精緻化見込みモデルとは、
- 消費者を説得する手段を2種類のルートで表現した論理モデル
のことで、
- 中心的ルート(論理的関与):消費者に論理的な情報を合理的に検討させる
- 周辺的ルート(感情的関与):消費者に感情的な手がかりを与えて判断させる
の2種類のルートに分類されます。
ここでは精緻化見込みモデルについて、具体例と図解を交えながらわかりやすく説明します。
目次
精緻化見込みモデルとは?
精緻化(せいちか)見込みモデルとは、1980年に、米ミズーリ大学の心理学者リチャード・ペティ(Rechard E. Petty)教授と米シカゴ大学の社会神経科学者ジョン・カシオッポ(John T. Cacioppo)教授によって発表された「説得に対する態度変容」に関する論理モデルのことです。
「精緻化可能性モデル」とも呼ばれ、英語では「Elaboration Likelihood Model(ELM、エラボレーション・ライクリーフッド・モデル)」と呼びます。
精緻化見込みモデルは、
- 中心的ルート(論理的関与):消費者に論理的な情報を合理的に検討させる
- 周辺的ルート(感情的関与):消費者に感情的な手がかりを与えて判断させる
という2つのルートで人は説得されるというものです。
これをわかりやすく言えば、
- 人を理詰めで説得できるパターンとそうでないパターンがある
ということです。
マーケティング活動ではこの精緻化見込みモデルを使って、
- 製品やサービスの良さや特徴を論理的に伝える
- 製品やサービスのイメージを感情に訴えかける
といった2つの手段を上手く組み合わせてプロモーションを行います。
精緻化見込みモデル:中心的ルート(論理的関与)
精緻化見込みモデルの中心的ルート(論理的関与)による説得は、消費者に論理的な情報を提供して合理的な判断を促します。
しかし消費者に情報を与えれば、勝手に合理的に判断してくれるわけではありません。
消費者が中心的ルートによる説得に応じるためには、
- 動機:消費者が製品やサービスを詳細に評価したいと思っている
- 能力:消費者が製品やサービスを評価するために十分な知識を持っている
- 機会:消費者に製品やサービスを評価するための十分な時間がある
の3つの条件が必要とされています。もしこの3つの条件が一つでも欠けていれば、消費者が周辺的ルートだけで判断しようとする可能性が大きく高まります。
つまり、消費者に対して論理的に製品やサービスを説明しようとする場合は、
- そもそも消費者がその製品やサービスを検討しようと思っていて
- 消費者がある程度その製品やサービスのことを知っていて
- 消費者自身の知識と与えられた情報で検討するための時間がある
ことが必要です。
これを消費者の情報収集の側面から考えると、
- 製品やサービスを評価するために内部探索がある程度できる
- 製品やサービスの情報を外部探索しようとする姿勢と時間がある
とも言えます。
また消費者と製品やサービスの結びつきの強さである「関与度」が高ければ高いほど、評価したいという動機と、評価するための十分な知識を持っている可能性が高まります。
ここでは具体例として家電量販店でのパソコンの購入で考えてみましょう。
もし顧客にパソコンの性能や機能の詳細を伝えて説得しようと思うのであれば、
- 顧客が複数のパソコンを比べて買おうとしている
- 顧客がパソコンの機能や性能について最低限の知識がある
- 顧客が急いでいない
ということが条件になります。
パソコン売り場に来た顧客が、
- 複数のパソコンの性能や機能の一覧表をじっくりと見比べている
のであれば、3つの条件が揃っている可能性は高いと判断できます。そこで店員が声をかけて性能や機能について詳しい情報を顧客に与えれば、中心的ルートで購買を促すことができます。
しかし全ての消費者が3つの条件を揃えて売り場に来るわけではありません。
- そもそも製品やサービスに対して興味がない
- 製品やサービスに関する知識が全くない
- 製品やサービスを検討する時間がない
という消費者も多く存在します。
そういった顧客をその気にさせるのが、次に紹介する「周辺的ルート(感情的関与)」を使った説得です。
精緻化見込みモデル:周辺的ルート(感情的関与)
精緻化見込みモデルの周辺的ルート(感情的関与)による説得は、
- 肯定的手がかり
- 否定的手がかり
といった、「周辺的手がかり」と呼ばれる感情に訴える情報で判断を促します。
具体的には、
- 広告のイメージや印象
- 製品やサービスに対する評判
- 製品やサービスへの親近感
- 製品のパッケージ
- お店の雰囲気
- スタッフの接客態度
などといった論理的情報以外ものが「周辺的手がかり」になります。
周辺的手がかりは理屈ではなく、消費者の感情や感覚に対して直接訴えかけます。
先ほどのパソコンの購入で具体例を挙げると、
- 「このパソコンは値段が高いから性能も良さそう!」
- 「このパソコンのCMを最近よく見かけるから気になる」
- 「このパソコンは仕事の出来る先輩が使ってる機種と同じだ!」
- 「このパソコンは親切な店員さんが勧めてくれるんだから間違いないだろう」
- 「赤いパソコンが欲しかったから、このパソコンに決めた!」
といった判断でパソコンを買う顧客が、周辺的ルートでの購買決定になります。
また、上記の例は「肯定的」な周辺的手がかりですが、
- 「このパソコンのメーカーは聞いたことがないから辞めておこう」
- 「店員の接客がダメだからこの店ではパソコンを買わないでおこう」
といった「否定的」な周辺的手がかりも消費者の購買に影響します。
これらの周辺的手がかりは、外部探索による、
- 個人的情報源:家族、友人、知人、同僚、SNSの書き込みなど
- 商業的情報源:広告、ホームページ、販売員、パッケージなど
- 公共的情報源:マスメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)など
- 経験的情報源:試供品、試乗、試用、体験、デモンストレーションなど
などから得た情報や、
- 第一次準拠集団:家族、友人(オンライン含む)、隣人、同僚など
- 第二次準拠集団:職場団体、労働組合、宗教団体など
- 願望集団:そこに属したいと思っているグループ
- 分離集団:価値観や態度を受け入れられないグループ
などの準拠集団の強く影響します。
どんな消費者も、初めは製品やサービスに対して十分な知識がなく、比較検討する意欲も高いわけではありません。また食料品や日用品などは、見た目やブランドイメージなどの周辺的ルートのみでの判断されることも多くあります。
そのためどんな製品やサービスであっても、まずは周辺的ルートからの情報を提供し、消費者の知覚プロセスを通して記憶に残してもらうことが重要です。
刺激反応モデル:インプットアウトプット分析
精緻化見込みモデルと一緒に取り上げられる概念として、「刺激反応モデル」があります。
刺激反応モデルとは、
- 消費者に刺激を与えると購買行動として反応が返ってくる
という考え方です。
具体例としては、
- 広告チラシを配布すれば来店客数が増える
- CMをたくさん流せばブランドイメージが向上する
- 製品を改良すれば顧客満足度が高まる
などがあります。
ここでの消費者は「受動的(受け身型)」であり、反応が返ってくるメカニズムについては不明のままです。そのため、なぜ数値が改善したのか?なぜ売り上げが増えたのか?などの因果関係が解明されず、効果があっても再現性までは担保することができません。
このように「刺激=インプット」と「反応=アウトプット」だけを分析することから「インプット/アウトプット分析」とも呼ばれます。
情報処理モデル
もうひとつ、精緻化見込みモデルと一緒に取り上げられる概念として「情報処理モデル」があります。
情報処理モデルとは、
- 消費者は本人の主観と内部情報によって外部情報を処理する
という考え方です。
先ほどの刺激反応モデルとは逆に、消費者は「能動的」であり自分から情報を処理しようとします。
ここでの「内部情報」と「外部情報」については、先ほどの中心的ルートの説明でも紹介した、
- 内部探索:自分自身の記憶や知識から情報を集めること
- 外部探索:自分以外の情報源から情報を集めること
で得られる情報と考えてください。
精緻化見込みモデルまとめ
以下は、ここまで説明した内容を簡単にまとめたものです。
精緻化見込みモデルってどんな時に使うの?
精緻化(せいちか)見込みモデルは、相手を説得する時に使われる理論モデルです。
- 相手を理屈で説得する → 中心的ルート
- 相手の感情に訴えて説得する → 周辺的ルート
という2つの説得パターンに分けることができます。
例えば、中心的ルートでは「この商品は〇〇という機能が他社より優れています!」といった論理的な説明を消費者に対して行います。一方で、周辺的ルートでは、広告のイメージ、評判、店員の接客態度など、消費者の感情や感覚に訴えかけて説得を行います。
中心的ルートで説得するためにはどうしたらいいの?
消費者を理屈中心の「中心的ルート」で説得するためには、
- 動機:消費者が製品やサービスを詳細に評価したいと思っている
- 能力:消費者が製品やサービスを評価するために十分な知識を持っている
- 機会:消費者に製品やサービスを評価するための十分な時間がある
の3つの条件がそろっている必要があります。
この3つのどれかが欠けている場合は、説得できる可能性が低くなります。そういった場合には、説得するよりも先に3つの条件を整えることが必要です。
周辺的ルートで説得するためにはどうしたらいいの?
消費者の感情に訴える「周辺的ルート」で説得するためには、
- 広告のイメージや印象
- 製品やサービスに対する評判
- 製品やサービスへの親近感
- 製品のパッケージ
- お店の雰囲気
- スタッフの接客態度
などで望ましい印象を持ってもらうことが必要です。
その結果、「好きな女優さんが宣伝していたから買う」などといった商品そのものに直接関係ない要素で、消費者に購買を促すことができます。
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