マーケターとは、
- 需要を顕在化(けんざいか)させる
- 見込み客を作り出して状態を変化させる
ことに長けたマーケティングの専門家のことです。
マーケティングでは、マーケティングの対象が持っている需要を診断しなければ、効果のあるマーケティング施策を打つことができません。
マーケターは、その需要を見極めることで顕在化させ、需要に適したマーケティング施策によって見込み客の状態を変化させるのが役割です。
この「需要の状態」は、
- バランス需要:需要と売り手の供給量が一致している状態
- 過剰需要:需要が大きすぎて供給が追いつかない状態
- 変動需要:季節変動など需要そのものに波がある状態
- 減少需要:消費者がその製品を購入する頻度を減らしている状態
- 逆需要:消費者はその製品を好まないどころか避けたい状態
- ゼロ需要:消費者はその製品を知らない又は興味がない状態
- 潜在需要:消費者のニーズが既存製品では満たされていない状態
- 不健全需要:社会的に望ましくない製品に需要がある状態
の8タイプに分類することができます。
ここでは、マーケターの役割と8タイプの需要状態について、わかりやすく説明します。
マーケターとは?
マーケターとは、マーケティング活動の中心を担うマーケティングの専門家のことです。
英語では「Marketer」と書き、
- 市場:Market(マーケット)
から派生した言葉になります。
マーケターは、市場の状態を的確にとらえて、マーケティング対象の価値を伝えることが必要とされます。
そのため、マーケターの役割には、
- 需要を顕在化させる
- 見込み客を作り出して状態を変化させる
の2点があるとされています。(コトラー著「マーケティング・マネジメント 第12版」 p12 より)
需要を顕在化させる
まずマーケターは、マーケティング対象の需要を顕在化(けんざいか)させることに取り組みます。
マーケターとして把握しなければならないことは、
- Who:誰に需要があるのか?(主体)
- What:何に対して需要があるのか?(対象)
- Where:どこで需要が生まれるのか?(場面)
- When:いつ需要が生まれるのか?(タイミング)
- Why:なぜ需要が生まれるのか?(原因)
- How:どうやって需要を満たすのか?(手段・方法)
- How Big:需要はどれくらいの大きさか?(規模)
- How Long:需要はどれくらい続くのか?(期間)
の「市場の5W3H」です。
上記に挙げた項目が明確であるほど、需要の顕在化が進みます。
もちろん初めから全てが明確になることはありません。マーケティング調査などを行うことで、少しずつ顕在化していきます。
また時代の流れや環境の変化によって、需要の状態も変化します。そのため、顕在化した需要は常に最新の状態にアップデートし続けることが重要です。
この「需要の状態」は、先ほどの「市場の5W3H」の結果と併せて、
- バランス需要:需要と売り手の供給量が一致している状態
- 過剰需要:需要が大きすぎて供給が追いつかない状態
- 変動需要:季節変動など需要そのものに波がある状態
- 減少需要:消費者がその製品を購入する頻度を減らしている状態
- 逆需要:消費者はその製品を好まないどころか避けたい状態
- ゼロ需要:消費者はその製品を知らない又は興味がない状態
- 潜在需要:消費者のニーズが既存製品では満たされていない状態
- 不健全需要:社会的に望ましくない製品に需要がある状態
の8つに大きく分類できます。
こちらについては記事の後半で説明します。
見込み客を作り出して状態を変化させる
需要が顕在化し需要の状態をとらえることができたら、マーケターは、
- 見込み客を作り出す
- 見込み客の状態を変化させる
ための施策に取り組みます。
見込み客とは、一般的に「製品やサービスを利用する可能性のある人」ですが、
こちらの記事でご紹介したように、マーケティングの役割は製品やサービスを利用させるだけではありません。ターゲット層の心の変化や行動の変化を引き起こすのもマーケティングです。
つまり「見込み客の状態を変化させる」ということは、
- 製品を買ってもらう
- サービスを利用してもらう
- 心を変化させる
- 行動を変化させる
ことなどを促すことになります。
またマーケターは需要の状態を把握することで、
- 新たに見込み客を作り出せる可能性はどれくらいあるのか?
- 現在の見込み客をどれだけ顧客へと変化させられるのか?
を見積もりやすくなります。
マーケターにとって望ましい「バランス需要」
まずもっとも望ましい需要の状態は、
- バランス需要:需要と売り手の供給量が一致している状態
です。
バランス需要では、
- 消費者が実際に製品やサービスを利用する量
- 自社が消費者に製品やサービスを提供している量
の両方が、ちょうど一致しているような状態です。
自社にとっては、消費者が提供するものを全て消費してくれるので、無駄な在庫や固定費がほとんど発生しません。さらに欠品などの機会損失も最小限に抑えることができます。そのため、利益は最大化されます。
適切なマーケティングが実現できれば、この「バランス需要」の状態が維持されます。
マーケターが回避したい4つの需要
マーケターが回避すべき需要は、
- 過剰需要:需要が大きすぎて供給が追いつかない状態
- 変動需要:季節変動など需要そのものに波がある状態
- 減少需要:消費者がその製品を購入する頻度を減らしている状態
- 逆需要:消費者はその製品を好まないどころか避けたい状態
の4つになります。
過剰需要
過剰需要は、一見すると良いことのようにも思えますが、実際は様々な損失が生まれています。
提供している製品やサービスの供給が需要を下回っていると、必要とする人がいても製品やサービスが届かないことが発生します。
消費者が必要な時に手に入らないと分かれば、不満や不信につながります。さらに消費者は競合他社が提供するものや、代替品で需要を満たそうとするため、顧客を奪われる可能性もあります。
意図しない過剰需要は、市場規模の見積もりミスや、QCDの不一致などで起こります。また、メディアの取材の影響や、著名人などのインフルエンサーによる話題の取り上げなど、予測が難しい事態でも需要の急増が起こります。また誰もがわかっていても、過剰需要が起こることもあります。例えば高齢化による介護サービスの需要増は、政府として予測ができているのに十分な対応ができていません。
一方で、意図的に過剰需要を生み出して、飢餓感を演出する手法も存在しています。限定商品があっという間に完売してしまい、それが報道されて次回入荷時に爆発的に売れる現象などが該当します。他にも、予約がなかなか取れないというレストランが紹介されて、さらに予約が殺到するような現象も同様です。
これは手に入らない(利用できない)ことが、
- 消費者の不満につながらない
- 他社に消費者を奪われない
ことが前提になります。
このような意図的な過剰需要を利用して上手く利益を上げる会社は、「模倣困難性」の高い経営資源を持っています。
もしあなたの会社の経営資源の模倣困難性が特別高いわけでなければ、まずはバランス需要を目指すのが良いかもしれません。
変動需要
変動需要は、売れる時期に周期性のある製品やサービスによく見られます。
具体例としては、
- 季節で需要の偏りがあるもの:海水浴関連品、スキー用品、花火、おでんなど
- イベント前後で売れるもの:クリスマス、ハロウィン、入学式、卒業式など
- 毎月の利用時期が偏っているもの:銀行、理髪店など
- 毎日の利用時間が偏っているもの:レストラン、コンビニ、公共交通機関など
などです。
需要がタイミングによって変化する市場は、供給側に大きな負担がかかります。そしてその負担は、変化のサイクルが長く大きくなるほど対応が難しくなります。
例えば、数日間で年商の9割の売り上げが発生する事業と、毎日朝と晩に客の波がある事業では、後者の方が負担が小さくなります。
ピーク時とそれ以外の期間の需要量の差が大きければ、
- 需要ピークに合わせるとそれ以外の期間で無駄なコストが大きくなる
- 需要ピーク以外に合わせるとピーク時に大きな機会損失が出る
というジレンマが起こります。
この需要の波を乗り越えてジレンマを最小限にするためには、
- 需要のピークだけに対応する
- 需要を平準化する(一定にする)
- 需要のピークに対応しない
の3つの対応策ががあります。
まず需要のピークだけに対応する場合の具体例としては、「夜だけ営業する」「週末だけ営業する」ような飲食店です。多くの居酒屋は夕方から夜中にかけて営業を行うことで、需要の少ない朝と昼に出る損失を抑えています。また人気のレストランでも、週末だけオープンするお店があります。
次に需要を平準化する方法ですが、これができれば事業が安定し収益も向上しやすくなります。具体的には、夏の需要が高いアイスクリームで、ロッテが冬に売れる「雪見だいふく」を開発して需要の波を抑えた例などが該当します。他にも、多くの会社でオフシーズンやオフピーク時にも売れる製品開発に取り組んでいます。
もう一つは需要ピークに対応しない、という方法もあります。これは前述した「模倣困難性」の高い経営資源を持っている企業の方が実行しやすいようです。また人材不足などで需要のピークに対応できない、というのもこちらに該当します。先ほどの過剰需要の説明と同じですが、製品やサービスが提供されなかったとしても、消費者が不満を抱かなければ損失は最小限で済みます。
減少需要
減少需要は、市場が衰退しているときに見られる、徐々に需要が減っていっている状態です。
需要が減少する理由としては、
- 利用者数が減少している
- 利用頻度が減少している
- 代替品に顧客が移っている
などが考えられます。
利用者数の減少や利用頻度の減少の原因として、一番影響が大きいのは人口の変化です。市町村が過疎化して人口が減れば、需要が大きく減ります。少子化で若年層の人口が減ってしまえば、若年層向けの製品やサービスは減少する傾向にあります。またライフスタイルの変化も、大きく影響します。喫煙者の減少によって、タバコの売り上げは減少しますが、タバコを辞めた人が必ず何か別のものを吸っているわけではありません。
一方でニーズなどには変化がないものの、代替品によって需要が減少していることもあります。具体例としては、パソコンの普及によってワープロの需要がなくなってしまったことや、スマートフォンの普及でコンパクトデジタルカメラの需要がなくなってしまったことなどが挙げられます。
この減少需要への対応として、利用者そのものの減少には新たな消費者の開拓が必要になります。また、代替品よりもより価値の高い製品やサービスの開発も必要になるかもしれません。
逆需要
4つの回避すべき需要の中で、もっとも厄介なのがこの逆需要です。
逆需要が起きると、
- 消費者が自社の製品やサービスを好まない
- 消費者が自社の製品やサービスを避けようとする
- 消費者が自社の製品やサービスを避けるために追加コストを支払う
という状況になります。
通常は、悪い評判やクチコミが広まってしまった場合に逆需要の状態に陥ります。顧客が個別に好まないだけであれば、大きな影響はありません。しかしクレーム対応に失敗して炎上したり、多くの顧客が同じ不満を持つようになると、製品やサービスを「好まない」「避けようとする」ような状況になります。これは製品やサービスだけでなく、ブランドそのものにも影響を与えます。
さらに悪い状況は、顧客が製品やサービスを避けるために追加のコストを払うような逆需要が起こった場合です。これは企業で大きな不祥事が起きた時などに起こります。
例えば2014年の食品消費期限切れ問題では、マクドナルドが逆需要に陥りました。
不衛生な鶏肉を食品加工に使っている映像が報道されたことで、その食品加工会社を使っていた企業に逆需要が起きました。その逆需要の影響がもっとも大きかった企業の一つが日本マクドナルドです。
マクドナルドのチキンナゲットは人気の高い製品の一つですが、この事件が起きたことで需要が大きく落ち込みました。チキンナゲットを好んでいた消費者は、チキンナゲットを食べるのを控える人もいましたが、
- 遠くまで足を運んで別のチキンナゲットを買いに行く
- 少し値段が高くても安全安心なチキンナゲットを買う
など、追加のコストを払ってまでマクドナルドのチキンナゲットを避ける人もいました。その後、マクドナルドの安全性や信頼は回復しましたが、当時の逆需要による損失は大きかったと思います。
このような強い逆需要は滅多に起こりませんが、一度逆需要が起こってしまうと、元に戻すために非常に大きな労力を費やさなければなりません。
マーケターが狙うべき3つの需要
マーケターが狙うべきチャンスのある需要は、
- ゼロ需要:消費者はその製品を知らない又は興味がない状態
- 潜在需要:消費者のニーズが既存製品では満たされていない状態
- 不健全需要:社会的に望ましくない製品に需要がある状態
です。
ゼロ需要
ゼロ需要は、
- 消費者が自社の製品やサービスを認知していない
- 消費者が自社の製品やサービスを知っているが興味がない
という状態です。
この状態への対応策は、
- 製品やサービスを認知してもらう
- 製品やサービスに興味を持ってもらう
ことになります。
ゼロ需要では、通常のマーケティング活動で対応することが可能で、打つことができる施策も一番多いと言えます。
しかし消費者が、
- どの会社の製品やサービスも認知していない
- 競合他社の製品やサービスを認知している
という2つの状況では、マーケティング戦略の方向性が大きく異なります。
もし新製品などで、消費者が同様の製品やサービスを知らなければ、何もない状態から囲い込むことができます。しかしすでに競合他社の製品やサービスが大きなシェアを持っている場合は、そこから消費者を引き剥がして、自社の顧客になってもらう必要があります。
競合他社から顧客を奪う場合には、相手も黙って見ているわけはないので、非常に激しい戦いになります。
このような戦い方を常に強いられるのは、
- マーケット・チャレンジャー
- マーケット・フォロワー
と呼ばれるポジションに着けている企業です。
チャレンジャーやフォロワーは、マーケット・リーダーが幅広く製品ラインナップを広げてくるため、後発の製品やサービスはゼロ需要への対応になります。しかし後を追うだけであれば、資金力のあるリーダーに勝てる見込みが少ないため、新製品でのゼロ需要への対応が必要になります。
潜在需要
潜在需要は、消費者のニーズが自社や競合他社の製品では満たされていない状態です。
ニーズが満たされていないということは、そこにビジネスチャンスが眠っているということです。
- 既存製品の改良する
- 既存製品の提案の仕方を変える
- 新製品を開発する
などが潜在需要への対応になります。
消費者のニーズをはじめとして、ビジネスを取り巻く環境は常に変化しています。そのため、以前は消費者のニーズを的確に満たしていたとしても、時間が経つと消費者のニーズが変化するので「潜在需要」の状態になってしまいます。
その既存製品が満たしているニーズと、変化した消費者のニーズの差(ギャップ)にいち早く気づくことで、競合他社に隙を与えず、市場シェアを伸ばすことができます。
このちょっとした消費者ニーズの変化に気づくためには、定期的なマーケティング調査が必要です。
不健全需要
不健全需要とは、社会的に望ましくない製品やサービスに需要がある状態です。
「社会的に望ましくない製品やサービス」とは、
- 倫理的な問題がある
- 環境破壊につながる
- 経済に悪い影響を与える
などが引き起こされる製品やサービスのことです。
例えば、近年では世界中でプラスチックゴミによる環境汚染が叫ばれていて、プラスチックの買い物袋やストローが「社会的に望ましくない」という認識に変わりつつあります。
しかしプラスチック製品は安価で利便性が高いため、多くの国で利用を望む消費者は少なくありません。各国で法整備や規制などが進んでいますが、代替品や代替方法も発展途上であり「社会的に望ましくない」と考えながらも、従来のプラスチック製品を使わざるをえない状況も多くみられます。
この「社会的に望ましくない」という認識は、時代によって変化します。
プラスチック製品が世の中に普及しはじめた時代には、利便性が環境への影響を大きく上回っていました。そのため「不健全需要」と呼ばれる状態ではありませんでした。しかし人口が増加して、プラスチックによる環境汚染の影響が、利便性による価値を上回るケースが増えたことで、「不健全需要」になってしまったのです。
このように、消費者の倫理観・環境・経済状態によって、それまで問題のなかった製品やサービスでも「不健全需要」を持つようになることあります。
もし、この変化を大きな機会ととらえることができれば、既存のビジネスの再成長や新規事業の成長につながるかもしれません。
先ほどのプラスチックゴミ問題でも、プラスチックに変わる新素材の開発や、利便性を損なわない代替手段の提案が大きく進んでいます。経営者や研究者は、倫理観・環境・経済状態の変化を見逃さないように注意して、ビジネスの成長に繋げることが求められます。