だいぞう
大前の4つの基本戦略とは、1982年に大前研一氏が著書「The Mind of the Strategist(戦略家の心)」で発表した企業戦略の考え方で、
- KSFに基づく企業戦略
- 相対的な優位性に基づく企業戦略
- 先制攻撃の反復による企業戦略
- 戦略的自由度(SDF)に基づいた企業戦略
のことです。
企業戦略は「問題の事業・製品」と「たたかい方」という2つの軸で分類されます。
大前研一氏の4つの基本戦略
大前の4つの基本戦略の企業戦略は、「問題の事業・製品」と「たたかい方」の2つの軸で表されます。
著書の中で大前氏は「優れた企業戦略」を下記のように定義しています。
優れた企業戦略とは、受け入れ可能なコストで競合相手に何歩も先んずることを許してくれる戦略のことになる。
StrategicMind 2014年新装版 大前研一著 より
その企業の状況に応じて4つの企業戦略から「優れた企業戦略」を検討して、
- 競合各社が追従困難な手段で相対的優位性を確保する
- その優位性をさらに拡大できるような競合に強い状況を我がものとする
ことが目的とされています。
KSFに基づく企業戦略
KSF(キー・サクセス・ファクター、カギとなる成功要因)に基づく企業戦略とは、既存の事業に成功要因に経営資源を集中させて、競合に対して正面攻撃を試みる戦略です。簡単に言えば、勝ちパターンの一番重要な部分に全ての経営資源を注ぎ込む戦略です。
経営資源を集中投下するためのKSF
KSFとは、ビジネスの「カギとなる成功要因」のことです。Key Success Factors(キー・サクセス・ファクター)の頭文字を取ったもので、戦略の要となります。
KSFと同様の考え方として、CSF(Critical Success Factor、クリティカル・サクセス・ファクター)などがあります。1961年にマッキンゼーのコンサルタント、ロン・ダニエル氏が発展させたSF(サクセス・ファクター)が考えのベースになっています。その後、1980年ごろにMITのジョン・F・ロッカート教授が、CFSという考えに昇華させ現在に至ります。
KSFを発見するためには、
- カギとなるセグメントを見つける
- 勝者と敗者の違いの見つける
の2つの方法があります。
カギとなるセグメントを見つける
1つ目のKSFを発見する方法は、カギとなるセグメントを見つけることです。大きな1つの市場でも顧客のニーズや製品ラインでセグメント分けをすると、異なった性質が見えてきます。そのセグメントごとの特徴を分析することで、戦略的にどのセグメントを集中して攻めるべきか判断します。
例えば、ラーメン屋において「休日ファミリー需要」「平日ランチ需要」「残業後需要」「飲み会後の締め需要」などのセグメントが存在している場合、立地における一定期間の人の動きを分析した上で、KSFとなるセグメントを発見する方法です。
勝者と敗者の差を見つける
もう一方のKSFを発見する方法は、勝者と敗者の「違い」と「その理由」を見つけることです。勝者が実行していた違いをKSFとして、経営資源を集中させます。
例えば、ある地域で長年商売を続けているラーメン屋がある一方で、すぐに潰れるラーメン屋が毎年あるとします。その老舗のラーメン屋を勝者として、他の人気のないラーメン屋と比較して違いとその理由も考えます。勝者が「薄味のスープ」だった場合は、薄味だと生き残れる理由として「周りの他の飲食店が濃いめの味付け」なのか「そもそも薄味を好む地域」なのか「全く関係ない」のか判断する必要があります。仮説と検証を経て、意味のある要因が発見できればそれがKSFの1つとなります。
KSFをより深めるための戦略的3C
KSFが見つかったら「戦略的三角関係(Strategic Triangle)」の、
- Consumer:顧客に基礎を置いた戦略
- Corporation:自社に基礎を置いた戦略
- Competitor:競合相手に基礎を置いた戦略
の3つの視点から戦略を深めることができます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
相対的な優位性に基づく企業戦略
相対的な優位性に基づく企業戦略とは、既存の事業で真正面からの競争を避ける戦略です。KSFが誰の目にも明らかな業界では、どの企業も「KSFに基づく企業戦略」を取ってしまいます。その結果、血で血を洗うレッドオーシャンの戦いになります。それを避けるためには、製品ごとに競合と比較して相対的に優れている点を発見し、顧客にその価値を伝えることが重要です。
簡単に言えば、他者との差別化によるポジション取りをする戦略です。例えば「同じような合格実績を持つ学習塾が特定の学部に専門化する」のはこの戦略に該当します。
先制攻撃の反復による企業戦略
先制攻撃の反復による企業戦略とは、停滞した業界で現在有効なKSFを台無しにする戦略です。「攻撃的なイニシアチブに基づく戦略」とも呼ばれます。この戦略は「なぜ?」を繰り返して、常識となっている問題の解決に繋げる方法です。
簡単に言えば、顧客の評価基準を別のものに変えてしまう戦略です。例えば「学習塾の教育形態に疑問を投げかけて顧客の評価基準を『有名講師による集団学習』から『手厚い個別学習』に変えてしまう」のはこの戦略に該当します。
戦略的自由度(SDF)に基づいた企業戦略
戦略的自由度に基づいた企業戦略とは、「新市場の開拓」や「新製品の開発」で競合他社が手をつけていない特定領域に進出する戦略です。その進出の選択肢を広げるものが「戦略的自由度(ストラテジック・ディグリーズ・オブ・フリーダム、SDF)」です。
簡単に言えば、顧客が価値を感じる要素を複数の軸に分解して、それを変化させることで新たな価値を提供する戦略です。例えば学習塾で「時期」や「科目」などに着目して、同じ商圏の学習塾がまだ提供していない学習コースを開発する戦略などが該当します。
この戦略に似た考え方として、アンゾフ教授の製品市場戦略マトリクスを使った「市場開拓戦略」や「製品開発戦略」があります。
アンゾフのマトリクスとは?市場浸透・市場開拓・製品開発・多角化戦略
おすすめの書籍
アメリカで出版された「The Mind of the Strategist(戦略家の心)」の大前氏本人による翻訳本が、この「StrategicMind(ストラテジックマインド)2014年新装版」です。4つの基本戦略より有名になった「KSF(キー・サクセス・ファクター、鍵となる成功要因)」や「3C分析」も、この本で登場しました。
StrategicMind 2014年新装版 (Kenichi Ohmae business strategist series(NextPublishing))