ハイブリッド戦略
ハイブリッド戦略は、価値を生み出すための総コストの引き下げで「コスト優位」を手に入れ、同時に顧客から特異性を認められることで「差別化」を実現します。
窮地に陥る「対極のジレンマ」を克服した企業は、業界で圧倒的な地位を築くことも多くあります。
ちなみにハイブリッド戦略は、ポーター教授の理論ではありません。ポーター教授の主張に疑問を持った数々の研究者が、具体的な事例を挙げて反論しています。
シルク・ド・ソレイユの事例
この「対極のジレンマ」を克服した企業の代表例が「シルク・ド・ソレイユ」です。
従来のサーカスは、
- ゾウやライオンなどの維持に莫大な固定費がかかる
- 顧客は子供を中心としたファミリー層
という特徴がありました。
しかし映画・ゲーム・テーマパークなどの新しいエンターテインメントが登場したことで、業界全体の売り上げは徐々に落ちていきました。
そこで問題になったのが、ショーに使う動物の維持費です。観客が減っても動物たちの餌代などは毎日かかります。そのため多くのサーカス団が「窮地」に陥り、廃業してきました。
しかしその状況をハイブリッド戦略で乗り切ったのがシルク・ド・ソレイユです。
シルク・ド・ソレイユはサーカス業界の常識を打ち破り、
- 動物を使うのをやめる → コストリーダーシップ戦略
- ターゲットを子供から大人に変える → 差別化戦略
という2つの戦略を同時に実現しました。
当時は、
- 動物のいないサーカスはサーカスではない
- サーカスは子供たちのためのものだ
などと多くの人から批判されました。
しかし結果は大成功でした。シルク・ド・ソレイユの物語を軸にした大人向けのエンターテイメントは、それまでのサーカスと大きく差別化することができ、動物を扱わなくなったためにコスト優位性も獲得することができたのです。
このシルク・ド・ソレイユのエピソードは、「ブルー・オーシャン戦略」にも詳しく書かれているので、興味のある方はご覧ください。
スーパーホテルの事例
日本での「対極のジレンマ」を克服した事例としては、スーパーホテルを挙げることができます。(「ゼミナール マーケティング入門 第2版」日本経済新聞出版社者 p57 より)
スーパーホテルは、日本全国に展開する手頃な価格帯のビジネスホテルです。
こちらも先ほどご紹介したシルク・ド・ソレイユのように、ホテル業界の常識から外れた施策でコスト優位性と差別化を同時に実現することで成功している企業です。
多くのビジネスホテルは、
- 支払いはフロントで行う
- 客室に入るためにはカードキーか鍵を使う
- 客室には浴槽がある
などが一般的です。
このようなありふれたビジネスホテルは、年数が経つと設備の老朽化と稼働率低下の悪循環に入ってしまい「窮地」に陥ることが少なくありません。
しかしスーパーホテルはコストリーダーシップ戦略として、
- 自動精算機での支払い
- 客室は暗証番号ロック(清算後のレシートに暗証番号が書かれている)
- 客室はシャワールームのみで浴槽なし
などなど、その他の顧客から見えない部分の効率化も含めて、大幅にコストを削減しています。
一方で、差別化戦略として、
- 多くの種類から硬さや高さを選べる枕
- 広々として快適なベッド
- 天然温泉の大浴場
- 防音性の高い客室
- 無料のビュッフェスタイルの朝食
- 質の高い接客サービス
などなど、同じ価格帯のビジネスホテルがやらないサービスを数多く実現し、多くのファンをつかむことに成功しています。
その結果、宿泊客のリピート率が70%以上あるとも言われています。
このように、業界の常識と思われていることも、時代の移り変わりによって必要とする顧客が減っていることがあるかもしれません。逆に、昔は難しかったことも技術発展などによって新しい価値を提供できる可能性もあります。
いつの時代も、業界の常識を疑って、顧客への提供価値を新たに考え直すことが、「窮地」に陥ることを避ける秘訣なのかもしれません。
おすすめの書籍
この戦略フレームワークは、1980年にマイケル・ポーター教授の「Competitive Strategy(競争の戦略)」で発表されました。この書籍には「3つの基本戦略」の他にも「ファイブフォース分析」についても詳しく書かれています。
またこちらの「マイケル・ポーターの競争戦略」も読みやすくておすすめです。