VRIO分析とは、経済価値・希少性・模倣困難性・組織の視点の4つの問いに順番に答えることで、その経営資源が強みなのか弱みなのか判別するフレームワークです。
4つの問いは、
- その経営資源は機会や脅威に適応できるか?
- どれくらい多くの競合がその経営資源を持っているか?
- 同じ経営資源を他社が得るために多くのコストがかかるのか?
- その経営資源を戦略にフル活用できる組織なのか?
です。
ここではVRIOのフローチャートを使った分析方法を、具体例をあげながら解説します。また無料のVRIO分析用テンプレート(パワーポイント形式)もダウンロード可能です。
目次
どんなフレームワーク?
1991年にバーニー教授が発表して90年代を席巻したフレームワーク、VRIO(ブリオ)分析。この分析はその会社の経営資源が、「強み」なのか「弱み」なのか評価するために使うフレームワークです。経営資源については、下記の記事を参考にしてください。

この「会社の内部にある資源を活用しよう」というバーニー教授の考え方は、RBV(リソース・ベースド・ビュー)と呼ばれています。
このVRIO分析では、経営資源をフローチャートで判別することで、
- 戦略に使える「強み」となる経営資源は何なのか?
- 戦略で使ってはいけない「弱み」となる経営資源は何なのか?
を評価することができます。
さらに「強み」については3段階のレベルがあって、
- 普通の強み:他社も持っているので競合を出し抜けない
- 独自の強み:他社が持っていないので競合を出し抜けるけど一時的
- 持続的な独自の強み:他社が持っておらず競合を出し抜けて追いつかれにくい
の3つのいずれかに分類されます。
フローチャート自体の問いは4つあります。
- 経済価値への問い:その経営資源は機会や脅威に適応できるか?
- 希少性への問い:どれくらい多くの競合がその経営資源を持っているか?
- 模倣困難性への問い:同じ経営資源を他社が得るために多くのコストがかかるのか?
- 組織への問い:その経営資源を戦略にフル活用できる組織なのか?
これを上から順番に、YESかNOで答えていきます。
1つ目の「経済価値」についてバーニー教授は、
- 機会をうまくとらえることができる経営資源
- 脅威を無力化することができる経営資源
このどちらかに当てはまれば「経済価値」があると定義しています。しかし、そもそも何が機会で何が脅威なのかを理解していないと、1つ目の問いに答えることはできません。事前にファイブフォース分析やPEST分析を行い、SWOT分析で「機会」と「脅威」に分類しておく必要があります。









以上をまとめると、VRIO分析のフローチャートは下記のようになります。
経営資源をこのフローチャートに通した結果、
- 強み → 戦略に活用する
- 弱み → 修復するか回避する
などの対応を行います。
4つの問いへの答えと具体例
ここからはそれぞれの「問い」とその答えについて、具体的な例を挙げながら詳しくみていきましょう。
経済価値への問い
「機会をうまくとらえることができる経営資源」や「脅威を無力化することができる経営資源」のことを、「経済価値のある経営資源」と呼びます。
ここでの問いは、
- その経営資源は機会や脅威に適応できるか? → YES or NO
です。
例えばその会社に「ヒアリングから顧客の課題を解決する提案力」という経営資源がある場合、
- 顧客の課題が多様化しているという機会
があれば提案力で対応できます。つまり経済価値があります。
- 安価でシンプルな商品・サービスが普及してきているという脅威
が迫っていれば、顧客の課題を個別に解決する付加価値で対応できます。こちらも経済価値があると言えます。
この問いで経済価値があれば次の問いに進み、経済価値がなければ「弱み」になります。この弱みを厳密に言うと「競争劣位で標準を下回る経営資源」です。ライバルとは勝負にならず、どうにかしなければならない「弱み」と言えます。
希少性への問い
ここでの問いは、
- どれくらい多くの競合がその経営資源を持っているか?→ YES or NO
です。
「ヒアリングから顧客の課題を解決する提案力」という経営資源の場合、多くのライバル会社も同じように提案しているのなら「NO」、他がやっていないなら「YES」です。
この問いで「YES」であれば次の問いに進み、「NO」であればレベル1の強みになります。このレベル1「普通の強み」を厳密に言うと「競争均衡で標準の経営資源」です。ライバルとは競り合えるけど、ありふれた強みと言えます。
模様困難性への問い
ここでの問いは、
- 同じ経営資源を他社が得るために多くのコストがかかるのか?→ YES or NO
です。
「ヒアリングから顧客の課題を解決する提案力」という経営資源の場合、例えば営業担当者を育てたりノウハウを得たりするのに時間とお金がかかる場合は「YES」、そうでない場合は「NO」です。
この問いで「YES」であれば次の問いに進み、「NO」であればレベル2の強みになります。このレベル2「独自の強み」を厳密に言うと「一時的競争優位で標準を上回る経営資源」です。同じ経営資源を持っている競合は少なく、競争が優位に運ぶ強みと言えます。
組織への問い
ここでの問いは、
- その経営資源を戦略にフル活用できる組織なのか?→ YES or NO
です。
「ヒアリングから顧客の課題を解決する提案力」という経営資源の場合、営業部が人手不足で回っていなかったり、人材育成ができていなかったり、ノウハウを蓄積して共有する仕組みがなかったりすれば「NO」です。逆に組織的にその経営資源を強化する仕組みがあれば「YES」になります。
この問いで「YES」であればレベル3の強みであり、「NO」であれば組織自体が「弱み」になります。このレベル3「持続的な独自の強み」を厳密に言うと「持続的競争優位で標準を上回る経営資源」です。同じ経営資源を持っている競合は少なく、すぐに真似をされる可能性も低く、経営資源を十分に使いこなせる組織を伴った強みと言えます。
出来ること出来ないこと
- 他のフレームワークで機会と脅威を理解した上で分析を行う
- 特定の瞬間をとらえて分析する
- 外部環境をよく理解していない状態で分析を始める
- 業界環境の変化をとらえて分析する
1問目の問いで「機会」と「脅威」を問われるので、事前に外部環境の分析を行っておきましょう。その企業にとって「機会」と「脅威」が何なのかが明確であれば、VRIO分析の結果で理解が深まります。ファイブフォース分析、PEST分析、SWOT分析などが、機会と脅威の理解に役立ちます。
また、ある特定の瞬間をとらえた分析になるため、時間の経過と共に経営資源に変化があれば結果も変わります。
VRIO分析の手順
- ステップ1分析対象になる経営資源を決める
そもそも何のためにVRIO分析をするのか考えてみましょう。
- 戦略を考えるために自社の「強み」がどんな経営資源なのか洗い出す
- 現時点で自社にとって重要な経営資源が現在も「強み」であるか確認する
多くの場合は、これらのことが分析をする理由になると思います。ここでは後者の方で、説明を進めます。まずは現在の柱となっている事業で最も重要な経営資源を1つ挙げてください。
- ステップ2経済価値の問いに答える
ここからフローチャートが始まります。
このフローチャートを手元に用意して、一つずつ答えていきましょう。
VRIO分析フローチャートは、こちらからダウンロードできます。
最初の経済価値の問いは、
- 「その経営資源は機会や脅威に適応できるか?」
です。
機会や脅威はファイブフォース分析やPEST分析で、事前に洗い出しておきましょう。ステップ1で挙げた経営資源は、いま存在している機会に対して活用できるでしょうか? あるいは迫り来る脅威を無効化したり緩和したりすることに活用できるでしょうか?
- 答えが「YES」なら次の問いへ
- 答えが「NO」であれば「弱み」
ここで「NO」と答えると、その経営資源は経済価値が無い「弱み」ということになります。事業の弱点になりかねないため、すぐに手当てを考えましょう。
- ステップ3希少性の問いに答える
次の問いは希少性についてです。
- 「どれくらい多くの競合がその経営資源を持っているか?」
ということで考えてみましょう。ここでは競合他社の情報がなければ問いに答えることはできません。
- 答えが「YES」なら次の問いへ
- 答えが「NO」であれば「普通の強み(強みレベル1)」
ここで「NO」と答えると、その経営資源は機会と脅威に適応できるものの、特別珍しいものではないため「普通の強み」ということになります。無いよりはあったほうが良いですが、他社を出し抜くほどの強みではありません。
- ステップ4模倣困難性の問いに答える
次は模様困難性について、
- 「同じ経営資源を他社が得るために多くのコストがかかるのか?」
という問いです。それが例え自分たちだけの強みだったとしても、すぐに真似をされると優位性も一時的なものになります。
- 答えが「YES」なら次の問いへ
- 答えが「NO」であれば「独自の強み(強みレベル2)」
ここで「NO」と答えると、その経営資源は他社が多少のコストをかけるだけで得ることができるので、一時的な「独自の強み」と言えます。真似はされやすいものの、まだ真似をされていないので一時的に他社より有利な状況が得られます。
- ステップ5組織の問いに答える
最後は組織について、
- 「その経営資源を戦略にフル活用できる組織なのか?」
という問いです。いくら素晴らしい経営資源が手元にあっても、組織としてそれを活用できなければ宝の持ち腐れです。
- 答えが「YES」なら「持続的な独自の強み(強みレベル3)」
- 答えが「NO」であれば「組織そのものが弱み」
ここで「NO」と答えると、その経営資源自体は強みであるものの、組織が「弱み」であると言えます。強みが活かせないわけではないですが、強みの本来の力は発揮されません。この場合には、組織の改善を早急に行う必要があります。
一方で「YES」と答えた場合は、その経営資源は持続性のある独自の強みです。大きな環境の変化がない限りは、持続的に活かせる強みと判断できます。
短所とうまく分析するコツ
このフレームワークの短所としては、
- そもそも分析対象の経営資源をどうやって選ぶか悩む
- 1問目に答えるためにPEST分析やSWOT分析をする必要がある
- 2問目で他社が同じ経営資源を持っているかどうかの情報が手に入りにくい
- 経営資源の「組織資本」を判断する場合に4つ目の問いが成立しない
- SWOT分析の「強み」「弱み」と意味が違うのでややこしい
などです。
経営資源は様々なものが存在しているので、どれを分析にかけるかは悩みどころです。コツとしては、現在の戦略で「重要」と認識されている経営資源を、優先的に分析することです。「自社の強み」と思っていても、環境の変化で「弱み」になっていることがあります。
1問目に正確に答えるためには、外部環境の分析が不可欠です。前述したように、VRIO分析を始める前に下準備として、ファイブフォース分析やPEST分析を行なって外部環境を洗い出し、SWOT分析で「機会」と「脅威」に分類しておきましょう。
2問目ですが、競合他社がどうなのかを知る必要があります。業界内の噂やネットワークで、ある程度は把握できるかもしれませんが正確な情報は手に入りにくいと思います。わからない部分は推測で進めるしかありません。
4問目ですが、経営資源の「組織資本」については答えにくいと思います。組織資本に限らず、組織構造などが強く関わる経営資源については、3つ目の模倣困難性の問いまでで十分に判断可能です。
一番ややこしいのは、SWOT分析の「強み」「弱み」とは意味が違うということです。戦略について話し合う場面で、どちらの分析の意味で「強み」「弱み」と言っているのか誤解を招かないように区別しましょう。
以上のコツをまとめると、
- 現在「重要」な経営資源と認識されているものから分析する
- 事前にファイブフォース分析・PEST分析・SWOT分析を行なっておく
- 経営資源の「組織資本」については3問目で終了する
- 「SWOT分析の強み・弱み」と「VRIO分析の強み・弱み」は別物として考える
となります。なかなか難易度の高い分析方法なので、十分に下準備を行いましょう。
無料テンプレートのダウンロード
VRIO分析フローチャートは、こちらからダウンロードできます。
- VRIO分析用フローチャート
が収録されています。
おすすめの書籍
もっと詳しく知りたい方は、こちらの本をお勧めします。