マーケティングリサーチとは、マーケティングに関する情報を収集・分析・評価する一連の流れのことです。
マーケティングリサーチは、マーケティング全体の調査を目的とする一方で、標的市場のみを調査するマーケットリサーチ(市場調査)とは区別されることがあります。
調査は、
- 探索型リサーチ:現状を把握して仮説を立てるための調査
- 因果型リサーチ:仮説を検証して因果関係を確認するための調査
- 記述型リサーチ:実験などを行って数量などを把握するための調査
の3つのタイプに分けることができ、これらを調査目的に合わせて使い分けます。
マーケティングリサーチの流れとしては、
- 調査目的の明確化
- 調査計画の策定
- 情報の収集
- 情報の分析
- 調査結果の報告
- 意思決定
で構成されます。
ここではマーケティングリサーチについて、わかりやすく説明します。
マーケティングリサーチの3つのタイプ
マーケティングリサーチ(マーケティング調査)は、
- 探索型リサーチ:現状を把握して仮説を立てるための調査
- 因果型リサーチ:仮説を検証して因果関係を確認するための調査
- 記述型リサーチ:実験などを行って数量などを把握するための調査
に分けることができます。
わかりやすく表現すれば、
- 特別な課題が無い状態で何か気づきを得たい場合 → 探索型リサーチ
- 仮説の因果関係が正しいのかどうか確かめたい場合 → 因果型リサーチ
- 実際にどれくらい売れるかなど数量を知りたい場合 → 記述型リサーチ
というように使い分けます。
探索型(仮説探査型)の調査で、新しい発見や気づきが得られれば、そこから仮説(予想など)をたてることができます。そうなると今度は、因果型(仮説検証型)の調査を行って、その仮説が正しいかどうか因果関係を検証します。またマーケティング施策の結果、どのくらいの効果が期待できるのかを調べるために記述型の調査を行います。
探索型リサーチ
探索(たんさく)型リサーチとは、仮説を立てるヒントを探すためのマーケティングリサーチです。「仮説探索型調査」などとも呼ばれます。
例えば、
- 製品の顧客満足度に問題はないが顧客満足に関するアンケートを採った
ような場合は「探索型」のマーケティング調査と言えます。
そしてもしそのアンケート結果から、
- 製品を特定の用途に使用している顧客からの満足度が異常に高かった
という事実が判明した場合、
- 製品の用途を絞り込んだプロモーションを行えば市場開拓できるかもしれない
- 製品パッケージの訴求ポイントがターゲットからズレているのかもしれない
などの複数の「仮説」を立てることができます。
この「仮説」を求めるための手法としては、
- 演繹法:一般論を使って出来事の結果を推測する
- 帰納法:複数の出来事とその結果から規則性を見つける
という2つの方法があります。
先ほどの具体例は、アンケートの結果として「特定の用途に使用する顧客の満足度が高い」という回答が複数得られたため、その共通点から仮説を組み立てました。これは「帰納法」を使った仮説の立て方になります。
このように、マーケティング調査で得られた情報を「帰納法」や「演繹法」で「仮説」に組み立てるのが、仮説探索型リサーチです。
帰納法や演繹法での仮説の作り方については、こちらの記事をご覧ください。

因果型リサーチ
因果(いんが)型リサーチとは、仮説の裏付けを取るためのマーケティングリサーチです。仮説検証型調査とも呼ばれ、仮説に対してどのような因果関係があるか確認します。
例えばある企業が、
- 売上の減少
という問題を抱えている場合に、ロジックツリーなどを使って問題解決の選択肢がいくつか挙がった結果、
- 売上減少への対応としてインターネット広告で新規顧客が獲得できるかもしれない
という「仮説」が生まれたとします。
この仮説が正しいかどうかを検証するためには、
- 原因:インターネット広告を出稿する
- 結果:新規顧客を獲得する
という因果関係を裏付ける情報を集めなければなりません。

この仮説を検証するためには、まず実際にターゲット層が日常のどんな場面でインターネットを利用するか調べなければなりません。
またインターネット広告をどのような媒体に掲載すれば、新規顧客の獲得につながるかも知る必要があります。
記述型リサーチ
記述型リサーチとは、具体的な数量を知るためのマーケティングリサーチです。
具体的な数値を測るためには、
- 定量データ:アンケートや統計など数値化できる情報
を集めることが必要です。
先ほどの例の続きで考えると、
- ターゲット層の何割くらいがインターネット広告を見るのか
- いくらの広告予算を投じれば何人の新規顧客が獲得できるか
などの具体的な数値が確認できなければ、計画に落とし込むことも難しく広告予算すら決まりません。
そのためには、
- ターゲット層のインターネット利用についてアンケートを採る
- インターネット広告を試験的に運用して費用対効果を測る
- インターネット広告の売上貢献を数値的に求める
などを実施する必要があります。
これらの結果を、先ほどの因果型リサーチの結果と合わせると、より具体的で説得力のある情報を得ることができます。
マーケティングリサーチの流れと具体例
マーケティングリサーチは、
- 調査目的の明確化
- 調査計画の策定
- 情報の収集
- 情報の分析
- 調査結果の報告
- 意思決定
という流れで行われます。(「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」第4章 p126 を参照)
ここでは具体例として、架空の「老舗ラーメン屋」を題材に考えてみたいと思います。(記事「コアコンピタンス分析のやり方:事業を生み出す技術力を見つける方法」と同じ設定です。)
その老舗ラーメン店は、
- 常連客の来店頻度が落ちてきて売り上げが横ばいになっている
という問題を抱えていたとします。
その問題を解決するために、マーケティングリサーチを行うことにしました。
ここからは、あなたが調査員兼スタッフとして、老舗ラーメン店を調査するという設定で話を進めていきます。
まずは調査目的を明確にしましょう。
老舗ラーメン店の店長が抱えている問題は、売り上げが伸び悩んでいることであり、常連客の来店頻度が減っていることに気づいています。
あなたは店長にお願いして、何人かの常連客に「お客さんお久しぶり。最近どうしてるの?」と話を振って、来店頻度が落ちている理由をそれとなく聞いてみることをお願いしました。
その結果、
- 健康診断で引っかかって塩分や脂分を気にしている
- 体重が増えてきたのでカロリーが気になっている
などの「健康に関する理由」が一番多いということがわかりました。
しかし現在のメニューにはヘルシーなものがないので、
- ヘルシーな新メニューを提供すれば客足が戻るのでは?
という「仮説」を立てました。
そして最終的に、今回のマーケティングリサーチの目的を、
- どのような常連客が来店頻度を落としているのか把握する
- 常連客の持っている問題を解決する新メニューを開発する
- 新メニューが常連客の来店頻度を改善できるか確認する
の3つに決定しました。
調査計画では、決定した調査目的を果たすために、どのような調査方法を選ぶかを考えます。色々な調査方法を闇雲に試しても無駄が多いので、目的と予算に合った調査方法に絞って実施します。
調査の情報源としては、
- 1次データ:自分たちで独自に集めた情報
- 2次データ:官公庁や調査機関などが提供している既存情報
などがあります。
詳しい違いや具体例については、こちらの記事をご覧ください。

また調査方法は、
- 質問法:調査対象に質問することで情報を集める
- 観察法:調査対象の行動や反応を観察することで情報を集める
- 実験法:実験によって特定の因果関係を調べる
- フォーカスグループ:調査対象を数人集めて討論させて情報を引き出す
- 行動データ:調査対象の購買記録や行動に関する情報を集める
の5つの方法があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

老舗ラーメン店の店長とあなたは、お店の切り盛りをしながらマーケティング調査をしようと考えたので、情報源として「1次データ」をメインに収集することにしました。
また1次データの調査方法としては、
- どのような常連客か? → 観察法・行動データ
- 問題を解決する新メニューは何か? → 質問法・観察法
- 来店頻度を改善できるか? → 実験法・行動データ
を実施することにしました。
このステップからは、実際に情報の収集を行います。
まずは1つ目の調査目的である、
- どのような常連客の来店頻度が減っているのか
という調査です。ここでは「観察法」と「行動データ」で調査を行います。
この調査をする前に誰を「常連客」とするか条件を定義する必要があります。
あなたは今回の調査対象となる「常連客」を、
- スタンプカードを3回以上押している顧客
と定義することにしました。
そして会計時に行動データ調査として、
- スタンプカードを3回以上押している顧客
- 前回の来店から1ヶ月以上経っている顧客
をチェックして「来店回数が減っている常連客」と定義し、
- 常連客の残したラーメンの量
- 常連客の大まかな年齢
- 常連客の体型
を観察法で調査して記録をとりました。
次に2つ目の調査目的の、
- 常連客の問題(健康管理)を解決する新メニュー
を調査します。
あなたは店長にお願いして、
- 麺を糸こんにゃくにした「低カロリーラーメン」
- 量を半分に減らした「ミニラーメン」
- 麺を減らして野菜を大量に入れた「ベジラーメン」
の3つの新メニューを開発してもらいました。
そして店長と一緒に、
- 常連客にどれが気になるか聞いて試食してもらう(質問法)
- 食べる様子を観察する(観察法)
- 食べた感想を聞く(質問法)
などの調査を実施しました。
そして3つ目の調査目的の、
- 新メニューが常連客の来店頻度を改善するかどうか
も調査します。
新メニューを食べてもらった常連客に対して、次回も要望があれば新メニューを注文できることを伝えて、
- 次回来店時にどのメニューを注文したか(観察法)
- 来店間隔が以前より短くなったか(行動データ)
についても確認して記録を残しました。
一定の調査期間を設けた後は、情報の分析を行います。
収集した情報ごとに、あなたが分析を行った結果、
- 1つ目の調査:どのような常連客の来店頻度が減っているのか
- ラーメンはスープまで完食する
- 年齢は40代以上であまり若くはない
- どちらかというとメタボ気味が多い印象
- 2つ目の調査:問題(健康管理)を解決する新メニュー
- 8割以上の常連客が麺が少なく野菜の多い「ベジラーメン」を選択
- 「低カロリーラーメン」は美味しくないと不評でスープも残る
- 「ミニラーメン」は完食するが物足りないという感想
- 「ベジラーメン」は完食した上に味もボリュームも公表
- 3つ目の調査:新メニューが常連客の来店頻度を改善するかどうか
- 再来店時には新メニューではなく通常メニューをを選ぶ常連客が7割
- 半数近くが以前より短い期間で再来店した
ということがわかりました。
この調査結果から、
- 40代以上の健康を気にするメタボ気味の常連客は、ラーメンを完食することと、健康への配慮を両立させるために来店頻度を減らしていた。そのため本来のラーメンの満足感を得られない「低カロリーラーメン」や「ミニラーメン」では満足度が低い一方で、「ベジラーメン」は常連客の「健康に配慮したい」という欲求を充しながらも、満足感も得られるため好評だった。そして健康に配慮したラーメンを食べたという安心感から、再来店までの間隔が短くなった。また「前回はヘルシーなラーメンを食べた」という事実から、再来店時には通常のラーメンを注文する傾向が高くなった。
ということを結論づけ、
- ヘルシーな新メニューを提供すれば客足が戻る
という仮説に対して、高い可能性があることを検証できました。
分析の結果がまとまったら、調査結果の報告を行います。通常の会社であれば、上長や経営陣に対して調査結果をプレゼンテーションします。
老舗ラーメン店の例では、あなたは先ほどの調査の結論を店長に報告して、仮説を支持する調査結果が得られたことを伝えます。
最後は意思決定です。調査結果を受けて、いつ誰が何をどう実行するのかを決定します。
老舗ラーメン店の店長に調査結果を伝えたあなたは、公式に「ベジラーメン」を新メニューとして加えるかどうかの判断を促します。
以上が、マーケティングリサーチの一連の流れとなります。