経常利益率とは、
- 経常利益 ÷ 売上高 × 100
で計算することができ(単位は%)、
- 数値が大きいほど財務活動を含んだ経営の収益性が高い
と言えます。
「経常利益」は「損益計算書(P/L)」の勘定科目で、本業の儲けである「営業利益」に「営業外収益」と「営業外費用」を加えた数値になります。
経常利益率は、正確には「売上高経常利益率」であり、「総資産経常利益率(ROA、Return On Assets)」と区別されます。
「経常」の読み方は「けいじょう」ですが、「けいつね」と呼ぶこともあります。
英語では経常利益を「Ordinary Profit(オーディナリー・プロフィット)」「Ordinary Income(オーディナリー・インカム)」「Ordinary Margin(オーディナリー・マージン)」などと呼び、売上高経常利益率のことを「Ordinary Profit Ratio(オーディナリー・プロフィット・レシオ)」と呼びます。
代表的な産業の平均的な経常利益率(売上高経常利益率)は、下記のとおりです。(2018年中小企業実態基本調査の数値より筆者が計算。全11産業の完全版は後述。)
産業中分類 | 経常利益率 |
建設業 | 4.31 % |
製造業 | 4.74 % |
卸売業 | 2.16 % |
小売業 | 2.30 % |
宿泊業・飲食サービス業 | 2.63 % |
ここでは経常利益率(売上高経常利益率)の計算式や目安などを、わかりやすく解説します。
目次
経常利益率の計算式
経常利益率(売上高経常利益率)の計算式は、
- 経常利益 ÷ 売上高 × 100
で、財務活動を含む本業の収益性の高さを測る財務分析指標です。
下図では、損益計算書の黄色い部分が「経常利益」で青色の部分が「売上高」になります。
経常利益を知るためには、
- 営業利益 +(営業外収益 ー 営業外費用)
という計算を行います。
ちなみに「営業外(えいぎょうがい)」というのは、
- 本業(メインの事業)以外
という意味です。
営業外収益には、
- 受取利息(うけとりりそく)
- 受取配当金(うけとりはいとうきん)
- 受取賃貸料(うけとりちんたいりょう)
などが含まれています。
一方で、営業外費用には、
- 支払利息(しはらいりそく)
が代表的な科目になります。
このように「利息」や「配当金」といった、財務活動にまつわる損益の影響を強く受けるのが「経常利益」になります。
そのため「経常利益率(売上高経常利益率)」は、財務活動を含んだ本業の収益性を表す財務分析指標ということになります。
「営業外収益」と「営業外費用」についての詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。
また経常利益率(売上高経常利益率)と同様の、
- 収益性の財務分析指標
として「粗利率」や「営業利益率」などがあります。
経常利益率の目安となる産業別平均値
中小企業庁「中小企業実態基本調査」の数値で計算した、目安となる産業別の経常利益率の平均値は以下の通りです。
産業中分類 | 経常利益率 |
建設業 | 4.31 % |
製造業 | 4.74 % |
情報通信業 | 5.81 % |
運輸業・郵便業 | 3.13 % |
卸売業 | 2.16 % |
小売業 | 2.30 % |
不動産業・物品賃貸業 | 8.52 % |
学術研究・専門技術サービス業 | 7.84 % |
宿泊業・飲食サービス業 | 2.63 % |
生活関連サービス・娯楽業 | 2.71 % |
サービス業(上記以外) | 4.38 % |
経常利益率は、
- 卸小売・宿泊飲食 2.5% < 建設製造 5% < サービス 5〜8%
といったイメージでしょうか。
ちなみに営業利益率は、
- 卸小売 1.5% < 宿泊飲食 2% < 建設製造 4% < サービス 4〜8%
そして粗利率は、
- 卸 15% < 建設製造 20% < 小売 30% < サービス 45% < 宿泊飲食 60%
といった感じなので、
- 卸小売はいずれの利益率も低い
- サービス業はいずれの利益率も高い
- 宿泊飲食は粗利率は高いけど最終的な利益は少ない
- 建設製造の粗利率は低いけどそれなりに利益は残る
というざっくりとした傾向はあるようです。
ただし個々の企業をみると、異常なほど利益率が高い企業もあれば、産業別平均値を下回る企業もあります。そして、会社の規模、業界内のポジションニング、ビジネスモデルといった要素は、収益性に大きな影響を与えます。
そのため、今回説明した「経常利益率(売上高経常利益率)」だけでなく「粗利率」や「営業利益率」などの全体のバランスを見ながら、個々の企業の収益性について分析する必要があります。
経常利益率の財務分析
経常利益率は、
- 営業外収益:本業以外の収益
- 営業外費用:本業以外の費用
といった「財務活動」の影響を強く受ける財務分析指標です。
そのため、
- 「粗利率」や「営業利益率」などの本業の収益性に問題がなかった
- 借入金や社債などの有利子負債の利息が利益を圧迫している可能性がある
といった場合に分析を行います。
ここでは仮に、
- 粗利率に変化がなく売上原価に問題がない
- 営業利益率に変化がなく販管費に問題がない
という前提で「営業外」の影響だけを考えると、
- 営業外の損失が大きくなるほど経常利益率は低くなる
ということが言えます。
営業外費用が増えてしまう代表的な要因の1つとして、
- 銀行などからお金を借りすぎている
ということが挙げられます。
外部からたくさんお金を借りることができれば、より大きなビジネスに投資をすることができるので売上高が増る可能性が高まります。
しかし、銀行からの借入金や社債の発行などで有利子負債(利息を返さなければならない負債)が増えると、支払わなければならない利息も増えます。
事業が成長して順調に営業利益が増えていれば、利息の支払いも問題になりません。しかし、事業の成長が鈍化すると、一転して支払利息が経営に重くのしかかってきます。
このように、
- 借りたお金に見合った利益が産まれてないのではないか?
といったことを考えるのに経常利益率は役立ちます。
もし経常利益率だけが異常に低い場合は、
- 活用できていない資産を売却して有利子負債の元金を減らす
といった対応が考えられます。
有利子負債などの貸借対照表の「負債の部」については、こちらの記事もご覧ください。
気になる競合他社や、産業別分類よりも詳細な情報も参考にしたい場合には、こちらの記事をご覧ください。
経常利益率に対する支払利息の事例:ソフトバンクグループ株式会社(2019年3月期)
ここまで経常利益率(売上高経常利益率)における支払利息の影響を説明しました。
ここからは莫大な有利子負債(利息の支払いが必要な負債)を抱えていることで有名な「ソフトバンクグループ株式会社」の事例をご紹介します。
結論から言うとソフトバンクグループは、
- 有利子負債:15兆6851億円
- 支払利息:6338億円
という桁違いの借金と利息の支払いを行っていますが、利益率が高いので支払利息を差し引いても 1兆6913億円もの税引前利益を生み出しています。(2019年3月時点)
年商6000億円以上を稼げる企業を探しても少ないのに、ソフトバンクグループは毎年の利息だけで6000億円(⁈)を支払っています。その理由は、約16兆円の借金(⁈)にあります。
それでは公式な資料で確認してみましょう。
今回数字を拾ってきたのは、下記の有価証券報告書(2019年3月期)です。
参考 【PDF】ソフトバンクグループ株式会社 有価証券報告書 第39期 平成30年4月1日〜平成31年3月31日EDINETこの資料にあるソフトバンクグループ全体の貸借対照表を確認すると、有利子負債の合計額を計算することができます。

ソフトバンクグループ株式会社 有価証券報告書 2019年3月期 p98 より
流動負債の有利子負債、つまり1年以内に返済が必要な借金が 3兆4810億円あります。そして固定負債の有利子負債、つまり返済が1年以上先の借金が 12兆2041億円あり、合計すると 15兆6851億円になります。
そしてこの約16兆円の借金に元金の返済とは別に、利息の支払いが発生します。
その支払利息が現れるのがソフトバンクグループ全体の損益計算書です。
ソフトバンクグループの財務諸表の表記は普段よく見かける財務諸表の表記と少し違うのですが、下の表の「営業利益」の下に並んでいる項目が「営業外収益」や「営業外費用」の項目に相当します。
その中でも注目してもらいたいのが「財務費用」の 6338億円です。

ソフトバンクグループ株式会社 有価証券報告書 2019年3月期 p99 より
この「財務費用」については、別のページに内訳が「支払利息」という説明がありました。

ソフトバンクグループ株式会社 有価証券報告書 2019年3月期 p231 より
つまりソフトバンクグループは、約16兆円の借金に対して1年間で 6338億円の支払利息を支払ったということになります。
ちなみに上記の資料からは正確な経常利益率はわかりませんが、「税引前利益」で売上高利益率を計算してみると、
- 売上高税引前利益率:1兆6913億円 ÷ 9兆6022億円 × 100 = 17.61%
となります。
これを営業利益率と比較してみると、
- 売上高営業利益率:2兆3539億円 ÷ 9兆6022億円 × 100 = 24.51%
ということになるので、
- しっかり稼いでるから利息を払ってもしっかり利益が残る
という状態です。
経常利益率まとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
経常利益率の計算式は?
経常利益率(売上高経常利益率)の計算式は、
- 経常利益 ÷ 売上高 × 100
で、単位は「%」です。
経常利益率の数値が高いほど、
- 財務活動を含んだ経営の収益性が高い
ことになります。
経常利益率の目安となる平均値は?
代表的な産業の経常利益率は以下のとおりです。
- 建設業:4.31 %
- 製造業:4.74 %
- 卸売業:2.16 %
- 小売業:2.30 %
- 宿泊業・飲食サービス業:2.63 %
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