の平均的な売上債権回転率と売上債権回転期間は以下になります。(2018年中小企業実態基本調査の数値より筆者が計算。全11産業の完全版は後述。)
産業中分類 | 回転率 | 回転期間 |
建設業 | 9.24 回 | 1.30 ヶ月 |
製造業 | 5.66 回 | 2.12 ヶ月 |
卸売業 | 6.37 回 | 1.88 ヶ月 |
小売業 | 12.01 回 | 1.00 ヶ月 |
宿泊業・飲食サービス業 | 30.48 回 | 0.39 ヶ月 |
売上債権回転率が低い場合の対応策としては、
- 入金サイクルの短い決済手段の比率を高める
- 請求書の支払い期日を短くする
- 請求そのものを分割する
などの方法が考えられます。
ここでは売上債権回転率と売上債権回転期間について、わかりやすく説明します。
目次
売上債権回転率の計算式
冒頭でもご紹介したように売上債権回転率(うりあげさいけんかいてんりつ)は、
- 売上高 ÷(受取手形 + 売掛金)
という計算で求めることができます。
数値を厳密に計算をする場合には、期首(年度の初日)の棚卸資産と、期末(年度の最終日)の棚卸資産を足して2で割った「期中平均(きちゅうへいきん)」の値を使います。しかし簡易的に計算する場合は、期末の棚卸資産の数値のみを使います。
下図では、青色の部分が「売上高」で緑色の部分が「売上債権(=受取手形+売掛金)」になります。
この貸借対照表の「売上債権(うりあげさいけん)」とは、
- 納品やサービスの提供はしたけどまだ代金を受け取っていない売上
のことで、
- 受取手形:期日にお金を支払うことが記載されている有価証券
- 売掛金:取引したけどまだお金を受け取っていない部分の金額
の合計です。(受取手形と売掛金は貸倒引当金を差し引く必要があります。)
ちなみに「売掛債権(うりかけさいけん)」や「営業債権」も同じ意味の言葉です。
売上債権をわかりやすく言い換えれば、
- そのうちお金に変わるけどまだお金になっていない売上
です。
売上が発生すると、その売上は、
- 現金預金:すぐに現金または振り込みが行われる
- 受取手形:手形を振り出されて一定期間後に現金化する
- 売掛金:一定期間後に現金または振り込みが行われる
のいずれかのパターンでお金を受け取ることになります。
これらのうち「一定期間後」にお金に変わるのが「売上債権」です。
受取手形は、「〇〇月〇〇日に〇〇円払います」と書かれた「手形」と呼ばれる有価証券を、期日に銀行に持っていけば処理を進めてもらうことができます。
受取手形の取引について詳しい情報は、こちらのサイトでわかりやすく図解されているのでご覧ください。
参考 手形とは?手形による取引をどこよりもわかりやすく図解で解説しました。資金調達BANK一方で、売掛金は、通常の請求書払いをイメージしてもらえるとわかりやすいかと思います。月末などでその月の取引を締めて、翌月や翌々月に請求金額を振り込んでもらうような取引です。
いずれも、売上が発生してからお金が手に入るまでタイムラグがあります。
これらの売上債権は手元にお金があるわけではないので、材料を仕入れたり従業員の給料を払ったりすることに使うことができません。
つまり売上債権の割合が多ければ自由に使えるお金が少なくなり、経営が不利になる可能性があるのです。
そのため、売上高に対する売上債権の比率、つまり「売上債権回転率」を分析することで、売上高を効率的に回収して円滑な経営ができているかを知ることができます。
ちなみに回転率(回数)ですが、
- 12回:常に1ヶ月分の売上債権があって毎月回収している
- 52回:常に1週間分の売上債権があって毎週回収している
というざっくりとしたイメージで考えてみてください。(もちろん必ずしも売上金が100%売上債権で入ってくるわけではないので、現金受け取りの比率によって回転効率は違います。)
このような売上債権1回分を回収するまでの期間を計算する方法として、「売上債権回転期間」という財務分析指標があります。
回転率の計算など「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」の2つの異なる財務諸表の数値を使う財務分析では、貸借対照表の数値を「期中平均」して計算を行います。
この期中平均(きちゅうへいきん)とは、
- 貸借対照表の期首の数値と期末の数値を足して2で割ること
です。
貸借対照表は「一瞬を切り取った数値」であり、損益計算書は「期間中に起こった全ての出来事の合計値」なので計算上同じように取り扱うことができません。
そのため、貸借対照表の年度の「一番初めの瞬間」である「期首」と年度の「一番最後の瞬間」である「期末」の平均をとった「期中平均値」を計算することで実態に近い数字で分析することができます。
ちなみに、
- 期首または期末のどちらか片方の数値しか手に入らない
- 期首と期末の数値がほとんど変化していない
といった場合には、期中平均を行わずに期末または翌年度の期首の数字をそのまま使います。
売上債権回転期間の計算式
月数で考える場合の売上債権回転期間の計算式は、
- (受取手形 + 売掛金)÷(売上高 ÷ 12ヶ月)
です。
ここで注意が必要なのは、
- 回転率の計算式とは分子と分母が逆
- 単位にしたい期間で売上高を割る
ということです。
先ほど説明した「売上債権回転率(りつ)」の方は売上高が分子(上)にありましたが、こちらの「売上債権回転期間(きかん)」は売上高が分母(下)にあります。
また回転期間を「日数」で知りたい場合は、売上高を1年の日数である365日で割ることで計算できます。
このような計算を行えば、売上債権を回収するまでにかかる平均的な期間を把握することができます。
なお売上債権回転率や売上債権回転期間と同様の、
- 効率性の財務分析指標
として「総資本回転率」「棚卸資産回転率」「有形固定資産回転率」などもあります。
売上債権回転率と回転期間の目安となる産業別平均
中小企業庁「中小企業実態基本調査」の数値で計算した、産業別の売上債権回転率および売上債権回転期間の平均値は以下の通りです。(期中平均をとらず、売上債権を受取手形と売掛金の合計値で計算。回転率も回転期間も小数点以下を四捨五入。)
産業中分類 | 回転率 | 回転期間 |
建設業 | 9.24 回 | 1.30 ヶ月 |
製造業 | 5.66 回 | 2.12 ヶ月 |
情報通信業 | 6.80 回 | 1.77 ヶ月 |
運輸業・郵便業 | 8.58 回 | 1.40 ヶ月 |
卸売業 | 6.37 回 | 1.88 ヶ月 |
小売業 | 12.01 回 | 1.00 ヶ月 |
不動産業・物品賃貸業 | 17.44 回 | 0.69 ヶ月 |
学術研究・専門技術サービス業 | 7.08 回 | 1.69 ヶ月 |
宿泊業・飲食サービス業 | 30.48 回 | 0.39 ヶ月 |
生活関連サービス・娯楽業 | 49.62 回 | 0.24 ヶ月 |
サービス業(上記以外) | 8.59 回 | 1.40 ヶ月 |
上記の産業別平均値を見ると、
- 現金払いや短期での振り込み払いが多い産業は回転率が高い
- 月締めでの請求や支払いまでの期間が長い産業は回転率が低い
ということがわかります。
小売や飲食、娯楽産業などはその場で現金で受け取ることが多いと思うので、売上債権回転率が高い(=受取手形や売掛金が少ない)傾向にあります。
一方で、製造業などの請求書を発行してから支払を受けるような業種は、売上債権回転率が低い(=受取手形や売掛金が多い)ようです。
売上債権回転率が低い場合の対応策
売上債権回転率は、自社の過去の業績と比較(期間比較)しても、産業平均や競合他社と比較(相互比較)したとしても、数値が高いに越したことはありません。
売上債権回転率が高ければ、効率的に売上金を回収して、そのお金をさらなる売上の拡大や事業の投資に使うことができます。
また売上債権は貸し倒れる(回収できない)リスクもあるので、売上債権を小さくできればリスクも小さくすることができます。
このように売上債権回転率が高まれば、現金の増加によって事業機会が増加し、売上金の回収リスクも下がるというメリットがあります。
もし売上債権回転率が低い場合は、
- 入金サイクルの短い決済手段の比率を高める
- 請求書の支払い期日を短くする
- 請求そのものを分割する
などといった施策が考えられます。
入金サイクルの短い決済手段の比率を高める
顧客が支払いに利用する決済手段は、
- 現金の手渡し
- 口座への入金
- クレジットカード
- 電子マネー
など様々なものがあります。
その中でも買い手と売り手のの間に誰かが仲介するタイプの決済手段は、入金までのサイクルが長くなりがちです。
そして入金までのサイクルが長ければ、売上は長い間「売掛金」として保留されることになり、売上債権の金額が増加します。そして売上債権が増えれば、売上債権回転率が低下します。
例えばクレジットカードや電子マネーは、顧客の利便性が向上する一方で、売り手側は決済手数料を徴収されることに加えて、現金が振り込まれるまでに一定期間待たなければなりません。
そのため規模の小さい小売業や飲食業は、クレジットカードや電子マネーでの支払いの比率が増えると資金繰りが悪くなってしまいます。このような理由から「現金のみ」といった店舗も少なくありません。
しかし近年ではクレジットカードや電子マネーでも「翌日入金」や「翌々日入金」といった入金サイクルの短い事業者も増えてきています。そのような決済手段を利用すれば、売上債権回転率を抑えながら売り手と買い手の双方の利便性を高めることができる可能性があります。
請求書の支払い期日を短くする
請求書での支払いは法人向けの製品やサービスに多くみられます。
売り手側の目線で考えれば、製品やサービスの代金を早く支払ってもらうことができれば、手元の現金が増えるので資金繰りが助かります。
しかしこれは買い手である顧客企業も同じです。
買い手側の目線では、支払いまでの期間が長ければ長いほど、手元に現金を置いておけるので資金繰りが楽になります。そのため、請求書の支払い期日が短くなることは嬉しくありません。
このような理由から、請求書の支払い期日を短くすることはなかなか難しく、業界の慣例やこれまでの慣習に従わなければならないことがほとんどです。
それでも請求書の支払い期日を短くするのであれば、
- 支払い期日が短くなるデメリット以上の価値を顧客に提供する
ということが必要になります
具体的には、
- 他社から同じ品質の製品やサービスを買うことができない
- 他社の製品やサービスと明確な違いがある
といった状況を作り上げた上で高い価値を提供すれば、支払い期日が短くなったという理由だけで他社に乗り換えられてしまうことを避けることができます。
請求そのものを分割する
もし支払い期日を短くするのが難しければ、
- 請求そのものを小さく分割する
といった方法も考えることができます。
こちらの方法は、先ほどの請求書の支払い期日を短くする方法よりも、より簡単に実現できるかもしれません。
例えば、大きなプロジェクトの請求をする場合に、1つのプロジェクトを複数の小さなフェーズに分けて、1つのフェーズが完了するごとに請求を行うといった方法があります。
また製品などを納入する場合も、請求そのものを細かく区切れば区切るほど、一時的な売掛金のボリュームは小さくなります。
もちろん製品やサービスの特性上、細切れに分割できるものとそうでないものがありますが、請求方法を少し工夫するだけでも、売上債権回転率を改善できる可能性はあります。
売上債権回転率&回転期間まとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
売上債権回転率の計算式は?
売上債権回転率の計算式は、
- 売上高 ÷(受取手形 + 売掛金)
で、数値の単位は「回」です。
- 数値が高いほど売上債権を効率的に回収できている
- 数値が高いほど現金商売の傾向が強い
と言えます。
売上債権回転率の目安となる平均値は?
代表的な産業の売上債権回転率は以下のとおりです。
- 建設業:9.24 回
- 製造業:5.66 回
- 卸売業:6.37 回
- 小売業:12.01 回
- 宿泊業・飲食サービス業:30.48 回
売上債権回転期間の計算式は?
売上債権回転期間を月数で考える場合の計算式は、
- (受取手形 + 売掛金)÷(売上高 ÷ 12ヶ月)
です。
また、日数で計算する場合は、
- (受取手形 + 売掛金)÷(売上高 ÷ 365日)
となります。
売上債権回転期間の目安となる平均値は?
代表的な産業の売上債権回転期間は以下のとおりです。
- 建設業:1.30 ヶ月
- 製造業:2.12 ヶ月
- 卸売業:1.88 ヶ月
- 小売業:1.00 ヶ月
- 宿泊業・飲食サービス業:0.39 ヶ月
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