支払意思額(WTP)と売却意思額(WTS)の意味と違いを図解

支払意思額(WTP)と売却意思額(WTS)

売却意思額(WTS)と価格の関係

WTS(Willingness to sell:ウィリングネス・トゥ・セル)とは、日本語では「売却意思額(ばいきゃくいしがく)」と呼ばれます。

WTSは商品やサービスに対して売り手が、

  • 「この金額なら売ってもいい」と感じる金額

のことで、様々な状況によって変化します。

売り手は商品やサービスの売値を、WTSを基準に決めます。

  • 売ってもいいと感じる場合:売り手のWTS < 価格
  • 売りたくないと感じる場合:売り手のWTS > 価格

WTSは売り手が認識している商品やサービスの価値であり、その価値を上回る価格で売却できた場合に正当な対価が得られたと感じます。

売り手に商品やサービスを提供してもらう場合には、買い手は売り手のWTSを下回らないように気をつけなければななりません。

売却意思額(WTS)

上の図では、売却価格が売り手のWTSを上回っているので、買い手はその商品やサービスを買うことができます。売り手が最低限必要だと考えていた利益に加えて、WTSと売却価格の差額も手に入ります。

一方で売り手のWTSが売却価格より低かったということは、買い手は価格を値切ることができたかもしれないということです。

言い換えると、値切れなかった分の損失がでたとも言えます。店頭やフリーマーケットで行われる値切り交渉は、このWTSが強く影響しています。

また「原価」については、

  • 所有しておくことで将来のコスト(在庫コストなど)が発生する
  • 現金化することによるメリット(キャッシュフローの改善など)が損失を上回る

などの場合に、売り手のWTSが原価を下回ることもあります。

状況によって変化するWTS

WTSは固定されているわけではありません。状況に応じてWTSは常に変化します。WTPと同じく「希少性」「緊急性」「情報量」の切り口で説明します。

希少性で変化するWTS

WTSはその商品やサービスが、仕入れやすいかどうかで変化します。仕入れにくいものはWTSが高くなり、仕入れやすいものはWTSが低くなる傾向があります。理由としては、原価がことなるからです。

例えば在庫が山のようにあり、いつでも仕入れることができるものであれば、売り手は顧客に無料で配ることもあります。しかし掘り出し物や一品もの、仕入れが滅多にできない商品などであれば、売り手はプレミアム価格で販売したくなります。

緊急性で変化するWTS

WTSはその商品やサービスが、すぐに手放す必要があるかどうかで変化します。売り手がその商品やサービスをすぐに手放したい時、つまり在庫処分をしたい場合などにはWTSは低くなります。一方でじっくりと売りたい場合は、なかなか値引きしません。

情報量で変化するWTS

WTSはその商品やサービスについての情報量で変化します。売り手は価値が高まるような情報を得るとWTSが高まり、逆に価値が下がる情報を得るとWTSが下がります。

例えばその商品が想定より価値がある情報が得られると、WTSは高まります。一方でその商品がいわくつきだったり縁起の悪いものだという情報がもたらされると、WTSは低くなるかもしれません。

また相対的な価格の情報を得ることでも、WTSが変化します。他者が安く売っていることを知るとWTSは下がり、他者がもっと高く売っていることがわかればWTSが上がります。

WTSとマーケティングの関係

価格設定では、

  • 顧客のWTP < 売り手のWTS

という状態になってしまうと、どんなに値引きしても商品やサービスは売れません。

一方で、

  • 顧客のWTP > 価格 ≧ 売り手のWTS

であれば、顧客は喜んで商品やサービスにお金を払ってくれます。そのため企業は顧客のWTPを引き上げるために、様々な工夫をする必要があります。それらの活動をマーケティング活動と呼ぶことができます。

WTSと割引クーポン

実は顧客側で価格を調整できるツールが存在しています。それは割引クーポン

売り手は一度価格を決めてしまうと、なかなか変更することはできません。しかし、顧客に割引クーポンを配っておけば、割引で顧客のWTPを下回る場合に購入してもらうことができます。

もちろん、WTPが低くない顧客が割引クーポンを使った場合は損失になってしまいますが、それ以上に販売数量増加によるメリットがある場合は有効です。

顧客のWTPの幅が大きい場合は、セグメントを絞った上で割引クーポンを配布することで、顧客にできなかった層も取り込める可能性が高まります。

WTSの幅が広いもの狭いもの

WTSが広い商品やサービスは、希少性の高さに幅があります。既製品で大量に作られた服は、売り手のWTSも低いですが、有名デザイナーが作った一点物の服は価格がいくられでも上がります。そのため同じ機能を果たす商品やサービスでも、売り手のWTSに幅があります。

一方で原油や穀物など差別化の難しい商品は、売り手のWTSが狭くなります。いわゆる「相場」があって、相場価格で取引がされます。

商品やサービスだけではないWTS

ここまでは商品やサービスの価格を例に挙げて、売却意思額の説明をしました。しかしWTSは商品やサービスだけではありません。

  • 労働の提供とその対価

が、その代表です。つまり皆さんが会社からもらっているお給料です。

  • この仕事内容と福利厚生でこの給料なら転職アリかな…

なんて考えているのもWTSが関係しています。

会社はビジネスをしていると商品の直接的な原価ばかりに目がいってしまい、労働力を労働市場から仕入れていることをすっかり忘れてしまいます。

そして「採用が難しい」「人手不足だ」と不満を言う会社も少なくありません。しかしそれは労働市場に対する雇用のマーケティングがちゃんとできていない、というだけです。

魅力的な職場環境を作り、労働市場に対してプロモーションを行い、従業員満足度を高めることも重要なマーケティング活動です。

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