経営を学べば学ぶほど、重要性が実感できる経営理念(=企業理念)。でもいざ作るとなると、何から始めたら良いのかわからないのも経営理念です。
かといってコンサルタントを入れたらお金がかかるし、お金をかけても効果が出るものなのかわからない。
そんな時には、自分たちで作りましょう。
このMVVBマトリクスを使えば、すぐに経営理念の形が見えるはずです。
MVVBマトリクスは弊社(ダイゾーコンサルティング株式会社)開発のフレームワークですが、社内研修などで自由にご利用いただけます。事前連絡・報告等は不要です。ブログなどに引用いただく場合には、リンクを貼っていただけると大変嬉しいです。
経営理念の作り方の流れは、
- 事前調査を行う
- 分析メンバーを集める
- 「ビジネス」の欄を埋める
- 「ミッション」の欄を埋める
- 「ビジョン」の欄を埋める
- 「バリュー」の欄を埋める
- 一貫性のある組み合わせを見つける
- 選んだMVVBを整理する
- 経営理念をまとめる
です。
ここでは、上記手順をわかりやすく説明します。MVVB分析用テンプレート(パワーポイント形式、登録不要)も無料でダウンロード可能です。
経営理念とミッション・ビジョン・バリュー
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「ビジネス」の4つの要素とそのサイクルで、経営理念を策定するためのフレームワークが「MVVB分析」です。。
そろそろちゃんとした経営理念を作らなきゃならないけど、何から始めたら良いんだろう?
という時に使うことができます。
MVVB分析では「MVVBマトリクス」を使用します。
MVVBマトリクスは「行動・目的」の軸と「社会的・組織的」の軸の2つで構成されています。この2つの軸から「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「ビジネス」の4つの要素が生まれます。
その中でも「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3つの要素(上図の黄色い箇所)をまとめて「経営理念」と呼びます。
- ミッション:社会に対してどのように貢献したいか
- ビジョン:組織が理想とするのはどんな姿か
- バリュー:組織はどのような価値観に基づいて行動すべきか
そして「ビジネス」は現在やっている事業のことです。経営理念の3つの要素の違いについては、こちらの記事も確認ください。
またこれらの要素は、互いに影響しあいます。それを表したのが「MVVBサイクル」です。
- 「ビジネス」を通して社会とコミュニケーションすることで社会的な使命に気づく
- 「ミッション」から社会的な使命を果たすために最適な組織の理想像が見える
- 「ビジョン」を実現するために必要な考え方や行動指針を考えることができる
- 「バリュー」を反映した場合にやるべき事業とそうでない事業が明確になる
このように経営理念と事業はピラミッドではなく、循環する関係性を持っています。
経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)の作り方
ここでは「すでに事業は進めているけど経営理念がない」というシチュエーションで手順を説明をします。しかし「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「ビジネス」のどこからスタートしても問題はありません。
MVVB分析テンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
まずは分析会議を行う前に、情報を収集しておきましょう。事前の情報収拾を行うことで、経営理念が現実とかけ離れすぎることを防ぐことができます。
事前調査では、
- 顧客に自社を人物に例えてもらう
- 顧客に自社をどんな会社か一言で表現してもらう
- 社員に自社をどんな会社か一言で表現してもらう
- 社員に自社の文化や社風を言葉で表現してもらう
- 社員に仕事で一番大切にすべきことを答えてもらう
などなど、自社がどのように認識されているか確認してください。お客様からの声などの資料があればそれも活用できます。気をつけなければならいのは、取引先や従業員が気を使って正直に答えない可能性があるということです。
ここではアンケート調査やグループインタビューの手法について言及しませんが、誘導尋問のような調査にならないようにだけは気をつけてください。回答者が気を使って答えた内容は、使い物になりません。
個人事業主や小規模事業者であれば、腹を割って話してくれる取引先や、仲の良い顧客などとの日常的な会話の中から聞き出すことも有効です。
内容のイメージが沸かなければ、こちらの記事もご覧ください。
情報がある程度集まったら、メンバーを集めて分析を行います。
- 創業者
- 創業メンバー
- 経営者
- 経営幹部
上記の人は必ず参加する必要があります。また昔は現場で活躍していた経営者も、現場から離れると現場の空気感がわからなくなります。そのため顧客や取引先と直接的な接点がある人物にも、可能な限り参加してもらってください。
メンバーが集まれば、分析会議を行います。今回の例では「ビジネス」からスタートします。まずは今行なっている事業を、具体的に付箋に書き出してください。付箋は下図のように仕切った、ホワイトボードや模造紙に貼り付けていきます。
複数の性質の違う事業を行なっている場合は、事業ごとに付箋を色分けしておくとわかりやすくなります。
「ビジネス」の欄が埋まったら、今度は「ミッション」の欄を埋めていきます。
- 今の事業で社会に貢献するとしたらどう貢献できるか?
- 自社の商品やサービスが社会に良い影響を与えるとしたらどんな場面か?
- 自社の商品やサービスで社会問題の解決に役立っているものはあるか?
これらのことを考えながら付箋を貼っていきます。
ここで注意が必要なのは「社会的貢献」を、寄付や募金などの副次的な慈善事業とは切り離して考えることです。あくまでメインの事業を通して価値を提供し、その対価を受益者から受け取ることが前提です。なぜなら持続的な経営や会社の成長には、必ず価値の提供から生まれる利益が必要になるからです。
「ミッション」の欄が埋まったら、今度は「ビジョン」の欄を埋めていきます。
ミッションで挙がった社会的使命を果たすために、今の会社が将来的にどんな姿に変わることが望ましいかを考えます。
例えば、ミッションが「技術力で社会を〜」というのが候補に挙がっている場合は、ビジョンとして技術力をどれくらいまで高めなければならないか決めます。「技術的な特許の取得数」「技術者の人数」「独自技術を使用した製品の売上」などなど、会社の将来あるべき姿が具体的に想像できる内容を挙げてください。
「ビジョン」の欄が埋まったら、今度は「バリュー」の欄を埋めていきます。
ビジョンで挙がった状態になった時に、社員全員がどのような考え方を持って、どのように行動しているかを想像します。
例えば、することしないことを挙げてみましょう。「お客様のことを第一に考える」「従業員のワークライフバランスを第一に考える」などなど価値観によって考え方は様々です。
ここで注意することは、挙がった意見は否定せずに進めることです。どの価値観や行動が必要なのかは、この後のステップで調整します。
MVVBマトリクスの4つの要素が埋まったら、事前調査の結果の登場です。事前調査の結果も眺めながら、4つの要素に一貫性が見られる内容をチェックしていきましょう。
もし一貫性が見られる内容が見つからなければ、事前調査の内容をしっかり読み込んでステップ4の「ミッション」を埋める作業に戻りましょう。
経営理念の一貫性と事業の組み合わせに破綻がなければ、別の模造紙やホワイトボードに付箋を移動させます。移動させる時には、重複している情報をまとめたり、よりわかりやすい内容に書き換えたりなどの整理を行いましょう。
4つの要素の移動が済んだら、今度はそれぞれの内容を「1行」で表現してみます。その1行は全ての内容をカバーする必要はありません。
ここでの注意点は、文章が長くならないようにすることです。文章が長くなれば要点がわかりにくくなり、経営理念を浸透させる時に苦労します。たまに1枚の付箋にめちゃくちゃ長い文章を小さい文字で詰め込もうとする人がいますが、それは表現したいことの本質が見えてないということです。無理に長い文章を書かずに、頭の中でゆっくり整理しましょう。
- 付箋1枚につき1行で表現する
- 1行に書く内容は欲張りすぎずシンプルに
これらのことに気をつけながら、内容を考えてください。
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の候補が上がったら、一貫性のある組み合わせを探しましょう。参加者全員が腹落ちする組み合わせが見つかれば、分析は終了です。
この分析で決まった内容を、より洗練された状態に清書したり、会社のロゴマークに反映させたりしましょう。
経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)の必要性
経営理念の必要性については「従業員規模」と「経営環境」で考えることができます。
上の図の横軸は、経営において「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「ビジネス」の4つの要素がどれくらい重要になるかの割合を表した図です。概念的なものなので、正確に何パーセントというわけではありません。
縦軸は2種類あります。「従業員規模」の軸は、上に行くほど従業員数が多い企業になります。「経営環境」の軸は、上に行くほど経営を取り巻く環境が見通せない状態を表しています。この左右の軸を繋いだ中心を見れば、経営理念がどの程度必要なのかの目安を知ることができます。
従業員規模が大きいと、
- 経営者と従業員の接点が減って社会的使命や情熱などが共有できなくなる
- 全員がそれぞれ違った会社の将来像を描くために社内で対立が起こる
- 従業員の価値観がバラバラで会社としての行動に一貫性がなくなる
ことなどが考えられます。その結果、経営陣と現場の考え方の違いから経営戦略が機能しなかったり、社員がモチベーションを維持できなくなって離職したりなど、様々な問題が起こりやすくなります。
経営環境の不確実性が高いと、
- 社会的使命より今目の前の問題に必死になって重要な将来に関わる意思決定がしにくくなる
- 会社がどこに向かっているのか不明瞭になって経営資源が分散してしまう
- 現場での対応のバラツキが大きくなって顧客からの信頼を失う
ことなどが考えられます。その結果、経営環境の変化に全員が振り回されて、経営がうまく立ち行かなくなることがあります。
例えば同業他社と比べて従業員数がかなり多いけど、需要の変化など経営を取り巻く環境が予測しやすい場合は、下図のようになります。この場合の経営理念の必要性は中程度です。
もしあなたの会社にどんどん人が増えていて、IT業界など先が読みにくい業界にいる場合は、下図のようになります。経営理念の必要性はかなり高めです。
このように、経営理念の必要性を事前に参考にしてみてください。もちろん従業員数が少なくても、経営環境が安定していても、経営理念が明確であるに越したことはありません。
経営理念のMVVB分析で出来ること出来ないこと
- 今やっている事業(ビジネス)を元に経営理念を作ること
- 既存の経営理念に一貫性があるかどうか確認すること
- 経営理念を浸透させる方法を考えること
MVVB分析では、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「ビジネス」のどこを起点にしても、経営理念を作ることができます。そのため現在、経営理念がなかったとしても問題ありません。またすでに経営理念が策定されていても、それが現在の事業も合わせて整合性が取れているかを確認することもできます。一方で経営理念が決まったとしても、それを社内でどのように浸透させるかはこの分析からは判断できません。
有名な企業の経営理念
有名な企業の経営理念(=企業理念)を、別の記事で一覧にまとめてみました。
実際にミッション・ビジョン・バリューにどんなものがあるか確認してみましょう。
経営理念の作り方の無料テンプレート
MVVB分析テンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
- MVVBマトリクス
- 経営理念の必要性の図
- MVVB分析用テンプレート
- MVVB分析結果整理用テンプレート
が収録されています。
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