自己資本比率の計算式は、
- 自己資本 ÷(負債 + 純資産)× 100
であり(単位は「%」)、
- 返済の必要がないお金(自己資本)が資本の何割を占めているか
を知ることで、資本構造の安全性を分析するための財務分析指標です。
そして財務レバレッジの計算式は、
- (負債 + 純資産)÷ 自己資本
であり(単位は「倍」)、
- 他人のお金で事業にどれだけ梃子(てこ、レバレッジ)を利かせているか
を知るための財務分析指標です。
自己資本比率と財務レバレッジの計算式は、分子と分母を逆にした関係にあり、両方の視点から資金調達の構造やバランスを分析することが大切です。
代表的な産業の平均的な自己資本比率と財務レバレッジは以下のとおりです。(2018年中小企業実態基本調査の数値より筆者が計算。いずれも「自己資本(= 株主資本)」で算出。全11産業の完全版は後述。)
産業中分類 | 自己資本比率 | 財務レバ |
建設業 | 37 % | 2.67 倍 |
製造業 | 42 % | 2.39 倍 |
卸売業 | 35 % | 2.88 倍 |
小売業 | 33 % | 3.03 倍 |
宿泊業・飲食サービス業 | 20 % | 5.08 倍 |
自己資本比率と財務レバレッジの分析の考え方としては、
- 順調に儲けが蓄えられているかどうか判断する
- 事業の拡大機会を逃していないか判断する
- 他社からお金を借りることのリスクが適正か判断する
などが挙げられます。
ここでは自己資本比率と財務レバレッジについて、わかりやすく説明します。
目次
自己資本比率の計算式
自己資本比率(じこしほんひりつ)は、貸借対照表の「自己資本」を「負債の部」と「純資産の部」の合計で割ることで求めることができます。
それぞれ、
- 自己資本:誰にも返済する必要がない自分たちのお金
- 負債の部・純資産の部:事業のために調達したお金全体
のことで、
- 返済の必要がないお金(自己資本)が資本の何割を占めているか
を知るための財務分析指標が自己資本比率です。
なお「自己資本(じこしほん)」は、
- 株主資本:資本金などの株主が提供した資金と累積した過去の儲け
- 評価・換算差額等:資産や負債などの評価損益を調整するための項目
という「純資産の部」の2つの科目を合算した数字のことになります。(上図では作図の都合上、株主資本のみを表示しています。)
ただし詳細な財務データが手に入らない場合は、
- 自己資本 = 株主資本
- 自己資本 = 純資産の部
などで代替して計算してください。
貸借対照表の「純資産の部」や「株主資本」についての詳しい情報は、こちらの記事をご覧ください。
自己資本比率は、
- 資本全体に占める自己資本の割合が大きいほど高くなる
もしくは、
- 借入金などの負債が少ないほど自己資本比率は高くなる
とも言えます。
ちなみに、
- 無借金経営 = 自己資本比率 100%
と思われる方もいるかもしれませんが、一般的な取引をしている企業には「買掛金」などが存在するので「100%」になることはほぼありません。
財務レバレッジの計算式
財務レバレッジは、貸借対照表の「負債の部」と「純資産の部」の合計を「自己資本」で割ることで求めることができます。
これは自己資本比率の計算式の、分子と分母が入れ替わったもの(逆数)と同じです。
財務レバレッジは、
- 他人のお金で事業にどれだけ梃子(てこ、レバレッジ)を利かせているか
を知るための指標です。
数値は自己資本比率と逆で、
- 借入金などの負債が多いほど財務レバレッジは高くなる
と言えます。
借入金を増やせば増やすほど資産も膨らみ、より大きな事業を展開できるようになります。
その一方で、借入金から生まれる利息の支払いは、損益計算書の「支払利息」として利益を圧迫するようになります。
これらの、
- 他人のお金で大きなビジネスができる
- 支払利息が利益を圧迫する
というのは互いにトレードオフ(両立しにくい事柄)の関係にあります。
損益計算書の支払利息と利益への影響については、こちらの記事も参照ください。
また自己資本比率や財務レバレッジと同様の、
- 安全性の財務分析指標
として「流動比率」「当座比率」「固定比率」「固定長期適合率」「負債比率」「有利子負債比率」などもあります。
自己資本比率と財務レバレッジの目安となる産業別平均値
中小企業庁「中小企業実態基本調査」の数値で計算した、産業別の自己資本比率と財務レバレッジの平均値は以下の通りです。
なお、統計データの都合上「自己資本(= 株主資本)」として計算しています。
産業中分類 | 自己資本比率 | 財務レバ |
建設業 | 37 % | 2.67 倍 |
製造業 | 42 % | 2.39 倍 |
情報通信業 | 53 % | 1.87 倍 |
運輸業・郵便業 | 33 % | 2.99 倍 |
卸売業 | 35 % | 2.88 倍 |
小売業 | 33 % | 3.03 倍 |
不動産業・物品賃貸業 | 32 % | 3.14 倍 |
学術研究・専門技術サービス業 | 58 % | 1.71 倍 |
宿泊業・飲食サービス業 | 20 % | 5.08 倍 |
生活関連サービス・娯楽業 | 33 % | 3.04 倍 |
サービス業(上記以外) | 41 % | 2.45 倍 |
全体を見ると、自己資本比率の平均値が30〜40%の産業がほとんどで、自己資本が資本の半分を超える(50%を超える)ような産業は、「情報通信業」や「学術研究・専門技術サービス業」など一部の産業しかありません。
一方で「宿泊業・飲食サービス業」の自己資本比率の平均値は20%と、他の産業に比べて低く、財務レバレッジも5倍を超えています。
自己資本比率と財務レバレッジの分析
自己資本比率や財務レバレッジは、「高ければ良い」とか「低ければ良い」などということはありません。
先ほど説明したように、
- 借金すれば大きなビジネスができるけど支払利息の負担も増える
- 借金しなければ利息の負担は無いがビジネスのサイズが限定される
というトレードオフ(両立しにくい事柄)が生まれます。
そのため、自己資本比率や財務レバレッジの分析では、
- 順調に儲けが蓄えられているかどうか判断する
- 事業の拡大機会を逃していないか判断する
- 他社からお金を借りることのリスクが適正か判断する
ことなどを考え、会社の規模や事業の成長速度に合わせて、バランスの良い比率を見つけることが重要になります。
順調に儲けが蓄えられているかどうか判断する
まずは「自己資本」について考えてみましょう。
自己資本は、
- 株主資本:資本金などの株主が提供した資金と累積した過去の儲け
- 評価・換算差額等:資産や負債などの評価損益を調整するための項目
から構成されます。
さらに「株主資本」は、
- 資本金
- 資本剰余金
- 利益剰余金
- 自己株式
といった科目から構成されています。
その中でも注目すべきなのは、
- その会社が自分たちで儲けたお金の累積
である「利益剰余金」です。
利益剰余金は、会社の最終的な儲けが毎年加算される場所です。
毎年黒字が出ている会社は、毎年利益剰余金も増えて、自己資本そのものも大きくなっていきます。
もしあなたの会社と同じ規模の同業他社を比べて、あなたの会社の自己資本比率が高ければ、毎年堅実に利益を積み重ねてきた可能性が高くなります。
一方で、同業他社と同じように借入をすれば、より大きな事業展開ができている可能性もあります。
それが次に説明する「財務レバレッジ効果」と呼ばれるものです。
事業の拡大機会を逃していないか判断する
多くの企業は、事業の拡大に伴い銀行などからの借入を行います。
自分たちの稼いだお金(自己資本)だけでは投資資金が足りない場合でも、借入金など(他人資本)を活用することによって、大きな投資も可能になります。これが「財務レバレッジ効果」です。
「レバレッジ」とは「梃子(てこ)」のことで、
- 梃子を使えば小さな力で大きなものを動かせる
と同様に、
- 他人のお金を使えば少ない自己資金で大きなビジネスができる
というのが「財務レバレッジ効果」の意味です。
下図は、無借金経営をしている企業と、同じ規模の自己資本を持ちながら借入をしている企業を比較したイメージになります。
仮に同じ金額の自己資本を持っていたとしても、同等のお金を借り入れることができれば、倍の規模でビジネスができるようになります。
例えば、上図のように「資産」が倍になるということは、工場や店舗の数を倍にできるということです。
そして、工場や店舗の数が倍になれば規模の経済や経験曲線効果が働き、コスト削減で粗利率が改善するかもしれません。そうなれば、増えた利益の中から借入の利息を十分支払うことができます。
もし、
- 無借金経営こそが正しい
- 借金するのはよくないこと
などの考えに囚われすぎていたら、事業を成長させるチャンスを逃すこともあります。
そうならないためにも、無理のない程度に借入金などの他人資本を調達して、事業の成長機会に対応することは重要です。
ただし借金をしてうまく事業が成長するためには、
- 市場そのものが成長している
- 市場シェアが拡大している
などといった条件も必要になります。
例えば、縮小している市場に対して大きな借金をして投資を行うと、十分な売上高が得られずに借金を返すことができなくなるかもしれません。
そのような借入金の返済リスクが、もう一つの「財務レバレッジ効果」になります。
他社からお金を借りることのリスクが適正か判断する
銀行などから借入を行い、財務レバレッジを高めると、
- 儲からなかった場合の損失
も大きくなります。
例えば、新たな工場を建設した場合は、その生産費用を回収するのに十分な売上を、最低限確保する必要があります。この、費用を回収するのに最低限必要な販売数量のことを「損益分岐点(そんえきぶんきてん)」と言います。
販売数量が損益分岐点を上回っていれば黒字になりますが、下回ってしまうと赤字になってしまいます。
もし工場建設のために借入をせず、自己資本だけで投資を行った場合には、赤字になったとしてもマイナスは赤字分だけです。
しかし工場建設のために借入を行った場合には、事業の赤字だけでなく、さらに借金の支払利息分もマイナスになります。
つまり「財務レバレッジ効果」が効いていると、
- 儲かるときにはたくさん利益が残る
- 儲からないときには大きな損失が出る
ということが起きます。
そのため、
- 事業拡大のチャンス
- 支払利息の負担
のバランスを考えながら、事業の成長に合わせた資金調達を行うことが重要です。
自己資本比率&財務レバレッジまとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
自己資本比率の計算式は?
自己資本比率の計算式は、
- 自己資本 ÷(負債 + 純資産)× 100
であり、「自己資本」は「株主資本」と「評価・換算差額等」の合計値になります。
単位は「%」で表されます。
自己資本比率の目安となる平均値は?
代表的な産業の自己資本比率の平均値は、以下のとおりです。
- 建設業:37 %
- 製造業:42 %
- 卸売業:35 %
- 小売業:33 %
- 宿泊業・飲食サービス業:20 %
財務レバレッジの計算式は?
財務レバレッジの計算式は、
- (負債 + 純資産)÷ 自己資本
であり、自己資本比率の逆数になります。「自己資本」は「株主資本」と「評価・換算差額等」の合計値です。
単位は「倍」で表されます。
財務レバレッジの目安となる平均値は?
代表的な産業の財務レバレッジの平均値は、以下のとおりです。
- 建設業:2.67 倍
- 製造業:2.39 倍
- 卸売業:2.88 倍
- 小売業:3.03 倍
- 宿泊業・飲食サービス業:5.08 倍
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