パレートの法則とは、
- 大部分(80%)は全体の要素の一部(20%)で構成されているという経験則
のことで、「80対20の法則」「80:20の法則」「8:2の法則」「80/20の法則」などとも呼ばれます。
下図のような「べき乗則」のグラフで表現されることがほとんどです。
ビジネスの場面で使われるパレートの法則では、
- 製品の20%が売上の80%を稼いでいる
- 2割のお得意様が会社の利益の8割をもたらしてくれる
などが代表的なものになります。
ここでは「パレートの法則(80対20の法則)」に加えて「ロングテール」「働きアリの法則(2-6-2の法則)」などについても、図を交えてわかりやすく説明します。
パレートの法則(80対20の法則)とは?
パレートの法則(80対20の法則)とは、1896年にイタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレート(Vilfredo Pareto)氏の研究で、
- イタリアの国土の80%は人口の20%によって所有されている
という研究結果が導かれたことに由来しています。
参考 Vilfredo ParetoWikipediaこの法則は近年でも、
- 世界の上位20%のお金持ちが世界の所得の82.7%をコントロールしている(Human Development Report, New York: Oxford University Press 1992年 )
- アメリカの上位20%のお金持ちがアメリカの税金の87%を支払っている(米ウォール・ストリート・ジャーナル「Top 20% of Americans Will Pay 87% of Income Tax」2018年 )
という研究結果が得られていて、富の分配という点において有効である事が確認されています。
べき乗則
このパレートの法則は、「べき乗則」のグラフがベースになっています。
べき乗則(冪乗則、Power law)とは、下図のようなグラフで表現される「統計モデル」の一種です。
このべき乗則というモデルでは、自然現象をはじめとして様々な事柄を説明できるモデルとして知られています。多くの事柄(グラフの上方向)が全体の一部(グラフの左部分)によって引き起こされていることが、グラフによって表されています。
そしてパレート氏がイタリア国内の富(土地の所有)の分配を研究した結果も、この「べき乗則」に従っている事がわかり、パレートの法則(80対20の法則)として多くの人に知られるようになりました。
パレートの法則の具体例
先ほどご紹介した「べき乗則」を使って、パレートの法則を表現すると下図のようになります。
パレート氏の富の配分の研究であれば、
- 縦軸:所有する土地の面積
- 横軸:所有する土地の面積順で左から並べた個人
ということになり、左から広い土地を所有する順で個人を並べ替えると、先頭の約20%の個人がイタリア国土の約80%(ピンク色の部分)を所有している事がわかります。
この「80対20」という割合が「80対20の法則」と呼ばれる理由でもありますが、現在では「一部ものもが大部分をもたらしている」という「経験則」として使われるようになりました。
そのため「80対20の法則」と言っても、必ずしも80対20の割合である必要はありません。
パレートの法則の具体例としては、
- 製品の20%が売上の80%を稼いでいる
- 2割のお得意様が会社の利益の8割をもたらしてくれる
- 2割の従業員が会社の売上の8割を生み出している
- 2割のプログラムの不具合を直せばエラーの8割が解決する
- ソフトウェアの機能の8割は2割のブログラムコードで動いている
- 自然災害の20%が自然災害被害者の80%を生んでいる
などなど、様々なものがあります。
パレートの法則とロングテールの違い
パレートの法則と関連して「ロングテール」も一緒に取り上げられる事があります。
これらの共通点は、
- べき乗則のグラフに従っている
という事であり、両者で違う部分は、
- ロングテールは割合の少ない方に焦点を当てている
- 80対20の比率は関係ない
という事です。
このロングテールの考え方は、1946年ごろから「度数分布(データを量の大小で並べ替えて各数値の個数を表示する) 」として研究され始め、金融や保険の分野でも使われるようになりました。そして1950年代に、フランスの数学者で経済学者でもあるブノワ・マンデルブロ教授 (フラクタルの概念で有名)によっても研究が進められ、マンデルブロ教授は「ロングテールの父」とも呼ばれているようです。
その後、2004年に米技術雑誌「Wired(ワイヤード)」の編集長クリス・アンダーソン氏 によって、台頭するオンラインショップやオンラインサービスの説明として「ロングテール」という考え方が世の中に広まることになりました。
このインターネットの普及によって生まれたロングテールとは、
- 実店舗で物理的に取り扱える品揃えとネットショップの品揃え
の差のことです。
リアルにお店を構える店舗は、
- 売り場面積
- 在庫量
によって品揃えに制限を抱えることになります。
そのため一般的には、
- 利益率の高い商品
- 在庫の回転が早い商品
- 集客できる商品
の優先度が高くなり、逆に、
- 滅多に売れない商品
- 集客能力のない商品
などの優先度が低くなります。
一方でオンラインショップやオンラインサービスは、
- 売り場に物理的な制限がない
- 在庫コストや物流コストが実店舗より低い
ことによって先ほどの、
- 滅多に売れない商品
- 集客能力のない商品
も品揃えに加えることができるようになります。
この実店舗とオンライン店舗の品揃えの差となる商品やサービスを「ロングテール」と呼びます。
そのため、商品カテゴリにも寄りますが、必ずしも実店舗での取り扱い商品数がオンラインショップの2割になるわけではありませんし、ロングテール商品の売り上げが全体の2割を超えることも普通にあります。
つまり、
- パレートの法則 ≠ ロングテール
ということになります。
働きアリの法則(2-6-2の法則)とは?
働きアリの法則とは、
- よく働く20%のアリが食料の80%を調達している
- 働かないアリが全体の20%を占めている
- 働かないアリを取り除いたら新しい全体の20%が働かなくなる
- 取り除いた働かないアリはその後20%60%20%に別れてしまう
- よく働くアリを取り除いたら新しい全体の20%がよく働くようになる
- 取り除いたよく働くアリはその後20%60%20%に別れてしまう
というような法則で、パレートの法則から派生した考え方と言われています。
働きアリの法則は人事や組織論において、
- 優秀な人材(上位2割)だけを集めても高いパフォーマンスを維持できない
- 働かない人材(下位2割)の首を切ってもまた全体の2割が働かなくなる
などのたとえ話として取り上げられることがよくあります。
しかし実際はどうかと言うと、ネット動画配信大手の「Netflix(ネットフリックス)」が過去に行ったリストラのように、働かない3割の社員の首を切ったことで会社の業績が持ち直すケースがあります。(下記書籍を参照)
EXTREME TEAMS(エクストリーム・チームズ)--- アップル、グーグルに続く次世代最先端企業の成功の秘訣
他にも企業の特命プロジェクトとして結成された社内の少数精鋭を集めたチームは、多くの場合に各メンバーが重要な役割を果たし、通常の社員よりも高いパフォーマンスを維持することができます。
このように働きアリの法則は、必ずしも有効なわけではありません。
その理由は「本来の意味」での働きアリの法則にあります。
実際の働きアリの法則
本来の生物学としての働きアリの法則は、
- よく働くアリが疲れてペースを落とすと普通に働くアリがよく働くアリになる
- 普通に働くアリが疲れて働かなくなると働かなかったアリが働くようになる
ということが、北海道大学の長谷川教授の研究でわかっています。
つまり、
- 全てのアリが「よく働くアリ」であり「働かないアリ」でもある
- 全てのアリが適度に休めるので20%の「よく働くアリ」をずっと維持できる
ということで、一定の高いパフォーマンスを維持し続けるための効率的なシステムということがわかります。(一方で、本当に全く働かない「フリーライダー」に属するアリも少数存在しています。また別の研究では働きアリの割合が異なるので、諸説あるようです。)
この本来の意味での働きアリの法則から組織論を見てみると、
- 持続的な組織運営には従業員の負荷が分散する仕組みが不可欠
- すぐに動ける予備人員の存在を軽視してはいけない
- 優秀な人材が燃え尽きないためには組織レベルの仕組みづくりが重要
などが考えられます。
…と、ここまでくるとパレートの法則から話がだいぶ遠ざかってしまいました。
しかし働きアリの法則では、単純にパレートの法則として80対20で構成されているだけでなく、組織論としてより深いヒントが得られそうです。
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