3C分析とは、
- 顧客(Customer)
- 自社(Corporation)
- 競合(Competitor)
の3つの視点でマーケティング環境を分析したり、KSF(重要成功要因)から戦略を策定したりするためのフレームワークです。
読み方は「さん・シー」で、3つの要素の英語の頭文字が「C」であることが由来です。
マーケティング環境の3C分析は上記の図のように表されますが、実際の分析作業には下記のようなフレームワークを使用します。(無料の3C分析用テンプレートもダウンロード可能です。)
ここでは具体的事例として「スターバックス」を取り上げ、分析を行う手順もわかりやすく説明します。
目次
3C分析とは?
3C分析は「戦略的三角関係(Strategic Triangle)」や「戦略的3C」と呼ばれ、1982年に大前研一氏が著書「The Mind of the Strategist(戦略家の心)」で発表したことで世界的に広まりました。
StrategicMind 2014年新装版 (Kenichi Ohmae business strategist series(NextPublishing))
しかし現在では大前氏の提唱したオリジナルの使い方よりも、マーケティング環境を分析するためのフレームワークとして定着しています。
ということで3C分析は大きく分けて、
- マーケティング分析のアレンジ版3C分析
- 企業戦略に使うオリジナル版の戦略的3C
の2つのタイプに分類されます。
マーケティング環境分析フレームワークの3C分析
日本で最もポピュラーな3C分析といえば、こちらのマーケティング用の3C分析です。
ちなみにこのページでご紹介する3C分析のやり方も、こちらのマーケティング環境を分析するタイプの3C分析になります。
3Cのそれぞれの要素は、
- Customer:市場環境と顧客の分析
- Corporation:自社の内部環境の分析
- Competitor:他社との競争環境の分析
です。
このマーケティングに使う3C分析は、様々な人が独自の分析方法としてアレンジしています。そのため分析方法は多種多様。共通なのは3Cの要素のみです。
どのやり方が正解でどれが間違いということはありません。検索して比較してみると楽しいと思います。
そしてこのページでご紹介するマーケティングの3C分析も、ありがちなパターンで、かつ網羅的な内容にしています。
マーケティングの3Cなので、マーケティングミックスの4P(製品・価格・物流・広告)と組み合わせることが一般的です。またSWOT分析と組み合わせるのを好まれる方もいるようです。
KSF(重要成功要因)に基づく企業戦略としての3C分析
もう一つの3C分析が、こちらのオリジナルの戦略的3C(戦略的三角関係)です。
- Consumer:顧客に基礎を置いた戦略
- Corporation:自社に基礎を置いた戦略
- Competitor:競合相手に基礎を置いた戦略
これらの3つの視点から戦略を考えます。
戦略の深掘りには、KSF(重要成功要因)を中心に行います。KSFというのは、そのビジネスにおける勝ちパターンみたいなものと考えてください。
こちらの3C分析を行う前にはKSFが何なのか、前もって特定することが必要になります。そのためマーケティングの3C分析よりも、分析の難易度が高くなっています。
海外では先ほどの大前氏の著書「The Mind of the Strategist」が知られているせいか、戦略的三角関係がメジャーのようです。一方、日本ではアレンジされたものが有名なのは、ちょっと残念な気もしますね。
ちなみに中小企業診断士やMBAを目指す方は、こちらの戦略的3Cを覚えておいて損はありません。オリジナルを知っている人と話すときに、マーケティングの3Cだと話が噛み合わない可能性があります。
3C分析の目的と分析範囲の決め方
3C分析を行う目的は、タイプによって違います。そして分析の対象も様々です。
マーケティングの3C分析の目的と分析対象
マーケティングに使われる3C分析では、
- マーケティング環境を分析して変化への適応を考える
- 自社と競合他社を比較して競争の優位性を見つける
などが分析の目的になります。
そしてマーケティングなので分析対象は、
- 個別の事業形態
- 製品・サービス
になります。
特に分析対象は出来るだけ狭い方が、分析がやりやすくなります。もし分析対象が広くなると「顧客」も「競合他社」も大きく広がってしまい、分析が終わらなくなります。
例えば、
- 分析対象:アップル社(スマートフォン事業、パソコン事業、音楽配信事業…)
- 顧客:スマートフォン利用者、形態キャリア、一般企業、音楽プロダクション…
- 競合他社:通信機器メーカー、パソコンメーカー、音楽配信事業者…
のように対象が広ければ、顧客も競合他社も無数に存在して分析ができなくなります。
しかし対象を狭くすれば、
- 分析対象:アップル社の一般顧客向けパソコン小売り事業
- 顧客:個人のパソコン利用者
- 競合他社:マイクロソフト、DELL…
というように、分析ができるようになります。
戦略的3C分析の目的と分析対象
オリジナルの戦略的3C分析では戦略を立案して、
- 競争相手より低いコスト
- 顧客により良い価値や価格の製品やサービス
の2つを実現することが分析の目的です。
そして分析対象は、
- 戦略立案単位(SPU:Strategic Planning Unit)
になります。
この「戦略立案単位」というのは、KSF(重要成功要因、勝ちパターン要素)が共通する事業のグループのようなものです。
イメージとしては、商品自体は違うけど「企画〜開発〜流通の流れがほぼ一緒で勝ちパターンが同じ事業や商品」を同じグループにするような感じです。
例えばお菓子メーカーなら、「一般消費者向け洋菓子製造事業」と「一般消費者向け和菓子製造事業」を同じ「戦略立案単位」として考えるような場合です。
この戦略立案単位(SPU)をベースに、3つの視点から戦略を深掘りしていきます。
ちなみにこの「戦略立案単位(SPU)」に近い考え方として「戦略事業単位(SBU)」というものがあります。SBUについては別記事にまとめているので、参考までにご覧ください。
3C分析の事例とやり方:スターバックス
ここからはスターバックスの3C分析を事例として取り上げて、マーケティング環境分析の一連の流れをご紹介します。
なおここで使う3C分析テンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
分析を始める前に、下準備をしましょう。
冒頭でご紹介したフレームワークを埋めながら、分析作業を行なっていきます。
何人かのグループで分析を行うときは、大きめのホワイトボードや黒板、模造紙などに上記のフレームワークを描いてみてください。分析メンバーがここに書き込んだり、付箋を貼り付けたりします。
おすすめなのは「ホワイトボード+正方形の付箋(複数色)」または「大きめの模造紙+正方形の付箋(複数色)」の組み合わせです。グループでやる場合も、一人でやる場合も情報を整理しやすくなります。
上記のようなセットも売ってあるので、文房具屋などで探してみてください。
もしあまり時間がなく一人だけで手早く分析する場合は、
- A3くらいのコピー用紙に小さめの付箋を貼り付ける
- パワーポイントなどを使ってパソコン上で分析する
などでも大丈夫です。
分析の順番は、以下になります。
- 市場環境と顧客
- マーケティングの4P
- 自社と競合他社の比較
という順番で行います。
まずは分析対象になる事業を決定しましょう。
分析対象は事業単位で行うことがほとんどです。会社単位にすると複数の事業を含んでしまい、様々な顧客や競合をすることになり収集がつかなくなります。
一方で、事業単位でも分析範囲が広すぎる会社もあります。
例えば「寿司」「ピザ」「中華」のデリバリー事業をやっている会社があるとします。これを「デリバリー事業」で分析しようとすると、3つ全ての競合相手や顧客層を分析しなければならず大変です。そのため「寿司デリバリー事業」などに絞り込む場合があります。
またさらに細かく「商品」や「サービス」まで分析範囲を狭くしても大丈夫です。分析範囲は狭くすればするほど、分析の量が減らせます。
ここでは具体例として、
- 分析対象:カフェ事業
- 自社:スターバックス
で話を進めていきます。
さて、3つのCの一番最初はもちろん「Customer:市場環境と顧客」。顧客あってのマーケティングです。3Cの図では、真ん中の上の部分が該当します。
この項目は「市場環境」と「顧客」の2段から構成されますが、先に「顧客」から分析していきます。「市場環境」の分析は、次のステップでご紹介します。
顧客の分析は、
の3つを確認していきます。

顧客の特徴については年齢や性別だけでなく、ライフスタイル・行動・価値観・生活する地域などなどできるだけ具体的に考えてください。アイデア出しをするときには、付箋1枚につき特徴を1つ描いてみましょう。例えば「地方在住」「営業職」「30代前半」などなど、どんどん貼っていってください。
顧客のニーズについては、さっきほど挙げた顧客が持っていそうな困りごとや解決が必要な問題を、付箋に書いて貼り出してみましょう。例えば「出先でプレゼン資料を修正したい」「営業の合間にリラックスしたい」「打ち合わせと打ち合わせの間の暇を潰したい」などです。

顧客のウォンツについては、顧客が具体的に欲しがっている商品やサービスを挙げてください。例えば「タバコが吸える場所」「美味しいカフェラテ」などです。

付箋は「事実(裏付けあり)」と「意見や発想(裏付けなし)」で色を変えておくと、分析がしやすくなります。
それぞれをスターバックスのカフェ事業の分析例としてまとめると、
- 顧客の特徴:地方の中核都市のオフィス街に勤めるコーヒー好きの30代前半の営業職の男性
- 顧客のニーズ:「出先でのパソコン作業」「営業の合間にリラックス」
- 顧客のウォンツ:「タバコが吸える場所」「美味しいカフェラテ」
となります。これは例なので、実際の分析ではニーズとウォンツはもっとたくさん挙げてください。

続いて市場環境の分析に入ります。
市場環境の分析を手早く済ます場合には、それぞれの下記の質問に答えてみてください。
- 政治的環境:対象となる事業や顧客に政治情勢、法律、政策の影響はあるか?
- 経済的環境:対象となる事業や顧客に景気の良し悪し、金融政策の影響はあるか?
- 社会的環境:対象となる事業や顧客に文化やライフスタイルの変化の影響はあるか?
- 技術的環境:対象となる事業や顧客に技術や産業の発展の影響はあるか?
これらの質問に該当する要因があれば、付箋で貼り出してみてください。
もし分析に時間をかけれるのであればPEST分析を行って、その結果を付箋で貼り付けてください。

それぞれをカフェ事業の分析例としてまとめると、
- 政治的環境:コーヒー豆の仕入先の一部の国で内戦が起きており輸入量が不安定
- 経済的環境:貿易協定で海外から仕入れる原料の関税が下がる可能性
- 社会的環境:対象顧客は全国で〇〇万人、タバコを吸う人の減少、好みの多様化
- 技術的環境:小型で高性能の焙煎機の普及、保温性能が改善したマグカップの登場
などになります(※この分析例はフィクションです)。こちらもそれぞれ複数挙げてみてください。
ここからはマーケティングの4P、
- Product:製品(商品・サービス)
- Price:価格
- Place:流通・店舗
- Promotion:広告・広報
について分析していきます。
「Product(製品・商品・サービス)」と「Price(価格)」については、顧客が自社と競合他社を区別するために最も大きな影響を与えます。
「Place(流通・店舗)」と「Promotion(広告・広報)」については、商品やサービスの価値をどのように顧客に伝えて、どうやって手元にまで届けるか影響します。
ここで忘れてはいけないのが、最初に分析した「顧客」です。
- 顧客の特徴:地方の中核都市のオフィス街に勤めるコーヒー好きの30代前半の営業職の男性
- 顧客のニーズ:「出先でのパソコン作業」「営業の合間にリラックス」
- 顧客のウォンツ:「タバコが吸える場所」「美味しいカフェラテ」
上記はステップ3の分析例の再掲です。これを基準にしてにマーケティングの4Pを分析します。
まず自社「スターバックス」の分析の具体例は、
- Product:スターバックスラテ、カスタマイズ可能、サンドイッチ等の軽食
- Price:競合より少し高め
- Place:オフィス街に複数店舗、高級感、全席禁煙、電源が使えるカウンター席、リラックスできるソファー席
- Promotion:ブランドイメージ重視、店頭の黒板で新メニュー訴求
のような感じになります。
次に競合他社の分析です。同じ顧客を奪い合っているお店や企業を想像してみてください。今回は「ドトールコーヒー」と「コメダ珈琲店」を分析例に挙げますが、必要に応じて他にも分析を行ってください。例えば今回の例では「ファミリーレストラン」なども競合に含まれる可能性があります。
ここでは付箋を会社ごとに色分けしておきましょう。
競合「ドトールコーヒー」の分析の具体例は、
- Product:カフェ・ラテ、サンドイッチなどの軽食
- Price:自社より安価
- Place:オフィス街に複数店舗、入りやすさ、喫煙可能、電源が使えるカウンター席、狭い店内
- Promotion:店頭にコーヒーやサンドの大きなポスター
です。競合「コメダ珈琲店」の分析の具体例は、
- Product:カフェラテなし(カフェオーレまたはミルクコーヒーのみ)、ボリュームのある軽食
- Price:自社より高い
- Place:オフィス街に少ない、ロードサイド、喫煙可能、電源が使えるカウンター席、ゆったりした店内
- Promotion:特徴的な外観の店舗、コーヒーチケット
という感じになります。
次に自社および競合他社の経営資源と、経営理念を分析します。3Cの図では下の2つに該当します。
自社と競合他社は、顧客を奪い合っている関係になります。
自社と競合他社の分析はバラバラにやることもできますが、経営資源と理念を比較してみることが大切なので、ここでは同時に行います。付箋の色は先ほどのマーケティングの4Pの分析と、合わせておけばわかりやすいかと思います。
それぞれの意味を簡単にまとめると、
- 経営資源:人材、在庫や設備、運営資金など事業運営に必要な資源
- 経営理念:会社の理想とするあり方や進むべき方向性を定めたもの
です。
ここでの分析では、
- 経営資源 → どんなマーケティング施策が実行可能か
- 経営理念 → マーケティングの方向性はどうなるか
などを理解することができます。
経営資源については、
- 4Pの「Place(流通・店舗)」と「Promotion(広告・広報)」を参考にする
- 上場企業であれば有価証券報告書の内容を確認する
などで分析できます。
経営理念については、ホームページに掲載されているものなどから分析します。
もし分析に時間があれば、こちらの記事も参考にしてみてください。


自社をスターバックスとして分析例を挙げると、
- 経営資源:コーヒー豆のグローバルな調達力、高級でお洒落なブランドイメージと店舗
- 経営理念:Our Mission and Values
となります。
また競合他社として「ドトールコーヒー」と「コメダ珈琲店」を考えると、
- 経営資源
- ドトールコーヒー:庶民的で安価なブランドイメージ、喫煙可能な店舗
- コメダ珈琲:ロードサイド店で営業車で入りやすい、広々としたブース席
- 経営理念
となります。
最後に、
- 自社しか提供できない価値
- 競合他社しか提供できない価値
を分析します。
顧客は商品やサービスを受ける場合に、自社または競合他社のどちらかを選択します。その選択に差が出るのは、提供する価値に差があるためです。
企業は顧客のニーズやウォンツに対応できるように、マーケティングを行います。しかし企業によって提供できる内容は違います。それを表したのが下の図です。
自社も競合他社も、同じような商品やサービスを提供すると、ある程度同じような価値を提供します。それが真ん中の重なっている部分です。この部分の価値にには差が出ないため、勝負になりません。
一方でその会社にしか提供できない価値もあります。それが上の図の、顧客の円と企業側の円が重なっている部分です。顧客はこのそれぞれの特有の価値を比較して、より望ましい方を選びます。
ここではそれぞれの会社に特有の価値を挙げていきます。
ここでもう一度最初に設定した「顧客」を確認してみましょう。
- 顧客の特徴:地方の中核都市のオフィス街に勤めるコーヒー好きの30代前半の営業職の男性
- 顧客のニーズ:「出先でのパソコン作業」「営業の合間にリラックス」
- 顧客のウォンツ:「タバコが吸える場所」「美味しいカフェラテ」
この顧客に対して提供する価値を考えます。
この分析については、マーケティングの4Pで挙がったもの全てで考えてみましょう。
具体的な分析例としては、
- スターバックスにしか提供できない価値:落ち着いたお洒落な空間、リラックスした雰囲気、美味しいカフェラテ
- ドトールコーヒーにしか提供できない価値:気軽に立ち寄って作業ができる環境、比較的安価なカフェラテ、タバコが吸える
- コメダ珈琲にしか提供できない価値:営業車で立ち寄れる立地、たくさんの資料を広げられるブース席、タバコが吸える
などになります。
全ての分析が終わったら、分析の結果をまとめましょう。
付箋で埋まったフレームワークを眺めていると、様々な気づきがあるはずです。
例えば、
- スターバックスは仕事の合間にホッと一息つく場所として良いが、営業の合間に作業する場所としては競合他社に劣る
- スターバックスに喫煙席がないことは対象顧客に対してデメリットだが、社会的に非喫煙者が増える傾向にあるため将来的にはメリットになる可能性がある
などです。
これらの結果から、将来のマーケティング施策の提案などをおこなってください。
3C分析の問題点とその対応
このフレームワークの問題点としては、
- 顧客が複数に別れる業界では使い物にならない
- 例)「小児用医薬品」:使うことを決める顧客=医師、服用する顧客=子ども、医療費を支払う顧客=親
ということが挙げられます。
そのため「顧客」「自社」「競合他社」がわかりにくい業界では、この3C分析を無理に使う必要はありません。
3C分析の無料テンプレート
3C分析テンプレートは、こちらからダウンロードください。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
- マーケティング環境分析の3C図
- マーケティング環境分析用テンプレート
- 戦略的三角関係の図
が収録されています。
関連書籍
StrategicMind 2014年新装版 (Kenichi Ohmae business strategist series(NextPublishing))