次回は『ビジネスの教科書』で検索ください

有形固定資産回転率とは?計算式と目安となる産業別平均値

有形固定資産回転率

有形固定資産回転率の計算式は、

  • 売上高 ÷ 有形固定資産

で、

  • 数値が高いほど建物や設備などの固定資産から効率的に売上を生んでいる

と言えます。(数値の単位は「」)

英語では「Tangible Fixed-Asset Turnover Ratio(タンジブル・フィックスト・アセット・ターンオーバー・レシオ)」と呼ばれます。

売上高は「損益計算書(P/L)」から、有形固定資産は「貸借対照表(B/S)」の数値を使って計算します。

有形固定資産回転率の計算式

有形固定資産(ゆうけいこていしさん)とは、

  • 土地や設備など形がある資産

のことで、売上を生み出すために必要な売上原価や販管費などの費用の一部でもあります。

代表的な産業の平均的な有形固定資産回転率は以下になります。(2018年中小企業実態基本調査の数値より筆者が計算。全11産業の完全版は後述。)

産業中分類回転率
建設業5.92 回
製造業3.30 回
卸売業8.22 回
小売業5.72 回
宿泊業・飲食サービス業1.67 回

このような有形固定資産回転率の差は、

  • 有形固定資産を顧客に使ってもらう「稼働率ビジネス」
  • 有形固定資産で商品を生み出す「生産性ビジネス」
  • 有形固定資産の上で商品が動く「回転率ビジネス」

という考え方で説明することができます。

ここでは有形固定資産回転率について、わかりやすく説明します。

有形固定資産回転率の計算式

冒頭でもご紹介したように有形固定資産回転率(ゆうけいこていしさんかいてんりつ)は、

  • 売上高 ÷ 有形固定資産

という計算で求めることができます。

数値を厳密に計算をする場合には、期首(年度の初日)の有形固定資産と、期末(年度の最終日)の有形固定資産を足して2で割った「期中平均(きちゅうへいきん)」の値を使います。しかし簡易的に計算する場合は、期末の有形固定資産の数値のみを使います。

下図では、青色の部分が「売上高」で緑色の部分が「有形固定資産」になります。

有形固定資産回転率の計算式

この貸借対照表の「有形固定資産」は、

  • 土地や設備など形がある資産

のことで、

  • 建物:事務所として会社が所有しているビルや工場などの建屋
  • 建設仮勘定:建設中の建物の手付金などすでに支払っているお金
  • 機械及び装置:工場や店舗の中に設置している設備や機械
  • 車両運搬具(しゃりょううんぱんぐ):トラックや営業車など
  • 工具、器具及び備品:工場や店舗などで使っている工具や器具など
  • 土地:駐車場や建物が立つ会社が所有している土地

などの科目から構成されています。

なお固定資産には、

  • 税法で決められた年数をかけて価値が目減りした分だけ費用として計上する

という「減価償却」の会計ルールが定められているので、

  • 固定資産は何もしなくても毎年資産の金額が減っていく

ということが起こります。

この減っていった金額のことを「減価償却累計額」と呼び、有形固定資産回転率を計算する場合には、減価償却累計額を差し引いた金額で計算しなければいけません。

「減価償却」の仕組みについては、こちらの記事でご確認ください。

ちなみに「有形」に対して「無形固定資産」という科目も存在しています。

  • ソフトウェア:購入した市販のソフトウェアや自社開発したシステムなど
  • 特許権:特許を登録するための費用や他社から買い取った特許の金額
  • のれん:他社を買収したときの買収額と総資産の差額

などが無形固定資産の科目ですが、今回の計算には使いません。

貸借対照表の固定資産について詳しくは、こちらの記事もご覧ください。

有形固定資産は、事務所が入る自社ビル、社用車、店舗や工場、店舗や工場に入る設備、店舗や工場が建っている土地など、売上を生み出すのに欠かせない経営資源です。

そのため、有形固定資産回転率を計算すれば、有形固定資産をいかに効率よく使って売上を作り出しているのかを知ることができます。

なお有形固定資産回転率や有形固定資産回転期間と同様の、

  • 効率性の財務分析指標

として「総資本回転率」「売上債権回転率」「棚卸資産回転率」などもあります。

売上高の違いによる有形固定資産回転率の違い

もし同じ規模の有形固定資産を持つ企業が2つあったとしたら、売上高の高い方が有形固定資産回転率が高くなります。

売上高の違いによる有形固定資産回転率の差

例えば、2社が同等の生産能力の工場や機械設備を持っていたとしても、よりたくさんの製品を効率よく作って売る企業の方が、有形固定資産回転率は高くなります。

有形固定資産の違いによる有形固定資産回転率の違い

もし同じ売上高の企業が2つあったとすれば、有形固定資産の少ない方が有形固定資産回転率が高くなります。

有形固定資産の違いによる有形固定資産回転率の差

例えば、客単価が同じ飲食店でも、店舗数が半分で競合と同じ数の客をさばくことができれば、有形固定資産回転率は高くなります。

補足

回転率の計算など「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」の2つの異なる財務諸表の数値を使う財務分析では、貸借対照表の数値を「期中平均」して計算を行います。

この期中平均(きちゅうへいきん)とは、

  • 貸借対照表の期首の数値と期末の数値を足して2で割ること

です。

貸借対照表は「一瞬を切り取った数値」であり、損益計算書は「期間中に起こった全ての出来事の合計値」なので計算上同じように取り扱うことができません。

そのため、貸借対照表の年度の「一番初めの瞬間」である「期首」と年度の「一番最後の瞬間」である「期末」の平均をとった「期中平均値」を計算することで実態に近い数字で分析することができます。

ちなみに、

  • 期首または期末のどちらか片方の数値しか手に入らない
  • 期首と期末の数値がほとんど変化していない

といった場合には、期中平均を行わずに期末または翌年度の期首の数字をそのまま使います。

有形固定資産回転率の目安となる産業別平均値

中小企業庁「中小企業実態基本調査」の数値で計算した、産業別の有形固定資産回転率の平均値は以下の通りです。(有形固定資産は期中平均をとらず、小数点第二位以下を四捨五入。)

産業中分類回転率
建設業5.92 回
製造業3.30 回
情報通信業5.65 回
運輸業・郵便業2.66 回
卸売業8.22 回
小売業5.72 回
不動産業・物品賃貸業0.59 回
学術研究・専門技術サービス業3.64 回
宿泊業・飲食サービス業1.67 回
生活関連サービス・娯楽業2.20 回
サービス業(上記以外)4.75 回
参考 中小企業実態基本調査 平成30年確報e-Stat 政府統計の総合窓口

上記の産業別平均値を見ると、産業ごとのざっくりとした傾向はつかめるように思えます。

しかしこの産業別平均値は、実は落とし穴があります。

同じ産業であったとしても、業種や業態によって有形固定資産回転率が大きく違うのです。

そのような大きな違いがある産業の代表例として、

  • 不動産業・物品賃貸業
  • 宿泊業・飲食サービス業

の詳細をご紹介します。

不動産業・物品賃貸業の有形固定資産回転率

「不動産業・物品賃貸業」の有形固定資産回転率は 0.59回と、産業別平均値の中でも唯一1回転を切っているので目に止まると思います。

しかしさらに細かく見ていくと、「不動産賃貸業・管理業」の有形固定資産回転率がとても低いことがわかります。

不動産業・物品賃貸業回転率
不動産取引業1.82 回
不動産賃貸業・管理業0.29 回
物品賃貸業2.63 回
平均値(参考)0.59 回

これは「不動産賃貸業・管理業」が、不動産(有形固定資産)を所有し続けることで長期にわたって賃貸料などの売上を生み出すビジネスモデルであるためです。また所有する個々の不動産そのものも金額が大きいのも、有形固定資産回転率を引き下げる要因になっています。

一方で「不動産取引業」は、不動産を所有せずに仲介を行う、手数料を主体とするビジネスモデルなので回転率は比較的高くなります。

リース業やレンタル業などを含む「物品賃貸業」については、「不動産賃貸業・管理業」と同様に固定資産を所有して貸し出すビジネスモデルです。しかし「物品」は不動産ほど金額が大きくなく、有形固定資産回転率に差がついていると思われます。

宿泊業・飲食サービス業の有形固定資産回転率

「宿泊業・飲食サービス業」の有形固定資産回転率は 1.67回と、他のサービス業と比較すると低い値になっています。

しかし中を見てみると、「宿泊業」が 1回転を下回る一方で、「持ち帰り・宅配飲食サービス業」は6回転と非常に高い有形固定資産回転率を誇っています。

宿泊業・飲食サービス業回転率
宿泊業0.79 回
飲食業2.34 回
持ち帰り・宅配飲食サービス業6.08 回
平均値(参考)1.67 回

「宿泊業」については、先ほどの「不動産賃貸業・管理業」と同様に、ホテルや旅館の建物や設備を所有し続けながら長期にわたって宿泊料などの売上を生み出すビジネスモデルであるため、有形固定資産回転率が低くなっています。

一方で、持ち帰り弁当や、寿司やピザの宅配サービスなどの「持ち帰り・宅配飲食サービス業」は、非常に高い有形固定資産回転率を生み出しています。これらの業態は、厨房の機能だけを持った小さな店舗で広いエリアをカバーします。そのため、少ない有形固定資産で多くの売上を生み出すことが可能になります。

このようにメジャーな産業分類でも、有形固定資産回転率は様々です。ぜひ自社や競合他社、業態が少し違う同業他社なども分析してみてください。

有形固定資産回転率の考え方

上記のように回転率の差が現れる理由は、

  • 有形固定資産を顧客に使ってもらう「稼働率ビジネス」
  • 有形固定資産で商品を生み出す「生産性ビジネス」
  • 有形固定資産の上で商品が動く「回転率ビジネス」

のいずれかの視点で考えることができます。

有形固定資産回転率が低い「稼働率ビジネス」

ここでの「稼働率ビジネス」とは、

  • 所有する有形固定資産を顧客に効率的に使ってもらうビジネス

と定義します。

先ほどの産業別平均値の説明であれば、

  • 不動産賃貸業・管理業
  • 宿泊業

が該当します。

他にも「運輸業・郵便業」に分類される「倉庫業」も有形固定回転率が 1.20回と比較的低い数値を示しています。

これらの事業は、建物や土地といった高額な有形固定資産を顧客に貸し出して、その利用料として売り上げを生み出すビジネスモデルです。

そのため、

  • 顧客が誰も利用しない(稼働していない)期間

には全く売り上げを生み出せません。

そういったことを避けるためにも、顧客に貸し出す有形固定資産は、

  • 常に誰かが使って利用料が発生している状態

を維持すること、つまり、

  • 有形固定資産の稼働率が常に高い状態

を維持することができれば、売上が高まり、有形固定回転率も改善します。

しかしながら、そもそもの有形固定資産の金額が大きく、20年や30年といった長期にわたって利用するため、1年の売上(利用料)が有形固定資産の金額を超えることは滅多にありません。

その結果、年間の有形固定回転率の数値が低くなる傾向にあります。(ただし、減価償却がほとんど終わって、資産価値が無くなっている資産については回転率が高くなります。)

有形固定資産回転率が中程度の「生産性ビジネス」

稼働率ビジネスの有形固定回転率が低くなる一方で、

  • 所有する有形固定資産を利用して商品を生み出すビジネス

である「生産性ビジネス」は、生産効率を高めることで回転率が高くなる傾向にあります。

その中でも代表的な産業は、

  • 製造業

です。

製造業の平均的な有形固定回転率は3回転程度ですが、小分類を見ても回転率が「2〜5回転」と産業内でのバラツキも小さくなっています。

このような生産性ビジネスは、土地や工場といった有形固定資産を有効に使って、より多くの製品を生み出し、たくさん売ることで有形固定回転率を改善することができます。

先ほどの稼働率ビジネスでは、稼働率が100%になってしまえば、それ以上に稼働率を上げることができません。

しかし生産性ビジネスでは設備の稼働率が100%になっても、生産プロセスの見直しや設計の変更、設備の改良といった工夫によって、生産量を高めることが可能です。

他にも先ほどご紹介した「持ち帰り・宅配飲食サービス業」も生産性ビジネスに該当するかと思います。また「飲食業」については稼働率ビジネス(座席の稼働率)と生産性ビジネス(厨房の生産性)の両方の特徴を持ったビジネスと言えます。

有形固定回転率が高い「回転率ビジネス」

有形固定回転率が高くなりやすいのは、

  • 所有する有形固定資産の上で商品やサービスを取り扱うビジネス

である「回転率ビジネス」です。

産業中分類で言えば、

  • 情報通信業:通信設備の上でデジタルデータの商品やサービスを取り扱う
  • 卸売業:所有する倉庫や車両を使って大量の商品の移動を仲介する
  • 小売業:所有する店舗で日々消化される大量の商品を取り扱う

などが該当します。

これらの事業は、有形固定資産の上を商品やサービスが効率よく通過すればするほど売上が高まります。

特に「情報通信業」が扱うのはデジタルデータであるため、物理的な制限が少なく、有形固定回転率が青天井に伸びることもあります。

例えば、ネット上で個人売買を仲介しているフリマアプリの「メルカリ」は、

  • 売上高:517億円
  • 有形固定資産:19億円

であり、

  • 有形固定回転率:27.21 回

という非常に高い数値になります。(2019年6月期、期末の数値で計算。)

参考 【PDF】株式会社メルカリ 有価証券報告書 第7期 2018年7月1日〜2019年6月30日EDINET

このように業種や業態によっては、有形固定回転率は産業別平均値を大きく越えた値になることもあります。

ただし、有形固定回転率は単純に「高ければ良い」「低ければ悪い」というわけではありません。業種や業態が持つ特性を踏まえた上で、いかに有形固定資産を効率よく使っているかを考える必要があります。

結局は、どんなビジネスでも、

  • 有形固定資産は最大限活用する
  • 活用できない有形固定資産は処分や売却を検討する

ことを意識することが重要になります。

有形固定回転率まとめ

以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。

有形固定回転率の計算式は?

有形固定資産回転率の計算式は、

  • 売上高 ÷ 有形固定資産

で、数値の単位は「」です。

  • 数値が高いほど建物や設備などの固定資産から効率的に売上を生んでいる

と言えます。

有形固定回転率の目安となる平均値は?

代表的な産業の有形固定回転率は以下のとおりです。

  • 建設業:5.92 回
  • 製造業:3.30 回
  • 卸売業:8.22 回
  • 小売業:5.72 回
  • 宿泊業・飲食サービス業:1.67 回

有形固定資産回転率は、

  • 稼働率ビジネス:低い
  • 生産性ビジネス:中間
  • 回転率ビジネス:高い

といった傾向があります。

関連書籍

財務3表図解分析法 (朝日新書)

財務3表図解分析法 (朝日新書)

國貞克則
858円(10/30 17:23時点)
発売日: 2016/10/13
Amazonの情報を掲載しています
[ポケットMBA]財務諸表分析 ゼロからわかる読み方・活かし方 (PHPビジネス新書)

[ポケットMBA]財務諸表分析 ゼロからわかる読み方・活かし方 (PHPビジネス新書)

グロービス, 溝口 聖規
765円(10/30 19:55時点)
発売日: 2018/01/18
Amazonの情報を掲載しています
[最新版]図解 決算書を読みこなして経営分析ができる本

[最新版]図解 決算書を読みこなして経営分析ができる本

高下 淳子
1,540円(10/30 19:55時点)
発売日: 2007/01/27
Amazonの情報を掲載しています