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棚卸資産回転率と回転期間:計算式と目安となる産業別平均値

棚卸資産回転率

棚卸資産回転率の計算式は、

  • 売上高 ÷ 棚卸資産

で、

  • 数値が高いほど在庫の消化効率が良い
  • 数値が高いほど在庫切れのリスクが高まる

と言えます。数値の単位は「」です。

在庫回転率」や「商品回転率」も同じ意味の言葉で、英語では「Inventory Turnover Ratio(インベントリー・ターンオーバー・レシオ)」と呼ばれます。

売上高は「損益計算書(P/L)」から、棚卸資産は「貸借対照表(B/S)」の数値を使って計算します。

棚卸資産回転率の計算式

棚卸資産(たなおろししさん)とは、

  • 製造業であれば原材料・仕掛品・製品
  • 小売業であれば仕入れた商品の在庫

などのことを指します。

この在庫の回転の速さは、率としての「回数」だけでなく、期間として「日数」や「月数」で計算することもできます。

その指標が「棚卸資産回転期間」であり、計算式は、

  • (受取手形 + 売掛金)÷(売上高 ÷ 365日)

です。上記の計算式の単位は「日」です。

棚卸資産回転率の計算式

代表的な産業の平均的な棚卸資産回転率と棚卸資産回転期間は以下になります。(2018年中小企業実態基本調査の数値より筆者が計算。全11産業の完全版は後述。)

産業中分類回転率回転期間
建設業11.85 回31 日
製造業10.48 回35 日
卸売業17.77 回21 日
小売業13.41 回27 日
宿泊業・飲食サービス業79.43 回5 日

ここでは棚卸資産回転率と棚卸資産回転期間について、初心者向けにわかりやすく説明します。

棚卸資産回転率の計算式

冒頭でもご紹介したように棚卸資産回転率(たなおろししさんかいてんりつ)は、

  • 売上高 ÷ 棚卸資産

という計算で求めることができます。

在庫回転率」や「商品回転率」などとも呼ばれる場合もあります。

下図では、青色の部分が「売上高」で緑色の部分が「棚卸資産」になります。

棚卸資産回転率の計算式

この「棚卸資産(たなおろししさん)」とは、

  • 売るつもりで保管しているけどまだ売れていない商品

のことで、

  • 製造業であれば原材料・仕掛品(しかかりひん)・製品
  • 小売業であれば仕入れた商品の在庫

などが該当します。

数値を厳密に計算をする場合には、期首(年度の初日)の棚卸資産と、期末(年度の最終日)の棚卸資産を足して2で割った「期中平均(きちゅうへいきん)」の値を使います。しかし簡易的に計算する場合は、期末の棚卸資産の数値のみを使います。

さらに管理会計(経営管理のための内部的な会計)として数値の妥当性を考えるのであれば、

  • 製品のカテゴリごとに棚卸資産回転率を計算する
  • 売上高ではなく売上原価で計算する
  • 金額ではなく個数で計算する

などの方法をとります。

逆に数値に精度を求めずに、ざっくりとした数値を使うのであれば、

  • 産業別や業種別の平均値からかけ離れていないか確認する
  • 前年度の数値と比較して在庫の運用に変化がないか確認する
  • 他の財務分析指標と併せて経営課題に当たりをつける

といったことに利用することができます。

補足

回転率の計算など「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」の2つの異なる財務諸表の数値を使う財務分析では、貸借対照表の数値を「期中平均」して計算を行います。

この期中平均(きちゅうへいきん)とは、

  • 貸借対照表の期首の数値と期末の数値を足して2で割ること

です。

貸借対照表は「一瞬を切り取った数値」であり、損益計算書は「期間中に起こった全ての出来事の合計値」なので計算上同じように取り扱うことができません。

そのため、貸借対照表の年度の「一番初めの瞬間」である「期首」と年度の「一番最後の瞬間」である「期末」の平均をとった「期中平均値」を計算することで実態に近い数字で分析することができます。

ちなみに、

  • 期首または期末のどちらか片方の数値しか手に入らない
  • 期首と期末の数値がほとんど変化していない

といった場合には、期中平均を行わずに期末または翌年度の期首の数字をそのまま使います。

棚卸資産回転期間の計算式

日数で考える場合の棚卸資産回転期間の計算式は、

  • 棚卸資産 ÷(売上高 ÷ 365日)

です。

棚卸資産回転期間の計算式

ここで注意が必要なのは、

  • 回転率の計算式とは分子と分母が逆
  • 単位にしたい期間で売上高を割る

ということです。

先ほど説明した「棚卸資産回転率(りつ)」の方は売上高が分子(上)にありましたが、こちらの「棚卸資産回転期間(きかん)」は売上高が分母(下)にあります。

また回転期間を「月数」で知りたい場合は、売上高を1年の月数である12ヶ月で割ることで計算できます。

棚卸資産回転期間の計算式

このような計算を行えば、在庫が1回転するまでにかかる平均的な期間を把握することができます。

なお棚卸資産回転率や棚卸資産回転期間と同様の、

  • 効率性の財務分析指標

として「総資本回転率」「売上債権回転率」「有形固定資産回転率」などもあります。

棚卸資産回転率と回転期間の目安(?)となる産業別平均

中小企業庁「中小企業実態基本調査」の数値で計算した、産業別の棚卸資産回転率および棚卸資産回転期間の平均値は以下の通りです。(期中平均を取らず、回転率は小数点第2位以下を四捨五入、回転期間は小数点以下を四捨五入。)

産業中分類回転率回転期間
建設業11.85 回31 日
製造業10.48 回35 日
情報通信業24.06 回15 日
運輸業・郵便業297.32 回1 日
卸売業17.77 回21 日
小売業13.41 回27 日
不動産業・物品賃貸業3.69 回99 日
学術研究・専門技術サービス業27.81 回13 日
宿泊業・飲食サービス業79.43 回5 日
生活関連サービス・娯楽業112.85 回3 日
サービス業(上記以外)82.55 回4 日
参考 中小企業実態基本調査 平成30年確報e-Stat 政府統計の総合窓口

上記の産業別平均値を見ると、

  • サービス業 1週間以内 < 卸小売 3週間 < 建設製造 1ヶ月 < 不動産 3ヶ月

といった期間で在庫が回転しているようです。

しかし、実は「産業別」といった大きなくくりで平均値を出しても、個別の企業を測る目安として使えない場合がよくあります。

なぜなら、

  • 同じ産業でも取り扱う在庫のジャンルによって回転率が大きく違う

からです。(…ということで、上記の産業別の一覧表は目安というよりも、大まかなイメージをつかむためのものとして考えてください。)

例えば「小売業」でも、アパレル系の小売と飲食品系の小売では、下表のように大きく数値が違います。

小売業回転率回転期間
織物・衣服・身の回り品5.56 回67 日
飲食料品29.85 回12 日
全小売業平均値(参考)13.41 回27 日

いずれも小売業としてはメジャーなジャンルですが、どちらも平均値からかけ離れています。

衣服などのアパレル系の商材は、「シーズン」「季節」といったサイクルで在庫が回転するので、棚卸資産回転期間もそのサイクルに近いものになります。

一方で、飲食料品は賞味期限や消費期限が設定されている在庫がほとんどなので、棚卸資産回転期間も短くなります。

このように棚卸資産回転率や回転期間については、産業別平均値を目安にするよりも、

  • 産業を小分類まで絞り込んで平均値を目安にする
  • 業種業態が似ている他社の財務諸表の数値を目安にする

などの方が現実的です。

ということで、もし棚卸資産回転率の解説として、

  • 「一般的な回転率は〇〇回以上」
  • 「〇〇業界の適正値は〇〇回」

などと書かれている書籍やウェブサイトを見つけたら、内容を疑った方が良いかもしれません。

もし同業他社の数値を調べるのであれば、こちらの記事も参考にしてみてください。

棚卸資産回転率の分析パターン

棚卸資産回転率を分析した結果は、

  • 売上高と棚卸資産の大きさが違うだけで棚卸資産回転率が同じパターン
  • 売上高の差で棚卸資産回転率に差が出るパターン
  • 棚卸資産の差で棚卸資産回転率に差が出るパターン

という3つのパターンに分けることができます。

ここでは、

  • 期間比較分析:今年度と前年度のように同じ長さの期間で比較する
  • 相互比較分析:自社と競合他社のように複数社間で比較する

の両方の視点で考えてみたいと思います。

売上高と棚卸資産の大きさが違うだけで棚卸資産回転率が同じ場合

まずは下図のように、売上や資産などのボリューム感は変化したものの、棚卸資産回転率や回転期間が同じ場合で考えてみましょう。

棚卸し回転資産が同じ場合

もしこのような違いが期間比較(同じ会社の前年度と今年度など)分析で現れた場合は、

  • 在庫管理の状況に変化がないまま会社の規模が拡大(または縮小)した

ということになります。

これで少なくとも状況は変わっていないということは想像できますが、棚卸資産回転率が良いのか悪いのかはわかりません。

ここから分析をさらに進めるなら、比較対象を外部に広げる必要があります。

もし産業小分類の平均値や同業他社と比較しても、棚卸資産回転率が近ければ「業界の中では標準的」という可能性が高いでしょう。

そういった場合には焦る必要はありませんが、

  • 業界や同業他社の棚卸資産回転率が全体的に低い

ということもあるので、在庫管理や生産管理に改善の余地がないか疑う必要はあります。

売上高の差で棚卸資産回転率に差が出る場合

在庫量が同じだったとしても、売上高に差が出れば、棚卸資産回転率に差が出ます。

売上高の差による棚卸資産回転率の差

もし棚卸資産のボリュームが同じであれば、

  • 売上高が大きいほど棚卸資産回転率が高くなる

といえます。

もしこのような売上高による棚卸資産回転率の差が出た場合には、

  • 値引やリベートなどの販促施策の変化
  • 取り扱う在庫の構成内容の変化
  • 取り扱う在庫の売れ行きの変化

などを考えてみると良いかもしれません。

例えば、同じ在庫量を捌いたとしても、値引やリベートなどを行えば売上高の金額は低くなります。そのため、値引やリベートが売上高の増加につながっていなければ、棚卸資産回転率は下がります。

また在庫量に変化がなくても、全体的な売れ行きが鈍化すれば売上高が低下して棚卸資産回転率は下がります。もし全体的な問題がなかったとしても、在庫の構成内容が変化すれば、在庫の金額として変化が現れなくても棚卸資産回転率は変化します。

自社内でこのような変化が起きた場合は、在庫そのものとその売り方について調査が必要です。一方で、競合他社との間に上記のような差があれば、競合他社の売り方や在庫の内訳を比較してみると違いがわかります。

棚卸資産の差で棚卸資産回転率に差が出る場合

売上高が同じだったとしても、棚卸資産に差があれば、棚卸資産回転率にも差が出ます。

棚卸資産の差による棚卸資産回転率の差

もし売上高のボリュームが同じであれば、

  • 棚卸資産が小さいほど棚卸資産回転率は高くなる

といえます。

もしこのような棚卸資産による棚卸資産回転率の差が出た場合には、

  • 在庫の管理体制そのものの変化

を考えてみると良いかもしれません。

例えば、1年間に売れる金額が変化しなかったとしても、いわゆるトヨタの「カンバン方式」のように必要な時に必要なだけ生産し、必要最低限の在庫量だけ管理するようになれば棚卸資産回転率は大きく改善します。

逆に売れる量が変わらないのに生産しすぎたり仕入れ量が多すぎたりすれば、棚卸資産だけが増えて棚卸資産回転率が悪化します。

もしこのような違いが競合他社との間に現れた場合は、

  • 生産管理
  • 在庫管理
  • 物流管理

などに違いが見られるかもしれません。

棚卸資産回転率&回転期間まとめ

以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。

棚卸資産回転率の計算式は?

棚卸資産回転率の計算式は、

  • 売上高 ÷ 棚卸資産

で、数値の単位は「」です。

  • 数値が高いほど在庫の消化効率が良い
  • 数値が高いほど在庫切れのリスクが高まる

と言えます。

棚卸資産回転率の目安となる平均値は?

代表的な産業の棚卸資産回転率は以下のとおりです。

  • 建設業:11.85 回
  • 製造業:10.48 回
  • 卸売業:17.77 回
  • 小売業:13.41 回
  • 宿泊業・飲食サービス業:79.43 回

ただし、回転率は同じ産業の中でも業種によって大きく違うので、産業別平均値はあくまで産業ごとの大まかなイメージとしてとらえてください。

目安として使う数値は、ビジネスモデルが似ている同業他社の数値と比較することをおすすめします。

棚卸資産回転期間の計算式は?

棚卸資産回転期間を日数で考える場合の計算式は、

  • 棚卸資産 ÷(売上高 ÷ 365日)

です。

また、月数で計算する場合は、

  • 棚卸資産 ÷(売上高 ÷ 12ヶ月)

となります。

棚卸資産回転期間の目安となる平均値は?

代表的な産業の棚卸資産回転期間は以下のとおりです。

  • 建設業:31 日
  • 製造業:35 日
  • 卸売業:21 日
  • 小売業:27 日
  • 宿泊業・飲食サービス業:5 日

ただし回転率と同様に、回転期間は同じ産業の中でも業種によって大きく違うので、産業別平均値はあくまで産業ごとの大まかなイメージとしてとらえてください。

目安として使う数値は、ビジネスモデルが似ている同業他社の数値と比較することをおすすめします。

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