アンゾフのマトリクスとは、
- 「製品ライン」と「市場(製品使命)」の2つの軸で多角化戦略を考える
ためのフレームワークです。
「アンゾフ・マトリックス」「アンゾフの成長マトリクス」「アンゾフの成長ベクトル」「アンゾフの事業拡大マトリクス」などとも呼ばれますが、正式な名称は「製品市場戦略マトリクス」です。
- 市場浸透戦略:既存市場で既存製品を浸透させて売上向上や新規開拓を狙う戦略
- 市場開拓戦略:新しい市場で既存製品を広めて新たな市場ニーズに対応する戦略
- 製品開発戦略:新しい製品で既存市場のシェアを高めようとする戦略
- 多角化戦略(垂直・水平・外側):新しい市場に新しい製品で挑戦する戦略
の4つの戦略(正しくは6つの戦略)を導くことができます。
ここではそれぞれの戦略で具体的な例を挙げて、詳しく解説します。
アンゾフのマトリクスとは?
アンゾフのマトリクス(アンゾフの成長マトリクス)は、1957年にイゴール・アンゾフ教授の論文「Strategies for Diversification(多角化のための戦略)」で発表された多角化戦略のためのフレームワークです。
このマトリクスから3つの事業戦略、
- 市場浸透戦略:既存市場で既存製品を浸透させて売上向上や新規開拓を狙う戦略
- 市場開拓戦略:新しい市場で既存製品を広めて新たな市場ニーズに対応する戦略
- 製品開発戦略:新しい製品で既存市場のシェアを高めようとする戦略
と、3つの全社戦略、
- 垂直多角化戦略:サプライチェーンの上流や下流に向かって多角化する戦略
- 水平多角化戦略:現状の経営資源を活かして新市場に新製品を投入する戦略
- 外側多角化戦略:現場の経営資源を活かさずに畑違いの市場に参入する戦略
の合計6種類の戦略を検討することができます。
製品ラインの軸
「製品ライン」の軸は、大きさや重さなどの「物理特性」や性能などの「パフォーマンス特性」などスペックごとに分けられています。
それは製品スペックごとに、顧客のニーズが異なるからです。例えばお菓子。同じお菓子でも、大袋に入ったお徳用パックと、小包装されたコンビニ用では別のものと認識します。
市場(製品使命)の軸
「市場(製品使命)」の軸は、「(製品ミッション別の)市場」と説明されています。
単純に「市場」とだけ書かれている解説書も多いですが、アンゾフ教授は製品を「顧客のミッション(使命)を果たすために生まれてきたもの」と定義しており、「ミッション別に市場を想定する方が有益だ」と考えました。
アンゾフのマトリクスの3つの事業戦略
「市場浸透戦略」「市場開拓戦略」「製品開発戦略」は事業戦略として分類されます。現状の経営資源を使用するため、事業部の部長や戦略的事業単位(SBU)のマネージャが指揮をとって独自に実行できる戦略です。
これまでの延長線上で戦略を実行することができる、リスクが低い戦略になります。戦略の実行も事業単位レベルに止まります。後述する3つの多角化戦略を実行する前の、足がかり的な戦略とも言えます。
市場浸透戦略
市場浸透戦略とは(Market Penetration Strategy)とは、既存の市場ニーズを満たせる既存の商品やサービスを浸透させる事業戦略です。売上の向上や、新規顧客の開拓が目的になります。
市場開拓戦略
市場開拓戦略(Market Development Strategy)とは、既存の商品やサービスに少し手を加えて、新たな市場ニーズに対応しようとする事業戦略です。
例としては、企業向けの貨物の輸送だけ行なっている運送業者が、個人向けの荷物集配に進出する場合が当てはまります。
製品開発戦略
製品開発戦略(Product Development Strategy)とは、全く新しい商品やサービスを開発して、既存の市場ニーズをより深く満たそうとする事業戦略です。
例としては、貨物の輸送だけ行なっている運送業者が、貨物を保管する倉庫業も始めた場合が当てはまります。
アンゾフのマトリクスの3つの全社戦略(多角化戦略)
そして「垂直多角化戦略」「水平多角化戦略」「外側(がいそく)多角化戦略」は全社戦略として分類されます。新しい経営資源が必要になるため、経営者が指揮をとって会社全体に影響が及ぶ戦略になります。
この戦略を実行するためには、過去の成功体験から決別し、挑戦と失敗を繰り返すことになります。そういった高いリスクがある一方、戦略がうまくいった場合には新分野に事業の柱を作ることができます。
これらの多角化戦略は「範囲の経済」とも強く関連しています。
垂直多角化戦略
垂直多角化戦略(Vertical Diversification Strategy)、サプライチェーン(供給連鎖)の上流、または下流に進出する全社戦略です。原材料や部品を供給する川上にある企業や、顧客により近い川下の企業が垂直統合の対象になります。垂直統合することで、範囲の経済を見込んだり、新しい技術やノウハウも取得することもできます。
例としては、貨物の輸送を行っている運送業者が、物品の卸業や小売業まで始める例が当てはまります。
水平多角化戦略
水平多角化戦略(Horizontal Diversification Strategy)とは、現状の経営資源を有効活用しながら、そこに新しい経営資源も加えて、新たな商品・サービスで新しいニーズに対応する全社戦略です。一般的に想像する多角化戦略が、この水平多角化戦略です。
例としては、貨物の輸送を行っている運送業者が、人を運ぶ旅客運送業に進出する場合が当てはまります。
外側多角化戦略
外側多角化戦略(Lateral Diversification Strategy)とは、「外側」は「がいそく」と読んで、「外側に開かれた多角化戦略」という意味があります。「集約的多角化戦略」とも呼ばれます。
今までに作ったことのない商品やサービスで、まったく畑違いの分野のニーズを満たそうとする全社戦略になります。要するになんでもありの多角化戦略です。
例としては、貨物の輸送を行っている運送業者が、飲食業を始める場合などが当てはまります。
ちなみに「関連多角化」や「非関連多角化」という言葉がありますが、この外側多角化戦略は「非関連多角化」です。これ以外の多角化戦略は、何かしら現状の事業に関連しているため、「関連多角化」であると言えます。
アンゾフのマトリクスのテンプレート
アンゾフのマトリクスの使い方は、
- 市場ニーズ調査の結果を整理する
- 戦略立案メンバーを集める
- 戦略のアイデアを出し合う
- アイデアを整理する
です。
ここでは、それぞれの手順についてわかりやすく解説します。またテンプレート(パワーポイント形式)も無料でダウンロード可能です。
アンゾフのマトリクスまとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
アンゾフのマトリクスの4つの戦略ってなに?
アンゾフのマトリクスというフレームワークを使うと、
- 市場浸透戦略:既存市場で既存製品を浸透させて売上向上や新規開拓を狙う戦略
- 市場開拓戦略:新しい市場で既存製品を広めて新たな市場ニーズに対応する戦略
- 製品開発戦略:新しい製品で既存市場のシェアを高めようとする戦略
- 多角化戦略(垂直・水平・外側):新しい市場に新しい製品で挑戦する戦略
の4つの戦略を考えることができます。
多角化戦略にはどんな種類があるの?
アンゾフのマトリクスの多角化戦略は、
- 垂直多角化戦略:サプライチェーンの上流や下流に向かって多角化する戦略
- 水平多角化戦略:現状の経営資源を活かして新市場に新製品を投入する戦略
- 外側多角化戦略:現場の経営資源を活かさずに畑違いの市場に参入する戦略
の3つの戦略に分類することができます。
アンゾフのマトリクスの2つの軸は何と何?
アンゾフのマトリクスは、
- 縦軸:製品ライン
- 横軸:市場(製品使命)
の2つの軸で構成されています。
製品ラインの軸は、製品を機能や性能によって分けたものです。そして市場(製品使命)の軸は、顧客のどんな問題(ニーズや使命)を解決するかによって分けたものになります。
おすすめの書籍
1957年の論文「Strategies for Diversification(多角化のための戦略)」の日本語訳が、この本の第1章「多角化戦略の本質」として収録されています。
戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS)